17時18分 ロフマンガレージ ジャンクヤード
「ショーン、この頭どうだ? まだ使えそうだぞ」
「ちょっと待って、テスター噛ませてみる」
今日も今日とてジャンク漁り。
第二戦の翌日、補修部品調達のためジャンクヤードを掘り返す。
プチモビに括り付けたバッテリーから電力供給。
セーフモードで立ち上げ、メンテナンスプログラムが故障個所をチェック。
「OK、これならいけるよ」
「じゃ、いただきだな」
──ジムコマンドの頭部を引っ張り出す
油と煤にまみれているものの、外装に破損個所は認められない。
いそいそとプチモビ用の台車に載せる。
台車には他にも『ジムの膝関節』『何に付いていたのかわからないバーニア』『何に付いていたのかわからない姿勢制御スラスター』、他に細々としたパーツ類。
「とりあえずこれだけあれば足りるかな」
「よっしゃ、ロフマンさんの所に行くか」
17時42分 ロフマンガレージ 事務所
「こんなもんだろ」
パーツリストを一瞥したロフマンがどんぶり勘定で請求書を作る。
ロフマンにしてみれば金にならなくて放置していたジャンク。
買い手が付くならほどほどの値段でよいのだ。
そのため街のパーツ屋より圧倒的に安い。
「支払いはいつも通りで」
「あいよ。ロジャー」
「了解です、ⅬT」
エフラムからカードを受け取り、決済。
ロジャーがパソコンに入力していく。
「あとグスタフ・カールの燃料ポンプとインジェクターってありませんか?」
「あったかな? 見てみよう」
ショーンの追加注文に対し、ロジャーは手早くパソコンで在庫検索。
「グスタフ・カールのじゃないけど、同規格のインジェクターならあるね。あと残念ながら燃料ポンプは品切れ中。あの機体は少ないからね」
「できればセットで欲しかったんだけどな……」
「代わりにドーベンウルフの燃料ポンプはどう? 燃料圧力はほとんど変わらないし、シルヴァ・バレトの補修用にリビルトしてあるから、連邦規格のコネクタが付いてるよ」
「じゃあ、とりあえずそれで試してみます」
ロジャーはパーツリストと追加注文を聞いて『ショーンが何をしたいか』を汲み取ったらしい。
希望に近いパーツがスラスラ出てくる。
「そういや、お前ら。昨日のレースは4位だったんだって?」
「そうなんですよ! 4位ですよ! 4位! 次は表彰台狙いますよ!」
ロフマンの何気ない質問に、やたら喰い付きのいいエフラム。
「そ、そうか……」
「見ててくださいよ、来年はシルバークラス行けますよ!」
エフラムを先頭に意気揚々と引き上げていく。
それは若さから生じる自信、そして傲慢。
ロフマンは苦笑で彼らを見送った。
「ロジャー、昨日のレース見たんだろう? どうだったあいつらは?」
「勢いはあるんですけどね……」
「勢いだけか?」
「まだ『勢い』だけですね。表彰台は難しいかもしれません」
15時49分 ロフマンガレージ 倉庫
「と言う訳で、昨日集めたパーツで修理と並行してジムⅡのスピードと旋回性能を上げようと思うんだ」
そう言うとショーンが設計図を広げた。
「大まかに引いた図面だから『こんな感じ』ぐらいで見ておいて。基本現品合わせだから」
「細かい所はショーンに任せるよ。俺らはまず修理の方から片付けるよ」
図面があるとはいっても詳細はショーンの頭の中。
改造部分にはショーン以外、手が出せない。
修理部分の方は整備マニュアルがあるから、ケンジたちだけでもなんとかなりそうだ。
ショーンほどではないにしても、ケンジも小さい頃から機械いじりをしてきたし、プチモビも散々いじった。
まったく知識がない訳ではない。
「モニカとデイジーは拾ってきた頭を綺麗にしてくれ。俺らは今付いてる頭を外しておくから」
「OK~。ところで今日はエフラムいないの?」
「あいつは今日から免許取りに行ってるよ」
「MSの?」
「車のだよ。また一昨日みたいなことになったら大変だからってな。大型まで取るつもりらしい」
「残念ね……」
明確にテンションが下がるモニカ。
「しばらくは来ないの?」
「毎日じゃないけど、たまに来るって言ってたよ」
「そう。じゃあ、ちゃんとやっておかないとね。手を抜いてるなんて思われたら心外だからね」
気持ちを切り替えるモニカ。
あまりのわかりやすさにケンジたちは苦笑い。
──二週間後
16時45分 ロフマンガレージ 三番倉庫
「免許取ってきたぞ!」
「おお~」
取ったばかりの免許証を掲げるエフラム。
皆で歓声を持って迎える。
「これで壊れても安心だな!」
「いや、ケンジは壊さないようにしろよ」
余計な一言を言ってしまうケンジ。
それを呆れ顔で返す。
「で、機体の方は?」
「ちょうど出来たところだよ」
ジムコマンドの頭になったジムⅡを見上げる。
「頭が変わると大分イメージが変わるな」
「まぁね。で、燃料系なんだけど吐出量の調整がまだ終わってない。とりあえずドーベンウルフのマッピング突っ込んである」
「点火テストは?」
「済んでるよ。今のところ推力5%増ってとこ」
ショーンの改造プランは単純明快『大量の推進剤を燃やすことで大推力を得る』。
そのための大容量燃料ポンプとインジェクター。
「燃調いじれば、もう一割は増やせるはずなんだ」
「もう少しイケるんじゃないか?」
「それ以上だとスラスターの耐熱温度に問題が出るなぁ」
推進剤もただ燃やせばいいというものでもない。
何の工夫もなく大量の推進剤をぶち込んだところで、異常燃焼の原因にしかならない。
スラスターの燃焼能力と兼ね合いを取りながら、推進剤の噴射量を調整してやる必要がある。
エフラムはショーンから点火テストのデータをもらうと、ざっと目を通す。
「追加のスラスターは?」
「そっちは問題ないな。姿勢制御スラスターもバッチリ!」
満面の笑みで応えるショーン。
今回の改造では『ジムスナイパーカスタム』を模して、ふくらはぎにスラスターを追加。
総推力の向上を図る。
また腰の前後、装甲板の付いていたところには非燃焼式の姿勢制御スラスターを追加。
旋回時間を短縮している。
「さすがだショーン! じゃ、コレ。姿勢制御プログラムの更新分な」
カバンからデータディスクを取り出すと、ショーンに渡した。
エフラムは教習所に通いながらも、ショーンとデータのやり取りをしながら、姿勢制御プログラムを組んでいた。
「シミュレーションモデルで試してあるから、あとは微調整で済むはずだ」
「わかった、すぐにインストールするよ」
「ああ、俺はこれから燃調のマッピングをみてみるよ」
エフラムがノートパソコンを広げると、絶妙なタイミングで差し出されるマグカップ。
「はいエフラム。コーヒーは薄めで砂糖は一つよね」
「あ、ありがとうモニカ」
いつの間にかコーヒーを淹れたモニカがニコリとほほ笑む。
タジタジになるエフラムだが、まんざらでもないようにも見える。
(露骨だ……)
(……露骨だな)
ケンジとショーンは背中にうすら寒いものを感じながらアイコンタクト。
そこは長い付き合いなので、言わんとすることはお互いわかる。
「お兄ちゃんたちも、早くそれインストールしちゃわないと」
それまで傍観を決め込んでいたデイジーが口を開く。
もちろんモニカのアシストなのだが、ケンジたちにとっても渡りに船。
迷わず飛び乗る。
「お、そうだな。早くやっちまおう」
「うん、そうしよう。デイジーも一緒に来てやり方覚えておいて」
「は~い」
三人で連れだって避難、もとい移動する。
背後でエフラムが何やら喚いているが、聞き流しておこう。
17時05分 ジムⅡ コクピット
「メンテナンスモードで立ち上げて、システム画面を開く」
「「ふむふむ」」
「そこからソフトウェアの項目を選択」
「「ふむふむ」」
「そうすると今インストールされてるプログラムの一覧が出てくる」
「結構、ブランクのところがあるな」
「そこはFCS(火器管制システム)が入ってたところだからね」
MSは払い下げられる際にFCS、つまるところの『武器を制御するためのプログラム』を削除。復元不能な状態にして民間に放出される。
この状態では例えビームライフルを拾っても、『こん棒の代わり』にしか使えない。
何故なら『MSはそれを武器として認識できない』のだから。
「で、今回いじるのは『姿勢制御』。PCの接続を確認したらインストール開始と。ね? 簡単でしょ?」
「ああ、大丈夫だ」
「まぁ……なんとなく……」
一通り説明を終えたショーンが二人に向き直る。
ケンジは大丈夫そうだが、デイジーは怪しい。
「ケンジ、スタンバイモードで立ち上げて」
「ああ」
バッテリーからの電力供給で電装系に明りが灯る。
全周囲モニターも点灯。
「自己診断プログラムを走らせて、あとはシステム画面でバージョンチェックすれば終了と」
「なるほど」
一人うんうんと頷くケンジ。
全周囲モニターが点いたことで、ふと何かを思い出したらしい。
「そういやショーン。モニターの画像、荒くないか?」
確かに荒くなっている。
だがそれも今までに比べて僅かに荒くなっていると言う程度。
素人目には差があるようには見えない。
「そりゃそうだろ。レンズにしろイメージセンサーにしろ、ジムⅡの方が性能良かったからね」
「マジか~?! もう少し解像度上げられないか?」
その言葉にニヤリと笑うショーン。
コンソールに手を伸ばすと、何やら設定をイジる。
「そう言うと思ってさ、こんな仕掛けをしてみた」
設定が切り替わった瞬間、やたらと綺麗な画面に変わる。
「うお?! 何これ?! スゲー綺麗じゃん!」
「どお?」
「最高だよ! 何やったんだコレ?」
「バルカン砲が入ってたスペースあるだろ?」
「うんうん」
「そこにビームライフルに付いてた照準用カメラを突っ込んでみたんだ」
MSの手持ち火器には大抵の場合、カメラやセンサーが組み込まれている。
これはMS本体から見た情報と、火器側から見た情報を合わせることにより、より高い命中精度を得るための物である。
戦時中には破損したメインカメラの代わりに使われた事例もある。
「しかもこのレンズ、カノム精機のKCR70αなんだよ!」
「お、おう……?」
「古い型とはいえ、やっぱりハイエンドモデルだったから綺麗だよね~」
「そ、そうだな……」
なんだかよくわからんが、ショーンがこだわって付けたパーツなのはわかった。
だから特別良いパーツに違いないと、自らを納得させるケンジ。
「……ん?」
ふと違和感に気付く。
「なぁショーン? このカメラおかしくないか? 途中から解像度が違うぞ?」
途中──全天周囲モニターの前半分と後ろ半分で解像度が違う。
後ろ半分はさっきまでの荒い解像度のままだ。
「ゴメン、ケンジ。ジャンクヤードに落ちてたのはこれ一つだけだったんだ」
「ってことは後ろ用はなしか……」
前に向けられたレンズは前方しか映さない。
ましてやライフル用カメラには、全周囲撮影の機能はない。
「まっ、仕方ないか。前だけ見えれば問題ないだろ」
17時35分 ロフマンガレージ 事務所
「ほ~~ん……なるほどなるほど。あいつらこんな飛ばし方してたのか」
大会公式のアーカイブでレース映像を眺めるロフマン。
「LT、開幕戦のビデオも見ますか?」
「いや、いい。大体わかった」
ロジャーの提案を断り、無言で考える。
(さて、どうしたものか……)
無精ひげをなでながら頭をひねる。
その時、事務所の電話が鳴った。
「はい、ロフマンガレージ。……ああ、交通局の。はいはい……明日? 大丈夫ですよ。それウチで受けますんで軌道データ諸々、送っておいてもらえますか? じゃ、よろしく~」
「仕事ですかLT?」
「詳細はわからんが結構な大物らしい。組合のMSを借りておいてくれ」
「ROG、LT」
「そうだ、せっかくだからアイツらにも手伝わせるか」
ロフマンは意地の悪い笑みを浮かべた。