これはshadowverseでお馴染みの「アイテール」がヒロインの物語です。元ネタとは一切関係ない、オリジナル作品となっています。
あの時の光景を、俺は忘れることは出来ない。
地面に倒れた、美しい羽を持つ天使の姿を。
1、旅立ち
季節は春。
暖かい空気を感じながら、俺の今日の一日は始まった。窓に目を向けると、太陽の光が部屋の中に入っている。俺は眠い身体を起こそうとして、手を上に広げて思いっきり身体全体を伸ばした。
そうしていると、俺の部屋のドアが開いた。
「おはようございます。」
俺の部屋に入ってきた少女は会釈をして、満面の笑みを浮かべる。太陽の光よりも美しい少女の笑顔に俺は心を奪われそうなった。
いや、本当はとっくに心は奪われていたのかもしれない。少女と出会った5年前から。
そして、「少女」と呼ぶのは少し間違っているのかもしれない。なぜなら、この「少女」の背中には大きな羽が生えているからだ。
だから、ここでは「少女」と言うより「天使」と言った方が合っている。
「おはよう、アイテール」
俺は「少女」のような「天使」のような彼女に朝の挨拶をし、食卓へと向かった。
彼女の名前は「アイテール」。いずれ、この名は世界中に知れ渡る事となる。
食卓に行くと、母さんが朝食を作って待っていた。テーブルには牛乳とパンが並んでいる。
「おはよう、エリオ。早く朝食を済ませなさいと、時間がないんじゃない?」
そう言われて時計を見ると、時計は8時を回っていた。今日の出発は8時30分だ。
「ヤバッ!」
俺は目の前に用意されていた牛乳とパンを急いで口に詰め込んだ。
「おはようございます、お母様。」
「おはよう、アイテールちゃん。もう、様は付けないでいいって言っていたのに。」
「いえ、私はずっとお母様を尊敬しています。だから、今度会った時も『お母様』と呼ばせてください。」
アイテールと母さんの会話を聞きながら、俺は自分の部屋に戻り、準備をしていた。リュックにありったけの物を詰め込み、準備を終えた。机の上にあった俺の形見の青色の結晶石も、ちゃんとポケットに入れた。すでに、8時20分。俺はすぐに剣と身だしなみの準備をした。
そして時刻は8時30分。俺とアイテールは準備を終え、玄関の前にいた。アイテールはとっくに準備をしていたようだ。
「そんなに詰め込んで大丈夫ですか?」
アイテールが俺のリュックを見て、心配そうに問いかける。
「大丈夫、大丈夫。案外そんなに重たくないからさ。」
そんな会話をするしていると、母さんが玄関にはやってきた。
「じゃあ、そろそろ行ってくる。」
俺は玄関のドアを開けた。
「行ってきます、お母様。」
アイテールは丁寧にお辞儀をした。
「ああ、行っておいで。」
俺はドアを押さえて、アイテールを先に通す。
「エリオ!」
ドアを閉めようとした手を母さんの声で止めた。
「何?」
「あんたの夢、叶えてきなさい。きっとあんたの夢は叶うから。行ってらっしゃい。」
「....。じゃあな。行ってくる。」
そう言って俺は玄関のドアを閉めた。
母さんの声は少しかすれていた。
夢....。この旅は俺の夢、そしてアイテールの夢を叶える旅だった。
歩いて15分。そんなに遠くない場所に大きな町「グランド」があった。
その場所は俺にとっては仕事場でのあり、たくさんの思い出を作った場所でもあった。
そんな町とも別れを告げなければならないのは少々辛く感じていた。
俺の横に歩くアイテールは足の長さまである薄い布を羽織っていた。いや、「隠していた」と言った方が正しいのかもしれない。
この世界は「天界」「地界」「魔界」と言う3つの世界に分かれている。
「天界」には天使が住み、「地界」には人間が住み、そして「魔界」には悪魔がある住んでいると言われている。
そして「地界」の者は「天界」や「地界」の者達のことをあまり好んではいない。
なので、もしアイテールの背中に羽を生えていることを知れば、この町の人たちはアイテールを避け、軽蔑するかもしれない。
だから、アイテールは羽を隠すために布を羽織っているのだ。
しかし、母さんや一部の人はアイテールに羽が生えていることを知っている。でも、その人達は俺が信頼出来る人達だ。だから、軽蔑や差別などはせず、アイテールの存在を認めてくれた。
家から20分ぐらい歩いて、やっと俺の仕事場に着いた。そこは「ギルド」と呼ばれている場所で、主に動物の狩りや、町の警備などの依頼などを受けて仕事をするところだ。しかし、最近は町の手伝いなど、掃除などの依頼が増えて来ている。
俺はギルドの受け付けカウンターに行き、1枚の紙をもらった。退職届だった。
アイテールとの旅に出るためには俺は仕事を辞める決心をした。それだけ、この旅は重要なものだった。
「エリオとアイちゃんじゃん!」
俺が退職届を書いていると、アイテールの落ち着いた声とは裏腹に甲高い声が聞こえた。俺は後ろを振り返る。
そしてそこにいたのは、ギルドの一員で俺の仕事仲間であるガリオだった。
ガリオはアイテールの唯一の友達で、アイテールの背中に羽が生えていることも知っていた。
「ガリオ!おはようございます。昨日は仕事のよく頑張ったと聞きました。」
「いやー、昨日は久しぶりの動物狩りでさぁー、張り切っちゃた!」
「それは凄いですね!久しぶりと言ってましたけど、ケガなどはしてませんか?」
「そんなの大丈夫だよ!それより、、、」
そんな会話を聞きながら、俺は退職届を書き終わった。
「今まで、ありがとうございました。」
俺は受け付けの女性にお辞儀をして、受け付けを後にした。
アイテールの元に戻ると、まだガリオと話していた。
「アイテール、そろそろ行くぞ。」
「はい、分かりました。」
そう言うと、アイテールはこちらに近づいてきた。ガリオは少し寂しそうな顔をする。
「ガリオ、今までありがとう。帰ってきたら、またみんなでご飯でも行こうぜ。」
「お、おう!絶対帰って来いよ。待ってるぞ!」
ガリオは元気そうな笑顔になっていた。
「ガリオ、今までありがとうございます。もし、天界に帰ってしまっても、また必ず遊びに来ますね。」
アイテールは深く丁寧にお辞儀をした。
「待ってる、ずっと待ってるからね!」
ガリオは満面の笑みを浮かべていた。しかし、目には大粒の涙が溜まっていた。
アイテールも涙を流しそうになるが、堪えていた。
そして俺とアイテールは笑顔を浮かべた少女に見送られながら、ギルドを後にした。
「遂にこの町を出ていくのか、エリオ。そして、アイテール。」
グランドの入り口にある門を通ろうとした時に、名前を呼ばれて足を止めた。
聞き覚えのあるその声に振り向くと、ギルドの一員で俺の仕事仲間の一人であり、そして俺のライバルであるフレンの姿があった。
「お前達には色々と世話になった。その恩返しということで、エリオ。今から俺と戦わないか?」
急な戦いの誘いだった。しかし、俺達にとってはいつも通りのことだった。今までフレンが俺に戦いを挑んで来たのは、50回を超えていた。
そして、この戦いの誘いはフレンにとっての別れの挨拶と言うことだった。
「いいぜ。その勝負挑まれてやるよ!」
「決まりだな、じゃあ近くの人気が少ない広場に向かうぞ。」
フレンがそう言うと、俺たちは近くの広場に向かった。アイテールは時間を心配したが、馬車が来るにの、まだ時間があると言って説得した。
広場に着いた時には人は誰一人もいなった。
「これなら、戦えるな。では、エリオ。剣を構えろ。」
俺は言われるままに剣を構えた。アイテールは2人の戦いを見守る。
「では、行くぞ!エリオ!」
フレンはそう言うと、剣に魔術を唱え出した。
この世界には「魔術」と言うものが存在をする。そして、魔術を専門的に使い戦う「魔術師」と剣に魔術を唱えて戦う「剣士」という2つの種類によって分けられている。
俺とフレンは「剣士」と呼ばれるものだった。
「To Grant Fire」
フレンは魔術を唱えると、剣に火をつけた。
俺も負けじと魔術を唱える。
「To Grand Thunder」
俺は剣に電気を走らせた。
お互いが魔術を唱え終わり、剣を構えながら、向かいあっている。
先に動いたのは、フレンだった。
剣と剣が交じりあう。
何回も何回も、ものすごい速さで。
そして、最後にフレンが思いっきり上から振った剣を俺は剣で弾き飛ばした。
そこで勝負は終わった。
「やはり、お前は成長している。お前なら、きっとどんなところにだって行けるさ。」
「そうか?今のはお前のバランスが少し崩していたから、そこを狙っただけで、お前がバランスを崩さなかったらこの勝負、まだ分からなかったぞ?」
アイテールが俺に歩み寄ってくる。
「いや、そんな少しの隙を突くことが出来るんだったら、お前は強い。そう思っている。そろそろ時間だろ?では、俺はここで失礼するよ。アイテールのこと、しっかり守ってやれよ。」
フレンはそう言うと、去ってしまった。
この町で一番不器用なヤツ。しかし、一番俺たちのことを思ってくれているヤツだ。それは確信している、
俺とアイテールは木造で作られていた馬車に乗った。
そして、馬車がゆっくりと動き出す。
「やっと私たちの旅が始まりましたね。」
アイテールは笑顔で俺に話しかけてくる。
「そうだな、やっと俺たちの夢を叶えることが出来そうだ。」
俺たちの夢。
それは、アイテールを天界に帰すこと。
その為に、俺たちは5年間頑張ってきた。
俺たちの夢はまだ始まったばかり。
お読みいただきありがとうございます。
小説内の間違いなどがありましたら、質問にて受け付けます。
あと、質問や関係を応募しています。
宜しくお願いします。