冬休みが明けるので遅くなります(´・ω・`)
河川に裏手を囲まれ、代わりに表の陸路からは敵の侵入を防ぐ為のハイラル城壁、その中央部にある凱旋門。
足を失って砲台になったガーディアン達の止めを指しつつ、真正面は自然と忌避されたので、倒壊した城壁部分から侵入を試みる。
越えた私達を迎えるのは、『ぶわり』肌が渇き切ってしまう様な熱風、本来の火の粉、それに混じる薄紅色の燐光。抑えきれず漏れだした怒り、魔力によって実体化した薄紅のそれが私達に訴えてくる。お前達は罰を受けて然るべきだ、決してこんなものではないぞ、と。
万年蓄えられた怨みから生じる怒気に心臓が縮み上がる。自分に殺気を募らせた人間がそこら中にいて、私を血走らせた目で睨んでいるかの様だ。
私は本当に此処にいて大丈夫なのか。魔物か、ガーディアンか、誰かが今にも私を殺しにひた走って来そうな不安と緊張感。鬼気を発する気配が周囲一面にするのだ。何も居ないように見えたとしても、もしかしたらガノンに触発された何かが物陰に隠れて機を窺っているかもしれない。
そんな危機感で気もそぞろな中、私達は捜索を開始した。
―――――――――――――――
生者の存在しない場所とは何処か。それは地獄である。広がる光景は正にそのもの。誰も生きていよう筈がないと、見る者は誰でも直感してしまう様な光景が目の前に広がっていた。
しかし、通りにも、焼け落ちた家の何処にも人はいない。
(そう言うことね)
代わりに、肉を焼く臭いは充満していた。目を凝らせば分かるだろう、人だった物の一部はそこいら中に転がっていた。ぐずぐずに溶けて炭化した為に分かり辛いが、ガーディアンの熱線による熱膨張で弾けとんだのだろう。幾つもある、放射状に煤が広がった跡地も手伝ってそう予測する。
(瓦礫に埋まった人間は・・・)
焼け、落ちたのか。崩れて薪になったか。どちらか定かでは無いが、青天井でなく、マトモな外壁を保つ、元来の色の建物は一切ない。煤けた石の壁がかろうじて、というものはあるが。
他には、散り散りになって焼け焦げた衣服の切れ端、奮戦していたのだろう兵士や騎士の兜やすね当て、ソコに稀に収まった屍肉。似た形状の武器。
「・・・」
その中に気になる物があった。三日月を描く刃だ。数は少なく、その刃の描く曲線は人間の首が半分ほど、すっぽり収まってしまいそうな・・・
「ねぇ、マスター」
「・・・どう、しましたか」
未だに熱のあるだろうに、灰と炭を掻き分ける女に声をかける。
そろそろ休みを取らせるべきか。先程から反応が鈍い上に、表情にメリハリがない。
「誰も生きてないわ。それに、余り長居しない方が良さそうよ」
「いえ、居る筈です。ガーディアンなら・・・そう、です。あそこなら」
滲み出ていた疲労等無かったかの如く、城壁に組み込まれた塔を目指すマスターの後ろを、周囲を警戒しつつ付いていく。遠くのガーディアンが此方を視認している様子は・・・ない。
物陰を睨み付けた。何処かに、いるのだろうか。
―――――――――――――――
城壁を登り降りする為に、内部に梯子の設けられた城壁塔を片端から巡っていく。城下町の中で、ガーディアンに唯一狙われにくい場所と言ったら・・・
中央辺りの塔の入り口に立った時、私の背後から漏れる火の光に照らされて室内がぼんやりと見えた。
「・・・・・」
確かに此処に隠れ果せる事が出来たのだろう。四肢の欠損した者もいるが、まだ人間の体を成している。
なら、どうして誰も、身動き一つしないのだろう。
『――下がりなさい』
平常時の筈、なのにメルトリリスの何処か固い声。
『何か、居たのね』
『――――はい』
『私の方に来て。なるべく自然体で、よ』
念話で伝える、何故。落ち着いてきていた心臓がまた跳ねだした。頭の霧が晴れていく。
『何か、いるのですか』
『分からないわ』
入り口から後退りすると、後ろにいるメルトリリスの方へ振り向いて駆け出す。
その時彼女は私の走る先に、ではなく私の背に既にいた。
ずぶり
「――ぐ、ぉ」
「いかにも、ね。頭上からだなんて」
彼女は仮面を着けた男の腹部を貫き、突き刺した勢いそのままに壁に押し当てていた。
赤く肌に密着する装束、涙を溢す逆さ眼の描かれた仮面。衝撃に取り零された、三日月を描く短刀。
「イーガ団」
仮面越しに男と目線が合った、気がした。
「・・・ぐ・・・く」
嘲笑か、微かに声を漏らした男は 、掌を組み合わせて印を結ぶと消え去った。
「消えた・・・」
『メルトリリス。彼等は隠密、暗殺に長けた戦闘集団で、奇異な術を使います、注意を』
『尚更危険ね。私の側から離れないで。ここは撤退、嫌とは言わせない』
まだ誰か、もし、生きていたら。
『・・・』
『あの猪をどうこうする前に、死ぬのよ』
良いの?良くないに決まってる。彼等が生き延びた人々を、騒ぎに乗じ、暗殺した事は察しがついてしまう。なら、恨みを買った、ハイラルを統べるお父様は。
ぱきりと口内で割れる音がした。
『・・・行きましょう』
それを皮切りに、お互いの背を庇い合う様にしてハイラルを出た。
幸運な事に、平原に出るまで私達は彼等に出会す事は無かったが、それが却って私の残念を大きくした。
―――――――――――――――
石のアーチを潜ると、深い靄に包まれた異形の森が私達を出迎える。木を隠すなら森の中。頗る濃い霊力に、目の前のマスターのソレすら周囲の大気と区別出来ない。こんなものをばら蒔く存在とは何なのか。
「マスター、大丈夫かしら。このまま進んで」
「・・・そうですね。ここは迷いの森ですから」
感触はないが、袖越しに手を繋がれる。質問の理由は迷う事への懸念ではないのだが。
「この霧を作り出してる存在の事よ。とてつもない力の濃度だわ」
「デクの木様の事ですね。彼は――――」
マスターは乱れなく歩を進め、不可視の霧の向こうに火の灯る燭台を発見してその次へと行く。
どういったカラクリなのか。火の粉の向かう先、勘違いでなければ、風向きが先程から変わっている気がするが。更には火の粉の向かう先へと進んでいる様な。
「・・・風向きに従って進んでいる」
推察を口に出して見るとマスターがニコリと此方を振り返った。
何で貴女が得意気なのよ。
「御名答です」
「子供騙しね」
仕組みが理解できれば実に単純なものだ。
「だからこそ、罠と勘違いして道を踏み外したりする輩がいるのです」
「・・・それは実体験かしら」
「・・・余りからかわないでください」
表情が顔に出ていたか。
それにしても、頬に赤の差した顔は愛嬌のあるソレだ。
「真面目なことね。余りヒトの悪口とか言わないの、貴女」
「当然です」
即断か。
「・・・前言撤回よ。誠実なのね、マスターは」
固いとも言えるが。彼女が誰かの生存を主目的に行動できる訳はこれなのかもしれない。
マスターが立ち止まって辺りを見渡す。そう言えば、燭台が見当たらない。
「・・・マスター。もしかして、迷子」
「違います、断じて」
「そんなにムキにならなくっても良いじゃない」
「・・・もう」
まだ一日程しか経っていない筈だが、愉しい。
あの人も、サーヴァントとこう接したのだろうか。
「・・・こっちです」
「あら、わかるの」
「メルトリリスには強靭な体、私には優れた頭がありますから」
「それって、私の知性が貴女よりも劣っている。そういう事かしら」
「どうでしょう。そうは申し上げていませんけど」
「言うじゃない、マスターのくせに」
悪い気分はしない。
もう一度絡繰りを読み解こうとしていると、霧が次第に晴れ、地に横たわり苔むした巨木のトンネルを潜り終えた頃には、視界が明瞭になっていた。
「・・・時間切れね」
「着きました。漸く、です」
―――――――――――――――
壮大な桜の木。
意思疏通の手段を何かしら持っている事は可能性として考慮したいたけれど、まさか人間の如く喋るとは。
その大樹との会話を終え、剣を台座に突き立てたマスターが、入り口で傍観していた私の方へと来る。
「では、行きましょう」
爛々とした目で覚悟の決まった表情は力強さを思わせる。
使命感を漲らせて結構な事だ。けれど
「ダメね。ここで一休みしましょう」
驚きを浮かべるマスターに続ける
「その気力は一過性のものよ。体力を先に補充するべきだわ」
「ですが・・・」
「体力、気力、集中力も欠いて、トラブルを頻発されたら守りきれないの」
恐らく此処を出れば休む機会は無い。途中で精根尽き果て倒れましたでは後に冗談として語る機会も失われる。
腕が不自由な為に、彼女を敵地から運び出すにも大きな苦労を伴うだろう。戦いの最中であれば、担ぐなり、なんなりする為にもたついている暇はない。
予防として、彼女自身が己の身を守る事に気を払える程に回復していた方が好ましい。
「構わないかしら、御老公」
声を張り上げると、穏やかな、しかし大気を響かす返辞がする。
「良縁に恵まれたの、姫巫女・・・この子達も構わんと言うておるが」
その言葉の直後、葉っぱを面代わりにした小人達が顔を出し始めた。
全く気付かなかったが、見回すと結構な数がいる。
その中からテクテクと、銀杏の葉の面を着けた小人が寄って来る。
「姫巫女様、従者様、こちらへ」
「・・・」
「ホント、間怠いわね」
手を取ろうとして、上手く繋げない。やはり、すれ違うか、擦れるかが精々だ。
「・・・行くわよ」
体がクンと引っ張られる。
腕の着け根の引っ張られた感触、そのする方を見やる。
「腕、どうかしたんですか」
「元々よ。後、同情なんてしないで」
「・・・食事の時は私が食べさせてあげます」
私の腕が上手く利かないのを知るや、矢鱈と張り切るマスター。慮外だけど、上手く釣れたみたい。
「・・・私の話、聞いてたかしら」
「これはこれ、それはそれです」
「ゼッタイ、イヤ」
私が食事を摂る必要性については黙った。その方が面倒を省けるから。
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「もう沢山だ。誰か」
「あら、いけませんわ、ますたぁ」
「――ぁ、ぁぁ、ぁァあああ″あ″ア″ア″」
バタム
――――――――――――――
「・・・何よ、これ」
「見ての通りさ。初々しいだろう」
20XX年々、世の処女童貞達の春は栄え、瞬く間に散っていった。突如として発生した、
「まぁ、戯れは此処までにするとして」
回転椅子を此方に向けて世の大多数の
「現代では異性間の恋愛に疎い者が多くてね。彼等が電子の世界の似て非なる僕達を番として求めた結果、召喚された」
空中投影された清姫がズームアップされる。
そこをポインターでくるりと円を描いた近未来童話作家が続いた。
「奴に負けじ劣らじ愛情極まる盲目共ばかりでな。類は友を呼ぶと言うが、生憎マスター達もその同類だ。奴等の糖尿まっしぐらの愛情が縁として触媒となり、愛する二人は遂に、運命の夜を迎えた。めでたし、めでたし」
画面が変わり、何処ぞの院内にズラリと並べられたベッド。その上に頬の痩け果てた男女が、一人につき一人の異性に付き添われて床に伏していた。それなりに同性も混じっている。
「その続きだ。恋愛処女同士の仲はな、一方が供給される愛の過剰摂取に爆発なりして別れる場合があるが、崖の先に引きずり込まれて飛び込む奴等もいる。これはその一歩手前だが」
アンデルセンに目線を寄越され、頷いたダ・ヴィンチが続ける。
「此れが世界中で起こっているのがマズいのさ。人間ならまだしも、不眠不休を可能にする、いわば無尽蔵の体力を持ち、我が強く、気にする世間体も失われた英雄が相手だ。ストッパーもなく、果てのない求愛に時間を割かれるにとどまらない上、その末の栄養失調、精神の衰弱からあらゆる病気やアクシデントへ。今や地球の経済は停滞しつつある。ソコで僕達カルデアズの出番という訳だ。そして、僕とアンデルセン氏の協議の結果」
「恋愛初等卒業生のお前に白羽の矢が立った。という訳だ、メルトリリス」
「・・・嫌がらせかしら、ミスタ」
月での苦い、苦い思い出。独り善がりに相手を
こんなトコにまで来て、何故こんな羽目に会わなければならないのか。
「このカルデアには口付けの触りも知らぬ初な連中しかいない。消去法でお前が適任だった、それだけだ」
貴方がそれを言うのかしら、ミスター・アンデルセン。
「生涯童貞よね、貴方」
「そうだ。俺がマスターに呼ばれたのもその為だ」
「かっ・・・」
若くして春の到来が今生訪れないことを知らされる。
哀れね。
倒れたマスターを
「という訳で、君とマスターの二人だけが実働部隊の構成員だ。成功を祈っているよ」
貧乏クジも良いとこだ。どうしてこんな甲斐性無しに召喚されてしまったのか。
「分かった・・・分かったわ。やればいいんでしょ、やれば」
「宜しい」
「ダ・ヴィンチちゃん」
ダ・ヴィンチが、やって来ては膝の上に正面から股がった赤髪の少年、彼と熱の籠った視線を交わす。
・・・いたかしら、あんな奴。
「ああ、アレク君、僕の最愛の人よ。どうしたんだい」
「今夜アレが欲しいんだけど・・・だめ、かな」
「ああ、良いとも。無論、僕は今でも構わないよ」
「嬉しいよ、ダ・ヴィンチ・・・愛してる」
「ああ、僕もさ・・・」
「・・・スるなら私室でシろよ、ダ・ヴィンチ」
「行こうか、アレク君」
「そうだね、ふふ」
最早咎める事もうんざりと言った様子のアンデルセン。最近あの芸術家が魔術工房に籠っていたらしいのは、アレが原因かしら。
「・・・この通り、俺は席を離れられん。マスターとお前のサポートも録に叶わん。今はお前一人がマスターの護りだ」
このカルデアには気を失った盾娘を除いて私と童話作家様しかいない。これが異様に少ないと判ったのは複数のカルデアを観測、彼等と交信して以来発覚した事だ。
確認を求める彼に応える。
「・・・そう、結局私達だけってワケ。そうね、何時も通り、上手くやるだけよ」
貴方の元にも嫁/婿がやって来る・・・かも、しれない。