異界に昇る太陽と鷲   作:鎌森

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今後、特に断りがない場合『公国』は『クワ・トイネ公国』を指しています。


二話

 発動機の重低音が狭苦しいコクピットに響く。

 風防越しに見える冬の空は澄み渡り、遥か遠くの水平線までくっきりと見えた。

 

「にしても、なんでこんな所を偵察するんですかね。」

 

 旋回機銃に手を置いたまま、三枝三飛曹はボヤく。キンと刺すような寒気のせいで息が白い。

 

「ほんとになあ。少し前まではやれマレーだなんだと騒いでたのに。」

「…まあ、確かにこの時期にわざわざ米軍を刺激するような真似をするのは理解出来んな。」

 

 彼のボヤきに、渡海三飛曹と機長、鈴田二飛曹が答えた。彼らが駆るのは日本海軍の九七式艦上攻撃機。母艦は空母龍驤である。その使命はフィリピン北西、つまり南シナ海の偵察であった。

 

「はあ…。俺のタバコちゃんが…。」

 

 三枝はまた一人ごちる。実は、彼は同隊の連中と何処に自分達は征くかという賭けをしていた。大半はマレーとフィリピンに賭け、大穴を狙う賭博師気質の奴は広州やオランダ領東インドなんかに賭けていたが実際はまさかまさかの南シナ海である。

 勝者なしという事で賭けはチャラになった。ちなみに三枝はグアムに賭けていた。

 

 以降はしばらく沈黙が続く。三枝は電信機の調子をみたり、ぼへえと空を眺めてみたりして時間を潰そうとしたがそれもあまり続かず。只管と暇だ。

 黙ってずっと椅子に座っているものだから、らしくもなく思索が増える。

 …高等小学校卒の三枝には考えたところで士官様の小難しいお考えは欠片も理解できないが。何となく、あの慌てようを見れば、あの視界を白一色に染めた閃光以降なにやらとんでもないことが起きているということぐらいは分かる。

 

「…かあちゃんと姉貴、無事だといいがなぁ…。」

 

 機銃を優しく撫でながら、そんなことを呟いた瞬間、機長鈴田が声を上げた。

 

「…おかしい。陸が見えた。」

「えっ!?ここは海のど真ん中では?」

「その筈だが。」

 

 慌てたような操縦手、渡海への返事もそうそうに鈴田は海図に食らいつく。冷静沈着な彼も今ばかりは少々焦っているらしい。

 無理もない。海上で最も恐ろしいのは己の位置が分からなくなることだ。もしも計算が狂っていたのなら、最悪真冬に冷たい海を漂流するなんて羽目になりかねない。生還は絶望的だ。

 

「…いや、計算はおそらくだが、合っている。流石に五度やり直したら間違いない…筈だ。」

「では、機長の見間違えでは…って、もしかしてアレですかね?」

 

 渡海がそう言って指さしたのは行方向を前とした際の左側。つまり南の方角に朧気ではあるが確かに陸がある。それも、島のような大きさでは無い。

 

「…よし、渡海。進路を南に調整。三枝は母艦に電信。『ワレ、陸地ヲ確認セリ。コレヨリ偵察二向カフ。』だ。」

 

 俄に機内が騒がしくなる。先程までの物見遊山のような浮ついた空気は消え、ひりつくような空気が充満した。

 

「…ルソン島ですかね?」

 

身じろぎすれば割れてしまいそうな程に張り詰めた空気に耐えかねたか、渡海が呟く。

 

「台湾という可能性も有りえるのでは。」

「可能性としては、ルソン島がいちばん高いだろうな。…カリマンタン島では無いといいが。」

「消費燃料からしてそこまで遠くではないんじゃないですかね。」

「それもそうか。」

 

 そんなことを言いながら未知の大陸に近づくにつれ、前席に座る渡海が異変に気づいた。

 

「機長、一つ機影が見えます。」

「何。…警告に来たか。」

「そうでしょうね。引き返します?」

「ここまで来てそれは無い。このまま進め。」

 

 時間が経てば経つほど、機影は鮮明になる。それにつれて渡海の報告も精度を増す。

 

「あれ、どうやら鳥だったみたいです。羽ばたいている。…いや、でも人が乗っているような…?」

「なんだそれは。米軍の新兵器か?」

「支那3000年の神秘かも。」

 

 軽口を叩いているうちに、両者はすれ違う。

 己のすれ違ったモノを正確に認識して、三人の間になんとも言えない空気が流れた。

 

顔を見合わせ、ぱちぱちと瞬いて、徐に三枝がつぶやく。

 

「…俺、疲れてるのかも。」

「奇遇だな。俺もだ。…まあ何はともあれ三枝、報告。『ワレ、竜ヲ認ム。』だ。」

「了解。にしても帰ってからが怖いですね。」

「ああ。暫く俺達はきちがい扱いだろうな。実際、俺もこの目ん玉がイカれてるんじゃないかと疑っている。」

 

 そんなことを言いながら、彼らは知らず知らずのうちに異世界の空を飛ぶ。

 後世、『ワレ、竜ヲ認ム。』は『異界を初めて見た日本人の打った文章』として教科書に載った。

 

 

 

 その後、紆余曲折ありながらも三枝らはマイハーク上空にまで至る。

 全ての国家との交流が絶たれ建国以来の危機に見舞われていた日本政府は、文明的な国家が新大陸(仮称)に存在するということを知ってすぐさま使節団を派遣することを決定。途中からはドイツを仲介に公国政府との交渉を開始する。

 初遭遇は中央歴1639年1月11日。交渉開始は同月14日のことであった。




短けぇ!

皆さんは日本国召喚二次創作に何を求めていますか(多分これによって本作の内容が変わることは無いです)

  • 日本軍(ないしは召喚国家等)による無双
  • 異世界文明と地球文明の接触・交流
  • 政治的駆け引きや国際情勢の描写
  • その他
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