11時39分 ジムⅡ コクピット
『抜けそうかケンジ?』
「……ラインが潰されてる。こりゃ相当ムズイぞ」
距離を詰めたが攻めあぐねるケンジ。
先程から様子を伺っているが、ネモとガルバルディ、両機とも格闘戦をしながらも隙が無い。
二、三発ジャブを打ち込むとすぐに離れる。
離れる距離も方向も毎回違う。
そのためケンジはラインを潰され右往左往。
『ガザCが5時下方向から近付いてるわ』
「クソっ! もう来やがった!」
そうこうしているうちに態勢を立て直したガザCが追ってくる。
「他の連中は?」
『ん~とね、ズサとジムⅢは少しづつ遅れてるかな』
「遅れてる? なんで?」
デイジーの報告に眉を顰める。
『ズサとジムⅢはど突き合い始めたんで速度が落ちてる。今は気にしなくていい』
デイジーの報告で足りなかった部分をエフラムが補う。
後続の数は減ったが、ガザCには依然として警戒しなければならない。
選択を迫られる。
「さて、どう抜く?」
11時40分 仮設ピット
(さて、どうする?)
モニターを睨みつつ考えるエフラム。
当初予定していた軌道データは、ネモとガルバルディが頻繁に掠めるせいでリスキー。
中継を見る限り両機のパイロットはかなり手強い。
仕掛けるタイミングを間違うと、二機同時に相手をしなければならない。
その上、加速に優れるTMSが追ってくる。
──ガザCを抑え三位を守るか
──ネモとガルバルディに仕掛けて一位を目指すか
「ケンジ、ガザCを抑えて三位をキープだ」
『何?!』
エフラムがチームオーダーを下す。
どうにかして抜こうと頭をひねっていたケンジは、水を差された格好。
「クールダウン、クールダウン。前の二機は一筋縄じゃいかない。あれだけ殴り合ってれば疲れてミスするはずだ。それを待つぞ」
『マジか?!』
「ケンジの腕とショーンのチューンがあれば、抑えられる!」
賭けだ。
確かにショーンのチューニングで機動性、加速性能は向上した。
だが、加速性能と最高速度は依然ガザCが上。
つまりガザCを抑えるには、機動性を生かして相手のラインを予測、先回りして潰していくしかない。
『四時下方、ガザC!』
「ちっ!」
考える間もなく機体を動かす。
──スラスター全力噴射で進路に割り込むジムⅡ
──AMBACで制動を掛けるガザC
ギリギリのところで衝突を回避。
バランスを崩したガザCは再加速が遅れた。
(コイツ……ぶつけたくないのか?)
ガザCの行動を訝しむ。
強引なパイロットなら体当たりしてきたことだろう。
ケンジもその覚悟で割り込んだ。
(これなら抑え込めるか?!)
11時54分 実況席
『クラーーーッシュ! 第四コーナーでクラッシュです! リプレイ、見れますか?』
『あ~『ジムカスタム・レイピア』ですね』
『これは……『ガンダムMk-2フリーダムファイター』ですかね?』
『そうですね。『ガンダムMk-2フリーダムファイター』が『ジムカスタム・レイピア』に対し、押し付けるようなタックルをしていますね』
『なるほど。針路を塞がれた『ジムカスタム・レイピア』は逃げ場を失い、第四コーナーの隕石にぶつかってしまった、と』
『その通りです』
『あ~っと? ここでイエローコースコーションが出ました』
11時54分 第二コーナー
──イエローライトを明滅させたジムⅢがコースに進入
運営のジムⅢが先頭集団の前に割り込む。
このジムⅢはカーレースで言うところのセイフティーカーの役割を担う。
速度を落とさせ、コース下方に設定されたエスケープゾーンに参加機体を誘導。
そのままフォーメーションラップに入った。
11時54分 実況席
『今、情報が入ってきました。このクラッシュで『ジムカスタム・レイピア』に搭乗していたオーステルベーク選手が投げ出されたということです』
『大丈夫なんでしょうか?』
『無線での呼びかけには反応があるということです』
『まずは一安心と言ったところですね』
『現在、コース上ではオーステルベーク選手と機体の回収作業が行われています』
11時55分 ジムⅡ コクピット
『ケンジ、回収作業はしばらくかかりそうだ。少し休んでくれ』
「そうさせてもらうよ。ガザC抑え込むのでクタクタだ」
ケンジはチョコレートバーを齧るとエナジードリンクで流し込む。
ガザCを抑え込むのに急旋回、急加速に激しい横Gと、急の付く操作のオンパレード。
モニカたちが後ろの状況を伝えてくれるとはいえ、パイロットの負担は大きい。
集中力もすり減っていたところなので、これはいい骨休め。
フォーメーションラップ中は追い抜きも接触も禁止なので、オートパイロットでも問題ない。
「後ろの順位はどうなってる?」
『ガザCの後ろはズサ、ジムⅢ、バーザム、リゲルグの順番だ』
「ズサが厄介だな」
『ああ、まだロケットモーターを持ってるはずだ』
再開と同時にロケットモーターが使われることを危惧する。
最悪、ガザCとズサの両方を相手にしなければならない。
だが、ジムⅡで二機同時に抑え込むのは不可能。
「……いっそのこと、上を狙うか?」
ポツリとつぶやく。
今回のイエローコースコーションは、見方を変えればケンジたちにとっては好都合。
フォーメーションラップになったおかげで、ネモとガルバルディに付けられた差を振り出しに戻すことができた。
『まぁ、そうするしかないな。抑え込むったって無理がある。逃げるしかないだろ』
「だな」
11時56分 実況席
『今、情報が入ってきました。オーステルベーク選手が無事保護されました。なお、コクピットから投げ出された際に体を打ったということですが、命に別状はありません』
『いや、無事で何よりです』
『オーステルベーク選手を乗せた救命艇はコロニーに向かって移動中です。また、コース上では大破した『ジムカスタム・レイピア』の回収作業が続いております』
『派手にクラッシュしましたからねぇ……部品がそこらじゅうに飛び散ってますね……』
『あっ、今、レースディレクターから発表がありました。九周目がキャンセルです。作業終了後、ファイナルラップのみ行われます』
11時57分 ジムⅡ コクピット
『聞いてたなケンジ? 一周勝負だ! 出遅れるなよ』
「わかってるって任せとけ」
エフラムの心配をよそに、ニヤリと返すケンジ。
と、その時、事故があった第四コーナーが見えてきた。
コース上では運営のジムⅡとボールが忙しなく動き回り、飛び散ったジムカスタムの残骸を集めている。
「…………くわばら、くわばら」
『どうしたケンジ?』
「いや……明日は我が身だなと思ってさ」
『そうだな…………気を付けてくれよ』
12時00分 実況席
『さあ、回収作業も終わり、コースはクリア! 仕切り直しとなるわけですが、クーパーさんはどのようにご覧になりますか?』
『ポイントは現在先頭の『ネモ・ZEKUU』と『ガルバルディΩ』が逃げ切れるかにかかっています。後ろにはダッシュ力に優れる『ズサ・キラーエッグ』にスポット参戦の『リゲルグ・ノーススター』がいる訳ですから、逃げに失敗すると乱戦になり得る状況です』
12時00分 ジムⅡ コックピット
『再開するぞ。準備はいいな?』
「任せろよエフラム」
エナジードリンクのパックをフードポーチに投げ込む。
コントロールスティックを握り直し、オートパイロットをOFF。
機体をわずかに加速。
少しだけ距離を詰め、少しだけ外に振る。
正面にネモ、斜め前方にガルバルディ。
12時00分 第四コーナー
先導するジムⅢが第四コーナーを抜けてホームストレートへ。
注意を促すイエローライトが点滅パターンを変える。
──0.5秒間隔で明滅するイエローライト
そして
──グリーンライト点灯
12時00分 実況席
『レース再開です! って……ああっ?!』
12時00分 ジムⅡ コックピット
「なっ?!」
──ガルバルディが視界から消えた
12時00分 実況席
『な、投げた!? 『ネモ・ZEKUU』が『ガルバルディΩ』を投げ飛ばした! クーパーさん、今のは?!』
『これは『柔術』でしょうか? 以前、ヨハンソン選手は『武道』のマスタークラスだと聞いたことがあります』
『なるほど。その『武道』の技をMSに応用して、電光石火の投げ技を決めました『ネモ・ZEKUU』! 昨年度シルバークラスは伊達じゃない!』
12時00分 ジムⅡ コクピット
「何だ今の?!」
一瞬の隙を突いて豪快な投げ技を決める『ネモ・ZEKUU』。
投げられた『ガルバルディΩ』が、ガザCに、ズサに、後続機にぶつかり連鎖的玉突き事故。
皆、グリーンライトに合わせてスロットルを開けていたので、避けることも叶わない。
あまりの多重クラッシュぶりに、呆然とするケンジ。
「ウソだろ……」
12時00分 実況席
『クラッーシュ! こりゃまた派手なクラッシュだ! 三位以下は軒並み巻き込まれた!』
12時00分 ジムⅡ コクピット
『ケンジ! 何してる?! 早くいけ!』
「え?! あっ……お、応っ!」
あまりの多重クラッシュぶりに、呆然として出遅れた。
先行する『ネモ・ZEKUU』はすでに逃げの態勢。
「逃がすか!」
『避けろケンジ!』
「?!」
──ジムⅡの針路にダミー隕石
姿勢制御スラスターを吹かして回避。
ロール機動からAMBACで立て直し再加速。
「あの野郎! ダミー隕石を動かしてる!」
『ネモ・ZEKUU』がダミー隕石を掠める度に、マニュピレーターでこちらに投げ込んでくる。
ダミー隕石を一つ避ける度にジリジリと差が開く。
『後続が来てるわ! 気を付けて!』
「もう来たのか?!」
モニカからの警告。
目の前でダミー隕石を投げつけられるケンジの機動は大回りなものになるが、後続は距離的猶予がある分、軌道変更は最小限で済む。
「クソっ! こうなったら二位を死守だ! 後ろは何が来てる?」
これ以上の追撃はリスキー。
バルーンブレイクでペナルティを受けては二位すら危うい。
『バーザムとガザC、距離を空けてジムⅢとMk-2』
「ズサとガルバルディは?」
『今、ロデオを楽しんでるわ』
12時01分 実況席
『『ズサ・キラーエッグ』が暴走! 再スタートに合わせてロケットモーターに点火していた『ズサ・キラーエッグ』が、今のクラッシュでアンコントロール! 『ガルバルディΩ』を道連れにコースアウトだー!』
『これは『ガルバルディΩ』にとって災難ですね。ですが二位、三位争いが俄然面白くなりそうですね』
『そうですね。『ジムⅡ・トライデント』は追撃をあきらめたようです。これで『ネモ・ZEKUU』は独走態勢!』