「編集長、南雲先生が行方不明です」
「失踪?」
「巷で噂のアレに巻き込まれたようで」
「ユッキー先生も巻き込まれちゃったみたいなんですう」
「創作的にはオイシイネタなんだが、関係者ともなると笑えねえな」
カワカド編集部緊急会議。
議題「新人作家2人の失踪について」
「ニュースじゃ神隠しとか騒がしいですねえ」
「よくある事なのに」
『瑣末な事である。気に病むこともあるまい』
「編集長、どうします?」
「通例として担当の先生が異世界転移した場合、編集も同行する事になっているわ。
まだ見習いだけど五十六君、宜しく」
「わかりました、ベストを尽くします」
「私のユッキー先生はどうするんですぅ?
「異世界に2人送れば、バランスが崩れるわ。練習も兼ねて五十六君に一任してちょうだい」
「かしこまっ! 引き継ぎ資料作りますね〜」
日本有数、いやトップレベルの出版社であるカワカド書店。
伝と訳があってノベル部門にて
編集者というのは、いまいち何をしているかは伝わりにくい。特に小説編集者というのは一般的に目につきにくいものだろう。
編集者の主なお仕事は、作家の皆様から提供していただいた作品を商品として仕上げる事だ。
現在のトレンドを踏まえての売れ筋、そこから導き出されるマーケティング。
作家先生の相談に乗ったり、資料を揃えるお手伝いをしたり、表装に関わったりもする。
作品の広告も我々の仕事だ。
作家先生の相談に乗ることも我々の一つではあるのだが、主な役割、一般的によく言われるものは、
原稿の取り立て、であろう。
印刷会社への通達、本屋への分配を踏まえて、また作品の区切りをつけるための締め切り。
実際は締め切りはある程度は破っても許されるが、どうしても引き延ばせない期限も存在する。それを守ってもらうために心を鬼にして作家先生方の部屋の扉を叩くのもまた我々編集者の仕事だ。
全ては読者の皆様方へ作品を届け、楽しんでもらうために。
それは作家先生がどこにあり、何があろうと変わらない。
やむにやまれる事情か人気下降による打ち切りでない限り、作家先生には作品を仕上げて貰わねばならないのだ。続きを待ちわびる読者のかたがたを悲しませるのは忍びない。
「というわけで五十六君。
場所は異世界、任期は未定。
死ぬ可能性もあるかもしれないけど、言ってくれるわね?」
「わかりました。ベストを尽くします」
それになにより、
「南雲先生の新作は、自分も楽しみですから」
作家先生の1番のファンは、他ならぬ編集者なのだから。
「ふと思ったんですが、担当先生が異世界転移なんてよくあることですか?」
「わたしは召喚される側だったしぃ?」
『231回』
「俺はあんまりだな」
「僕は打ち合わせ中によく召喚されます」
作家はよく召喚されるらしい。
インドア系の人員が戦場に駆り出されて死なないのだろうか。
「そうならないように編集が守るんだそ、何か武器を持っていくといい」
頼れる板見先輩の言葉だ、従うべきだろう。
愛用のバールを持って行こう、あれさえあれば神様だって殴り殺せる。
先輩の聖剣とかレーザーカノンより型落ちするが、自衛程度ならなんとかなるだろう。
「オワリ君、わたしのステッキいる?」
「魔法少女は先輩の役目ですから、謹んで断りします」
「ケチー、似合うと思ったんだけどなぁ」
「セーラー服の似合う謎多き現役高校生美少女編集者、私はこのキャラで通してますんで」
『生物学上は雄であるはずなのだが』
「......男の娘というやつです」
『了解した。オタク文化というものは奥が深いな』