NARUTO日向ネジ短篇集   作:風亜

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 アニメ版BORUTO154話を元にした、ネジ生存ルートの話。


なりたい自分

「ネジおじさん、あのね、わたし昨日アカデミーの忍者一日体験してきたの!」

 

「ほう、そうか。……それで、どうだったんだ?」

 

 

 自宅を訪問しわざわざ報告しに来てくれた従姪のヒマワリに穏やかな笑みを見せるネジ。

 

「うん、楽しかった! エホウくんって男の子と、ユイナちゃんって女の子と一緒に忍者体験したんだけどね、みんなで一匹の猫を探す任務の達成を目指してがんばって成功した時、とってもうれしかったの!」

 

「そうか、楽しかった……か。良かったじゃないか。(……俺のアカデミー時代では、考えられない事だな)」

 

 笑顔で話すヒマワリを、ネジは眩しそうに見つめる。

 

 

「わたし、忍者になりたくてアカデミー体験したわけじゃないけど……エホウくんとユイナちゃんは忍者を目指してるんだって。それで、エホウくんに……何も決めてないお前に負けるわけにはいかないとか、忍になると決めてもないお前と一緒に任務なんか出来ないとか言われちゃって」

 

「…………」

 

 先程まで笑顔で話していたが、段々と俯き加減になって語調も弱まるヒマワリに対しネジは、次の言葉を黙って待つ。

 

「わたし、何も考えてこなかったんだなって……この先どうするか決めなきゃいけないんだって思ったら、エホウくんとユイナちゃんみたいに忍になればいいのかなって考えたんだけど……イルカ校長先生がね、言ってくれたの。『自分がどの道に進めばいいか迷ったり不安になったりするのは当然のことなんだ』って。『考えるきっかけを与えるための体験会だから何も決めてなくていい』って」

 

「そうか……」

 

「それでね、わたし……諦めないで三人でちゃんと協力して任務を成功させたの。一度二人と離れちゃったんだけど、集中して二人を探してたらいつの間にかすごく目の前が広がって透けて見えて、古くて枯れてる井戸の中に落ちちゃってた二人と猫を見つけることが出来たんだよ!」

 

「それは、まさか───(ヒマワリは自分の意思で、白眼を使えるようになってきたという事だろうか)」

 

 これまでヒマワリは感情が昂ったり無意識の内に白眼を発動させていたようだったが、白眼を使用したらしい感覚が残っているという事は、そういう事なのではないかとネジは思う。

 

 

「ヒマワリはやはり、日向一族の能力をしっかり受け継いでいるようだな」

 

「日向一族の能力って……、ネジおじさんやハナビお姉ちゃん、お母さんにヒアシおじいちゃんの白眼のことだよね?」

 

「あぁ……とても広い視界、透視と望遠能力を持っている。経絡系を流れるチャクラも見る事が出来、その流れを止める事も可能なんだ」

 

「けいらくけい……?」

 

「ツボの筋道、と言うかな。とにかく───いいかいヒマワリ、まだ自在に使いこなせている訳ではないとはいえ無闇に白眼を使ってはいけないよ。ヒマワリが本当に必要と感じた時にだけ使用するんだ。……例え誰かに使ってほしいと頼まれても、それがヒマワリにとって望ましくない事なら、使用する必要はないからな」

 

「うん……分かった」

 

「柔拳の修業を重ねれば、ヒマワリも白眼を使いこなせるようになるだろうが……ヒマワリは日向一族の能力に縛られる必要は無い。俺達の時代とは違うのだから……ヒマワリの将来はヒマワリのものであって、空を舞う鳥のように自由なんだ。……だからきっと、何にだってなれるさ」

 

 ヒマワリに目線を合わせ、ネジは微笑みながらヒマワリの頭を優しくぽんぽんした。

 

「えへへ……うん! 色んなことやってみて、なりたい自分を見つけてみるねっ!」

 

「あぁ、そうするといい」

 

 

「ネジおじさんは……、なりたい自分になれたの?」

 

 ヒマワリの不意の質問に、ネジは一度考え込むように瞳を閉じる。

 

(なりたい自分、か……。もし俺がこの平和な時代に生まれていたら、はじめからなりたい自分を選べていただろうか。一族のしがらみに縛られず、望んだ自分に───)

 

「そうだなぁ……俺はかつて、変えられるはずのない自分の運命を呪っていた時期があったが……その運命は、自分自身を縛るものでも誰かが決めるものでもなく、自ら選びとり変えてゆけるものだと……教わったからな。だからこそ今の俺は、なりたかった自分になれていると思うよ。俺には今までも……そしてこれからも、守っていきたいものが多くあるからな」

 

 心からそう言って、ネジは柔らかな笑みを浮かべた。

 

 

「守っていきたいもの、かぁ……。わたしも、そこに入ってるの?」

 

「あぁ……勿論だよ」

 

「えへへ、そっかぁ……じゃあ、わたしもネジおじさんを守れるようになるねっ!」

 

「え……いや、その必要は」

 

「守ってもらってばかりじゃ、だめだと思うの。わたしだって大好きなネジおじさんやみんなのこと、守りたいって思うから」

 

 その真っ直ぐなヒマワリの眼差しが、ネジにはかつてのナルトを思い起こさせた。

 

「そうか……そうだな。守って守られて、互いに助け合って生きていかないとな」

 

「うん! そのためには……やっぱり強くならなきゃいけないよね。だからネジおじさん、わたしにちゃんとした修業をつけて下さいっ!」

 

 ヒマワリはネジにガバッと頭を勢いよく下げる。

 

「今までも軽い修業はハナビや俺でヒマワリにつけてきたが……、本格的に修業をしたいと言う事か?」

 

「まだ、はっきり忍になるとか決めたわけじゃないけど……わたしなりに強くなっておきたいの。簡単に諦めたりしないように……、助けたい時に助けられるように、大好きなみんなのこと、守れるように!」

 

「───判った。ヒマワリがなりたい自分になれるように、俺が手助けしてゆくよ。ただ、一つだけ……好き嫌いに関係なく守ったり助けなければならない時もある。それを、覚えていてほしいんだ」

 

「そっか……そうだよね。うん、分かった。わたし誰でも守れるようにがんばるねっ」

 

「そんなに気負わなくていい。相手を助け守る為にはまず、自分自身もちゃんと守れるようにならなくてはな」

 

「はい! ネジ先生、よろしくお願いしますっ!」

 

(はは、先生……か。悪くない響きだ)

 

 

 

 

《終》

 

 

 

 

 


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