ええけつゼルダの誕生日パーティー   作:モアニン

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4話 extra

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして私はこの女を守ろうとするのだろう。恋しているのでも、愛している訳でもない。この女の母親に貸しがあるからだろうか。

 

――いいえ、私はそんな殊勝じゃない。

 

この女に人形師としての価値を見出だしたからか。

 

では、もし、彼女がなってくれるとして、次に私は彼女を人形にするのだろうか。

 

正にその時、彼女は理解の追い付かない顔をするのか、恐怖を顔に張り付けるのか、悲しみと痛みに涙するのか。

 

焚き火の上の、長い足の付いた鍋で果物を煮込む女を見詰める。

 

 

 

常ならば興奮する筈が、私は恐くなっていた。

 

どうして。何故。今まで私は人間から人間性を奪い、溶かして養分にし、バラした死体を再利用する、相手の事なんて考えずに振る舞う事が出来たのに。あらゆる人間を平等に、人間とも思わず扱えたのに。

 

 

 

「ねぇ、マスター」

 

 

 

「はい」

 

 

 

隣で瞼の半分落ちた、三角座りのマスターに、全部話してみたくなった。私を知って欲しくなった。

 

鬱々としているこの気持ちは、自信に満ち、何にも憚ることなく、振る舞えていた頃には感じた事のないモノだった。

 

吐き出してしまいたかった。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

喉元で止まる。時間の経てば経つほど気まずさを覚えるのに、唇も、胸の靄も鉛のように重量を増していく。

 

 

 

「私ね、人形が好きなの」

 

 

 

話題に困った私は咄嗟にそう言った。

 

 

 

「そう言えばそうでしたね」

 

 

 

「人形は良いわ。どんなに愛を注いでも、決して文句を言わない、不満を溢さない、私を嫌いにならない、私を拒まない―――」

 

 

 

そうか、私は――――

 

 

 

「――――恐いの、拒絶されるのが。だから、私は人形が好き」

 

 

 

そうだ、私はあの人に暴かれる前から、ずっと自覚していた。

 

 

 

「私の愛、私の愛し方、どちらも決定的に、人間にそぐわなかった、合わなかった、間違っていた」

 

 

 

熱にうなされるように恋をして(都合の良い夢だけを見て )、そんな事の正否も判断出来なくて、だから私はフラれてしまったのだろう。愛すれば、愛してくれる。それを道理と勘違いをして、私は一方的に、只々愛を送り(求め)続けた。相手を無視したそれは、見ていないのと同じ。()恋し(夢見)ているのと変わらない。最初から始まってすらいない、現実に成立していなかったのだ。

 

情熱的と言えば響きは良いが、正しくは脳を熱病に侵され、正常な判断力を失っていた。それがあの頃の私だ。経験の不足もあるだろうけど、私は尻軽になんてなりたくない。

 

 

 

「恋愛、ですか」

 

 

 

年頃だろう彼女は膝から顎を離し、頭上の繁葉の隙間から覗く、夜空の星々に目を細めた。

 

 

 

「慕情を懐く事の無かった訳ではありません。ですが、それをする余裕が私にはありませんでした。厄災に対抗する為に日夜研究に明け暮れて、それ以外は祈りの日々でしたから」

 

 

 

道程の至る所にあったガーディアンによる大きな爪痕。そんな彼等を一網打尽にし、私に深手を与える獣を翳すだけで退ける力。

 

彼女はそれらの為に、己に費やせる時間の全てを宛がったのだろう。それこそ恋愛する時間の欠片も無い程に。

 

私も彼女に倣って遠くの星を見据えた。溜め息を吐く。

 

 

 

「その力に見合う努力を貴女は遂げてきた。妬けちゃうわ」

 

私は何もしていなかったのに、生まれた頃から俗人の欲しがるものの殆どを有するか、必要性が無かった。

 

何とも言い難げにマスターが私を見て苦笑する。

 

 

 

「隣の芝は青いと言うでしょう。ですが、貴女がそう仰ってくれるなら・・・っぐ」

 

 

 

咄嗟に俯けた顔から――堪えきれなかったのだろう――嗚咽が漏れる。何かが琴線に触れたのかもしれない。

 

 

 

「・・・泣いて・・・良い、ですか・・・」

 

 

 

力の通らない手では足りない。横で膝に顔を埋めた彼女に両腕を回し、覆い被さるように緩やかに抱く。

 

すると、背に回されたマスターの手が衣服を握り締め、私をぎゅうと抱き締めた。

 

 

 

「・・・馬鹿ね。もう泣いてるじゃない」

 

 

 

本当は、私が泣くつもりだったのに。

 

その言葉を喉元で押し留めると、――熱を伝える為か、分けて欲しいのか判然としなかったけれど―― 神経の無い手の代わりに、身体を更に寄せて密着させ、肩に顎を置いた。

 

魔猪が目覚めた日、土砂降りの中の逃走劇。あの時を彷彿とさせる哭きだった。

 

 

 

「・・ぁ″・っ・・・ぅ″ぁ″あ″ッ・・・・」

 

 

 

 

 

その晩、私の足を彼女がどう思っているのか、終ぞ訊くことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 





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