NARUTO日向ネジ短篇集   作:風亜

44 / 66
雨の向日葵

「──⋯ネジ、今日は少し遠くまでお出かけしようか」

 

「はい! 父さま、どこへ行くんですか?」

 

 

「フフ、着いてからのお楽しみだ。私はお前を抱っこして行くから、お前は目をつむっているんだよ。覚えたての白眼を使ったら、駄目だからな?」

 

 

──────

 

 

「さぁネジ、もう目を開いてもいいぞ」

 

「わぁ……、ひまわりがいっぱい…! うちの庭よりいっぱい咲いてる!」

 

 

 

──そこは、背の高い向日葵が咲き乱れる向日葵畑だった。

 

父ヒザシは幼い息子のネジを肩車し、迷路のような向日葵畑を共に散策する。

 

ネジは向日葵と同じくらいに背が高くなった気分で向日葵に触れ、楽しそうにしている。

 

……それから、どれくらいの時間が経ったろう。

 

 ふと、肩車から降ろされる。

 

 

「ネジ……そろそろ私は、行かなければいけない」

 

「え? もう帰るんですか…?」

 

「違うんだ……先に、行かなければいけないんだよ」

 

 目線を合わせるように身を低め、どこか哀しそうにヒザシは微笑する。

 

「独りで……帰れるな、ネジ?」

 

「いやです、父さまといっしょに帰りたい……!」

 

「すまないな……この先へは一緒に行けないんだ」

 

「どうして、父さま……?」

 

「追いかけて来てはいけないよ、戻れなくなるかもしれないから」

 

 ヒザシはおもむろに立ち上がり、幼い息子に背を向けて歩き出す。

 

「まって父さま、行かないで…っ」

 

 追いかけようとするが、父親はどんどん先へ行ってしまい追いつけず、とうとう向日葵畑の中に姿が紛れて分からなくなる。覚えたての白眼を使ってみても、その姿を捉える事は出来なかった。

 

「父さま……どうして、いなくなっちゃったの……?」

 

 幼いネジは背の高い向日葵畑の中で蹲り、後から後から流れ出る涙で小さな膝を濡らした。

 

 

 

「──⋯ねぇ、あなたはどうして泣いてるの?」

 

 不意に声がして顔を上げると、自分と同じくらいの年頃の子が不思議そうな顔をして身を屈め、こちらを覗き込むように見ていた。

 

 

「わたしね、ヒマワリっていうの! あなたは?」

 

「ネジ……、ひゅうがネジって、いうんだ」

 

「へぇ…! ヒマのおじさんと、おんなじ名前だね!」

 

 女の子は顔を輝かせた。

 

「ヒマはね、おじさんと一緒にひまわり畑に来たんだよ! だけど、いつの間にかはぐれちゃったの!」

 

 その割に女の子は楽しそうにしている。

 

「ネジくんは、パパとはぐれちゃったの?」

 

「パパじゃない……父さまだよ」

 

「そっかぁ……じゃあヒマといっしょに、父さまとおじさんさがそ!」

 

 

 ヒマワリという子はネジの手を引いて立たせ、そのまま一緒に向日葵畑を駆け出す。

 

「あははっ、たのしいねぇ!」

 

「た、たのしくなんかないよ。はやく父さまを見つけなきゃ──」

 

「わっ」

 

 ヒマワリという子は何かにぶつかったみたいに、急に足を止める。

 

 

「……あ、ネジおじさん!」

 

 その呼びかけに幼いネジが顔を上げると、自分の父親の面影を持った人物が少し驚いた表情でこちらを見下ろしていた。

 

「ヒマワリ……すまない、何故だか白眼が一時的に使用出来なくなって、見つけるのに手間取ってしまった」

 

「ううん、だいじょおぶだよ! おともだちも見つけたもんっ」

 

「お友達、か……。君の、名前は?」

 

 幼いネジは動揺してしまい、問いかけに答えられずにいるとヒマワリが勝手に紹介する。

 

「ネジくんっていうんだよ! ネジおじさんとおんなじ名前なの!」

 

「そうなのか……それは奇遇だな」

 

 おじさんと呼ばれているネジは、幼いネジに目線を合わせるように姿勢を低めて優しい微笑を浮かべる。

 

 

「ネジ君……、君の親御さんは、どうしたんだ? 一緒に、この向日葵畑に来たんじゃないのかい?」

 

「父さまと、はぐれて……ううん、父さまは……いなくなっちゃったんだ。もう、あえないんだ…っ」

 

 幼いネジは心のどこかでそう確信してしまい、肩を震わせ俯き大粒の涙を流す。

 

「そうか……やはり君も、そうなんだな」

 

 労るような言葉と共に、おじさんのネジは幼いネジをぎゅっと抱きしめる。

 

「やめてよ、いたいよ……。あなたは、父さまと似てるけど、父さまじゃない……!」

 

 

 幼いネジは大人のネジの腕の中から離れようともがく。

 

「あぁ……そうだな、すまない。独りで……還れるか」

 

「帰れるよ。……帰らなきゃ、いけないんだ。父さまが、居なくても」

 

「そうか……、気をつけてな」

 

 大人のネジはそれ以上何も言えず、僅かに憂えた表情で幼いネジから離れて立ち上がる。

 

 

「ねぇ……、あなたは今、しあわせ……なの?」

 

 涙目で見上げてくる不意の幼いネジの問いに、大人のネジは一瞬言葉を詰まらせたが、柔らかな表情を見せ穏やかな口調で答える。

 

「幸せだと、言えるだろう。君も……きっといつか」

 

 

「──はいっ、ネジくん、ヒマのひまわりの種あげる!」

 

 幼いネジの手をとって、その手の平に幾つか種を手渡すヒマワリ。

 

「ネジくん、きっとまた、ヒマと会おうね! やくそく、だよっ!」

 

「うん……、わかったよ。やくそく、する。だから……まっててよ、ヒマワリ」

 

「うん、まってる! ネジおじさん、ヒマたちもそろそろ帰ろ? パパもママも、お兄ちゃんもまってるよっ!」

 

「あぁ、そうだなヒマワリ。……それじゃあ、ネジ君、また……きっと逢おうな」

 

 

 大人のネジの言葉に、幼いネジは黙って頷き、踵を返して向日葵畑の中を駆け出す。

 

もう決して、振り向かない───

 

 

 

 ハッと、そこで目が覚めた。

 

……何か、不可思議な夢を見ていたはずだが、目を覚ました瞬間に忘れてしまったようだ。

 

酷く、寝汗をかいている。連日のように降り続く雨で湿度も高くベタついている。湯浴みをしなければ……と感じた。

 

ネジはおもむろに、布団から身体を起こして戸を開け、縁側に出る。

 

 

──毎年のように、今日という日は雨がしとしとと降り続いている。自分の生まれた時も、そうだったのだろうか。

 

父様と種を蒔いて芽吹き、父様が居なくなっても花開いて再び種となって──そうやって繰り返してきた。

 

梅雨が明けたら、今年もまた庭先に向日葵が咲き連なるだろうか。

 

そんな事を想いながら、ネジは鉛色の空を暫し見上げ続けていた。

 

 

 

《終》

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告