また、没となった続編企画『電撃超人グリッドマンF』の設定も一部取り入れております。
1993年4月、東京の桜が丘に『魔王』が降臨した。
その名はカーンデジファー。『ハイパーワールド』という世界の出身で、様々な次元を侵略した悪魔である。
カーンデジファーは中学生の藤堂武史のパソコンへ寄生、地球侵略の第一歩として機械と繋がる異次元世界『コンピューターワールド』の掌握を目論んだ。
コンピューターワールドを破壊・改変すれば機械は暴走し、玩具は強力な兵器に変わり、空間湾曲やタイムスリップさえ引き起こす。それに目を付けたカーンデジファーは、優れたハッカーで暗い過去と孤独な現状から歪な心を持つ武史を手駒とした。
同じ頃、中学生の翔直人、馬場一平、井上ゆかが組み上げた自作パソコン『ジャンク』に、カーンデジファーを追う『ハイパーエージェント』が宿り、一平が描いたCGの姿と名を借りて実体化、直人と合体してコンピューターワールドを守る超人『グリッドマン』となった。
それから武史に怪獣を作らせるカーンデジファーと、一平が製作した『アシストウェポン』などを駆使するグリッドマンの戦いが始まった。そして12月、失敗続きの武史を見限ったカーンデジファーは自ら出陣したが、直人たちの説得と懸命に戦う姿を見て改心した武史の協力で消滅させられた。
後に『カーンデジファー事件』と呼ばれる戦いが終わり、グリッドマンは直人、一平、ゆか、そして武史に別れを告げた。直人たち4人も新たな友情を結び、世界に平和が戻った……はずであった。
しかし、それは長い戦いの始まりに過ぎなかった。
カーンデジファーの弟『ネオカーンデジファー』が地球へ侵攻、グリッドマンやその弟『グリッドマンシグマ』と激闘を繰り広げた『ネオカーンデジファー事件』。
1994年9月、アメリカ軍の人工知能がネットワークに拡散したカーンデジファーのデータを取り込み暴走、ある少年を唆し『メガウィルス・モンスター』と呼ばれる怪獣を暴れさせた『キロカーン・クライシス』。
各国でコンピューターワールドの研究が進むなかで多発した、『魔王の欠片』と呼ばれるカーンデジファーのデータに影響された機械の暴走。
2015年、残存する魔王の欠片が結集して不完全ながらネオカーンデジファーが復活、東京の荻窪に怪獣を出現させた『荻窪大災害』と、その後始末の過程で偶発的に発生した世界規模の事件記録および記憶の改竄。
そして2018年、世界には新たな脅威が迫っていた。
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桜が丘の隣町、ツツジ台。ベッドタウンだけあって真夜中は静寂が支配する。その上空を2機編隊の『F15-J』が飛行していた。航空自衛隊の百里基地に駐屯する『第305飛行隊』の所属機だ。
パイロットの1人が計器と外の景色を確認し、通信を入れる。
『こちらELBOW、「BLACK」の反応、ロスト。目視でも確認できない』
『了解。警戒を怠るな。引き続き「BLACK」の捜索にあたれ』
指示を聞いたパイロットは通信を切り、僚機と共に捜索を続行する。
レーダーサイトが東京上空に出現した飛行物体を捉えたのは10分前のことだ。通常の航空機なら侵入される前にキャッチできるはずだが、今回は一切前兆なしだ。即座に『ホット・スクランブル』が発令され、F-15Jが発進した。管制の指示に従って飛行物体を追跡した飛行隊だが、ツツジ台上空で飛行物体は姿を消してしまった。なお、飛行物体は黒い球状であるため、『BLACK』のコードネームが付けられた。
『さっきまで反応はあったんだが。DOM、どうだ?』
『こちらも同じだ。いきなりロストした』
僚機と通信を交わしつつ、2機のF-15Jは油断なく旋回を続ける。
『これも怪獣の仕業、なのか?』
『わからん。どっちにせよ「オギクボ」は動くだろう』
カーンデジファー事件とネオカーンデジファー事件は各国に衝撃を与え、日本でも防衛体制の大幅な見直しが行われた。これは現在も続いており、第305飛行隊の移駐計画なども立ち消えになっている。
同時にコンピューターワールドの研究も開始され、5年前にそれまで各省庁が独自に設置していた研究・対策部門を統合し、内閣府所管のDCW対策機関『CDCR』が設立された。なお、『オギクボ』とは本部が荻窪にあることに由来する俗称である。
怪獣とコンピューターワールドが密接な関係にあるのは関係者には周知の事実である。しかしあらゆるモノがネットワークと繋がった現代にそれを公表すれば社会全体が大混乱に陥る。
なのでコンピューターワールドの存在は認めつつも全容は不明、というのが各国の公式見解である。CDCRも名目上はサイバーテロに対処する機関、ということになっている。
パイロットたちはそれが方便だと知っているが、どこまで研究が進んでいるかは知らない。すでにコンピューターワールドへ出入りできるのかもしれないが、関係のないことだ。
『とにかく、今は飛行物体だ。舐められたままでは困る』
DOMというTACネームで呼ばれたパイロットがそう告げ、2機のF-15Jは無言で捜索を再開する。
その頃、黒い飛行物体はツツジ台に降り立っていた。住宅地に着陸すると大きさが縮み、ほぼ人間大のサイズになったところで人型に姿を変え、最終的に2つの人影になる。
その姿はどちらも黒いマントに尖った頭、後頭部から噴き出す炎、サングラス、歯を思わせる口元の電飾モニターとまさに異形といった佇まいだ。ただし、片方はサングラスが赤く炎が青なのに対し、もう片方はサングラスが青く炎が赤と正反対だ。
赤いサングラスの個体は『新条』と表札が掲げられた民家を見上げる。すると青いサングラスの個体が電飾モニターを赤黒く点滅させて話しかける。
「……ここか、貴様が見つけた新たな贄の居場所は」
「人聞きが悪いねえ。パートナーと呼んで欲しいな。正確にはまだ候補だけど」
「呼び方などどうでもよかろう。所詮は妄念を搾り尽くされるだけの矮小な存在に過ぎない。それより、分かっておろうな?」
「もちろんだとも。私は彼女を楽園に誘い、君は彼女の楽園を守る。私は彼女に怪獣を創らせ、君は怪獣で世界を壊す。そして私は彼女の感情で虚無を埋めて、君は怪獣の破壊で衝動を満たす。そういう取引だろう?」
「ならば、いい。さっさと済ませろ」
「相変わらず愛想がないねえ……我がことながら心配になるよ。それじゃあ、彼女をこの退屈な世界から救ってくるとしようか。後はよろしく」
赤いサングラスの個体は姿を禍々しい黒い球体へ変え、吸い込まれるように民家の一室へ入っていく。
「……こちらも始めるか。いずれ、狗どもが嗅ぎつけてくる」
青いサングラスの個体も同じく球体に姿を変えて飛び立つ。
その日、ツツジ台から一人の少女が忽然と姿を消した。
物的証拠がなく、母親が仕事で帰りが遅くなるとメールした直後に一言だけ返信があった、という証言しか出なかったこともあり、警察の捜査は難航した。事件に巻き込まれたことも考えられたが、誰かが侵入した痕跡も、自分で家を出た形跡もないことから暗礁に乗り上げた。
これが大事件の始まりであったなど、当時は誰も思いはしなかった。
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9月17日。都立ツツジ台高校。隣町の都立桜が丘高校と違って進学校とは言えないが、アルバイト禁止以外に目立った校則がない自由闊達な校風と、イベントには全校一丸となって全力で取り組む気質は桜が丘高校と変わらない。特に毎年10月に実施される両校の学園祭は、互いをライバル視してより面白いものにするか切磋琢磨している。
そんな高校も真夜中は静かだ。警備員が巡回する校舎も足音以外何も聞こえない。
ライトで視界の先を照らしつつ、警備員は手順通りにチェックしてぼやく。
「しかし、ツツジ台も騒がしくなったよなぁ……道路の陥没といい
ここ最近、ツツジ台で話題なのは多発する道路の陥没や
道路の陥没は老朽化と整備が疎かになったツケ、小火も原因が別々なため単なる偶然、蜃気楼に至ってはたまたまそう見えただけ、というのが警察や消防、役所が出した見解で、警備員もそうなのだろうと思っている。ただ、一度だけ見た蜃気楼には思うところがある。
(やっぱり、あの怪獣だよな)
25年前、関東一帯が毒ガスに覆われた際に映像が空へ映し出された。そこに映った怪獣と蜃気楼は酷似していた。警備員もそれを目撃しており、怪獣の姿は鮮明に覚えている。ただの見間違いとは思えないが、本物の怪獣ならば今ごろツツジ台は跡形もなくなっているだろう。
巡回を終えて宿直室へ戻ろうとするが、突然火災報知器がけたたましい音を鳴らす。
「火災!? どこで!?」
警備員は慌てて駆け出しながら無線のスイッチを入れ、待機中の同僚に連絡を入れる。
「こちら村石、火災報知器に反応あり! そっちはどうか!?」
『こちら佐川、報知器が鳴った個所を……確認した、体育館だ!』
「了解! 通報を頼む!」
すぐに無線を切って勝手口から外に飛び出すと、体育館の方から黒煙がもうもうと上がっている。体育館が見える位置まで移動すると、体育館全体が火柱を噴き上げていた。
「なんで、体育館が……?」
10分前に巡回したときは異常などなかったはずだ。放火の可能性も考えたが、先ほど付けたばかりにしては火勢が強すぎる。唖然とする警備員のもとに同僚が駆けつけ、呆然と炎を見つめる。
その後、消防隊によって火は消し止められたが体育館は全焼、校舎の一部も焼ける被害が出た。
原因究明の調査も行われたが、天井の電球が一斉に加熱・発火したことが原因と推測されたものの、なぜ加熱されたのかは不明に終わった。
「まだ実体化には程遠い、か」
その一部始終を、赤い炎と青いサングラスの異形が校舎の屋上で見届けていたことなど、誰も知る由はなかった。