読者様だろう!?
なあ 読者様だろうおまえ
感想置いてけ!! なあ!!!
どうして私はこの女を守ろうとするのだろう。恋しているのでも、愛している訳でもない。この女の母親に貸しがあるからだろうか。
――いいえ、私はそんな殊勝じゃない。
この女に人形師としての価値を見出だしたからか。
では、もし、彼女がなってくれるとして、次に私は彼女を人形にするのだろうか。
正にその時、彼女は理解の追い付かない顔をするのか、恐怖を顔に張り付けるのか、悲しみと痛みに涙するのか。
焚き火の上の、長い足の付いた鍋で果物を煮込む女を見詰める。
常ならば興奮する筈が、私は恐くなっていた。
どうして。何故。今まで私は人間から人間性を奪い、溶かして養分にし、バラした死体を再利用する、相手の事なんて考えずに振る舞う事が出来たのに。あらゆる人間を平等に、人間とも思わず扱えたのに。
「ねぇ、マスター」
「はい」
隣で瞼の半分落ちた、三角座りのマスターに、全部話してみたくなった。私を知って欲しくなった。
鬱々としているこの気持ちは、自信に満ち、何にも憚ることなく、振る舞えていた頃には感じた事のないモノだった。
吐き出してしまいたかった。
「・・・」
喉元で止まる。時間の経てば経つほど気まずさを覚えるのに、唇も、胸の靄も鉛のように重量を増していく。
「私ね、人形が好きなの」
話題に困った私は咄嗟にそう言った。
「そう言えばそうでしたね」
「人形は良いわ。どんなに愛を注いでも、決して文句を言わない、不満を溢さない、私を嫌いにならない、私を拒まない―――」
そうか、私は――――
「――――恐いの、拒絶されるのが。だから、私は人形が好き」
そうだ、私はあの人に暴かれる前から、ずっと自覚していた。
「私の愛、私の愛し方、どちらも決定的に、人間にそぐわなかった、合わなかった、間違っていた」
情熱的と言えば響きは良いが、正しくは脳を熱病に侵され、正常な判断力を失っていた。それがあの頃の私だ。経験の不足もあるだろうけど、私は尻軽になんてなりたくない。
「恋愛、ですか」
年頃だろう彼女は膝から顎を離し、頭上の繁葉の隙間から覗く、夜空の星々に目を細めた。
「慕情を懐く事の無かった訳ではありません。ですが、それをする余裕が私にはありませんでした。厄災に対抗する為に日夜研究に明け暮れて、それ以外は祈りの日々でしたから」
道程の至る所にあったガーディアンによる大きな爪痕。そんな彼等を一網打尽にし、私に深手を与える獣を翳すだけで退ける力。
彼女はそれらの為に、己に費やせる時間の全てを宛がったのだろう。それこそ恋愛する時間の欠片も無い程に。
私も彼女に倣って遠くの星を見据えた。溜め息を吐く。
「その力に見合う努力を貴女は遂げてきた。妬けちゃうわ」
私は何もしていなかったのに、生まれた頃から俗人の欲しがるものの殆どを有するか、必要性が無かった。
何とも言い難げにマスターが私を見て苦笑する。
「隣の芝は青いと言うでしょう。ですが、貴女がそう仰ってくれるなら・・・っぐ」
咄嗟に俯けた顔から――堪えきれなかったのだろう――嗚咽が漏れる。何かが琴線に触れたのかもしれない。
「・・・泣いて・・・良い、ですか・・・」
力の通らない手では足りない。横で膝に顔を埋めた彼女に両腕を回し、覆い被さるように緩やかに抱く。
すると、背に回されたマスターの手が衣服を握り締め、私をぎゅうと抱き締めた。
「・・・馬鹿ね。もう泣いてるじゃない」
本当は、私が泣くつもりだったのに。
その言葉を喉元で押し留めると、――熱を伝える為か、分けて欲しいのか判然としなかったけれど―― 神経の無い手の代わりに、身体を更に寄せて密着させ、肩に顎を置いた。
魔猪が目覚めた日、土砂降りの中の逃走劇。あの時を彷彿とさせる哭きだった。
「・・ぁ″・っ・・・ぅ″ぁ″あ″ッ・・・・」
その晩、私の足を彼女がどう思っているのか、終ぞ訊くことは出来なかった。