ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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サイド・バイ・サイド 2

11時30分 実況席

『皆様、お待たせしました! デブリヒート、チャレンジクラス決勝が今、始まろうとしています! 実況は私、トーマス・ジャクソンと、解説ファン・クーパーでお送りします』

『よろしくお願いします』

『参加選手を予選通過タイム順に見ていきましょう。予選一位はやはりこの人、『ネモ・ZEKUU』のヴィクトル・ヨハンソン。二位に『ガザC・オナガ』のカエデ・エインズワース。三位は『マラサイパラダイス』のハンス・ドミニクなのですが…………『マラサイパラダイス』はマシントラブルで棄権となっています』

『昨日は派手にクラッシュしてましたからね。あの状態でゴール出来たのは奇跡でしょう。しかし開幕戦一位と幸先の良いスタートだっただけに、今回の棄権は痛いですね』

 

 

 

同時刻 ジムⅡ コクピット

『無線チェック』

「クリア。よく聞こえる」

『予報だとミノフスキー雲が出るって言ってたけど、大丈夫みたいだな』

 

 モニターの向こうで胸を撫で下ろすエフラム。

 戦時中に散布されたミノフスキー粒子の大部分は雲散霧消したが、たまに高濃度の塊が流れてくることがある。

 

「ああ、そうだな……」

『? どうかしたか?』

 

 返事をしたケンジの表情は苦々しい。

 

「いや、隣がな……」

『隣?』

 

 中継画像をチェック。

 ケンジのジムⅡの右隣りにはガルバルディβ改造機の『ガルバルディΩ』、そして左隣の機体を見て露骨に嫌悪感を露にするエフラム。

 

『うわっ?! バーザムかよ……』

 

 現在、中古MS市場において圧倒的に不人気な機種が二つある。

 一つは『ジムクゥエル』、もう一つは『バーザム』。

 二機種とも性能が悪い訳ではない。

 問題なのは歴史でありイメージ。

 この二機種に共通しているのは『ティターンズ専用MS』だったこと。

 ケンジたちの祖父母はティターンズから直接弾圧を受けた世代であり、両親はそれを目の当たりにしてきた世代。そしてケンジたちの世代は、ティターンズの弾圧を『人類が犯した愚行』として学校で教わる。

 そのような環境では『ティターンズ専用MS』の人気など出ようはずもない。

 

「こいつには負けたくないな」

『だな』

『二人とも落ち着きなよ~。使ってた人間が悪いんであって、MSに罪はないよ。それじゃバーザムが可哀想だ』

 

 盛り上がる二人を諫めるショーン。

 道具はあくまで道具であり、道具自体が主体性を持って悪さをする訳ではない。

 どんなに良い目的を持って作られた道具でも、悪意を持った人間が使えばそれは凶器となる。逆もまた然り。

 余談だが、マラサイは鹵獲などで入手した機体をジオン残党が使っていたせいか、それほど嫌悪感を持たれていない。

 

『悪いのはティターンズで、MSじゃないよ。それに勝つのは『バーザムに』じゃなくて『レースに』だろ?』

「お、おう……」

 

 ショーンの語りに思わず面食らう二人。

 目的を間違える所だった。

 

『なんにしてもバーザムの方が性能が上なんだ。余計なこと考えてる暇ないよ』

「そ、そうだな…………うん、確かにそうだな」

 

 納得し、気持ちを切り替えるために深呼吸。

 グリップを握り直す。

 

「よっしゃ! 今日は表彰台狙うぞ!」

 

 

 

11時33分 実況席

『今、一斉にスタートしました! 来た来た来た! 『ズサ・キラーエッグ』スタートと同時にロケットモーターに点火! 他のMSを一気に突き放す!』

『開幕戦とは戦法を変えてきましたね』

『先行逃げ切りは決まるのか?! 『ガザC・オナガ』と『ネモ・ZEKUU』が猛追! その後ろ、『リゲルグ・ノーススター』『ジムⅡトライデント』『バーザム・ダンシングシミター』『ジムⅢナイトシャドウ』『ガルバルディΩ』が団子状態! さあ、第一コーナー!』

 

 

 

同時刻 ジムⅡ コクピット

「さすがショーンのチューンだ! イケるぜこれは!」

 

 優勝候補たちと遜色ないスタートを切れてケンジはご機嫌。

 ドバドバ溢れるアドレナリン。

 

『油断すんなよ! 囲まれてるんだ!』

 

 エフラムの渇。

 確かに浮かれてる状況ではない。

 モニター、レーダー、サブモニター、素早く視線だけを走らせる。

 四方を他のMSに囲まれ息苦しい。

 接近警報のアラートは鳴りっぱなし。

 

「こじ開けてやる!」

 

 

 

11時34分 実況席

『『ズサ・キラーエッグ』加速しすぎた! 曲がれない! 曲がり切れない! コースアウトだ!』 

『ロケットモーターは普通のスラスターと違って、燃焼が始まったら止めることができませんからねぇ。それが逆に仇になってしまいましたね』

 

 ロケットモーターはミサイルなどの推進器に使われる。

 通常のスラスターと違い、固体燃料を使用。

 文字通り爆発的な加速を得られる反面、推力調整ができない。

 

『その間に『ガザC・オナガ』と『ネモ・ZEKUU』が前に出た! 続いて『リゲルグ・ノーススター』と『ジムⅡ・トライデント』がターンイン!』

 

 

 

11時34分 ジムⅡ コクピット

「イーーーヤッーホー!」

 

 フルスロットルでコーナーに突っ込む。

 当然アンダー。

 だが、それでいい。このコーナリングは『早く曲がることが目的ではない』のだから。

 

「くらえっ!」

 

──リゲルグの脇腹に肘鉄

──さらに裏拳で追い打ち

 

 リゲルグがバランスを崩し順位を落とす。

 これでケンジのジムⅡは単独三位。

 

 

 

11時34分 実況席

『『リゲルグ・ノーススター』失速! 後続機は回避せざるを得ない! 『ジムⅡ・トライデント』集団を抜け出せるか?!』

『『ジムⅡ・トライデント』は上手に仕掛けましたね』

『絶妙なタイミングでのアタックでしたね』

『『リゲルグ・ノーススター』はドラッグレースからのスポット参戦でして、機体もそれ用に調整してある。だから、出来るだけ長く直線距離を稼ごうと、早めにターンしていました』

『そのため無防備に脇腹を晒してしまった、と』

『その通りです』

 

 ドラッグ仕様は軌道が直線的になりがちで、動きが読みやすい。

 ケンジはそこを狙った。

 

『なるほど……あー?! 失速した『リゲルグ・ノーススター』が後続と接触! 『バーザム・ダンシングシミター』『ジムカスタム・レイピア』が巻き込まれて立ち往生!』

 

 

 

11時34分 仮設ピット

「Yes! いいぞケンジ!」

 

 ピットで歓喜の声を上げるエフラム。

 スタートの混戦をひとまず抜け出した。

 わずかなリードだが単独三位は上々の滑り出し。

 

「ショーン、損傷は?」

「問題ないよ」

「モニカ、後ろの様子は?」

「ジムⅢが上方7時、ガルバルディは同高度4時にいるわ」

「デイジー、中継の方は?」

「ズサがコースに復帰して六位だって」

 

 今回は開幕戦の反省を生かし、モニカとデイジーに『スポッター』をやってもらっていた。

 『スポッター』はパイロットの死角を補い、他のMSの動向を伝える役割を持つ。

 モニカはジムⅡのリアカメラから送られてくる映像で後方警戒を、デイジーはTV中継を見て全体の順位の動向を。

 それぞれのモニターを、瞬きも忘れて睨んでいる。

 

「ショーン、機体の具合は?」

「エフラムは心配性だな。ジェネレーターは安定。排熱良好」

 

 前回に引き続き、機体状況をモニタリングしていたショーンが苦笑い。

 

「それより見てよ。ケンジの奴、昨日の予選より速度が出てる」

「マジか?!」

 

 ショーンのモニターを見て、次いでデイジーのモニターを覗き込む。

 画面には鋭い軌道でダミー隕石を避けるジムⅡの姿。

 

「これ……ひょっとして、ひょっとするのか?!」

 

 

 

11時35分 実況席

『現在、第三コーナーを抜けて一位『ガザC・オナガ』、二位『ネモ・ZEKUU』、少し距離を空けて『ジムⅡ・トライデント』『ジムⅢナイトシャドウ』『ガルバルディΩ』の三機が三位集団』

『『ジムⅡ・トライデント』は開幕戦とはまるで別物の動きですね。色々とチューニングしたのでしょう』

『さあ、第四コーナー!』

 

 

 

11時35分 ジムⅡ コクピット

『左上方からジムⅢ!』

「来やがったな!」

 

 モニカから警告。

 

──ハーフロールで躱すジムⅡ

──宙を切るジムⅢのパンチ

──さらに素早いロールを加えるジムⅡ

 

「ハァーーーっ!」

 

──裂帛の気合と共に回し蹴りを叩き込む!

 

 仰け反ったジムⅢは六位に後退。

 だが、すぐに態勢を立て直して追ってくる。

 

「追加したスラスターは最高だぞショーン! これならカンフームービーにも出られるぞ!」

 

 今の機動は肩に追加したスラスターに依るところが大きい。

 テストフライトでその効果のほどは体感していたが、本番で決まると嬉しいものだ。

 

『油断するなよケンジ。まだ追ってきてるぞ』

「おっと、危ない危ない。また、やるとこだった」

 

 エフラムの諫言。

 前回は油断したがために、最後の最後でひっくり返されたのだ。

 長く息を吐いて気持ちを静める。

 

 

 

11時36分 実況席

『『ネモ・ZEKUU』第四コーナーを抜けて『ガザC・オナガ』に完全に追いついた! さあ抜くのか抜くのか! って?! 掴んだ!? 『ガザC・オナガ』のクローを掴みました!』

『これは?!』

 

 ネモの予想外の行動。

 MA形態で飛行を続けるガザC。その足のクローを掴んだのだ。

 ガザCが脚を振って振り払おうとするが、両手でガッチリ掴んで離さないネモ。

 実況と解説が困惑する中、ネモは器械体操の選手のように機体を揺らす。

 

『なんだ? 何をする気だ『ネモ・ZEKUU』?』

 

──ガザCの脚を鉄棒に見立てて逆上がり

 

 突如としてガザCの眼前に躍り出るネモ。

 そしてそのまま

 

『オーバーヘッドキックだー! 『ネモ・ZEKUU』のオーバーヘッドキックが炸裂!』

『これは強烈ですね!』

『『ガザC・オナガ』押し戻された! その間に『ジムⅡ・トライデント』と『ガルバルディΩ』が上がって来る! 『ガザC・オナガ』四位転落!』

 

 

 

11時36分 ジムⅡ コクピット

「エフラム、ネモと何秒差だ?」

『二秒差だ。ガルバルディとは一秒もないからな』

 

 二周目突入。

 一位との差は僅か、だが三位に喰い付かれた状態。

 二位というポジションながら薄氷を踏む思い。

 

『ガザCとジムⅢもすぐ追い付きそうな勢いだ』

「そりゃハードだな」

『? ガルバルディが離れた?』

「何?!」

 

 

 

11時36分 実況席

『三位の『ガルバルディΩ』がアウトラインに機体を振って第一コーナーにアプローチ。『ジムⅡ・トライデント』はインベタ。さあ、どうなる?!』

『『ガルバルディΩ』いいラインですね』

『『ガルバルディΩ』加速! フラットアウトだ!』

 

 

 

11時36分 ジムⅡ コクピット

「ウソだろ?!」

『そんなラインありかよ?!』

 

 コースに設定された上方制限一杯から、下方制限一杯まで。

 機体を振り下ろすように一直線に駆け降りる『ガルバルディΩ』。

 針を通すような繊細なコントロール。

 設置されたダミー隕石を割らない程度にかすめ、クリッピングポイントを駆け抜ける。

 

「抜かれた?!」

 

 

 

11時36分 実況席

『『ガルバルディΩ』が二位浮上! アウトラインからの鮮やかなオーバーテイク!』

『いや~、今のは見事でしたね。『ガルバルディΩ』はよくあんな狭いラインを見付けましたね』

 

 モニターにはリプレイ画像。

 ケンジのジムⅡがジグザグにダミー隕石を回避しているのに対し、わずかなロールとヨーイングのみで駆け抜けたガルバルディ。

 蛇行と直線。

 どちらが速いか一目瞭然。

 

『『ガルバルディΩ』が『ネモ・ZEKUU』との差を詰めた!』

 

 

 

11時37分 ジムⅡ コクピット

「〇ァック! あんなラインどうやって出したんだ?!」

『落ち着け! あんなラインは普通存在しない! ガルバルディのパイロットが無理やり作ったんだ!』

 

 エフラムが航路算出した際には見付けられなかったライン。

 それをガルバルディのチームは見抜き、最小限の機動で直線に変えてしまった。

 

『惑わされるなよケンジ。まだ離されちゃいないんだ。抜くチャンスはある』

 

 

 

11時37分 実況席

『『ガルバルディΩ』が『ネモ・ZEKUU』に追い付いた! 仕掛けるか!? 仕掛けるか?!』

 

 先手を取ったのはガルバルディ。

 

──二発、三発と素早いジャブを繰り出すガルバルディ

──それを受け、流しつつジャブを打ち返すネモ

──機動性に物を言わせて打撃を躱すと、再度ジャブを打ち込む

 

 ダミー隕石を回避しつつ、断続的に起こるジャブの応酬。

 

『激しいジャブの応酬! ジャブの雨霰! だが当たらない!』

『両機とも素晴らしい技量です。これだけ打ち合って、未だに双方ともクリーンヒットがありません』

 

 

 

11時37分 ジムⅡ コクピット

『チャンスだケンジ! 詰めて行け!』

 

 第二コーナー立ち上がり。

 技巧溢れる乱打戦を繰り広げるネモとガルバルディ。

 格闘戦の最中ゆえ、速度が落ちているものの、それでも十分速い。

 

「お、応っ!」

 

 返事をしてみたものの、眼前で繰り広げられる格闘戦に目を奪われていた。

 

──姿勢制御スラスターの小刻みな噴射によるフットワーク

──ダミー隕石を見越した軌道遷移

 

 どれをとっても卓越した操縦技術。

 改めて近くで見ると、その技術の高さに驚かされる。

 正直、ずっと見ていたい。

 

(これ……抜けるのか?)

 

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