ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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ジャンクヤードラプソディ

16時24分 ロフマンガレージ 三番倉庫

「どうだショーン?」

「やっぱり肘から先がやられてる。まるごとアッセンブリー交換した方が早いよ」

 

 レースの翌日。

 学校が終わるとすぐに倉庫に駆け込んだ。

 目視と診断機で損傷個所を調べていく。

 

「ショーン、こっちは終わったぞ」

 

 外装の点検をしていたエフラムからチェックリストを受け取る。

 ざっと目を通すと安堵のため息を漏らした。

 

「よかった~。ケンジにしては壊してない」

「なんだと?!」

 

 口は悪いが笑顔のケンジ。

 敗戦のショックから立ち直り、ショーンの軽口を受け流す。

 

「メインスラスターはどうする? やっぱりバックパックごと積み替えるんだろ?」

「それなんだけど……」

 

 今回の重点整備箇所は、昨日のレースで損傷した左腕とメインスラスター。

 それに整備と併せていくつかの改造も行う。

 

「ジムⅢのバックパック積む予定だったんだけど……」

「うん」

「リビルド品が意外に高くてさぁ……」

「あぁ~……」

 

 ジムⅡのお手軽かつ定番のチューニングメニューである『ジムⅢバックパックの移植』。

 それが予算の都合でできないという。

 ショーンの言葉に天を仰ぐ。

 

「エフラム~……やっぱダメか?」

「ダメだな。今のペースだと最終戦の前に金が尽きる」

 

 泣きそうな顔でねだるケンジ。

 金の管理はエフラムの担当。

 だが、当のエフラムにべもない。

 MS競技は金食い虫。

 推進剤だけでもレース本番分の他に、練習用が必要だし、少し改造してもテストに使う分が必要。

 さらには可動部の潤滑用オイルやグリスなどの消耗品代、倉庫の家賃に税金といった固定費。

 

「ケンジがもう少し大切に乗ってくれればなぁ~」

「ぐっ……」

「だから修理費をもう少し多めに残しておく」

 

 そして修理費。

 MSを乗り回すだけなら何とかなるが、競技となれば別問題。

 

「昨日の賞金だってあるじゃん」

「あの額じゃ推進剤一戦分にしかならないぞ」

 

 入賞すると多少ではあるが賞金が出る。

 表彰台に上がれれば、それなりの金額なのだが、五位では雀の涙。

 

「落ち込むなよケンジ。その代わり面白いパーツ見付けたんだ」

「面白いパーツ?」

 

 

 

16時31分 ロフマンガレージ 事務所

『おじいちゃん、プレゼントありがとう~。大切にするね』

「うんうん」

 

 小さな女の子が大きなぬいぐるみに抱き着いて微笑むビデオレター。

 今朝送られてきたそれを何度も見返し、一人満足げなロフマン。

 

「ロジャーさん……あれは?」

「気にしないでくれ、お孫さんからビデオレターが届いたんで舞い上がってるだけだから」

「はぁ……」

 

 仕方がないとばかりに肩をすくめるロジャー。

 返答に困るケンジ。

 

「昨日のレース、TVで見てたよ。五位入賞ならスゴイじゃないか」

「どうも……でも勝つにはもっと改造しないと……」

 

 ロジャーは昨日のレース成績を讃えてくれた。

 思いがけず褒められて照れるケンジ。

 

「ロジャーさん、この前お願いしてたパーツは揃ってますか?」

 

 頃合いを見てショーンが尋ねる。

 機体の改造と整備はショーンの領分。

 

「それなら隣の倉庫にまとめておいたよ」

「助かります。それとジムⅡの腕はありますか?」

「確かフェンス側の山にあったはずだけど、どうせだったらジムⅢの腕に換装したらどうだい? 反応速度も上がるからAMBACも楽だよ」

「そうしたいんですけど予算が……」

 

 チラと後ろを見ると目を光らせるエフラム。

 

「予算? ……厳しいのかい?」

「この支払は大丈夫なんですけど……」

 

 訝し気な表情を浮かべるロジャー。

 取り繕うショーン。

 ただその表情はさえない。

 

「あん?」

 

 いつから聞いていたのか、ビデオレターに没頭していたロフマンが顔を上げた。

ズカズカとショーンに歩み寄る。

 

「お前ら……運営資金が足りないのか?」

「え……いや……その……」

 

 先程までのニヤニヤ笑いが嘘のよう。

 血相変えたロフマンが問いただす。

 

「厳しいのは確かですが、俺らは最終戦まで戦うつもりです。金も何とかします」

 

 オロオロするショーンとロフマンの間に割って入るエフラム。

 その目は真剣そのもの。

 だが、ロフマンはその言葉を鵜呑みにするほど若くも優しくはない。

 

「今、どのくらい金はあるんだ?」

「第四戦分まで。このあと入ってくるバイト代を合わせて第五戦に出る分までです」

 

 エフラムが正直に答える。

 正確には第五戦分の参加費はギリギリだが鯖を読む。

 どうしても最終戦である第六戦分の資金が足りない。

 

「確認しておくが倉庫のレンタル契約は一年だ。足りない分はどうする?」

「バイト代と賞金で何とかします」

「賞金? それはアテになるのか?」

「昨日のレースは五位でした。ケンジの腕なら機材さえ整えば入れ替え戦も狙えます」

 

 『入れ替え戦』は最終戦終了時のポイント上位五名と、シルバークラスのポイント下位五名で行われる、いわば第七戦。

 ゴールドクラスとシルバークラスは定員が決められているので、入れ替え戦に勝たねばならない。

 この入れ替え戦で五位までに入れば、晴れてシルバークラスに昇格となる。

 

「機材さえね……これじゃ博打と変わらねえな……」

 

 呆れかえるロフマン。

 だがエフラムは臆せずこちらを見ている。

 

(さて、どうしたもんか……家賃収入あてにして、クリスマスプレゼントの約束しちまったしなぁ……)

 

 ロフマンは悩んでいた。

 孫娘からビデオレターが届くと、すぐにクリスマスプレゼントの約束をしてしまった。

 それも家賃収入が入ってくる前提で。

 だがその前提が崩れればプレゼントはショボい物になってしまう。

 本当だったら先の分からない子供たちなぞ、追い出したいところだが、あんなボロ倉庫では次の店子など望めそうにもない。

 本業たるジャンク屋も鉄屑相場は下がる一方。

 安定した家賃収入は確保しておきたい。欲を言えば来年以降も確保しておきたい。

 

──勝てない闘いは仕掛けないことだ

 

 不意に上官の言葉を思い出す。

 あれは戦友と賭けポーカーをしていた時だろうか。

 イカサマをしていた戦友は戦死した。

 知らないうちにベットするはめになった、この博打。

 

(勝てるのか……?)

 

 ロフマンはもう一度少年たちを見た。

 

「『機材さえ揃えば』と言ったな? 他に何か必要か?」

「他ですか……?」

 

 顔を見合わせる三人。

 

「脚用の高出力スラスターとジェネレーター、それと補助用の光学センサー……」

「待て待て、全部載せ替えるつもりか? お前ら?」

「いやまぁ、できればという話で……」

「いくらあっても足りねえぞ……まぁわかった。ジャンクヤードは好きに漁っていい。パーツ代はちゃんと払え」

「ありがとうございます!」

「他には?」

 

 再度問いただすロフマン。

 エフラムがやや遠慮気味に口を開く。

 

「推進剤なんですが……もう少し安い所はありませんか?」

「シュウ商会より安いとこなんか、サイド6にはねぇぞ」

 

 ケンジたちはロフマンの紹介で、シュウ商会から推進剤を買っている。

 サイド6では『値段重視のシュウ商会』として知られていた。

 ともあれ勝つためには十分な練習をしなければならない。

 そのためには大量の推進剤が必要。

 安いに越したことはない。

 

「……待てよ。お前らレース用は今まで通りシュウ商会から買え」

「えっと……練習用は?」

「俺から買え」

 

 腹をくくったロフマンがニヤリと笑う。

 自らの手でケンジたちを安定収入源とするために。

 

「お前らの賭けに乗ってやる」

 

 

 

16時39分 ロフマンガレージ 二番倉庫

「これがウチの推進剤だ」

 

 ロフマンに連れられ倉庫の中へ。

 そこにはドラム缶が山と積まれていた。

 とはいえドラム缶だけ見せられてもさっぱりさっぱり。

 

「えっと……」

「LT、ちゃんと説明しないとわかりませんよ」

 

 説明をすっとばしたロフマンの代わりに、口をはさむロジャー。

 

「これはうちらの業界で『ジャンクヤードカクテル』とか『スクラップブレンド』って呼ばれてる推進剤」

「名前がもうすでに不穏なんですが……」

「ははっ、そうかもね。回収したMSや艦から抜き取った推進剤を集めたものだからね」

 

 笑って流すロジャーに、引き気味なケンジたち。

 回収された残骸の中には、推進剤が残っているものが珍しくない。

 というか部位にもよるが大抵の場合、いくらか残っている。

 推進剤は可燃性の液体なので、抜き取っておかないと大変危険。

 放置しておくとジャンクヤードで大爆発なんてことになりかねない。

 

「使えるんですかコレ?」

「ウチのプチモビはコレ使ってるから大丈夫。たまにノッキングするけど、心配ないよ」

「え?」

「滅多にないから大丈夫」

 

 実に朗らかなロジャーの笑顔。

 だがその笑顔が逆に怖い。

 言葉に詰まり顔を見合わせるケンジたち。

 

「お値段はシュウ商会の三分の一でどうだ?」

「?! 安い! けど……」

 

 頃合いを見てのロフマンの値段提示。

 思わずぐらッと心が揺れ動く。

 だが、その推進剤の由来は不穏で不安。

 なにせ様々なスクラップから集められた推進剤が、ごちゃまぜになった代物。

 

「いい話だと思うがな? この値段で買える推進剤は他にない。気兼ねなく練習できるぞ。なぁに、本番はちゃんとしたやつを使えばいいんだ」

「……大丈夫なんですか?」

「大丈夫、大丈夫! 前にMSで使ったこともある。ちと品質にバラつきがあるが、燃えてしまえば大して変わらん」

「……う、う~ん……」

 

 ケンジの中にはぬぐえぬ不安。

 だが掟破りの低価格は魅力的。

 心の中はグラグラ揺れて、今にもパタリと倒れそう。

 

「LT、ここは一回使ってみてもらうのはどうでしょう?」

「おお~そりゃあいい。一回分タダでくれてやる。試しに使ってみろ」

 

 

 

18時11分 サイド6近傍宙域

「ショーン、どんな感じだ?」

「い、今……94%!」

 

 急遽、もらった推進剤のテストに飛び出した三人。

 飛び込みで出したフライトプランはあっさり許可され、拍子抜けしつつもストップアンドゴーを繰り返す。

 リニアシートに接続したタブレット端末から、機体状況を読み取るショーン。

 

「止めるぞ」

 

 手足を振ってAMBAC。

 制動を掛けてコクピット内でつんのめる。

 

「ケンジ……せめて止める時ぐらい、ゆっくりしてくれ……」

 

 三半規管を思いっきり揺さぶられてグロッキーなショーンとエフラム。

 対してケンジは元気溌剌。

 暇さえあれば自主練と称して乗り回していたので、二人より耐性が付いたようだ。

 

「あ、悪い悪い。で、どうなんだ?」

「やっぱり安定感が微妙かな……推力の最大値が97%、最低値は93%。フィーリングの方はどう?」

「意外に悪くない。伸びはいまいちだけど練習する分には十分だろ?」

「じゃあ決まりだな?」

「ああ」

 

 頷き合うケンジとショーン。

 ぐったりしているエフラムに目を向けた。

 

「OK~。ケンジに不満がないならこの推進剤を買おう。それなら第五戦までは出られる」

 

 青い顔でヒラヒラと手を振るエフラム。

 正直、推進剤の話は後にしたい。

 

「……吐きそう」

「待てエフラム! すぐ戻る! すぐコロニーに戻るから我慢しろ!」

 

 

 

18時35分 ロフマンガレージ 事務所

「しかし推進剤なんて売って大丈夫なんですか? シュウ商会って、あのルオ商会と同じ幇なんですよね?」

「大丈夫だ。何もあいつらのシマを荒そうってんじゃない。子供の客一人奪ったくらいじゃ騒がないだろ」

 

 ロジャーの懸念を受け流すロフマン。

 心の中で「小言ぐらいは言われるだろがな」と付け加える。

 

「上手くいけば推進剤の処分費用がまるっと黒字に早変わりだ。まさに『イージーマネー』」

「そんなにうまくいきますかね?」

 

 わざとらしい笑顔を作るロフマン。

 本来であれば抜き取った推進剤は、処分料を払って専門業者に処理してもらう。

 その処分料が減れば経費削減。あまつさえケンジたちに『売る』訳なので、その分の収入は完全な黒字。

 元手ゼロのおいしい商売。

 

「大丈夫だ。あいつらは買うさ」

「だといいんですが」

 

 そう言うと静かにコーヒーをすするロジャー。

 

「お、連中帰って来たぞ」

 

 窓の外にケンジたちの姿を捉えると、ニヤリと笑う。

 ノーマルスーツのまま、ズカズカと事務所に入ってくるケンジ。

 

「ロフマンさん!」

「おう、どうだった?」

「あの推進剤を買います!」

「へへ、毎度あり」

 

 

 

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