泣いてる姫様のシーンは今でも涙でますね。お気に入りの1シーンです。
だから泣いてる姫様も好き。
誰か100年も経つ前に救ってやれよ。皆大好き超絶不憫娘やぞ。
ガーディアンと銘打たれた者共が私達に牙を剥く。それの何たる皮肉たるや。
「隊長ォ」
私達は彼等の躱し方を知っている。即座に編み出す事が出来たからこそ、武器が無くとも生き延びることが出来た。
一人、また一人と隊員を囮にすることで。
幸いなのだろうか。彼等は定めた目標の目に入るうちは対象に執着し、偏差射撃というものを知らない。故に、発射時に射線を外れる様に動けば直撃は免れる。
だが、彼等にはそれらを補うような弾速と複数の足がある。瞬きすれば軌跡だけが目に入り、着弾音が既にする。巨体故の歩幅は人間の5歩を一歩で追い越し、それが複数あるのだから悪路に出れば益々手に負えない。
巨体の侵入を阻む森林が近くにでもない限り、囮とは死ねと同義である。近くに迫られてしまえば、偏差などなくとも避けようの無い、光の如き矢に撃たれ、熱に膨れ、弾ける。
武器がある内は、足を壊せば良かった。私達には射抜かれるよりも前に、それを可能にできる数と攻撃性を有する武器があった。しかし、それらはガーディアンを主軸にした戦闘を想定した作りとなっており、つまりは、優れた鋭さと引き換えに酷く脆さを抱えた武具であった。
「私が、囮になる」
声を張り上げて並走する隊士に伝える。
「お前ならば、姫様のお力になれる。だから、行けーェッ」
部下と言えども、一人また一人と同じ時を共有した間柄の人間に、死ねとはもう言えなかった。
近衛隊士としての責任感、使命感で誇り高く振る舞おうとも、胸中で何を思っていたのか。恨まれたかもしれない。絶望したかもしれない。
それに、隊員は彼と私だけだ。この肩書きに最早意味などありはしない。こんな無能に従い、命を散らす道理はない。
そして事実、彼には傍付き剣士の候補足りうる力があった。近くに超常の力が起こり、我らに唯一残された
「行け――ェッ」
躊躇の表情の彼に向かって怒鳴り、その姿が遠ざかるのを確認する。
背後の鉄屑に罵声を浴びせる。
「付いて来い。この脳無し野郎」
――――――――――――――
何れくらい走った?
もう十分か?
いや、まだだ。
何度目かも分からぬ、背後から発される、感覚の狭まって行く音に疲れ果てた全身が鐘を鳴らす。
――ここだ。
「おォっ」
右に投げ出した体を起こそうとして、
膝から下が、ない。断面から肉や骨の混合物が赤熱した溶岩の如く溶け、滴り落ちていた。
雨水を吸った大地に冷やされ、じゅうと煙を上げる。
「ぉ、ぉ――――」
傷を認識した途端に凄まじく、耐えがたい熱が膝に生じ、苦悶が漏れる。
死神の足音が、首のもたげる音が聞こえた。
「お前、首、曲げられたのか」
目線を上げて背後にいたガーディアンを見る。微かに下を向くように傾けた首は、ずれ、その円盤状の胴体を転げ落ちた。
「・・・」
目前まで転がって来た頭部は『バキン』レンズの砕ける音を立て、天を向いていた目が黒い刃に深々と突き立てられる。
「フン・・・」
気付けば、自分の娘ほどの少女がいた。可憐で、冷たく、扇情的で、戦場に似つかわしくない、形容しがたい格好の少女。振るう武器は見たことも聞いたこともない代物で、服装や容姿からどんな人間かを察することは酷く困難に思われた。
一体、彼女は何者か。
「あ、あなたは」
「その質問は聞き飽きたわ。ねぇ、そこのヒト」
「はい?・・・隊長ぉー」
もう見ることはあるまいと思っていた男が駆け寄って来た。
「・・・足が・・・すみません」
痛みに息を乱しながらも返事をする。
「構わん」
「そんな、全然――」
「よくぞ生きていてくれた」
「・・・隊・・・長っ・・・」
「泣く暇なぞ無い。それで、この方は、姫様はどうした」
男は涙を拭って嗚咽を引っ込め、居佇まいを直した。
「ハッ、この方は――――」
――――――――――――――
「・・・そうか、姫様の保護、大任をよくぞ果たしてくれた」
「・・・」
「引き続き姫様を護れ」
「ですが、隊長は・・・」
「これは命令だ。それと、御遣い殿」
「何かしら、急いでるんだけど」
「メルトリリス・・・」
「事実でしょう。何、あなたこんな所で油売ってる暇があるの」
歯に衣着せぬ言い草の御遣い殿を宥める姫様。大人になったばかりの少女が年頃の娘に言い聞かせるようだ。
これはさぞ苦労される事だろう。
感謝のする隙も無いな、これは。
口笛を思いきり吹く。
「勝手ながら予備の馬を呼ばせて頂きました。そちらで姫様と向かわれてください」
「あら、気が利くわね。調度良かった、これ以上泥に汚れずに済むわ」
呆れて誰もが言葉も出ない中、場を進めるために続きを述べる。
「それは良かった。では姫様の事を頼みます」
「言われるまでもないわ」
「・・・では、私達はこれで失礼させて頂きます」
体が持ち上げられ、背負られる。
「イガ、お前、何を」
「この付近にあるカカリコ村へ参ります。そこで診てもらいましょう」
分かっているだろうに。
命令を無視したイガにカっと我を忘れてしまいそうになる。
「そう言う事ではない。お前は自分が今何をしているのか分かっているのか」
黙りを決め込むこと暫く。二人の会話が届かなくなる距離まで歩いた頃、イガが口を開いた。
「・・・言わせて頂きますけどね。俺が遣えたいのは貴方の様な人だ。あんなヤツじゃない」
「お前達が遣えるべきは姫様であって、あの御遣い殿ではないのだぞ」
「なら今日で近衛としての任を放棄します。俺は貴方に個人的に遣える。これで良いでしょう」
「お前というヤツは・・・」
何と言いくるめたものか。これは
難航するぞ。
言うことに困り、ふと、コイツと別れた時の事を思い出す。
「・・・私が囮になると言ったがな、実は安心していたんだ」
「・・・」
「これ以上お前達に、死地に向かえ等と言いたくなくてな」
「俺は・・・アイツが気に食わんのです」
「・・・御遣い殿か」
「アレは貴族の、二世以降のソレだ。与えられた物で威張り散らして、ソレを得るために何れだけ努力したのか、何も知らない世間知らずと一緒です」
「・・・姫様はどうだ。あの方は無才だ、出来損ないだと陰口を叩かれながらも、諦めず、己に出来ることを続け、遂に成し遂げたじゃないか」
私達近衛は王家との距離が近い。ソレは物理的、精神的にもだ。姫様が、伝承上の古代兵器の起動に成功し、私達の助力が出来ると喜び御報告された時は、暫く私達の話題がそれ一色に染まった程だ。
「・・・その成果のガーディアン共は、俺達の仲間と故郷を焼き払ったんですよ。力に目覚めるのも遅すぎる」
「姫様もソレを御自覚されている筈だ。それに、依然としてあの方は私達の為に身を粉にしておられる。だからこそ、孤立無援、孤軍奮闘するあの方のお力になろう、と、その心を忘れてしまったのか」
「忘れては・・・おりません、けど」
―――――――――――――――
「聞こえてるわよ」
腹が立つ。面と向かって言えば良いのに。非力な人間らしいこと。
「どうか、しましたか」
「いいえ・・・慕われてるのね、アナタ」
地味な女だ、そう思っていた。けれどそれはあの人も同じ。彼/彼女と比べたら危ういにも程がある、彼女の心の均衡。
でも、その意思の強さはあの人にも劣らない。
言ってしまえば彼女は興味の湧く観察対象だ。
あの女の言われるがままなのは癪。けど、あなたの行く末、見届けさせてもらうわ。
「私はね、人間が嫌いなの」
「・・・」
「心底嫌だけど、貴女と契約して上げる。光栄に思いなさい」
実はもう取り付けられてるけど。
――――――――――――――
「私のしている事は本当に正しいのでしょうか」
馬宿で熱に伏せる私を看病するリンクに言葉を投げる。
「私は今の私に出来ることを。そう考えて、古代遺物の研究に取り組んできました」
だけど
「祈りによって目覚めるという厄災を封じる力。小さな頃から何をしても宿らぬソレを、父様を、責務を蔑ろには出来ない」
分かっています。
「けれど厄災に対する備えを欠いたままではいられません。だから・・・でも、それでもふと考え、迷ってしまいます」
無駄とも思える祈り。けれど次は、もしかしたらあの時後一秒長く、模索し続けていたら。
「私は、どうすれば良いのでしょう・・・前にも言いましたね、これは」
すみません。
言いたいことを告げ終えて寝返りをうつと、シーツに押し当てた懐から固いものが体を圧迫する感触がした。
ガーディアンのパーツだ。
ソレを取り出して、眺める。
だからと言って、何かをせずにはいられない、か。
似通ったパーツが多い中、これは足のどこに位置するのか。
そんなことを考えていると、何時の間にか眠りにつけていた。
―――――――――――――――
夢が流れ込んできた。
だからといって、どうもしないけど。
「・・・」
河原を挟んだ双子の山。そこに転がる石に枕する眠り姫を見やる。
私はこの女の母親から余命を与えられた。恋に敗れ、生存競争に敗れ、月に消えかけた、私という基盤が強固でありながら付け足したもの全てが欠け落ち軽くなった存在。
星を渡り、銀河を渡り、都合の良い存在を見つけた彼女は私を拾い上げた。
私には未練も残されていなかった。
だから、彼女にこの命を利用されても、何もかもどうでも良かった。
彼女は己の存在に残された大凡全てのものを私の再構成に宛て、後はその愛娘が霊力の扱いに目覚めれば、私の肉体をその力その物を変換、実体化出来るよう仕上げた。
言ってしまえば、聖杯のサポート無しに、自前の魔力でサーヴァントを維持している。これと似た事。
考えるのは先程の男二人の会話。私とゼルダの対応の差は何故生じたのか。私だって月の上級AIの端くれ、おおよその見当はついている。
慕われた彼女は周囲を慮り、そうでない私は自分で完結していた。
私もこの女の真似をするべきか。
「はぁ」
大きく息を吐く。無いと思っていたが、未練タラタラではないか。
「情けないわ・・・」
山を下った先の足元、川に沿って半人半馬の獣、人間とは言い難い容姿の、大小二足歩行の何かがその後に続いて現れる。
此方には気付いていないらしい。
「起きなさい」
「・・・はい、何でし」
「隠れるの、今すぐ」
彼女の言葉を遮って続ける。迂闊だった。先頭にいた半人半馬が此方を向いている。
あの個体は他と比べ、耳が良いらしい。
弓を構え始めた所に全力で飛び掛かる。
激突、震える鋼の音。輪になっている弓柄以外の本体部分、そこが重厚な刃になっていた。重ねられた刃の数は二。
あれで防がれた。
空中で無防備になる私に矢をつがようとする獣。
「ふっ」
一瞬、弓を足場に、反発力で跳ねていた私は、明らかに足の届かない距離から具足を振るう。
私の体は人を象ってはいるが、完全な流動体。その一部を液状化、音速を超えた速度で振り抜き、僅かな金属と共に尋常ならざる速度で射出する。要するにウォーターカッターだ。
「■■■■ーーーーッ」
「あら、思ったより頑丈なのね」
頭を輪切りにする試みは、一対の両目を断つだけに終わった。
後続の何割かが弓を手にしている。なら、ここは接近して内側から掻き乱す。
跳躍して山麓の端、列の最後尾に降り立つと、勢いと遠心力に任せ、切れ味の良いヒールで舞うように首を跳ばしていく。
柔らかな肉にす、と刃が通る感触 。悪くはない。
「ギィッ、ゲァ――」
「ブフォ――」
最前列に戻る頃には討ち漏らしもなく、先頭の一体を除き、首を落とし終えていた。
「今晩は。御機嫌は如何かしら」
「■■■■■■」
傷が癒えたのか。獣らしい目付きで此方を見据え、半人半馬が鈍く輝く鉄塊を手に猛り狂う。
人の丈を超える金属の塊を振り回す。それは恐ろしい威力を誇る事だろう。なら、ソレを出来なくしてしまえば良い。幸い速度はサーヴァントと比べるべくもない。
手を握るに必要な前腕の筋肉、物を持ち上げる為の上腕二頭筋。両手で鉄塊が全身全霊で振り抜かれた瞬間、跳び掛かっての前蹴り、続いての後ろ回し蹴りでそれらを断ち切った。
次は貫いてあげる。
鉄塊の重さに腕がガクンと垂れ落ち、動揺を見せた瞬間、膝の棘を眼窩目掛けて打ち込んだ。
「■■■■■■――――ッ」
片足の踵をつっかえ棒に引き抜き、跳ね離れる。
並みでなかろうが生物であれば脳を、頭を貫かれて生きている筈がない。なのに――――
体が火照る。全身を何かがぞくぞく這い回る。淫靡な声が口を衝く。
「丈夫ね、あなた。いいわ、いいわ、その反応。蕩けてしまいそう」
先程よりも傷の癒えが早い。ここは徹底的に切り裂く。いえ、嫐るべき。
「蹂躙してあげる――――」
双子の腕の内、築かれた屍山に狂笑が木霊した。
―――――――――――――――
下る川が血に染め上がった頃、獣は力を失い、血河に飛沫を上げて沈んだ。
冷めやらぬ興奮の中、あの女の声がして、気付く。
いたのね。
「・・・大丈夫ですか」
「見ての通りよ」
「傷は、ありませんか」
恐怖半分、心配半分に女が血塗れの私の所に近付いてくる。
そう言うコトね。
「全部返り血よ、気にする事ないわ」
「・・・かなり血生
臭い・・・
「・・・そう・・・そうね。えぇ、気を付けるわ」
泥はイヤ。
血は平気。
えぇ・・・・(´・ω・;)