ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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サイド・バイ・サイド 4

12時01分 ジムⅡ コクピット

『7時上方、バーザム!』

「っ?!」

 

──姿勢制御スラスターで180度ロール

──しならせた腕を振り下ろすバーザム

 

 ジムⅡの拳がバーザムの腕を叩き落とす。

 しかしバーザムは意にも介さず回し蹴り。

 膝を上げブロックするジムⅡ。

 

「なろっ?!」

 

 反撃の右ストレートを繰り出すジムⅡ。

 だが、バーザムはスラスターによるスウェーで躱すと、さらに回し蹴り。

 たまらず膝でガードするジムⅡ。

 

「クソこの野郎! クルクルと!」

 

 

 

12時01分 仮設ピット

「ん? ……あれ? これって……」

「どうしたショーン?」

 

 モニターとにらめっこしていたショーンが違和感を抱く。

 

「いや、膝のジョイントに変な負荷が……」

「負荷?」

「あっ?! まさか!」

 

 ショーンが違和感の正体に気付いた時、バーザムが三発目の回し蹴りを繰り出すべく、右足を振りかぶる。

 

 

 

12時01分 ジムⅡ コクピット

『受けるなケンジ!』

「はぁ?!」

 

 ショーンの警告もむなしく、バーザムの回し蹴りがヒット。

 

──左足のステータスがレッドに変わるジムⅡ

──直後、膝から下がダラリとぶら下がる

 

「な?! なんだコリャ?!」

『バーザムの奴、膝関節だけを蹴ってたんだよ!』

「ウソだろ?!」

 

 ウソではない。

 『バーザム・ダンシングシミター』は回し蹴りが当たる直前、足のスラスターで微調整を行いながら、ジムⅡの膝関節を的確に蹴り抜いていた。

 

『いったん距離を取れ!』

「クソがっ!」

 

 ショーンのアドバイスとは真逆。

 距離を詰めるジムⅡ。

 インファイトで回し蹴りを封じる。

 

「ふんっ!」

 

──ジムⅡの頭突きに仰け反るバーザム

──砕け散るジムⅡのグレイズシールド

 

 カメラ保護用のシールド、俗に『ゴーグル』と呼ばれるグレイズシールドが全て割れ落ちる。

 勢い余って自らの機体を傷付けてしまうケンジ。

 だが、お構いなしにもう一発ヘッドバット。

 さらに首相撲からの膝蹴り。

 

「こっのっ野郎っ!」

 

──膝

──膝

──膝

 

 何発もの膝蹴りを叩き込む!

 バーザムの装甲が歪む。

 

「トドメ!」

 

 渾身の飛び膝蹴り!

 バーザムの頭部が砕け散る。

 

「っしゃ!」

 

 撃破。

 ジムⅡにガッツポーズを取らせるケンジ。

 

『9時、同高度にガザC!』

「っ?!」

 

 バーザムに時間を取られた。

 ガザCはほぼ真横。

 まだケンジのジムⅡの方が先行しているが、相手はイン側、こちらはアウト側。

 若干距離が開いているため、妨害もままならない。

 

『焦るなケンジ、ガザCはコーナーで膨らむはずだ。最終コーナー、ラインがクロスした時に叩き落せ!』

 

 エフラムがガザCの予想針路とジムⅡの最適針路データを送ってよこす。

 意図を理解すると機体をラインに乗せる。

 スロットルはすでに目一杯。

 小刻みなヨーイングと僅かなロール。

 速度を殺さないよう慎重に回る。

 

──最終コーナー

 

 ジムⅡはアウトからインへ。

 ガザCはインベタからアウトへ。

 エフラムの予想通りアウト側に膨らむガザC。

 

「さすがエフラム、予想針路ドンピシャ!」

 

 接近警報装置の警告灯がイエローからレッド。

 モニターに映ったガザCがみるみるデカくなる。

 ラインがクロスする刹那、

 

「くらえっ!」

 

──乾坤一擲

──姿勢制御スラスター全力噴射からの左回し蹴り

 

 ガザCの肩装甲に、ジムⅡの蹴りがクリーンヒット。

 が、

 

「っ?! しまった!」

 

 膝関節がバカになった左脚では威力が足りない。

 ガザCはバランスを崩したものの、自動制御で態勢を立て直している。

 対してジムⅡは態勢を崩していた。

 

「クソっ! ロールが止まらねぇ!」

 

 ブラブラとぶら下がる左脚が、蹴りの反動でユラユラ動く。

 今のジムⅡの左脚はパイロットが操作していないのに、勝手にAMBACしている状態。

 

 

 

12時03分 仮設ピット

「クソっ! 調整が甘かった!」

 

 MSのオートバランサーには四肢のいづれかが機能不全に陥っても、姿勢を安定させるようプログラムが組まれている。

 だが、ベース機に想定されていない改造を施したために機体重量や重心点が変わり、オートバランサーのアシストでは吸収しきれなくなっていた。

 

「何か、何か手は……」

「ケンジ、左脚を抱えるんだ! マニュピレーターで抱き込め!」

 

 ショーンが無線で指示を飛ばす。

 

 

 

12時03分 ジムⅡ コクピット

「抱える?」

『体育座りの要領だよ』

「こうか?」

 

 左の腿を可動限界まで持ち上げ、プラプラと揺れる脛を抱き寄せる。

 揺れが収まり態勢を立て直すジムⅡ。

 再加速。

 

「よし、これなら!」

 

 

 

12時04分 仮設ピット

「左側のAMBACが使えないから旋回には気をつけろよ」

 

 ショーンはインカムのスイッチを切ると、エフラムに向き直る。

 

「エフラム、一人で考え込むなよ。俺たちはチームなんだからさ。一緒に考えさせてくれ」

「あ、ああ……そうだな……そうだった……」

 

 憑き物がストンと落ちる。

 冷静さ取り戻したエフラム。

 状況を掌握するために、すべてのモニターを順に見ていく。

 

(……ネモがもうすぐゴール……ガザCは……今のトラブルで差がついたな……追い付くのは無理か……)

 

 ガザCに追い付くのはもはや不可能。

 順位がひっくり返るとすれば、ガザCが自爆でもしない限りないだろう。

 

「エフラム! 後続が近付いてる!」

「もう来たのか?!」

 

 

 

12時04分 実況席

『『ネモ・ZEKUU』が今、一着でチェッカーを受けた! 後続を大きく引き離し、堂々の一位! 元シルバークラスの貫禄を見せ付けました!』

『まさに実力の差が出たレースでしたね。ヨハンソン選手は終始、危な気ないレース展開でした』

『二位は『ガザC・オナガ』。前回は一位、今回は二位と好成績。これはフロックでもビギナーズラックでもなさそうだ!』

『次のレースも期待できそうですね』

『そして現在三位争いは『ジムⅡトライデント』と『ジムⅢナイトシャドウ』の二機! 先程まで二位争いをしていた『ジムⅡトライデント』ですが、マシントラブルにより速度を落としています。対して『ジムⅢナイトシャドウ』は多重クラッシュを潜り抜け、鬼気迫る猛追! さあ、どちらが先にチェッカーを受けるのか?!』

 

 

 

12時05分 ジムⅡ コクピット

『急げケンジ! ジムⅢに抜かれるぞ!』

「わかってるよ! ジェネレーターがぐずってんだ!」

 

 先程まで漂流状態だったので、トップスピードに乗るまで時間が掛かる。

 わずかな時間がもどかしい。

 いくら改造した機体とはいえ、『レスポンスの悪さ』というジム系列特有のネガティブを完全に消すのは難しい。

 

『ジムⅢ、8時上方。近付いてるわ』

「……ちっ! もうそんな所に…………ん?」

 

 悪態をつきながらも、妙な違和感に気付く。

 

(……ノイズ?)

 

 モニターパネルに小さな、ほんの小さなノイズが断続的に走っている。

 それは徐々に大きくなり、

 

「なんだっ?!」

 

──ノイズで前が見えない

 

 いや、まったく見えない訳ではない。

 見えることは見えるが盛大な砂嵐で大変見にくい。

 

『どうしたケンジ?』

「カメラがいかれた! ノイズだらけで前が見えない!」

 

 窮状を訴えるも、ノイズはどんどん酷くなっていく。

 

『サブカメラは?』

「ダメだ、切り替わらない」

 

 通常だったらオートで切り替わるはずのサブカメラが作動しない。

 マニュアル操作も受け付けない。

 

『どこかで断線してるんだ』

『こっちで誘導する』

「クソっ! モニターが?!」

 

──モニターパネルの一枚がブラックアウト

 

 続けて二枚目、三枚目のモニターパネルが死んでいく。

 

『左に+5度修正しろ。ダミー隕石があるぞ』

「この……ぐらいか?」

 

 モニターパネルが次々と死に、徐々に視界が狭まっていく。

 辛うじて生きているパネルもノイズだらけ。

 ジムⅡの計器と誘導だけが頼り。

 

(クソっ……見えないことがこんなに……)

 

 もどかしい。

 ゴールが見えないことが、障害物が見えないことが、周囲が見えないことが。

 ケンジは今『見えない事への恐怖』を感じていた。

 

(あと少しでゴールのはずなんだ……まだか……まだか……)

 

 恐怖は焦りとなって感情に現れた。

 呼吸は乱れ、ヘルメットの中を汗が漂う。

 

「エフラム! ゴールは……」

『ジムⅢ接近! 避けて!』

「っ?!」

 

 咄嗟に視線を巡らせるが、モニターが死んでいては避けようがない。

 成す術もなくケンジのジムⅡは蹴り飛ばされた。

 

 

 

12時05分 実況席

『ブレイークッ! 『ジムⅡトライデント』がバルーンブレイク!』

『『ジムⅢナイトシャドウ』の狙いすました見事な蹴りでしたね』

『その『ジムⅢナイトシャドウ』が今、三位でゴールイン! 開幕戦は四位と好調な滑り出し!』

『昨シーズンは惜しくも入れ替え戦に出られませんでしたが、今年は調子良さそうですね』

『『ジムⅡトライデント』もゴールしました。四位です』

『途中までは良い展開だったんですがねぇ…………若さ故なんでしょうか? レース運びに焦りのようなものを感じるんですよね』

 

 

 

13時21分 仮設ピット

「うわ?! ひでえ……」

「これじゃモニターも映らない訳だよ」

 

 レース終了後、運営のボールに牽引されて港に戻ったジムⅡ。

 とりあえずメインカメラの損傷個所をチェックしてみる。

 

「カメラもセンサーも穴だらけだ」

 

 シールドの割れたセンサー類に刺さる多数の金属片、ネジ、極小隕石。

 それら微小デブリによって無数の穴が穿たれていた。

 

「おそらくクラッシュしたジムカスタムの破片だよ」

 

 運営側も残骸を回収してはいる。

 だがそれはMSのマニュピレーターで掴めるサイズに限られる。

 

「修理できそうか?」

「どうだろう? 破片がどこまで刺さってるかだよね。良くてカメラユニットの載せ換え。最悪、頭部丸ごと交換かな」

「こりゃエフラムに怒られるかな?」

 

 揃って肩を落とすケンジとショーン。

 今からエフラムのお小言が想像できる。

 

「膝関節はやっぱりダメだな、歩けそうにない。そっちはどうだ?」

 

 噂をすれば影。

 下からエフラムが近付いてくる。

 

「こっちもダメ。ユニット交換かな」

「そうか……まぁ、それでも4位に入ったから、今回はそれでよしとするか」

 

 苦笑を浮かべるエフラム。

 だがその笑顔は苦々しさを含みながら、どこか清々しさを感じられる。

 

「…………」

「…………?」

「ん? どうしたんだよ?」

 

 予想していなかったエフラムの反応に、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になるケンジとショーン。

 

「あ、いや……怒らないのかなぁ~と思って……」

「なんで怒んなきゃいけないんだよ?」

「いや、こんな壊しちゃったし……」

「壊したって4位に入れば御の字だろ」

「ま、まぁな」

 

 実にエフラムらしくない発言に戸惑う二人。

 二人の困惑を余所にエフラムは一人、確かな手応えを感じていた。

 前回五位、今回四位と成績は上向いている。

 これなら表彰台も夢ではない。

 

「大体、改造費削って修理費確保してあるんだ、心配するな」

「そういやそうだったな」

「でもまぁ、最後の蹴りが左じゃなくて右脚だったらよかったんだがな」

「言うなよ……うっかりなんだから……」

 

 ほっと胸を撫で下ろす。

 

「それはそうと、問題はどうやって帰るかだよ」

 

 エフラムが頭が痛いとばかりに愚痴をこぼす。

 普段は宇宙空間を飛んで帰るのだが、カメラが壊れていては宇宙に出ることは出来ない。

 さらに言えば膝関節が破壊されているので、重力区画に入った瞬間に擱座してしまう。

 現状、無重力区画の宇宙港から下手に動かすことが出来ないのだ。

 

「それだったらロジャーさんにトレーラー出してもらえないかな?」

「ロジャーさんって……ロフマンガレージの?」

 

 ショーンの提案に二人で顔を見合わせる。

 

「今日、ジャンク屋休みだろ? 捕まるのか?」

「こないだプライベートのアドレス教えてもらったんだ。連絡とってみるよ」

 

 手早くメッセージを送ると、すぐに返事が帰って来た。

 

「返信きた、ちょっと時間はかかるけど来てくれるって」

「よかった~。助かったよ」

「じゃ、今のうちに撤収準備だな」

 

 エフラムがモニカとデイジーに指示を出す傍ら、ショーンは考え込んでいた。

 

「どうしたショーン?」

「いやさ、考えたんだけどもう少しスラスターを何とかできないかなって」

「何とかって?」

「やっぱりトップスピードで他の機体に負けてるから推力を上げたいし、旋回速度も上げたいから姿勢制御スラスターも増設したいし、かと言ってジェネレーターに負荷を掛け過ぎる訳にはいかないから非燃焼系のスラスターを……」

「お、おう……」

 

 ちょっと引いちゃうケンジ。

 ショーンは一人、ブツブツと改修プランを練り続ける。

 しばらくは帰ってこないだろう。

 

「ま、次は勝つさ」

 

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