ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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ジムは高機動の夢を見るか? 2

15時36分 ロフマンガレージ 事務所

「よ~し、お前ら。MM(ミッションミーティング)始めるぞ」

 

 妙にご機嫌なロフマンがパソコンのディスプレイ脇に仁王立ち。

 珍しいことにノーマルスーツを着込んでいる。

 同じようにノーマルスーツを着込んだケンジたちが顔を見合わせた。

 始めて見るハイテンションのロフマンに戸惑いを隠せない。

 

「ん? どうした? お前ら?」

「はぁ……今日はロフマンさんが一緒に行くんですか?」

「ああ、俺の引率だ。しっかりついてこい」

 

 ニカッと口の端を上げると、年相応に黄ばんだ歯を見せるロフマン。

 皆一様にげんなり。

 

「まぁ……わかりました。それで俺たちは何をすれば?」

 

 ケンジたちはロフマンから「バイトがある」と言われて来たのだが、内容までは聞かされていない。

 他に伝えられていたことは「MSを使うこと」と「そこそこのバイト代が出る」ことぐらいだ。

 

「なぁに、簡単な仕事だ。ロジャー」

「了解」

 

 ロジャーがパソコンを操作。

 ディスプレイにサイド6周辺宙域の概略図が表示される。

 

「現在、サイド6に向けて移動中の漂流物が二つある。一つは岩石を主体としたデブリ群、こっちはかすめるだけなので問題ない。問題なのはもう一つの漂流物だ。こっちは11バンチとの衝突コースに乗ってる」

 

 概略図にデブリ群と漂流物の予想針路が追加。

 それを見ると二つの漂流物の針路が見事に交差していた。

 デブリ群が通り抜けた後、漂流物が突っ込んでくる感じになっている。

 

「漂流物は光学観測の結果、戦艦もしくは巡洋艦の砲塔と判明している」

「それを俺らのジムで回収すると?」

「戦艦の砲塔だぞ? ジム一機で回収するにはきつい質量だな」

 

 表示された漂流物のデータを眺めると、確かにデカい。

 ジムⅡ一機でも回収できないことはないだろうが、手間も時間もかかるだろう。

 はっきり言って効率が悪い。

 

「だからお前らのジムⅡと、MSをもう一機。合計二機で回収作業を行う」

「あの……もう一機っていうのは……?」

「俺が乗る」

(あぁ……やっぱり……)

 

 ビシッと宣言するロフマン。

 薄々わかっていたことではあるが、不安的中。

 言葉にこそ出さないが三人の心は一つ。

 

(((大丈夫なのか?)))

 

 ロフマンは齢60を超える老体である。

 そんな高齢者であるロフマンがMSに乗るというので一抹の不安も覚えようというもの。

 そもそも三人はロフマンがMSどころかプチモビに乗っているところすら見たことがない。

 

「手順を説明するぞ」

 

 ケンジたちの不安を余所に、意気揚々としゃべるロフマン。

 

「まずはMS二機がデブリ群を突破。漂流物にワイヤーを掛けて牽引する。牽引の準備が終わる頃にはデブリ群も通り抜けてるだろうから、何の心配もなく帰って来れるはずだ」

「…………」

「戻ってきたらエアロック脇の外壁に漂流物を縛り付ける。この作業はプチモビと共同で行う。ロジャーともう一人、そっちから出してくれ」

「じゃあ、俺がやります」

 

 エフラムが手を上げると、ロフマンは鷹揚にうなずいた。

 

「固定が終われば、お前らの仕事は終わりだ。質問はあるか?」

「これ、レーザー砲で壊した方が早くないですか?」

 

 ショーンの素朴な疑問。

 宇宙空間にはこういった漂流物が珍しくないため、各コロニーには自衛用のレーザー砲が設置されている。

 有名な運用例としては第二次ネオジオン戦争時の『5thルナ降下阻止作戦』が挙げられるだろう。もっとも作戦は失敗に終わってしまったが。

 

「お前ら外壁工事やってたんだろ? レーザー砲なんて使った日には微小デブリがコロニーに刺さるだろうが」

 

 コロニーには日々、レーダーに映らない微小デブリが衝突している。

 もちろんコロニーの外壁は頑丈であり、その多くは大事に至ることはない。

 それでも数多くのデブリが当たり続ければ、外壁は凹み、削られ、やがて穴が開いてしまう。

 そうならないようにコロニー公社(実作業は下請けのモノトーンマウス社)では、毎日の点検と補修工事を繰り返している。

 無駄な仕事を増やさないためにも、漂流物は破壊せずに回収するのが望ましい。

 

「す、すいません……」

「レーザー砲は最後の手段だ。俺たちの作業が失敗したら撃つことになってる」

 

 自分で言っていて忌々しい表情を浮かべるロフマン。

 次いでエフラムが手を上げた。

 

「デブリ群が通り抜けてから作業を始めた方がよくないですか?」

 

 エフラムの至極まっとうな意見。

 だがロフマンはまるで予想していたかのように、澱みなく説明し始めた。

 

「デブリ群の通過を待つと、すぐにレーザー砲の阻止限界点で余裕がない。作業時間と万が一のためにリカバリーの時間を確保しておきたい」

 

 ディスプレイには新たな画像が表示された。

 

「交通局の宙域予想図では幸いなことにデブリ群の密度はそれほど高くない。この程度なら難なく抜けられるはずだ」

「しかし万が一と言うのであれば……」

「よせよエフラム。この程度のデブリ密度なら大丈夫さ。これならコースの方が密度が高いよ」

「いやでもなぁ……」

「心配するなって。ヤバかったら逃げるさ。レースと違ってエスケープゾーンが使い放題だからな」

 

 余裕の笑みでエフラムをなだめるケンジ。

 

「……わかったよ、でも無茶はするなよ」

「他に質問はあるか?」

「ハイ! 今回のバイト代はいくらもらえるんでしょうか?」

 

 ケンジの即物的な質問。

 

「今回の報酬は交通局から出ることになってる。それなりの金額だから心配するな。それと推進剤は俺から支給してやる」

「わっかりました!」

 

 ケンジにしてみればMSをタダで飛ばせて金までもらえる、ちょろい仕事。

 否が応にも顔が緩む。

 

「じゃあ準備を始めろ。すぐに出るぞ」

 

 

 

15時59分 ロフマンガレージ 二番倉庫前

「お、お、おおぉぉぉ……MS-06R?! しかもR2!? R2だと!」

「落ち着けショーン……」

 

 目の前に現れたMSに感銘を受けるショーン。

 明確に挙動不審。

 

「これってザクⅡのバリエーション機だろ?」

「なんかスゴイのか?」

 

 ケンジとエフラムには何がスゴイのかわからない。

 

「何言ってんの?! 06Rだよ?! 約80機しか造られなかったと言われる機体なんだよ?! R2に至ってはたったの4機だよ! 4機!」

 

 ショーンの言うように『MS-06R高機動型ザクⅡ』の生産数は、量産されたザクⅡのバリエーション機の中では少ない上、そのほとんどが失われている。

 そのためマニアの間で06R2は『幻のザク』とも言われる。

 

「まあF2型ベースのレプリカなんだけどね」

「あぁ……やっぱりそうなんすね……」

 

 熱くなったショーンに、水を差すロジャー。

 四機しか建造されなかったMSが、こんな場末のジャンク屋にあろうはずがない。

 さすがのショーンも心のどこかではわかっていたはずなのに、目の前に現れると冷静ではいられない。

 ちなみに『MS-06R』は一機だけ実機の現存が確認できる。

 四機建造された06R2型の内の一機はR3型に改修され、ジオニック社で研究用として運用されたため戦火を免れている。

 一年戦争終結後はとある戦争博物館に展示されていたが、現在は月のアナハイムミュージアムに収蔵されている。

 

「でも、コレよく出来てるな~」

「だろ? これはビル……ラプターMP99に乗ってた爺さん、覚えてる?」

「あの納機された日に会った?」

「そう、そのビルが『F型は遅くて仕事がはかどらん』とか言って改造しちゃった。組合の共用機だからほどほどにして欲しいんだけどね」

 

 ロジャーとショーンが笑い合う。

 組合とは複数のジャンク屋で構成される「ジャンク屋組合」のことで、今回のように機材や人員を融通し合ったりしている。

 

「コイツはF型ベースだけど、ビルがちょくちょくいじってるから、オリジナルのR2より速いんじゃないかな?」

「F型ベースなのに?!」

 

 工作精度の向上や、材料工学に制御技術の進歩によって、オリジナルをそのまま再現してもレプリカの方が性能が良かったりするのはしばしば起きることである。

 もっとも、今回の場合はビルの改造が主な原因。

 

「おいロジャー! ジムはなかったのか? ジムは?」

 

 頭上からロフマンの声。

 コクピットハッチから身を乗り出して不満をぶちまける。

 

「今日はリーのグループが使ってます」

「クソっ! よりにもよってザクかよ」

 

 不機嫌さも露に仏頂面でハッチを閉めるロフマン。

 ジャンク屋組合の組合員なら誰でも使える共用MSなので、こんな時もある。

 

「ロフマンさんって、いつもジム使うんですか?」

「本当ならLT用のジムがあるんだけど、あいにく今はオーバーホール中でね」

『おいお前ら! 早くMS持ってこい! 行くぞ!』

 

 

 

16時33分 サイド6 近傍宙域

「ショーン、スラスターの具合はどうだ?」

「好調、好調。燃焼も安定してる」

 

 ケンジが横に座るショーンに尋ねる。

 リニアシートに接続したタブレットPCで、機体状況をモニタリングするショーン。

 期待値に近い数値が出てご満悦。

 今回はテストフライトも兼ねているので、データ取りのためにショーンは同乗していた。

 

「大体、シミュレーション通りの数値が出てるよ」

「そりゃ良かった。…………ところで左膝なんだけどさ」

「何かあった?」

「微妙な違和感があるんだ。なんかこう……」

「わかった、帰ったら見てみるよ」

 

 微妙過ぎて上手く言語化できないケンジ。

 だがショーンには何となく伝わった。

 

『よ~し、お前ら。これからデブリ群を突っ切るぞ。しっかり付いてこい』

 

 ロフマンからの通信。

 今日は妙に鼻息が荒い。

 

「ロフマンさんこそ遅れないでくださいよ、旧型機なんだから」

『言うじゃないか。なら、俺より早く目標に着いたらバイト代を一割増にしてやる』

「マジっすか?!」

 

 一割増と言うところが微妙にロフマンらしくてケチ臭い。

 だがケンジたちにとっては一割だろうが増える分にはありがたい。

 ジェネレーター出力を最大へ。

 

「あとで『やっぱナシ』とか言わないでくださいよ!」

 

 

 

16時36分 デブリ群

「クソっ! なんだアレ?!」

 

 ロフマンの06Rが『また』視界から消える。

 メインスラスターは全開、AMBACと脚部スラスターで向きを変える06R。

スーと進入してはシュッと消える。

 まるでスピードスケート選手のような動き。

 

「ちくしょう!」

 

 ジムⅡがスラスター最大出力でターンイン。

 姿勢制御スラスター同時点火で強引に向きを変える。

 

──強烈な横G

 

 胃液が片寄る感覚。

 歯を食いしばって耐える。

 

──姿勢制御スラスター噴射終了

 

 この間、スロットルペダルは限界まで踏み込んだまま。

 慣性で機体が流れる。

 機体が軋む。

 だがスロットルペダルは緩めない。

 増設した脚部スラスターで慣性を打ち消し、

 

──直進

 

 猪突猛進。

 ジムⅡのジェネレーターが最大出力を絞り出す。

 ロフマンの06Rを捉えた。

 一つ先の岩石にゆったりとアプローチ中。

 

「なめ腐ったコーナリングしやがって!」

 

 なめているのかと思ってしまうようなコーナリング。

 06Rはゆらりと機体を揺らすと、ふっ──と岩石の向こうに消えた。

 

「っの……根性――――っ!」

 

 全速力でコーナーに進入するジムⅡ。

 06Rよりも速い突っ込み。

 最大推力で行われる制動と旋回。

 胃から熱い物がこみ上げる。

 吐き気をこらえつつ立ち上がると、もう06Rは見えなくなっていた。

 

「……ウソだろ?」

 

 

 

16時47分 サイド6 近傍宙域

『よぉ、どうした? ずいぶんゆっくり来たじゃないか?』

 

 余裕綽々、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるロフマン。

 06Rが勝ち誇るように、回収目標である砲塔脇に陣取る。

 

「ぜぇ……ぜぇ……シェ、シェイクダウンだったんでね……機体を労わったんですよ」

 

 対して肩で息をするほど消耗したケンジ。

 それでも精一杯の減らず口。

 

『まぁいい。こいつを早く引っ張るぞ』

「じゃあすぐに玉掛けを……」

『もう済んでるぞ』

「え?!」

 

 よくよく見ると牽引ワイヤーは掛け終わっていた。

 あとは牽くばかり。

 ロフマンの手際の良さに舌を巻く。

 

『牽く時に中を見るなよ。遺体がある』

「遺体?!」

 

 ギョッとする。

 恐る恐る目が向いてしまう。

 ムサイ級のものと思しき緑に塗られた砲塔。

 ジムⅡの位置からは破孔は見えない。

 

『戦争は終わってるんだ、出来るだけ丁重に扱ってやりたい。辱めるようなマネはするな』

 

 かつて連邦の兵士としてジオンと戦ったロフマン。

 戦友を失い、憎しみに囚われた時もあった。

 仇を討つのだと。

 だが、当時の隊長は自らの信念を貫き、体を張ってロフマンを諫めた。

 

──憎しみは憎しみしか生まない。本当はわかっているはずだろ

 

 隊長に向けた銃は引き金を引けなかった。

 あの時、憎悪に身を委ね、引き金を引いていたら……。

 少なくともジオン兵を弔おうとは思わなかっただろう。

 自嘲気味に笑うロフマン。

 

『今、軌道データを送った。足並みを合わせろ』

「了解」

 

 軌道データを航法装置に入力。

 速度を合わせた06RとジムⅡが、ゆっくりとムサイの砲塔を牽き始めた。

 

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