異界に昇る太陽と鷲   作:鎌森

1 / 5
この辺にぃ、同じ小説を3回くらい書き直す馬鹿うんちが居るらしいっすよ


序章
一話


「変だな…。」

 

 訝しげな声は小さく、誰の耳に入ることもなく、冬の風に乗り寒空に消える。

 

 中華大陸中南部。湖南省。かつて中華を秦と呼ばれる帝国が支配した古代より続く古の都、長沙近郊にて。

 落ち葉を踏んで音を立てぬよう細心の注意をはらいつつ、低木に身を隠しながら眼前に広がる人気のない村の跡地を見つめる。

 国民党軍第26軍に属する一兵卒、王芳(ワンファン)はじっとりと舐めるように辺りを観察した後、静かに首を傾げた。

 

「東洋鬼が…居ない…?」

 

 水を打ったように静かな廃村は虫の音もせず。見渡す限り広がるのは平穏そのものな父祖より伝わる華南の山河。とても国の存亡をかけた戦争をしている最中とは思えない長閑さである。

 

「…本当に居ないのか?」

 

まさか。

即座に心の内で否定したものの、やはり敵軍の姿は何処にも見えない。

 

その場にしゃがみこみ、暫く様子をさぐってみたが、人っ子一人来やしない。どうやら山のようにいたはずである東洋鬼(日本陸軍)は綺麗さっぱり消え去ってしまっているらしい。

 

ーーー何やら分からないが、ただ事では無さそうだ。

 

 王芳は友軍陣地を目指して駆け出した。

 

 

 

○○○

 

 

 

「一体全体、何がどうなってる。…私にはもう分からん。理解出来ん。」

 

 国民党第19集団軍総司令、羅卓英は鉛筆を放り投げる。使い古された椅子がギシギシと悲鳴をあげることは欠片も気にせず、陰鬱そうに溜息を吐いた。

 あまりの事態に困惑を通り越して頭痛がする。同じ人間として、軍人として、相手の考えていることが理解できない。

 

「…これは、そう。夢だ。なにか、悪い夢なんだ。」

 

 そう呟き、彼は静かに目を瞑る。

 というのも、日本陸軍が苦労して手に入れた陣地を放棄して凄まじい勢いで撤退して行っているのだ。

 

 

 

 

 

 発端は彼の指揮下である第26軍の放った斥候の報告である。元々その斥候は去る12月24日に新牆河を超えた日本軍索敵の為に出されていた。

 本来ならば敵の補給状態や陣地の場所などを探り、出来れば1時間前の謎の閃光が日本軍によるものなのか否かを調べることが任務、だったのであるが…。

 

 何やら大慌てで戻ってきたと思えば、斥候はなんと『日本陸軍が消えた』などとのたまった。

 

 無論、第26軍指揮官が信じる訳が無い。そして指揮官は斥候は頭がおかしいのだと考えた。撤退した、ならまだしも消えたという表現を使うあたり戦争の恐怖で頭のネジが抜けてしまったのだろうと考えたのである。

 しかし、その後なんど代わりの斥候を放てど放てどみながみな『東洋鬼が消えた』と言う。そんなことを三日ほど続けてから痺れを切らして同軍が進出すると、そこには弾薬や食料などがまるまる放置された日本陸軍陣地の跡があった。

 中には飯が炊かれている途中のまま放置されたであろう飯盒まであり、まるで『そこにいた日本陸軍が突然消えてしまった』かのようであった、と同軍司令官は手記に残している。そして、ここでようやく第26軍指揮官は第19集団軍司令部に報告した。

 突然敵が消えたなどと言われて狼狽える第19集団軍司令部。取り敢えず、気が狂った可能性が高い26軍指揮官を更迭しようかという話になっていたところ、重慶から信じ難い連絡が入る。

 

 その連絡は、中華全体から日本陸軍が消えているというものだった。

 

 中央まで、ふざけているのか!と、初めは激怒した羅卓英も蒋介石の名が出れば沈黙するしかない。

 彼は、理解することを諦めた。

 

 

 

 

 

 

 その後、無人の地となった中華を国民党軍は瞬く間に奪回。

 怨敵日本とその衛星国の消滅という未曾有の大事件に世界が阿鼻叫喚する中で、中華民国は栄えある勝利を収めたのであった。

 中華人民共和国成立10年前のことである。

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

「…一体全体、これは、どういうことだ。」

 

 一言一言、踏みしめるように言うのは一人のオーストリア産まれの男。彼が何か発する度に室内の温度が一度は下がっているような気がする。

 正面に立ち、それを聞くデーニッツはどうも生きた心地がしなかった。ああ、胃薬が恋しい。

 

「どういうことだと聞いている!」

 

 誰も答えようとしないのを見て更にオーストリア人は激高した。当たり前だ。怒る独裁者に『貴方の帝国は今まさに破滅に向けて転がり落ちていますよ』と言えるような豪胆な者はドイツ広しといえども1人も居ないだろう。

 

 机に置かれた地図は惨憺たる有様を示している。

 東部戦線では中央軍集団が回復不能な打撃を受けてソ連領内から弾き出され、あと一、二年は安全な筈だったフランスには連合軍が山のように上陸した。ロンメル将軍の言う水際防御が出来る段階はとうに過ぎている。

 

 ロシア人に降るか、アメリカ人に降るか。

 

 戦局はもうそこまで至ったとデーニッツは内心思っている。

 既に同盟国は無いに等しい。イタリアは最早あってないようなものであるし、極東の日出ずる国にも雲がかかっている。そして、我らがドイツは一にも二にも石油がない。

 

 ーーー内心わかっているからこそ、近頃の癇癪なのだろうな。

 

 何せこの男、頭は良いのだ。この国のそう遠くない未来が見えていないわけが無い。

 気付かれぬよう小さく小さく溜息を吐こうと思ったその時、なんの前触れもなくデーニッツの視界が白に染る。

 

 時は1944年、8月某日のことである。しかし、それは同時に1941年12月の或る日でもあったらしい。そして…

 

 

 

 

 

 

 中央歴1639年1月1日の事であった。

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 遅い初日の出はようやく今になってマイゲーンの街を照らす。真冬の乾っ風は伽藍堂の大通りを巡り、遥か彼方に広がる大地へと駆け抜けていった。

ㅤクイラ王国へ向かう輸送船の中継地として栄えるこの街は、例年であれば新年を祝う祭で大いに賑わっているものである。・・・しかしながら、今年は住民が消えたと錯覚しそうになるほど物音がない。

 日が昇ったにも関わらず雨戸や扉は固く閉ざされており、街は未だ眠っているかのよう。何かしらの動きがあるのはこの広い街を守衛する騎士団のみである。

 

 

 

○○○

 

 

 

ㅤ公国東方方面騎士団長、ガンルーは騎士団本部の椅子に腰掛けて偵察竜騎士による報告を聞いていた。

 

『現在確認できた範囲では一面のどかな野原が広がるばかりであり、敵対的な生物の存在は確認できません。』

 

ㅤその報告を聞いてガンルーは安堵のため息をついた。

 引き続き探査を続けるように指示を出してから魔信を切り、副官が置いていった紅茶を1口含む。芳香が口いっぱいに広がった。

 真冬の早朝。騎士団長執務室は吐息が白くなる程には寒い。

 

「ひとまずは、安心か…。」

 

 カタン、と紅茶を机に置いてから彼は魔信器を再び手に取った。繋ぐ先は、未だ混乱の静まっていないであろう公都である。

 

 

 

○○○

 

 

 

 新年の朝っぱらから、私は何故執務室で缶詰なんて羽目になっているのだろうか。私が、何をしたと言うんだ。

 眠気からか薄ぼんやりとした意識の中、椅子に座ったカナタはそんなことを考えていた。

 

「東部方面騎士団長、ガンルー閣下によると現状はどこも異常はない、との事です。…首相?」

 

 はっとして目を開けると、かつてカナタがただの一議員であった時代から支えてきてくれた秘書が心配そうにこちらを見ている。ここ10秒程の記憶がない。どうやら報告を聞いている間に眠っていたらしい。

 

「ん、ああ。すまない。大丈夫だ。続けてくれ。」

「は、はあ…しかし、凄い目の隈ですよ。そろそろ仮眠を取られては?」

 

 

閉じぬよう目を見開きながら時計を見れば、既に午前七時を迎えていた。…確か、昨日は早く起きたから…既にカナタは二十四時間以上ぶっ通しで起きていることになる。

 

「しかし、私は公爵様の国を預かる身。この一大事に眠りこけている場合では…」

「いいや、国を預かる身だからこそです。今首相が倒れてしまうと大変なことになりますよ。」

 

 進言を受けて、カナタは痛む頭で少し考える。

 目下公国が対処すべき問題は二つ。一つ目は東方に出現した謎の大陸の調査であり、二つ目は領空を荒し回る謎の竜の所属を明らかにすることである。

 前者は現在東方方面騎士団が主体となって全力で行っておりそれなりに成果も出ているが、問題は後者だ。

 昨日深夜から本日午前七時の間に、八回も公国領空を侵犯した未確認騎は八回全て我が国の防空網を突破している。

 取り逃しはしたものの、接触に成功した竜騎士の報告によるとその未確認騎は圧倒的な速度を有しており、宿敵ロウリアのそれを遥に上回る性能を持っていると言う。

 情報部は機械文明の大国、ムーの飛行機械に類似していると分析しているが…現状、それ以外は何も分かっていない。新種の野生ワイバーンなのか、第三国に属する竜騎士なか、はたまたロウリアの新兵器なのか。そもそも公国の害になるのかさえ、本当に何も分かっていないのだ。

 

 このどちらも今日明日で片付くような簡単な話ではない。解決するまでずっと起きているなんてことはカナタが一般的な人間種である限り不可能である。実際、既に視界がチカチカと明滅するに加えて異様な吐き気や酷い頭痛に襲われており体は限界に近い。

 

「…じゃあ、少し仮眠を取らせてもらおうか。」

 

 そう言ってソファに向かおうと立ち上がった時である。

 

「首相!一大事です!」

 

 カナタの元に一人の男が飛び込んできた。見るに、軍部の者らしい。

 

「・・・寝られるのはまだまだ先になりそうだ。」

 

睡眠不足の者特有の、どこか様子がおかしい半笑いになりながら、彼は呟いた。

 

 

 

○○○

 

 

 

「…クワ・トイネ公国だと?なんだ、新しい小説かなにかか?」

「いいえ、総統閣下。確かな報告です。」

 

 万が一のソ連軍の攻撃を警戒し、ベルリンに向かう途中、客車の中で。ドイツ国総統、ちょび髭はなんとも奇妙な報告を受けていた。

 それはフランスに居た陸軍が全く新しい謎の国の軍隊と接触したという報告だった。それも、鍬と稲とか名乗ったというその国は御伽噺に出るようなドラゴンを使役しているという。…正味、狂った兵士の妄言のような話だ。

 30年ほど前に西部戦線の塹壕内で見た光景がちょび髭の頭に浮かぶ。OKWの連中は集団でPTSDにでも罹患したのだろうか。

 

「私は子供の妄想を報告しろと言った覚えはないが。」

「はい、総統閣下。しかし、これは確かな報告でして…。」

 

 そんな問答を3回ほど繰り返した後、ちょび髭は大きなため息を吐く。

 

「ああ、分かった、分かった。その、鍬がなんたらという国に関してはリッペントロップに一任する。」

 

 そう言い捨ててから彼はベッドに向かう。寝つきが非常に悪いちょび髭は夜型の人間である。しかし、あの忌々しい閃光のせいで昨日から今まで眠る暇なんて無かったせいでそろそろ限界であった。

 

 その後、一任されたリッペントロップは最近の失点を取り返すべく張り切って使節団を組織し陸軍の保護の下公都クワ・トイネへ送り込んだ。

 中央歴1639年1月4日のことである。




恥ずかしながら帰ってきました。どの面下げてんだボケって話ですけど。

皆さんは日本国召喚二次創作に何を求めていますか(多分これによって本作の内容が変わることは無いです)

  • 日本軍(ないしは召喚国家等)による無双
  • 異世界文明と地球文明の接触・交流
  • 政治的駆け引きや国際情勢の描写
  • その他
  • 全部

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。