ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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飛べジムⅡ! 5

11時56分 実況席

『『ネモ・ZEKUU』がタックルをかましながらのコーナリング! 『ガザC・オナガ』アウト側に膨らんでいきます』

『ヨハンソン選手上手いですね。かすめるようなタックルで自機への衝撃を最小限に抑えつつ、ガザCだけ吹き飛ばしてます。その上で遠心力も打ち消している』

『さすがは前年度シルバークラス! 機体の不調が原因でチャレンジクラスに降格となりましたが、今年はその鬱憤を晴らすかのような飛びっぷり!』

『ここで後続機も詰めてきましたね』

『おお~っと! 『ズサ・キラーエッグ』『マラサイパラダイス』の二機も上がってきた! 『ガザC・オナガ』はこれで四位に転落。さらに『ズサ・キラーエッグ』がスパート! 三位以下を引き離しにかかる!』

『ズサと言うと『後方支援機』として運用されていたために『遅い』というイメージを持たれがちですが、大量のミサイルを運ぶためにスラスター推力が非常に高いんですね。ミサイルを積んでいない状態ではご覧のような高加速ができる訳です。加えて小さな機体を生かした小回りの良さ。さらに機体内部のミサイルラックだった所は十分なペイロードがありますから、様々な追加機材を搭載することも可能です』

『なるほど。最近『ズサが値上がりした』という話を聞きましたが、そういった基本性能の良さと拡張性の高さが評価されてのことだったんですね』

『その通りです。『ズサ・キラーエッグ』は増設したスラスターを、ここまで温存してたんですね』

『さぁ、『ネモ・ZEKUU』を先頭にレースは九周目に突入します!』

 

 

 

11時57分 第二コーナー

「追いついたぞ! この野郎!」

 

 九周目にしてようやく『ハイザック・レッドドワーフ』を捉える。

 距離はわずか。

 手を伸ばせば届く、目と鼻の先。

 

『気を付けろケンジ! むこうの方がレース慣れしてる、また何か仕掛けてくるぞ!』

 

 エフラムがそう言った直後。

 

──メインスラスターの噴射はそのままに、姿勢制御スラスターのみ逆進で点火する『ハイザック・レッドドワーフ』

 

 速度を殺すことで、自ら後続の『ジムⅡ・トライデント』と距離を詰める。

 一周目の時と同じく、目の前を塞ぎ、ジムⅡを減速させる作戦。

 

「だと思ったよ!」

 

 制動は掛けず、そのまま当たりに行くジムⅡ。

 ハーフロールで軸線をわずかにずらし、ハイザックの右脚に絡み付く。

 

『テメェ離しやがれ!』

「誰が離すか!」

 

 接触回線で飛び交う怒号。

 ハイザックがジムⅡを振り払おうともがく。

 が、ジムⅡは剥がれない。

 

「さっきはよくもやってくれたな!」

 

 ジムⅡの左腕を大きく振り上げ、

 

──ハイザックのメインスラスターに拳を叩き込んだ

 

 

 

11時57分 仮設ピット

「だーっ?! ケンジの奴やりやがった?!」

 

 ジムⅡのステータスをモニターしていたショーンが悲鳴を上げた。

 隣にいたエフラムも呆然

 

「うわぁ……」

「ちくしょう! マニュピレーター全取っ替えだよ!」

 

 左マニュピレーターのステータスはレッド。

 手首のジョイントはイエロー。

 この後の修理費用を考えると頭が痛い。

 

「スラスター潰すにしたって、なんでわざわざそこに手を突っ込むんだよ?!」

 

 そう、ケンジはハイザックのスラスターを潰すために、『スラスターの噴射口』に手を入れた。

 当然のことながら噴射口の出口は高温。

 そこに手を入れるということは、バーナーで焼くようなものだ。

 

「あぁぁぁぁ……信号途切れてる……回線焼き切れたんだ……」

 

 再度、ステータスチェックを掛けるが、左マニュピレーターは無反応。

 本来ならまだ耐えられただろうが、昨日の接触で装甲に隙間が出来、そこから熱が回ったのだろう。

 

「あっ!? ケンジの奴また!?」

 

 

 

11時57分 第二コーナー

「もう一丁!」

 

 ハイザックに再び拳を振り下ろすジムⅡ。

 もう一基のメインスラスターを叩き潰す。

 サブスラスターだけになったハイザック。これでもうレースに絡むことはできまい。

 

『このクソガキが! なんて事しやがる!』

「利子付きで借りを返してやってんだよ!」

 

 『ハイザック・レッドドワーフ』からの罵声が一際激しくなるが、ケンジも貯め込んだものを吐き出すように怒鳴り返す。

 そしてハイザックに絡み付いたまま360度スピンを敢行するジムⅡ。

 まるでプロレスのドラゴンスクリューのごとく回す。回す。

 

──一回転……二回転……三回転

 

『おい!? 何する気だ?!』

「利子付きだって言ったろ!」

 

 十分な勢いを付けて

 

──投げる

 

 コースの内側に向かって投げ飛ばされた『ハイザック・レッドドワーフ』。メインスラスターを潰されたがために、満足な姿勢制御が出来ず四苦八苦。

 ジタバタもがくが、漂流物となって第一コーナー入口へと流されて行く。

 

 

 

11時57分 実況席

『後続集団で動きがありました。中継のザクフリッパーを呼んでみましょう。フルハシさん?』

 

 

 

11時57分 ザクフリッパー

『はい、フルハシです。たった今、『ハイザック・レッドドワーフ』と『ジムⅡ・トライデント』による格闘がありました!』

 

 日系男性が『ザクフリッパー』のコクピットで、興奮気味にまくしたてる。

 『ザクフリッパー』はジオン公国軍が一年戦争時に運用していた偵察機である。

 一年戦争終結後は連邦軍に接収され、近代化改修を施し運用されていた。グリプス戦争時まで使用されていたが、EWAC機の登場によりその役目を終えていた。

 ただその撮影能力は今も高く評価され、資源開発などの調査機関や、テレビ等の報道機関で撮影機材を入れ替えつつ使用されている。

 

『こちらのVTRをご覧ください。『ジムⅡ・トライデント』がタックルからのパンチの猛打! 『ハイザック・レッドドワーフ』はメインスラスターを破壊され現在漂流中です!』

『フルハシさん、『ハイザック・レッドドワーフ』は現在どの辺りに居るんでしょうか?』

『はい。『ジムⅡ・トライデント』にコース内側に投げ込まれまして、私の乗る『ザクフリッパー』の近くを漂流しています』

 

 

 

11時58分 実況席

『フルハシさん引き続きお願いします。さてクーパーさん、これで『ハイザック・レッドドワーフ』は完全に勝ち目がなくなってしまいましたね』

『そうですね。メインスラスターを潰されたのもそうですが、コース内側に飛ばされたことで『パイロンカットペナルティ』、つまりショートカットに対するペナルティまで付加されてしまっては無理でしょう』

『『ジムⅡ・トライデント』はこれで五位に浮上。六位に『ジムⅢ・ナイトシャドウ』と続きます』

 

 

 

11時58分 ジムⅡ コクピット

「はっはー! ザマ見ろってんだ!」

 

 思わずガッツポーズ。

 溜まりに溜まった憂さを晴らして気分爽快。

 

『ケンジ……お前なぁ……』

 

 モニターの向こうからはショーンの嘆き。

 彼の頭の中は修理の工程と、かかる手間で頭が一杯。

 恨み言の一つも言いたくなる。

 

『落ち着けショーン。その話は後だ』

 

 ショーンをなだめつつ、エフラムが通信を代わる。

 

『ハイザックに時間を取られた。後ろのジムⅢが5秒差まで詰めて来てるから注意しろ。このまま逃げ切れば五位入賞だ』

「待てよエフラム。前とは何秒差なんだ?」

『前? 四位のガザCとは13秒も差があるぞ。さすがにあと一周じゃ無理だ』

「ファイナルラップはいつも荒れるだろ? 諦めるにはまだ早いさ」

 

 しゃべりながらもヨーヨー軌道でダミー隕石を潜り抜ける。

 ケンジの言う『ファイナルラップはいつも荒れる』は正しいようで正しくない。荒れずに終わるレースも多いのだから『ファイナルラップは荒れやすい』が正確だ。

 ただ、『荒れずに終わったレース』が印象に残らないほど、この『デブリヒート』というレースは終盤にかけて荒れるのが当たり前なのだ。

 

『13秒差だぞ? 半端なアクシデントじゃひっくり返らないぞ?』

「ズサのペナルティはいくつだ?」

『……バルーンブレイクが一つだ』

「誰かが上手く仕掛けてくれれば、ペナルティ分のタイム差でひっくり返るさ」

『んな、人任せな……』

 

 不敵な笑みを浮かべるケンジ。

 エフラムとショーンが呆れて顔を見合わせる。

 ケンジの言うことには現実味がない。

 だが、ケンジのこの『不屈の闘志』というか『あきらめの悪さ』というか、石にかじりついてでも、這いつくばってでも前に進もうとする姿勢に賭けたのだ。いささか運頼みな点は否めないが、あきらめないメンタルの持ち主だ。

 

(……あとは神様にでも祈ってみるか)

 

 そう考えるとエフラムの顔に笑みが浮かんだ。ただし苦笑いだが。

 

『わかったよ、ケンジ。どっちにしてもジムⅢから逃げなきゃいけないんだ……飛ばせ!』

 

 

 

12時00分 実況席

『さあ、ファイナルラップ! 先頭は『ネモ・ZEKUU』、続いて『ズサ・キラーエッグ』。そこからわずかに遅れて『マラサイパラダイス』と『ガザC・オナガ』が続きます。縦一直線!』

『ほとんど差がありませんね。この程度の差なら、どのチームが勝ってもおかしくはありません』

『こうなると誰がどこで仕掛けるかが見物ですね! クーパーさん!』

『そうですね。『ネモ・ZEKUU』は機動力、『マラサイパラダイス』は格闘戦、『ズサ・キラーエッグ』と『ガザC・オナガ』は高加速とそれぞれが違う長所を武器に戦っています。

ですので展開次第で状況がガラッと変わってしまうことも考えられます』

『やはり一波乱あると?』

『当然あるでしょう。ただ『ズサ・キラーエッグ』は、この先頭集団の中で唯一ペナルティを背負っているので、それを踏まえた上でどう仕掛けるのか注目したいですね』

 

 

 

12時00分 ジムⅡ コクピット

『ファイナルラップだ! 気張れよ!』

「ガザCと何秒差だ?」

『11.3秒』

 

 ジムⅡもファイナルラップ突入。

 予想よりも大分差を詰めたことにケンジ自身が驚く。

 

「前の方で何かあったのか? だいぶ詰まったけど?」

『まだ膠着状態。ガザCは疲れたんじゃないかな? さっきよりラインがぶれてるし』

 

 ショーンの所見を聞いて、ケンジも疲れを意識する。

 推力全開でデブリの海を飛び続けるのだ。疲れない訳がない。

 ヘルメットに仕込んだハイドレーションのストローを咥えると、水を一気に吸い上げて胃に落とし込む。

 

「ぷはぁっ……これはチャンスってことだな!」

『そういうことだ!』

『そんな訳ないだろ! 後ろのジムⅢが4秒差で迫ってる!』

 

 ジムⅢがすぐ後ろに迫っている。

 前を見ればチャンスかもしれないが、後ろを見ればピンチである。

 ましてやジムⅢはジムⅡに比べ運動性、機動性が向上している。まだまだ余力を残し、タイミングを計っていると見るのが妥当だろう。

 

『これじゃ抜く前に抜かれちまうよ!』

 

 

 

12時01分 実況席

『『ネモ・ZEKUU』、『ズサ・キラーエッグ』の二機。ほとんど差がありません! これは接戦! ……おっと? これは? ……このまま行きますと第一コーナーの入口で周回遅れのMSにラインを塞がれてしまいますね』

『『リックドムⅡ・ピシャーチャ』ですね』

 

 『リックドムⅡ』は一年戦争末期に生産された旧ジオン公国のMSである。

 この個体は『ジオン公国』解体後の『ジオン共和国軍』で運用されていたため、意外とコンディションが良い。

 一年戦争終結後のジオン共和国は新規のMS開発が禁止されたため、戦時中に生産されたMSを繰り返し改修し、防衛戦力を維持してきた事情がある。

 後年は連邦軍払い下げのMSに切り替わっていくのだが、その際に用途廃棄となったジオン製MSがサイド3のジャンクヤードに積み上げられているのは、マニアの間では有名な話だ。

 

『不調でしょうか?』

『いえ、違うと思います。性能的な問題でしょう。いくらリックドムⅡが素性の良いMSと言っても、他のMSに比べ性能的に見劣りしているのは否定できません。ましてや、この『リックドムⅡ・ピシャーチャ』は、装甲板のほとんどを残していて、あまり軽量化をしていません。重さも原因でしょう』

 

 解説が終わると同時ぐらいにネモとズサが周回遅れのリックドムⅡに追いついた。

 二機は迷うことなく機体を右側、つまりコースの外側に向けて回避。

 鮮やかなパッシング。

 それに呼応するようにリックドムⅡも針路を変える。

 

『なるほど……あっ、『リックドムⅡ・ピシャーチャ』が変針しました! コース内側のペナルティエリアに入っていきます……? これはあきらめたんでしょうか?』

『うーん……それにしては変なんですよね……』

『と、言いますと?』

『いくら周回遅れとはいえ、自らペナルティを受けに行く必要はない訳で……上下の縦方向に避ければペナルティを受けなくていい訳でしょう?』

『そう言えばそうですね……』

 

 クーパーの解説にジャクソンも首をひねる。

 と、その時、『ズサ・キラーエッグ』が装甲板の下に隠していたスラスターを展開。

 一呼吸の後、暴力的な推進力で一気に加速。

 

『あーっ! 仕掛けた! 『ズサ・キラーエッグ』が仕掛けました! 針路が空いた一瞬の隙を突いて一気に加速! 『ネモ・ZEKUU』を抜いた!』

『これはロケットモーターでしょうか? とんでもない隠し玉を出してきましたね』

『『ズサ・キラーエッグ』第一コーナーにアプローチ!』

 

 

 

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