ええけつゼルダの誕生日パーティー   作:モアニン

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短いけどキリが良いので




最終話が短いのでくっつけました









恋破れて愛を知る。さよならアルブレヒト

嘗て栄えしハイラル城。

そこの本丸に、一人の精悍な顔付きの少年が泰然とした歩みで入場する。

 

『貴方は人間、それとも魔物かしら』

 

如何なる術か。耳を通さず投げ掛けられた問いに、ハイラルの勇者が視線を巡らせる。

すると、見覚えのある泥――城内や大陸各地に点々と見られたそれ――が本丸を囲む入場口から蛇の如く流れ込む。天井から通る管に繋がれた心臓、その中に目当てがある少年との間の一点に集中し、凝縮されていく。

黒い花嫁衣装(コート)――そう呼ぶには些か奇抜に過ぎる――の少女が黒い金属製の足甲に付いた、仄暗く輝く(ヒール)を地に打ち鳴らし、体に付着する泥を弾けさせた。

少年が退魔の剣を背に括り付けられた鞘から抜き放つと、剣は目前の脅威に耀き、彼は警戒を引き上げる。

相手を脅威と認めたのは少女も同じ。縮んだバネの如く体を低くし、臨戦体勢に入る。

 

「どちらにせよ、貴方は目的があって此処を訪れた。私のマスター()に用事があって。違うかしら」

 

「・・・」

 

「・・・まぁ、良いわ。火の粉であれ、露であれ、マスター()に降り掛かるのであれば、払うだけよ」

 

遣える人間と魔物を混同させた彼女は首を跳ねようと、氷上を滑るかのように一足で少年を有効範囲内に捉え、踵で刈り取らんとする。

彼女は目を見開いた。人外の内でも格段の速さを誇る彼女の蹴撃が、掲げられた盾の表面を擦って行くのだ。今の自身と張り合う事の出来る者はこの場にいない。その確信故の驚愕だった。

正確に、狂いなくいなされ、勢いの乗った体の制御に手間取る一瞬の隙、少年は少女の懐へ踏み込み、軸足で鎧に覆われていない太股へと剣を突き出す。

しかし、遅い。人間と人外の基本的な速度と筋力の差の為に、少女は体を支えるための軸足だけで宙へと跳ね上がり、攻撃をかわすことに成功する。

次に隙を晒すのは少年の方だ。見上げる彼と見下す彼女の視線が交わる。決して揺らぐことの無い静かな水面、全てを映し、白日の元に晒し出さんとする曇りの無い鏡の様な彼の瞳が、彼女の何かに触れる。

激情を表すかのような雷の如き刺突の雨が、少年を襲う。常人なら盾を取り零し、蓮の花托と化す所を彼は弾けずとも全て捌ききる。火花が咲き誇った。

通じないと悟った彼女は一際強力な一撃で盾を叩き、反動で彼から離れて着地する。

 

「その目、不快よ。今すぐ止めなさい」

 

「・・・」

 

何時も黙している所までそっくりだ。

目を逸らし続けていたものが追い掛けてきた。そんな罪を質される様な感覚に耐えきれず、彼女は叫ぶ。私はもう(人に嫌われる事)を犯してはいない。その証拠に

 

「私は一人じゃないっ。私にはマスターが――――」

 

内気だけど活発的、優しく頑固で、責任感が強すぎて自身を追い詰めても決して諦めることのなかった、余りにも不器用に、目の眩む程に懸命に生きていた、私を見捨ててくれずにいたマスター(女性)の顔が思い浮かぶ。

 

「マス、ター。マスターッ」

 

酷く狼狽する彼女。その姿を見たならば、例え似た目を持ったあの青年ですら呆れて言葉を失うだろう。

一世紀も昔の、たった二日の時間。等身大で他者と言葉を交わし、絆を育む。それだけの事が彼女が半生培ってきた、人間に対する価値観を再構築させるには十分な証左だった。

霧の緞帳の向こう、霞の様に消えてしまいそうな影画。大切なヒトが思い出せなくなる。妙な確信を抱いた彼女は何度も口にしたその言葉を、やがてはその度に覚えた胸の温もりを手繰り寄せんと喉を搾り上げて声を出す。

突として錯乱し、涙を滂沱の如く流し始めた少女。一種異様な様子に少年は身構えるが、剣の光が弱まった事で、己の行動に微々たるものだが疑いを持つ。

彼女は声の枯れるまでそれを続けると項垂れた。両親を亡くした場面に居合わせた子供の様だった。理解の追い付いていないその無表情は、この時だけは酷く不吉で、危うさを彼に感じさせた。

腰を落として重心を磐石なものにすると、剣が呼応する様に光輝を放つ。

 

「・・・あの人の声も、姿形も、体に触れてくれた感触も、思いも、何もかも思い出せない。私には、何も、ない」

 

 

 

お願い。

 

 

死なないで。

 

 

 

「死なないで。私はそう願われて今も生かされている。だから――――――」

 

今一度、(ヒール)を打ち鳴らし、少女は少年を振り返る。彼女は鋭い目に刃の様な光を湛え、視える程に濃い瘴気(魔力)を纏う。

金切り声に罅の入った喉が裂ける。知ったことではない。だって、私が彼女のことを口にすることはないのだ。あんな幸せ、知らなければ良かった。あの時命が潰えたとしても、これ程苦しむ事は無かっただろうに。

少女は悲哀(抂愛)を絶叫する。

 

――――貴方が私を終わらせて。然もなければ、私が貴方を討つ」

 

 

彼女のコートに赤いラインが走り、飾りつけの折り紙細工の如く割ける。知る者が見れば、穢れた聖杯へと身を窶した少女、彼女のオリジナルにそっくりだと応えただろう。

愛を知った少女は化物へと変身したのだ。

 

 

★★★★

 

 

一人の怪物によって敷かれる包囲網。それに囲まれた少年に見えるのは残像だけ。

これまで傷ひとつ付くことのなかったハイリアの盾が装飾の原型が判別出来ぬほどに削られていく。どんな敵にも決して冷静を守る少年は焦り、前面から迫る断頭台の刃をバック宙で躱す。神経が只人の何倍も鋭敏になり、怪物の姿を捉えることが出来る。しかし、彼の瞬くよりも前に更に加速し、彼が地に足の着くよりも早く、連撃が訪れる。盾を構えるも、空中で踏ん張りの利かぬ彼は蹴鞠の如く弄ばれ、城内の天井へと撃ち込まれる。

怪物は少年の元いた所に顕れた青く光る玉に目を奪われ、それが何であるかを理解するよりも数瞬早く炸裂したそれに吹き飛ばされる。

少年は肺の息が全て吐き出された事による呼吸をしたいという衝動を堪え、彼はオオワシの弓を構える。ライネルを狩る都合上、雷の矢を多く持つ彼は自ずとそれを選択し、引き絞る。リモコン爆弾によって宙を舞う最中の彼女を射る。

落下の本格的に始まるよりも前に彼はそれを終え、剣を取り出し足元の(天井)を蹴る。

痺れによって脱力した彼女へ少年は一直線。彼自身が矢となり剣を突き出した。

抵抗もできぬままそれを見届けた怪物は微笑みを浮かべ、それを受け入れる。

罅の入っていた、侵された霊核(心臓)が突き抜かれ、砕かれる感触。やってくれた。

至近距離で少年と視線の交わった少女は悪戯半分、感謝半分に思いを告げる。

 

「・・・助かったわ、ありがとう」

 

不意を突かれて少年の顔が歪む。打ちのめした、命を奪った相手から純粋に感謝の意を述べられた事に顔を歪ませた彼に、少女は破顔する。良い気味だ、と。

体を修復出来るだけの魔力も残っていない。彼女は元々残り滓だったのだ。吸い取られる魔力を濾過して残った不純物。彼女がその存在全てを消費するか、勇者が止めを指すが先か。今回は後者であった。

その魔力を全力で搾り尽くした事で存在を保てなくなった少女は、魔に仕える魔ではなく、姫巫女に仕えた少女へ回帰する。

そして遂に、少女は姫巫女の呼び声を聞き届ける事が叶う。耳を、目を、記憶を覆っていたものが晴れたのだ。

 

「なによ。そこにいるじゃない――」

 

有り余る霊力で実体を作り出した姫巫女が、勇者の離れた少女の元へ躙り寄る。自身(割れた器)へ汲まれる霊力に少女は頬を緩ませ、忠告する。己が塗り替えられる前に自身(聖杯)へ願った、私は彼女を助けたい、私が彼女を支えるのだ。その願いを無駄にするなと。

 

「四散した杯に水を酌めども貯まりはしない。私の努力を水泡に帰す気かしら」

 

「嘘でしょう・・・そんな、私の無思慮なせいで」

 

元の形を失うほどに歪んでいた(霊基)が砕けたのだ。受け皿となることの可能な破片すら今の彼女には無かった。

 

「あの時はああするしか無かったのよ。そんなに自分を責めすぎないで、マスター」

 

―――――――――――――――

 

まるで夢の様な日々。目の潰れてしまいそうに眩いそれは、俯いた私に色濃い影を初めて直視させた。こんなにも素敵で心温かなものを私は奪ってきたのか。死にたくないと懇願する人々の命を食い物にしたのか。その中には誰かを想って月に来た人がいたかもしれない。その人を置いて逝く事の出来ない人がいたかもしれない。そんな切な願いを私は踏み躙って来た。私の誇り(自尊心)は依然として高いままだけれども、私は私を誇ることが出来なくなってしまった。余りにも無情な(正しくない)行いばかりをしてきたのだと悟ってしまったから。

だから、これは贖罪の(人を知る)旅路だった。

 

主の少女が薄れていく私に涙する。良いことではないのだろうけど、誰かに、彼女にこんなにも必要とされていることに百年の孤独が癒されていく。

「泣かないで、マスター」

 

「だって、私は貴女に何も・・・」

 

「傍に居てくれたでしょう」

 

私に勇気を、自信をくれた。誰かに高圧的に、攻撃的にな(心を守)らずとも誰かに接することが出来るように、固くなった私の心を(ほぐ)してくれた。ほら、今だって、私の心はこんなにも満ち足りている(幸せだ)

パスを拡げ、私の胸に並々と湛えられた心地よさをマスターと共有する。

 

「私は一度死んだ。それでも手に入ることのなかったものを貴女は私に注いでくれた」

 

涙を流すマスターに触発され、声の震えに収まりが着かなくなる。彼女の掌を抱え、胸に押し当てる。

 

「この胸に満ちる全てが、私の宝物よ」

 

こんなにも透き通る様に晴れやかな気分は初めてだ。諦観の内に生を諦めるのではない。これ以上の(幸福)はもう必要ないのだ。未練がきっと生まれてしまう。

意識が体と共に薄れていく。

 

「待って、メルトっ。待って」

 

「マスター。貴女が最初で最後で良かった」

 

私は誇り高い(高慢ちきだ)が、私自身を誇ることは出来ない。けれど、私の人生で誇れる何かがあるとすれば―――

 

「―――さよなら、貴い(愛しい)ヒト。貴女という貴人に仕えた事を、私は誇りに思うわ」

 

唖然とした彼女は目元を腫らしつつも何時ぞやの決然として厳かに告げる。腫らした目元にも関わらず、人を統べる王女に相応しい風格を滲ませるマスター(主人)

実に良い顔付きになったものだ。

 

 

「では私の傍に居て、私と共に歩んで下さいっ。貴女が真に私の(とも)であり、臣であるならば」

 

「・・・そうね、考えておこうかしら――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この国には伝説がある。最新の伝説だ。退魔の剣(勇者)は折れ、姫巫女が膝を屈した時、魔剣が古の契りを果たしに顕れるのだと。しかし気を付けねばならぬ。姫巫女の剣は魔的なのだ。人を惑わすその見目に気安く触れれば切り裂かれるのは己。それは彼女は持ち主の心を見定めるからだ。けれど清く一点の曇りもない心の持ち主である必要はない。聖人である必要はない。人として正しく努めんと足掻く者にこそ彼女は心血を捧ぐのだ。それこそがこの世で最も貴いものだと彼女は信じているからである。

 

火の手、怒号、悲鳴、泣き声と鳴き声の上がる街を駆ける。皆の作ってくれた(を犠牲にした)機会を活かさねば。だが私が皆を護らなければ、誰が彼等の命を保証してくれるのだろう。

足を止め、背を押してくれた人々を振り返る。

いけない事だとは思わない。けれど間違っていたのだろうか。前を見ず走っていた私は何かにぶつかり、転んだ。見上げれば、炎を背にして目だけを爛々と輝かせる潰れた鼻の魔物がいた。

俺が一番の首級を頂く。

歓喜と期待に刃を握る手が掲げられ、その勢いのままに腕が何処へなりと飛び失せた。

 

「誤算だわ、この星に座があるなんてね・・・」

 

「■■■――――」

 

背後を振り返ると、私を認めて少女が不適に笑った。鋼の具足、膝頭に騎乗槍の如き棘、黒い刃の(ヒール)。こんな武器は見覚えがない。まともに扱える人間がいるのか怪しい形状である。少なくとも体系化されるほど使い手の数は多くないだろう。

少女は私を叱咤した。

 

「立ちなさい、他ならぬ貴女の足で。私は手を貸しはしない、努力する貴女を手伝うだけ―――」

 

「―――貴女が、貴女こそが、貴女の手で大事な人を護るのよ」

 

彼女は私を真っ直ぐ見詰める。その誠実で厳然でありながらも、何処までも優しいあり方は、私の母を想わせた。

疲労に震える体を起こすと、少女は私を見下ろしたまま告げた。

 

サーヴァント(従者)、メルトリリス。貴女を当代の主人(ゼルダ)と認め、貴女へこの剣()を捧げます」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

さよならアルブレヒト

私は貴方を理由に死ぬとしても(死ぬほどに)、愛しています。











完結しちゃったよ(呆れ)

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