やはり俺が転生するのは間違っている。 作:スライムじゃないよ?
放課後の部室に香るのは、芳醇なコーヒーの匂い。文庫本を捲る音と携帯を弄る音。それに後輩が話しかけてくる声。今となっては当たり前のような何時もの光景だった。
「あ、そう言えば何ですけど。明日から小町ちゃん入学してくるじゃないですか~」
現在は春休みを終えて二日目である。正直直ぐにでも帰りたいが部活に出ろと言われ無理矢理参加させられている。というか一色は生徒会長であり、サッカー部のマネージャーもしているので忙しい筈なのだが来る頻度が高くなっている気がする。めんどくさい用事をよく奉仕部に持ってくるが葉山に頼めよ。あいつも理由がしっかりとしてれば断らないだろ?いや知らんけど。
「ああ、そうだな。もうほんと小町とか可愛いから色々と気を付けないといけないんだよ」
俺みたいなのが兄と知られないようにしないとな。ま、小町なら大丈夫だと思うが。
「シスコン....」
冷めたような目で見てくるが千葉の兄弟ならこれくらいは当然だ。それに、俺よりも妹大好きフリスキーな姉がいるだろ?好きすぎてある意味やりそうな人。
「ひゃっはろ~♪」
突然部室の扉が荒々しく開かれ入ってくるのは雪ノ下雪乃の姉である。雪ノ下陽乃である。眉目秀麗、文武両道と凡そ人間から脱逸している魔王である。平塚先生曰く。優秀だが問題児なんだとか。
「...姉さん。ここは高校なのだけれど?」
「あ、陽乃さん。やっはろーです」
この状況で普通に挨拶を返す由比ヶ浜は凄いと思う。隣に座っている一色ですら固まっている。由比ヶ浜の言葉を皮切りに挨拶しているけど、これが普通の反応なのだろう。
「由比ヶ浜ちゃん。ひゃっはろ~♪今日は雪乃ちゃんじゃなくて比企谷君にようがあってね」
「これに?...」
雪ノ下の目と声で俺が人間扱いされてないんですけど気のせいですかね?
「そっ♪それじゃ比企谷君行こっか?」
有無を言わさない笑顔。この笑顔にどれ程の男は騙されたのだろうか?だが俺は騙されることはない。
「普通に嫌なんすけど...」
「えー比企谷君、つれな~い」
何時の間に移動したのか腕を絡めてくる雪ノ下さん。くっ姉妹である筈なのに雪ノ下とは一線を明らかに越えている主張の大きな部分が密着されて。
「比企谷君。その気持ち悪い顔を今すぐ止めなさい。それと姉さん?うちの備品を勝手に持ち出すことは許さないわ」
やっぱり人として扱われていなかったのか、ていうか備品て。
「雪乃ちゃんには関係無いでしょ?」
何時もの雪ノ下さんらしくない冷たい言葉を雪ノ下に浴びせ俺は半ば強引に連れ出されることになった。
4月になったとは言えまだまだ日が落ちるのは早く肌寒い。温暖化と騒がれてはいるが寒いものは寒いのだ。ポケットに手をいれながら雪ノ下さんと暫く歩いていると右側の腕に少しの重みとぬくもりが感じられた。
「...何してるんすか?」
「んー?なんか寒そうにしてたからさ」
魔王の気紛れか何を思ったのか分からない。でもそんなことを考えても意味はない。この行動事態に意味すら無いのかも知れないのだから。
「そりゃどうも。それで?どうしてこんなことを?いつもの雪ノ下さんらしく無いんじゃないですか?」
雪ノ下をからかう為に来たにしては先程の言葉は不可解だ。いくらなんでも言い過ぎだし、雪ノ下さんはそういう人でもない。
「ねえ、比企谷君...私と付き合ってくれないかな?」
寒空のした俺の腕に抱き付いている雪ノ下さんが小さく儚く見える。何時もの凛とした魔王らしい姿はそこにはない。
「冗談ならやめてください。本気にしますよ?」
冗談なら止めてほしい。雪ノ下さんが俺に好意を寄せるなんて有り得ない。俺に対して何か思う事があるならばそれは、たちの悪い誤解だ。
「冗談じゃないって言ったら?」
「じょ.....はあ。なんかあったんですか?」
震える雪ノ下さんを見るのは初めてだった。珍しい。場違いにもそんなことを考えてしまう。
「君は優しいね。どこかカフェにでも入ろっか?」
自宅に向いていた筈の足は駅近くのカフェに移動していく。人通りは少なくない。そんな中でも雪ノ下さんは、腕を離してくれることは無かった。そんなことを考えている時だった。
「「「キャァーー」」」
悲鳴と混乱が聞こえて焦燥に駆られる。
「どけ!殺すぞ!!」
その声に振り向くと包丁を持った男が走ってくるのが見える。包丁の切っ先は.....。そこまで考えて自然と体は動いていた。
雪ノ下さんを突き飛ばすと、背中に焼けるような痛みが走る。
「邪魔すんなよ!!」
叫びながら逃げていく犯人を見て安堵した俺はその場に倒れる。地面が冷たい。でも背中は熱かった。
「比企谷君!」
雪ノ下さんが慌てて近寄ってくる。その表情に何時もの雪ノ下さんはいなかった。電話をかけている、救急車を呼んでくれたようだ。
「絶対に!絶対に君を死なせないから!絶対に!」
違う。俺はこんな雪ノ下さんは見たくない。
「気にしないでください...俺がしたくてしたことですから」
それにしても背中の痛みが感じなくなってきた。変わりに凄く熱い、燃えているみたいだ...嫌だな。
【確認しました。対熱耐性獲得・・・成功しました】
刺されて死ぬなんて材木座が聞いたら喜びそうだな...まだ死にたく無いなぁ。
【確認しました。刺突耐性獲得・・・成功しました。続けて、物理攻撃耐性獲得・・・成功しました】
【続けて不死のスキル獲得・・・成功しました】
「比企谷君...」
「魔王の貴女らしく無いじゃないですか」
【確認しました。魔王獲得・・・条件に満たず失敗しました。代行処置として孤高の魔王獲得・・・成功しました】
俺が仮にだがこんな傷を一瞬で治すような術があったらこんなことにはならなかったんだろうけどな...それは中2病過ぎるか。
【確認しました。心優者獲得・・・成功しました】
「雪ノ....」
声を出そうとして、出なかった。やばい。本当に俺、死ぬかも・・・だんだん熱さも痛みも感じなくなってきた。寒い、寒くてどうしようもない。
【確認しました。対寒耐性獲得・・・成功しました。対熱耐寒耐性を獲得した事により、『熱変動耐性ex』にスキルが進化しました】
比企谷八幡は死んだ。これ以上ないほど呆気なく、そして後悔と共に。
だが比企谷八幡の肉体と魂は別の世界とリンクしていた。それは天文学的に考えても有り得ない確率。神が示し合わせたような奇跡。
目視も出来ない程の次元の亀裂に魔素により精製される比企谷八幡。その姿は魔素に...世界に愛されているようだった。
【異世界からの加護を獲得・・・成功しました】
これが死ぬって事なのか?もう痛くも無ければ苦しくも暑くもない。雪ノ下さんは大丈夫だろうか?自分のせいで泣かしてしまった人の顔を思い浮かべる。小町は悲しんでないだろうか?最愛の妹を思い出す。小町と一緒に登校したかったな...。一色は生徒会長、やっていけるだろうか?無理矢理だが押し付けてしまった生徒会長。問題事を奉仕部に持ってきては居座っていた。もう少しだけ...一色の仕事手伝っても良かったな。
........雪ノ下と由比ヶ浜は。
(はあ...死にたく無かったな)
【慈愛を獲得・・・成功しました。慈愛を獲得したことにより、『心優者』がアルティメットスキル『神慈者』に進化させます・・・成功しました】
オリジナルのスキル出てきますが目をつぶってください。