ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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サイド・バイ・サイド

16時11分 実況席

『チャレンジクラス予選第四ヒート、一位は『ネモ・ZEKUU』、二位に『ジムⅡ・トライデント』、三位『リゲルグ・ノーススター』という結果になりました』

『やはり『ネモ・ZEKUU』のヨハンソン選手は危なげないレース運びでしたね。明日の決勝でもいいレースを見せてくれそうです』

 

 

 

16時32分 仮設ピット

「クソ、あのネモ全然追いつけねえ」

「お疲れケンジ」

 

 予選が終わり、愚痴りながら機体を降りるケンジ。

 それを皆で出迎える。

 

「コーナー入口で追いついたと思ったら、抜けた時には引き離されてる。手を伸ばしてもチョロチョロ動いて捕まえられねぇ」

「落ち着けよ、ほら」

 

 エフラムがスポーツドリンクを押し付ける。

 それを一気に飲み干すケンジ。

 

「落ち着いたか?」

「ああ、ありがと」

「機体チェックは俺らでやっておくから、お前はとっととショーンと一緒に行け」

「あいよ」

 

 

 

16時55分 宇宙港6番ポート

「うほー! やっぱりシルバーやゴールドクラスの機体は一味違うね~」

「はしゃぐなよ……恥ずかしい……」

 

 ケンジとショーン。

 二人連れだってゴールドクラスの仮設ピットを目指す。

 道すがら目に入ってくる上位クラスのMSたち。

 当然のように鎮座するネモにマラサイ。さらにザクⅢ、ガザⅮやバウ、ギラドーガ。

 毎回、観戦に来ていたので目新しい機体はないが、自分たちでレースをやるようになってから見てみると、改めて気付かされることもある。

 

「あ、そうか、このガ・ゾウムはスラスターの可動域を増やしてたんだ……」

「いや、今日の目当てはここじゃねえから……ほら、行くぞショーン」

 

 

 

16時59時 ゴールドクラス 仮設ピット

「これだな」

 

 ゴールドクラスの機体が集まる区域。

 その一番端の方にお目当てのMSはあった。

 ケンジたちは今後の改造の参考になればと、このMSを見にきたのだ。

 

『ジムⅢ・スピリットオブサムライ』

 

 現在、ゴールドクラスで唯一のジム。

 肩に書かれた『士魂』の筆文字が得も言われぬオーラを放つ。

 だが近年はレース機材の高性能化に伴い成績は低迷。

 昨年はゴールドクラス十二機中11位と苦戦を強いられていた。

 

「ジムでゴールドクラスを飛ぼうとすると、やっぱりこのぐらい改造しないとダメかぁ……」

 

 二人でジムⅢを見上げる。

 ぱっと見てわかる改修箇所だけでも『ジェガンD型バックパックへの換装』『脚部スラスター大型化』『腰回りの姿勢制御スラスター追加』と大掛かりな改造。

 特にジェガンのバックパックは今期から導入したもの。

 恐らく内部構造は微に入り細に入り手が加えられているに違いない。

 

「ショーン、ここまでイジると、いくら掛かるんだ?」

「たぶんだけど……うちのジムⅡがもう一機買えるんじゃないかな?」

「うげ~……んな金ねえよ……」

 

 想像してうんざりするケンジ。

 青色吐息の貧乏チームからしてみれば、羨ましい限り。

 

「よぉ兄ちゃんたち、よかったら見ていくかい?」

 

 ジムⅢの前をウロウロしていると一人の男が声を掛けてきた。

 年の頃は40代後半だろうか、のそのそと近付いてくる。

 

「おい、あの人って……」

「ああ、間違いない」

「見ての通り客もいなくてな、暇してたんだ」

 

 男の言う通りジムⅢの周りに観客の姿はない。

 観客は皆、上位チームの機体に群がっていた。

 

「あの……ジム・ナカムラさんですよね?」

「お? 嬉しいね~、俺のこと知ってるなんて」

 

 ジムと呼ばれた男が妙に人懐っこい笑顔を浮かべた。

 この男こそが『ジムⅢ・スピリットオブサムライ』のパイロット。

 

「実は俺ら今年からジムⅡで参戦してるんです。それで改造の参考に見学させてもらえればなぁ、と」

「ってことはお前、噂のルーキーか?」

「え? 俺、噂になってんですか?」

「おお、なってるなってる。最年少ルーキーのヘマやらかした方ってな」

「ぐっ……」

 

 ケンジの顔が羞恥で歪む。

 同情半分、からかい半分のジムがニタリと笑う。

 

「まぁ、気にするな。目新しい話題に飢えてるだけだよ」

「そんなもんですか……」

「そんなもんだ。で、何が聞きたい? 同じジム乗りのよしみだ。教えられることは教えてやる」

 

 ジムなりにケンジを慰める。

 

「あ、じゃあ……ジェガンのバックパックはポン付けできないって聞いたんですけど……」

「ああ、ポン付けは無理だな。まずマウントの規格が違うから作り直さにゃならんし、胴体内のケーブルや配管も全部やり直さないといかん」

「ジェネレーターはどうするんですか? ジムのジェネレーター出力だと、ジェガンのバックパックを動かすにはパワーが足りないですよね?」

 

 ショーンが疑問を吐き出す。

 先日ショーンは「ポン付け出来ない」と言った。だが、目の前のジムⅢは積んでいる。

 自分の知らない方法があるなら知っておきたい。

 

「ジェネレーターもな、ジェガンのやつに積み替えるんだよ」

「積み替え?! ジェガンのジェネレーターだとデカくて入らないんじゃ?」

 

 さらっと言ってのけるジムに、目を丸くするショーン。

 ジェガンのジェネレーターは高出力化に伴い、ジム系統の物より一回り大型になっていた。

 当然ジムⅢに乗せるにはスペースが足りない。

 

「そこで脱出ポッドのシェル(殻)をTMSの物に変えてやる。ガザ系統だと丁度いい具合にスペースができるんだ」

「はぁ~」

 

 可変MSは機械的制約が大きく、変形機構にスペースを取られがちである。そのため通常のMS用脱出ポッドより小さい物を使ったり、真球ではなかったりと省スペース化の工夫をしているのだ。

 

「効果はデカいがオススメはしないぞ。手間も金も掛かって割に合わん。別のMSに乗り換えた方が手っ取り早くて安上がりだ」

「じゃあ何でジムⅢに……」

 

 言いかけて止める。

 不躾で無思慮な質問だ。答えは「好きだから」に決まっている。

 

「運命だからだ」

「「え??」」

 

 違った。

 毒気を抜かれるケンジとショーン。

 対して茶目っ気たっぷりに答えるジム。だが可愛くない。

 

「ア・バオア・クーで戦死した親父もジム乗りだった。そして俺も連邦軍に入ってジム乗りになった。なにせ俺の名前もジムだからな。これが運命じゃなくて何だと言うんだ?」

「は、はぁ……」

「『シャアの反乱』の時は88艦隊にいたからな、アクシズまで行ったりしたもんだ」

「じゃあνガンダムと一緒に戦ったんですか?」

 

 興に乗ったか饒舌なジムの昔話。

 『シャアの反乱』と聞いて目を輝かせるショーン。

 今や伝説となったMSについて訊ねた。

 

「俺らが着いた時には戦闘は終わってた……だが、まぁ見たよνガンダム……」

 

 だが急にジムの声がトーンダウン。

 歯切れの悪いものになる。

 調子に乗ってしゃべり過ぎた。

 

「スゴイ! νガンダムは運用期間が短いから、実機を見た人は少ないのに!」

「まぁ、遠目にチラッとな……」

 

 嘘。

 本当はすぐ近くにいて、一緒にアクシズを押したのだ。

 だが、これ以上はいけない。

 彼のジムⅢは『アクシズを押していない』ことになっているのだから。

 帰還後、守秘義務の宣誓書にサインした。

 公式には『ロンドベル隊の爆破工作により作戦成功』となっている。

 

「おいショーン。その話は後だ。今はジムの改造の事を聞かないと」

「おお! そうだった!」

 

 ショーンをこのまま放っておいたら、根掘り葉掘り聞こうとして、時間がいくらあっても足りはしない。

 ケンジが話題を打ち切ってくれたので、内心ほっとするジム。

 

「で、姿勢制御スラスターなんですけど……」

 

 次から次へと質問を繰り出すショーン。

 プログラム、センサー、軽量化等々。

 その中で実現できそうなものは、更に突っ込んだ質問をしていく。

 気が付くと一時間弱。

 

「ありがとうございました!」

 

 聞きたいことがあらかた聞けて大満足のショーン。

 なんとも晴れやかな笑顔。

 対してジムはお疲れ気味。

 

「おう……なんかあったまた来い」

「じゃあ、俺らはこれで」

「あー、待て待て」

 

 踵を返すケンジたちを呼び止めるジム。

 

「? なんでしょう?」

「なんか買ってけ」

 

 そう言って長机に置かれたチームグッズを指差す。

 

「え?」

「授業料だよ。まさか聞くだけ聞いてサヨナラか~?」

 

 ねっとりとした笑みを浮かべるジム。

 どこまで本気かわからない。

 

「とりあえずTシャツにしとけ。お前はLか? そっちは2Lなら入るか?」

「え? いや、ちょっ……」

 

 困惑するケンジたち。

 お構いなしにTシャツを押し付けていたジムが、ふと何かを思い出す。

 

「あ、そうだ。もう一つ言うの忘れてた。エンスーの連中とは仲良くしとけよ」

「エンスーですか?」

「あいつら、たまにとんでもないパーツ持ってんだよ。仲良くしといて損はないぞ」

 

 

 

07時10分 ハンバーガーショップ『アンティータム』

「なあ、ショーン。昨日ナカムラさんが言ってたこと、どう思う?」

「ジェガンのバックパックのことか?」

「ちげーよ。エンスー派のことだよ」

「あ、そっちね」

 

 ハンバーガーの焼き上がりを待ちながら、ジンジャーエールをすするケンジとショーン。

 

「あいよ。先にフライドポテトとオニオンリングな」

「エンスー派の連中ってさ、なんて言うかさ……独特の雰囲気ないか?」

 

 大分オブラートに包んだ物言い。

 ケンジは歯切れの悪さを誤魔化すようにフライドポテトを放り込む。

 

「そうかなぁ?」

 

 オニオンリングを頬張るショーン。

 MSオタクとして何か通じる物があるのか、ショーンは特に気にした様子もない。

 もう何年もこの会場に通っているのだ。エンスー派のピットを見に行ったのだって一度や二度ではない。

 

「いやいやいや、絶対ちげーって」

「まぁ、あの人たちは純粋に楽しむのが目的だからね」

「そーいう次元じゃないんだけどな~」

「とりあえず、今度見に行ってみようよ」

「ザクバーガーお待ち!」

 

 美味そうな香りを漂わせ、ハンバーガーを差し出すおっちゃん。

 受け取るとショーンはマスタードを少量付け足し、ケンジはそのままかぶりつく。

 

「坊主ども、ここで食っていくのは構わないが、カウンターは空けてくれよ。次の客が待ってる」

「え?」

 

 ニカッと意地悪な笑みを作るおっちゃん。

 慌てて振り向くと一人の女の子。

 ガザCのパイロット『カエデ・エインズワース』。

 前に見た時同様、薄幸感満載で存在感が希薄。

 

「あ……悪い……」

「いえ……あの、ハンバーガーと紅茶をもらえますか?」

「あいよ!」

 

 カエデの存在に全く以て気付いていなかった。

 不意を突かれて挙動不審。そろりそろりと場所を譲るケンジ。

 対してそれを気にした様子もないカエデ。

 

「…………」

「…………」

「……なあ、あんたガザCのパイロットだよな?」

「……ええ、そうですけど……」

 

 何故か声を掛けなければいけないような気がしたケンジ。

 だがそれは要らぬお世話。

 カエデはあっという間に警戒態勢。

 

「あ~、俺も今年からジムⅡで参戦してるんだ……けど……」

「…………そう……ですか……」

 

 『何か』を話したかった訳ではない。

 だから話題などあろうはずもない。

 無難な『取っ掛かり』を選んだはずだが、鈍いレスポンス。

 

「………………」

「………………」

 

 二の句が継げぬケンジ。

 ニジリと気付かれぬよう距離を空けるカエデ。

 

「……そういやポテトかオニオンリングは食べないの?」

「…………………………あっ、この前もここで会いましたよね?」

 

 聞き覚えのあるフレーズにやっと反応を示すカエデ。

 だが距離は空けたまま。

 思い出してくれたことに安堵しつつも、カエデの警戒感に苦笑い。

 

「ここのオニオンリングは美味いぜ。多分サイド6で一番だ」

「多分は余計だ、坊主」

 

 おっちゃんのツッコミをスルー。

 ショーンのオニオンリングをひったくると、カエデに差し出した。

 

「味見してみなよ。それにセットで頼んだ方がお得だぜ」

「あ……いえ、その……結構……です……」

「そう…………」

 

 小さく手を振り遠慮するカエデ。

 面白いぐらい肩を落とすケンジ。

 が、カエデはおっちゃんの方を向くと口を開いた。

 

「あの……オニオンリングを追加できますか?」

「お嬢ちゃん、こいつらに無理に付き合う必要はないよ」

「あ、いえ、せっかくですから……」

 

 年相応にはにかんだ笑み。

 対してケンジは複雑な表情。

 

「えっと……俺はケンジ・オカダ……よろしく」

「あの……私は……」

「カエデ・エインズワースでいいんだっけ?」

「あ……はい……」

「…………」

「…………」

 

 話が続かない。

 どんな話題を選べばいいかわからないケンジ。

 わずかな沈黙。

 そしてその沈黙を破ったのは、

 

「ザクバーガーとオニオンリングのセット、お待ち!」

 

 おっちゃんだった。

 

「あの……これで失礼します……」

「あ……」

 

 カエデは代金を支払うと、走り去ってしまう。

 成す術もなく見送るケンジ。

 

「…………」

「ケンジはああいう子が好みなのか?」

「ぶふぉ?! ち、ちげーよ!」

「違うの?」

 

 クリっとした瞳でショーンが尋ねる。まるで幼子のように。

 

「ああ、違うね! 俺のタイプは、こう……もっとグラマーだ! 間違ってもあんな寸胴じゃない!」

「じゃ、なんで声かけたの?」

「それは…………なんか気になるんだよ……」

 

 容赦ないショーンの追撃。

 だが、当の本人でさえ理由がわからない。

 あくまでも自分の本能というか直感に従ったまで。

 

「ふ~ん……」

 

 腑に落ちない点はあるものの、ケンジならさもありなんと納得するショーン。

 

「ケンジにも恋の季節が来たのかと思ったよ」

「はぁ?! なんじゃそりゃ?! ん? …………『にも』って言ったか『にも』って?」

「言った」

 

 ショーンはハンバーガーを齧るとコーラで流し込む。

 

「いや、ほら……モニカいるじゃん?」

「うん」

「エフラム狙いらしいんだよね」

「マジか?!」

「エフラムの将来性を見込んでるんだとさ」

 

 確かにエフラムは将来有望だろう。

 MSの購入資金の大半は彼が稼いだものだし、活動資金の管理のみならず、チームを取り仕切るリーダーシップ。

 その上、食いっぱぐれないだけのプログラミングの技術も持っている。

 

「……女、怖えぇぇぇ」

 

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