ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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ジャンクヤードラプソディ 2

15時51分 ロフマンガレージ 三番倉庫

「昨日言ってた面白いパーツって、これのことか?」

 

 翌日。

 昨日は急遽、推進剤のテストに出たので確認できなかったが、ショーンの言っていた面白いパーツとご対面。

 

「そう! ジャンクヤード漁ってたら偶々見付けてさ!」

「普通のスラスターノズルだよな?」

「何言ってんだよケンジ。こいつはジェガンA2のサブスラスターだよ」

 

 ケンジの疑問にキラッキラの笑顔で応えるショーン。

 

「サブ? 推力落ちないか?」

「大丈夫だよ、ジムⅡのメインスラスターより耐熱温度は上なんだ。制御系を手直ししてやれば、相当速くなるはずだよ!」

 

 目を輝かせて力説するショーン。

 早くこの新しいオモチャで遊びたいらしい。

 

「どうせならジェガンのバックパック丸ごと移植できればいいけど」

「残念だけどメインが綺麗に撃ち抜かれてた。それにジムとジェガンじゃ規格が違うからポン付けは無理だよ」

「そりゃ残念。ノズル径デカくなってるけど、レスポンス落ちないか?」

 

 大口径ノズルは大推力を得られるが、最大推力を発揮するまでに時間が掛かり、レスポンスが悪い。

 対して小口径ノズルは最大推力を発揮するまでの時間が短く、レスポンスが良い。ただし、小口径故に得られる推力が低く、4~6発程度のノズルを同時に点火し速度を稼ぐ。

 

「それは心配ないよ。むしろレスポンスは良くなるはずだよ」

「マジか?!」

 

 レスポンスも良くなって推力も上がるとなれば万々歳。

 この辺りは技術の進歩による恩恵。

 

「ただ、やらなきゃいけない加工も多いけどね。コンバーター作らなきゃいけないし、スラスターユニットの規格も違うからマウントも作らなきゃ、それと放熱板を追加して……」

「結構やることあるな……ジェネレーターもイジるんだろ?」

「そう! それ! その話もしなきゃいけなかったんだ!」

「?」

 

 

 

15時53分 ジムⅡ 胴体部メンテナスハッチ

「これ見て! これ!」

 

 興奮したショーンがメンテナスハッチの奥を指差す。

 

「ジェネレーター? 何か違うのか?」

 

 ショーンが指差す先にはジェネレーター。

 タキム社製のごく一般的な量産品に見える。

 

「ほら! このプレート見て!」

「?」

 

 製造番号と型式が打刻されたプレートを指差すショーン。

 ケンジが顔を寄せてよくよく見てみる。

 

「えっと……何が違うんだ?」

「何言ってんだよケンジ! このジェネレーター、Yナンバーなんだよ?!」

「Y……ナンバー……?」

「量産前提の評価試験用ってこと!」

 

 いまいちピンとこないが、タキムの試作品らしい。

 ちなみにタキムは一年戦争時、ジムのジェネレーターを製造したメーカーだが、後にアナハイム傘下となっている。

 

「試作品? なんでそんな物が?」

「わかんない。多分、前のオーナーがタキムに伝手があったか、ジャンクを拾ったんじゃないかな?」

 

 機体の整備履歴にこのジェネレーターに関する記述はない。

 ただ、このジムⅡはレストアされ、さらにオーバーホールまで受けている。おそらくそのどちらかのタイミングで積まれたもの、と言うのがショーンの見解。

 

「なんにしても、このジェネレーターは当たりだよ! ノーマルよりパワー出てるんだ!」

「マジか?! どのくらい出てるんだ?」

「1585kW!」

「スゲー! ジムⅢより上じゃねーか!」

 

 ジムⅢのジェネレーター出力が1560kW。

 ネモやマラサイに比べれば、まだまだ非力ではあるものの、パワーはあるに越したことはない。

 今のケンジたちにとっては僅か1kWでも大切なのだ。

 

「このジェネレーター、形はノーマルと同じだし、リミッターも付いてたから、最初は試作品なんて気付かなかったよ」

「リミッター?」

「そう、それでノーマルと同じ出力に押さえてたのさ。でも格闘戦やった時の衝撃でリミッターのチップが外れたみたいなんだよね」

「なんでリミッターなんて付けてたんだ?」

「ファイナルラップで出力落ちただろ? コイツ、排熱に問題があるみたいでさ」

 

 おそらく無理に出力を上げた代償だろう。

 ジムⅡのノーマルジェネレーターより発熱量が大きいのだ。

 そして古い設計のジムでは排熱が追い付かなかった。だからリミッターを付けて制御していたのだ。

 

「大丈夫なのかよ?」

「ジェネレーターにはヒートシンク追加して、外部装甲の一部は放熱板に張り替えるよ。軽量化にもなるしね」

 

 ショーンは装甲板の一部を排熱装置として使う腹積もり。

 そして軽量化も合わせて行う。

 ジムⅡの装甲は厚い。

 これは一年戦争時の旧ジオン軍が実弾兵器を多用していたことに起因する。

 マシンガンなどの攻撃にある程度耐えられるようにしなければいけなかったのだ。

 当然、装甲は厚く、重くなる。

 だがケンジたちがやるのはレースだ。

 多少の格闘戦に耐えられれば、弾丸に耐えられる装甲など不要。

 外してしまった方が軽量化になり、機動性も上がるというもの。

 

「胴体側面の装甲はほとんど張り替えだね」

「なるほどな。で、どこから手を付ける?」

「まずは胴体かな。とりあえずバックパック下ろすよ」

「OK~」

 

 

 

17時11分 ロフマンガレージ 三番倉庫

「クレーン動かすぞー! フック確認!」

「確認!」

 

 バイトの時の癖で指差し確認。

 次から次へと装甲板を外していく。

 結局、この日は装甲板を外すだけで終わった。

 

 

 

翌日 16時28分 ロフマンガレージ 三番倉庫

「溶接機借りてきたぞ」

「装甲板はここからここまで切り落として」

「このフレームも切っていいんじゃないか?」

「ダメだよ、肉抜き加工はするから残しておいて」

 

 

 

翌々日 17時03分 ロフマンガレージ 三番倉庫

「あれ? エフラムは?」

「今、基板屋に発注行ってる」

 

 

 

さらに翌々日 15時44分 ロフマンガレージ 三番倉庫

「胴体内に残ってる武器用のエネルギー供給ケーブル引っこ抜いて、そこにヒートシンク埋め込むから……」

「このケーブルか?」

「違うー!」

 

 

 

またまた翌々日 18時45分 ロフマンガレージ 三番倉庫

「チェックOK! テスト始めるぞ」

「ケンジ、火を入れろ!」

「あいよ!」

「どうだショーン?」

「いい感じ! ちゃんと計算通りに排熱してる!」

 

 

 

数日後 19時02分 ロフマンガレージ 三番倉庫

「肩の装甲も削っちゃっていいんじゃないか?」

「そこはプロペラントも兼ねてるからダメだって! それにハードポイントにスラスター追加するんだから!」

「姿勢制御スラスターを増やすー?!」

「ちょうどいいジャンク見付けてさ、ハイザックのスラスターなんだけどね」

「だー!? シミュレーションモデル作り直しじゃねーか!」

 

 

 

次の日 18時24分 ロフマンガレージ 三番倉庫

「シミュレーションモデル出来たぞ!」

「さすがエフラム!」

「制御システムはどこの使うんだ?」

「ミグレンのプログラムがベースだ。あと仕様変更はないな?」

 

 

 

さらに数日後 19時02分 ロフマンガレージ 三番倉庫

「ハァ~イ! 手伝いに来たわよ!」

 

 モニカとデイジーがクラブ活動を終えて合流。

 手には差し入れのドーナッツ。

 

「これ差し入れね」

 

 ドーナッツとコーヒーを受け取ると、貪るように食う三人。

 その様を苦笑いと共に肩をすくめるモニカとデイジー。

 

「ところでどうしたの? 三人とも油まみれじゃない」

「組付け中にクレーンが壊れてさ、仕方ないから人力ウィンチだよ」

「……それは大変だったわね」

 

 汗と油にまみれた顔には、ウンザリとした表情が。

 

「でも何とか終わったよ」

「終わった? ……完成したの?」

「ああ、機体の方はな」

 

今回の改造

・メインスラスター換装

・ジェネレーター排熱効率の向上

・肩装甲への姿勢制御スラスター増設

・各部位の装甲板張り替え並びに除去による軽量化

・オートバランサー等、制御システムアップデート

 

「じゃ、これから試運転ね!」

「……勘弁してくれ……今日はもうクタクタだよ……」

 

 机に突っ伏すケンジたち。

 

「試運転は明日な~……」

 

 

 

翌日 17時45分 サイド6近傍宙域

「モニカとデイジー……ちょっと可哀想だったかな?」

「仕方ないさ。組んだばっかりの機体じゃ『もしも』ってこともある」

「まぁな」

 

 機体が組み上がった翌日。

 ケンジとショーン、エフラムの三人で試運転。

 モニカとデイジーはコロニーでお留守番。

 組み上がったばかりの機体では、どんな不具合が発生するかもわからない。

 最悪、帰還困難になった時のことを考えての対処。

 

「とりあえずテストを済ませようぜ、ジェネレーター出力を上げてくれ」

「あいよ」

 

 ゆっくりと出力を上げるケンジ。

 リニアシートに接続した端末でモニターするエフラム。

 

「よしよし、ここまでは予定通り。次、メインスラスターのテストな」

「あいよ~」

「いいかケンジ、今日はテストだからな。慎重にやれよ。いきなりG掛けるなよ」

 

 先日のことがあるのでくどくどと注意するエフラム。

 だがケンジはニヤリと笑うと、おもむろにスロットルを押し込む。

 

「あっ?! テメェ!」

「はっはっー!」

 

 スラスター推力全開。

 レスポンスの向上したスラスターは瞬く間にジムⅡを押し出した。

 

「が?!」

「ぶべっ?!」

「スゲェ! 見ろよ、この出足の良さ! これなら初っ端のトップ争いにも食い込めるぞ!」

 

 急激な加速Gで体がシートに押し付けられる。

 スラスターの換装、ジェネレーターの出力向上、そして軽量化。

 それらが合わさって得られた高加速。

 とりわけ軽量化による恩恵が大きい。

 宇宙空間は無重力であっても重量がなくなる訳ではない。

 重量級の機体ではいかに大出力のジェネレーターやスラスターを積もうとも、出足の良さは軽量機には敵わない。

 

「コレ! コレだよコレ! この加速感最っ高ッ!」

「ぐがががががが……」

「ケ、ケンジ……止めて……」

 

 ショーンの懇願に、ニヤリと悪い笑顔で応えるケンジ。

 メインスラスターを素早くカットすると、姿勢制御スラスターを点火。

 エフラムたちが吐かない程度に制動を掛ける。

 

「……ハァ……ハァ……ハァ……ケンジ、お前なぁ試運転なんだから慎重にやれって言ってんだろ! 暴走したらどうするつもりだ?!」

 

 息を整えたエフラムが一気に捲し立てると、ケンジを睨みつけた。

 

「その……悪かった……」

 

 エフラムの怒気に押されモゴモゴと謝るケンジ。

 

「お前らの作った機体なら絶対間違いないって思って……ジュニアMSの時からそうだったし……」

 

 ケンジの口か出たのはエフラムとショーンへの絶対の信頼。

 

──ショーンが機体を作り

──エフラムがプログラムを書いて

──ケンジが動かす

 

 ジュニアモビルスーツ時代から続く役割。

 それは上手く機能していた。

 優勝にこそ手は届かなかったものの、良好な成績として残った。

 だからケンジはコックピットで直接見せてやりたかった。体で直接感じて欲しかった。「お前らが作ったMSはスゴイんだぞ」と。

 ジュニアモビルスーツは一人しか乗れなかったのだから。

 

「…………ったく、どうしようもないヤロウだ」

 

 時として無垢な信頼は人を困らせるものだ。

 色々な感情が混ぜこぜになってしまったエフラム。

 

「……おい、次のテストするぞ」

「あ、エフラムの奴、照れてるぞ」

「え? マジで?」

 

 努めて平静を装いつつ、ぶっきらぼうに言い放つ。

 だが、あっさりとショーンに看破されてしまう。

 

「うるせーよ。ショーン、シミュレーションモデルとの比較データは?」

「理論値の92%。やっぱりジャンクパーツだから個体差が出るね」

 

 シミュレーションモデルは各パーツともカタログスペックで組んでいる。

 ジャンクパーツゆえに経年劣化等の要素は、実際に動かしてみるまでわからないので、シミュレーションモデルに組み込めなかった。

 

「メインスラスターは燃料系をクリーニングしてみるよ。あと姿勢制御スラスターなんだけど」

「ああ、点火タイミングが少しズレてるな。プログラムをもう少し詰めてみるか」

「電磁弁も怪しいから戻ったらチェックするね」

 

 エフラムとショーンが比較データをチェック。

 不調の原因箇所と改善点をリストアップ。

 どうすれば理論値に近付けるか話し合う。

 

「なぁ、そろそろ次のテストいっていいか? 久しぶりに乗ったから、もっと動かしたいんだよ」

「……今度はあんまり振り回すなよ」

「わかってるよ」

 

 静かにスロットルレバーを押すケンジ。

 ジムⅡが再び動き出す。

 それはMSらしくない優しい動きだった。

 

 


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