ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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ボーイ・ミーツ・ジム 1

21時11分 チャットルーム

『MS免許取った! 一発合格だぜ!』

『おめでとう』

『congratulation!』

『で、何買うか決めてるのか?』

『Zレプリカ欲しい』

『HAHAHA 可変機は買うのも高いけどメンテ費用も半端じゃないからな』

『おいおい勘弁しろよ……そんな予算はないぞ』

『ガンダム系レプリカは気を付けた方がいい。メーカーによって当たりハズレが大きい』

『大丈夫。わかってるよ。あくまで希望だ、希望』

『ハイザックはいいぞ』

『思い切ってジェガンにしょうぜ~』

『ジェガンは払い下げが始まったばかりだから、まだ高いだろ?』

『とりあえず明日、見に行ってみようと思う』

『いいね~。やっぱり生で見ないとな。付き合うよ』

『俺も一緒に行くぞ』

『OK! 学校が終わったらみんなで行こう!』

 

 

 

16時38分 MSショップ『Y&Ms』

「見ろよ! ジムⅢにマラサイ! ガンダムレプリカまであるぞ!」

「落ち着けショーン! 恥ずかしいだろ……」

 

 ケンジが窘めるが、MSオタクのショーンの耳には届かない。

 小太りの体を揺らしてショーンはMSの間を駆けて行く。

 

「無駄だろ。ああなったらショーンは止まらないからな」

 

 エフラムはそう言って笑うと、浅黒い肌の隙間から白い歯をのぞかせた。

 

「で、パイロットとしては、どのMSがお好みだい?」

「からかうなよエフラム。こんな高いの買う予算はないだろ」

 

 プライスボードに表示されている価格はとてもケンジら学生がおいそれと手を出せる金額ではない。

 ただプライスボードに表示されている内容は、中古MSとしては破格の好条件。

 『被撃墜歴ナシ』『基地警備使用』『稼働時間少なめ』等、状態が良いことを伺わせる文字が躍っている。

 『Y&Ms』はこのコロニーで一番規模の大きいMSショップで、万全の整備と状態の良さを売りにしているのだ。値段が高いのも当然。

 

「お客様、どのようなMSをお探しですか?」

 

 ふいに後ろから声を掛けられる。

 この店の営業なのだろう。スーツを着た中年男性が立っていた。

 

「あ~……その、MS免許を取ったばかりで……手頃なMSを探してるんだ、正直ここに並んでるのは予算オーバーで……『お宝コーナー』があるってサイトで見たんだけど」

 不意を突かれたためにしどろもどろになるケンジ。

 ウェブサイトで調べたときから予算オーバーなのはわかっていた。だが『お宝コーナー』には低価格のMSもあると、小さく記載されていたのだ。

「そうでしたか。どうぞこちらへ。ご案内します」

 

 営業マンはさして落胆も見せず店の裏手へ案内した。

 

 

 

16時44分 店舗裏手

「こちらが『お宝コーナー』です」

「ある程度予想はしていたが……」

「まぁ、こうなるよな……」

「スゲー! ザクⅠにボールだ! 初めて見たよ!」

 

 顔を見合わせるケンジとエフラム。ショーンだけははしゃいでいる。

 薄暗い倉庫に並べられたMSを見渡す。

 表側に展示されたMSに比べ圧倒的に古い。

 第一世代型MSがほとんどで、しかも『被撃墜歴アリ』『フレーム修復歴アリ』『長時間稼働』と不穏な文字が躍っている。

 

「それでも結構な値段するな……」

 

 表側のMSより安くなっているとはいえ、それでも予算オーバーだ。

 

「お客様。当店では品質を大事にしております。確かに型は古いですが自社工場で整備は万全、さらに6か月の保証付きですので、どうしてもこの価格になってしまうのです」

 

 ケンジの漏らしたボヤキに律義に答える営業マン。

 

「恐れ入りますが、ご予算はいかほどでしょうか?」

 

 ケンジとエフラムは顔を見合わせると恐る恐る答えた。

 

「このくらいなんですが……」

「お客様……そのご予算ですと、当店でお売りできるのはボールかプチモビルスーツだけになってしまいます」

 

 笑顔が崩れた営業マンの渋面は、しばらくケンジらの脳裏から離れないだろう。

 

 

 

19時22分 ジャンク屋街

「なぁ~ケンジ~今日はもう帰ろうぜ~……」

「俺もショーンに賛成」

 

 歩き疲れたショーンがウンザリした声でぼやく。

 エフラムもそれに同調するが、少々理由が違う。

 

「もう少し下調べしてから出直した方がいいんじゃないか?」

 

 エフラムの意見はもっともだ。

 『Y&Ms』を見たあと、他のMSショップを回ったが、どれも結果は芳しくない。

 そしてMSショップを探し回るうちにジャンク屋の集まる地区に流されてしまっていた。

 

「もう一軒! 最後にもう一軒だけ見せてくれ!」

 

 ケンジは二人に向き直ると懇願した。

 やっとMS免許を取得し、念願である『自分のMS』を手に入れられると思ったのだ。

 しかし、思うようにいかない。

 その悔しさが表情から読み取れた。

 

「……OK……でも、もう一軒だけだぞ」

 

 エフラムは肩をすくめると、ショーンと共に苦笑いを浮かべた。

 

「ありがとう!」

 

 ケンジの顔がパっと輝く。

 が、

 

「で、どこか目星をつけてる店はあるのか?」

「え? ……ええ、と……」

 

 エフラムの言葉にケンジの目が泳ぐ泳ぐ。

 

「まさか適当に彷徨ってただけか?!」

「そ、そんなことはない……」

 

 ショーンの悲鳴にも似た指摘に顔を背けて反論するも、白々しいことこの上ない。

 

「だいたいここジャンク屋街だぞ? まともなMSなんて売ってるのか?」

 追い打ちをかけるエフラム。

「おいおいおい。俺らはお前がどこかの店に目星をつけてるもんだと思って付いてきてるんだぞ?」

 

 エフラムの声に困惑が混じる。

 ケンジにしてみれば不可抗力だ。やっきになってMSショップを探すうちに、こんなところに流れ着いてしまったのだ。

 視野が狭くなっていただけなのだ、悪気はない。

 

「えと……」

 

 答えに窮し、目を泳がせていると一枚の看板を見付けた。

 

──『ロフマンガレージ』

──『リビルドパーツ』『中古MS』

 

「あ、あそこだよ! あの店!」

 

 とっさに看板を指さすケンジ。

 二人も看板に目を向け、やがて顔を見合わせた。

 

「……本当にあの店かケンジ?」

「……大丈夫なのか?」

 

 二人が不安を抱くのは無理もない。

 その看板はあまりにも汚れがひどく、まともに手入れされているようには見えなかった。

 

「本当さ! こんなところだから見付けるのに時間がかかっただけだよ」

 

 引きつった笑顔で答えるとケンジは先頭に立って歩きだした。

 

 

 

19時26分 『ロフマンガレージ』事務所

「…………」

 

 連邦軍の補給用コンテナを改造した事務所で老人は一人、色褪せた写真を眺めていた。

 

──助けられなかった戦友

──隊長の言葉

 

 その後も何回かの戦乱を乗り越え、歳を重ね、踏ん切りは付いたものの、思い出すたび悲しみがこみ上げる。

 だが、決して忘れられぬ、忘れてはならない戦友との思い出。

 

(……今日は帰るか)

 

 写真立てに背を向けて、帰り支度を始めようとした時だった。

 

「えくすきゅーず・み~……」

 

 事務所の扉が開き、ケンジが恐る恐る顔をのぞかせる。

 

「あ?」

 

 思い出に浸っていたところに不意に声を掛けられたものだから、条件反射で威圧してしまった。

 

「あっ、いや……表の看板を見て来たんですが……」

 

 先程エフラムたちに問い詰められたのが尾を引いているのか、はたまた老人の威圧に押されたかケンジにいつもの覇気はない。

 

「あ?」

 

 老人から出てきた言葉は同じだが、今度は威圧抜きの疑問の意。

 しかしケンジは威圧と受け取ってしまった。

 

「いや、そのすんません。出直します」

 

 そう言って静かに扉を閉めようとしたのだが、

 

「なにやってんだよ」

「早く入れって」

 

 エフラムとショーンに押し込まれた。

 

「…………」

「…………」

 

 ケンジと老人の目が合うが、無言。

 エフラムは埒が明かないと思い、一歩前へ出た。

 

「こちらでMSを扱っているということだったので、見せていただきたいのですが?」

「……あ~、客か。だけど今日はもう店仕舞い……」

 

 言いかけて止めた。

 思い出したのだ、ここ最近の収入が少ないことを。

 今現在、ジャンク屋は儲かる商売ではない。

 昔は撃墜されたMSをバラし、リビルドパーツ(再生部品)として軍に持ち込めば生計が建てられた。

 第二次ネオジオン戦争終結後は生活再建のために民間での鉄屑需要が高まり、復興特需が起きて一儲けできた。

 だが、復興が一段落すると航路の安全を確保するための保守業務しか残っていなかった。

 最近はそんな状況を見かねた娘と娘婿から「仕事を辞めて一緒に暮らそう」と言われているが、素直に聞くのも癪だ。

 

「なぁ、今日は店仕舞いだそうだから、また出直して……」

「いいぞ」

「え?」

「MSだろ? 付いてこい」

 

 どんな心変わりがあったのかケンジにはわからないが、老人は歳に似合わぬしっかりとした足取りで歩きだした。

 

 

 

19時31分 『ロフマンガレージ』倉庫

「ここだ」

 

 案内されたのはミデア輸送機のコンテナを改造して作られた倉庫。

 老人は明りを付け三人を招き入れた。

 

「今、ウチにあるのはこいつだけだ」

 

 目の前にあったのは一機のMS。それがトレーラーに寝かせた状態で駐機されていた。

 

「ジム? ……いや、ジムⅡか!」

「なんだ、詳しいじゃないか」

 

 ショーンが機体名を言い当てると老人は嬉しそうにニヤリと笑う。

 寝かせてあるために全体が見えない、というか今の立ち位置だと脚部しかまともに見れないのだが、ショーンは見事に判別した。

 

「足裏のスラスター形状がジムと違いますからね!」

 

 得意満面の笑みだ。

 

「こいつの履歴だ」

 

 機体の履歴、整備状況等の書類が挟まれたクリップボードを受け取ると、三人でのぞき込む。

 

「おい?! この値段なら買えるぞ!」

「本当だ! しかも少し余る!」

「駐機場代も出せるかな!」

 

 値段の安さに沸き立つ。

 夢のMYモビルスーツに手が届くのだ。

 

「あ、これ三回も撃墜されてるぞ……」

「ジム改装型のジムⅡかぁ……」

「しかもニコイチだし……」

 

 しかし現実は厳しい。

 中古MSの中で比べても、この機体のコンディションは悪い部類だろう。

 MSは戦争の道具であるため、大なり小なり修復歴があるものだが、撃墜三回は多い。

 よく途中で廃棄されずに残ったものだ。

 MS愛好家の中には被撃墜歴など気にしないという人もいるし、撃墜されたMSのパーツを寄せ集めて一機作ってしまう猛者もいるが、初心者である三人はその境地に達していない。

改めてこのジムⅡの履歴を見てみよう。

 

 0080年 終戦後の二月にジャブローで後期生産型としてロールアウト

 0083年 デラーズ紛争にて頭部と右腕を損失。中破判定

 0085年 RGM79RジムⅡへ改装。ジェネレーター交換

 0087年 ジャブロー降下作戦にて右腕損失。胴体基部誘爆により大破判定

 0088年 メールシュトローム作戦にて下半身損失。大破判定

 0089年 旧式化に伴い予備機に指定。モスボール保管

 0099年 予備機指定解除。用途廃棄

 0101年 レストアされ民間機登録

 0113年 転売後オーバーホール

 0116年 転売。現在に至る

 

 なんとも波乱万丈な機歴である。

 被撃墜歴三回2オーナー。

 MS初心者がひるむには十分すぎる悪コンディション。

 

「……どう思う?」

「やめておいた方が無難だろ?」

「被撃墜歴三回って、誰か死んでるんじゃ……」

 

 口々にこのジムⅡへの不安を口にする。

 

「安心しろ。この機体じゃ誰も死んじゃいない」

 

 老人が涼しい顔で口を挟む。

 

「三回も撃墜されてるのにですか?」

 

 いかにも疑わしいという顔でエフラムは尋ねた。

 

「機歴をよく見ろ。手足をやられたぐらいじゃMSは簡単に墜ちたりしない。それに左側の損傷がないだろ? こいつのパイロットは盾をしっかりと構えて身を守ってたってことだ」

 

 言われてみればその通りで、胴体へのダメージも誘爆によるものと読み取れるし、バイタルパートへの直接の被弾はない。

 

「逆に言えば、こいつは三回も撃墜されながらパイロットを連れ帰った幸運機といえるな」

 

 嬉しそうに話す老人に三人は顔を見合わせる。

 

「あの……フレームに問題は?」

「実戦で使ってたからな。多少の歪みはあるが、修正が必要なほどではないし、操縦に支障が出るほどでもない」

「ジム改装型ってことは、相当古いですよね? 大丈夫なんですか?」

「レストアしてからオーバーホールまで受けてる。消耗品さえ換えてやればいい」

「…………」

「まだ聞きたいことはあるか? ん?」

 

 老人は余裕の笑みを浮かべてニヤニヤしている。

 

「どうするケンジ?」

「ジムⅡはジムⅡでも、どうせならRMS179の方がいいよな……」

 

 ショーンが言っているのは最初から『ジムⅡ』として建造された機体のことだ。当然のことながら、新しい分だけコンディションも良い。

ケンジはもう一度機歴を見直した。

 

「…………いや、これにしよう」

「正気か?!」

 

 ショーンが驚くが、ケンジは至って冷静だ。

 

「落ち着けよショーン。今の俺らじゃコレで精一杯だ。他の店じゃ高くてとても買えない。それにメンテ代や駐機場代も残しておかないとな」

「おいおいケンジが大分まともなこと言ってるぞ」

「殴るぞエフラム……」

「お~、怖い怖い」

 

 不貞腐れるケンジをよそに、エフラムはショーンに向き直る。

 

「ショーン、お前の言いたいこともわかるが、ケンジが言うことももっともだ。それに、現実問題これしか俺らに買えるMSはなさそうだ」

「そうかもしれないけど……」

「最初に決めたじゃないか、『乗るMSはパイロットが決める』って」

「……わかったよ、パイロットはケンジだ。ケンジが決めればいい」

 

 不承不承ながらショーンも同意。

 頃合いとみて老人は声をかけた。

 

「話はまとまったか?」

「はい。このジムⅡを買います!」

 

 

 

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