ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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Z襲来 3

17時23分 ロフマンガレージ 事務所

「俺がコーチだぁ~?」

「は、はい。お願いできないでしょうか、ロフマンさん?」

「お前と」

「はい」

「その嬢ちゃんと」

「はい」

「二人をか?」

「そうです! お願いします!」

 

 ケンジの提案とは、ロフマンに操縦を教えてもらうこと。

 ロフマンと飛んだあの日から、あの機動が脳裏に焼き付いて離れない。

 一人で考えたり練習したりしてみるが、未だロフマンの動きに近付けないでいた。

 悔しいが独学を諦め、ロフマンに師事しようと考えていた矢先だった。ついでにカエデも一緒に教えてもらえばいい。

 

「……う~ん」

 

 対してロフマンの心中は複雑である。

 ケンジを教えるのはいい。

 ロフマンとしてはこうなるように種を蒔いていたのだから。

 レース映像から『今のケンジが出来ない操縦』を見せ付けることで、師事してくるように仕向ける。

 MSを遊びで転がしているだけなら教えを乞う必要などないが、レースで上を目指すとなれば話は別。

 いづれ壁に当たることは目に見えていた。

 だから渋い顔を作りながら内心ほくそ笑んでいたのだが、『おまけ』が理解できない。

 

「その嬢ちゃんはライバルじゃないのか?」

「それはそうなんだけど……」

(コイツ、深く考えてないな……)

 

 呆れる。

 ケンジを助けるのは、ロフマン自身の収入を安定させるためである。

 彼の成績が上がり安定して賞金を稼げるようになれば、ロフマンに家賃や修理費という形で利益をもたらすからだ。

 だがカエデに教えるということは、その確率を落とすことにつながる。

 

(隊長もお人好しだったが芯があった。コイツはまだそこに至っていない……ただのお人好しだな……)

 

 一年戦争時の上官を思い出し、わずかに頬が緩む。

 が、すぐに表情を作り直し、めんどくさそうに手を振ってみる。

 

「教えるのは構わんが俺に何の得がある? リターンはなんだ?」

「えっ……と……」

 

 意地の悪い笑みを浮かべるロフマン。

 すぐに承諾しても良いのだが、それでは舐められる。

 ケンジはケンジで報酬など考えていなかったらしく、言葉に詰まる。

 

(おいおい……しっかりしろよ……)

 

 ケンジの熱意溢れる発言が聞けると思っていたのに肩透かし。

 

「そっちの嬢ちゃんたちはどうするんだ?」

「私たちは指導料をお支払いいたしますわ」

 

 リーゼが目配せすると、控えていた使用人が金額の書かれた紙をスッと差し出す。

 

「! こいつぁたまげた! 気前がいいな!」

 

 本当にたまげた。

 ロフマンが思っていた金額よりはるかに高い。

 余裕ぶって悪役老人を気取ってはいるが、今にも尻尾を振りそうだ。

 

「ロフマン様は高い操縦技術をお持ちと聞きました。そのぐらいの額は当然かと」

「失礼ながら経歴を調べさせていただきました。お嬢様のパーソナルトレーナーの給与をもとに算出しております。過不足はございませんか?」

「なるほどね」

 

 リーゼがこそばゆい言葉で持ち上げ、使用人が補足する。

 ケンジたちに払う訳にはいかないが、ロフマンはチーム運営に関わっていない部外者。

 札束でぶん殴るのが手っ取り早い。

 

「いや、問題ない。十分な額だ」

 

 ジャンク屋を辞めてそっちで仕事した方がいいんじゃないかと思えてくる。

 だがそういう訳にもいくまいと思い直す。

 ケンジに視線を戻すと、まだ悩んでいた。

 最悪、タダで指導しても良いと思っていたのだが、リーゼから金をもらってケンジから取らないという訳にもいかない。

 体裁は整えなければ。

 

「とりあえず、お前らはウチの仕事を手伝え」

「はい……」

 

 ケンジはジャンク屋でタダ働き決定。

 ともあれ話はまとまった。

 

「よし、早速だが二人の『操作』が見たい。おい、お前らのジムⅡを使うぞ」

「宇宙に出るんですか?」

「いや、今日はシミュレーターだけだ。ノーマルスーツも着なくていいぞ。嬢ちゃんたちのガザは操縦系統どうなってる? ジオン系か?」

「アグレッサーで使われていた機体ですので、連邦系に乗せ換えてありますわ」

 

 時は金なり。

 テキパキと指示を出すロフマン。珍しく生き生きとしている。

 その様子を見ていたロジャーが微かに微笑む。ロフマンが臨時で訓練教官をした時のことを思い出したのだ。

 

 

 

17時45分 ジムⅡ コクピット

「ロフマンさん、立ち上げましたよ。シミュレーターの設定はどうします?」

 

 MSには過去の戦闘データを元に訓練が出来るよう、簡易シミュレーターの機能が搭載されている。

 この機能を使えば実際には機体を動かすことなく、要は整備の負担を増やす事なく訓練できる。

 戦時中のパイロットは暇さえあれば、この簡易シミュレーターをやっていたという。

 ケンジたちのジムⅡは過去のデータが消去されているので、ケンジたちが買ってからのデータでのみシミュレーションできる。

 

「とりあえずは何もいらん。敵機も障害物もナシで設定しろ。嬢ちゃん……エインズワースでいいんだったか?」

「はい」

「よし。準備ができたらシートに座れ」

「……はい」

 

 やや不安気なカエデの返事。

 コクピットの中はケンジ、カエデ、ロフマンの三人だけ。

 他のメンバーはキャットウォークから様子を見守っている。

 

「準備できたぞ」

「…………」

 

 無言でうなずく。

 ケンジがシートを譲ると、カエデがシートに収まった。

 

「じゃあ先ずはスロットルペダルだけ踏んでみてくれ。そうだな……最初は推力50%になるように、だ」

「? わかりました」

 

 ロフマンの意図が分からぬままスロットルペダルを踏む。

 じわっとメーターの数値が上がってくる。

 

 ……20……30……40……45……50……55……40%

 

 目標数値を過ぎ、慌ててスロットを緩めるが、今度は戻しすぎ。

 

「推力50%を30秒維持しろ」

「……はい」

 

 カエデの足に力が籠る。

 が、これが地味に難しい。

 50%を維持できず、45~55%辺りの数値を行ったり来たり。

 キッチリ50%で踏めていたのは30秒中半分程度。

 

「もう一回だ。今度は前後3%の誤差を目指してみろ」

「……はい」

 

 改めてペダルを踏み込む。

 だが今度は慎重に踏みすぎたせいか、推力が50%になかなかならない。

 

「しっかり踏み込め」

「……はい」

 

 一回目より多少マシではあるものの、やはり数値が安定しない。

 たかだか30秒ペダルを踏んだだけなのに疲れる。

 

「まぁ最初はこんなもんか。よし交代だ」

 

 カエデと入れ替わりでシートに座るケンジ。

 

「同じようにやってみろ。推力50%だ」

「了解っす!」

 

 ケンジがグッとペダルを踏み込む。

 

 ……70……40……55……50%

 

 力が入り過ぎたのか、目標値を大きく超えた。

 そして戻しすぎ。数値の振れ幅が大きい。

 

「しっかりコントロールしろ! もう一回!」

「はい!」

 

 ……65……42……53……50%

 

「お前のペダルにはオンかオフしかねえのか?! もっと丁寧に踏め!」

「ちょっ?! 扱いが違うくないっすかロフマンさん?!」

「嬢ちゃんは『金を払ってる』、お前は『金を払ってない』。その差だ」

「ぐ……」

 

 ぐうの音も出ない。

 

「まあいい。ちょっとそこ変われ」

 

 ケンジを引っぺがして、ロフマンがシートに収まる。

 ペダルをスッと踏み込むと、推力がスーッと奇麗に上がっていく。

 

……30……40……50……50……50%

 

 見事なペダルワーク。

 たまにメーターがピクリと動くが、誤差1%で収め続けている。

 

「お前らのレース映像を見たが、操作が『雑』だ。ペダル操作が安定していないからコーナリング中にカクカク動いて遅くなってる」

「…………」

「嬢ちゃん……エインズワースはガザの加速性能に頼りすぎだ。コーナーでのコントロールが上手くなれば、もっと立ち上がり速度を乗せられる」

「…………はい」

「ケンジは……突っ込みはいいんだが、スロットを戻しすぎてる。突っ込みで稼いだ速度があれでパァだ。突っ込んだ後のことを意識しろ」

「……了解っす」

 

 今まで受けたことのない指摘に面食らう。

 確かにペダル操作を意識するのはベタ踏みか全閉の時ぐらいで、それ以外は感覚的目分量で踏んでいた。

 まさか『ペダル操作』などという操作の基礎の基礎からして差があったとは思わなかった。

 

「俺はお前らのチームリーダーと話してくるから、二人で練習を続けろ。目標出力はその都度変えろ、いいな?」

 

 年の割に軽やかな身のこなしで外に出ると、キャノピーを閉めるロフマン。

 コクピットにはケンジとカエデだけが残された。

 

「あ~……とりあえずやろうか……」

 

 ケンジの言葉に、カエデがコクリと頷いた。

 

 

 

17時54分 三番倉庫 キャットウォーク

「お前ら状況は掌握して……モニターしてたみたいだな」

 

 ロフマンが機外に出ると、そこにはタブレット端末を接続したショーンの姿。

 そしてそのタブレット端末を皆で食い入るように見ていた。

 

「ロフマンさん、二人は……どうですか?」

「どうもこうもあるか、二人とも基礎からやり直しだ」

 

 エフラムの問いに、ぶっきらぼうに答えるロフマン。

 しかし言葉に棘がない。

 むしろ笑ってさえいる。

 

「元から『スジ』は悪くねぇんだ。土台を鍛え直せば成績も安定するだろ」

 

 ニヤニヤと気持ち悪いロフマン。

 それはそうだろう。

 ロフマンが期待していた以上の状況になっているのだ。面白いことこの上ない。

 

「じゃあ!」

「しばらくは基礎練だ。それと嬢ちゃんたちはどうする? 次は自分らのMS持ってくるか?」

 

 遠回しに『そっちに行くのが面倒』と言うロフマン。

 

「そうさせていただきますわ。その方がカエデもやりやすいでしょうし」

「ちょっと待ってリーゼ。その前に修理しないと」

「なんだったらここで修理すればいい。詰めりゃもう一機入るだろ。パーツも運ばなくていい」

 

 話を勝手に進めるロフマン。

 慌てたのはエフラムとショーンである。

 

「いやちょっと待ってくださいよ! 金払って借りてるのは俺らですよ?!」

「ロフマンさん、この倉庫だと高さが足りないんですが……」

 

 ガザCの全高は22m。この倉庫は20m。

 収まらない。

 

「嬢ちゃんたちが使うときは家賃は半額。日割り計算だ。それなら文句はないだろ? 高さは…………穴の開いてる所に立たせりゃ何とかなるだろ。シートなんか外しちまえ」

 

 天井のブルーシートを指差すロフマン。

 思わず天を仰ぐエフラムとショーン。

 

「マジかぁ…………」

 

 

 

同時刻 ジムⅡ コクピット

「…………」

「…………」

 

 ケンジとカエデ。

 会話もなく、黙々とロフマンから出された課題に挑む二人。

 沈黙が場を支配し、なんとも居心地が悪り。

 何度目かの逡巡の後、ケンジは恐る恐る話を振ってみた。

 

「なぁ……人違いだったら申し訳ないんだが……もしかして、ホモアビスで鳥を追いかけてたりしなかった?」

「?! ……?!」

 

 ケンジの問いに、カエデは赤面しうつむく。

 言葉では答えなかったものの、その反応で答えがわかる。

 

「やっぱり!」

「な……なんで?!」

 

 ようやく『哀』以外の感情を引き出せた。

 嬉しくなるケンジだったが、カエデにつられて感情のパラメーターが『嬉しい』を通り越して『恥ずかしい』に。

 

「あ、い、いやその……俺も一時期、ホモアビスやってたんだ。ほら! ホモアビスってMSの操縦感覚を鍛えるのにいいって言うだろ?」

「……」

「その時に……その、飛んでるのを見たんだ。……楽しそうに飛ぶなって」

 

 ケンジも操縦技術向上のために、何度かホモアビスをやっている。

 もっとも、コツをつかんだらすぐに止めてしまったが。

 

(飛んでる時はあんなに笑ってたのに……)

 

 当時の彼女を思い出し、今の彼女と比べてしまう。

 いつもニコニコと笑顔を浮かべ、嬉々として飛び回っていた。

 鳥を見付けては寄っていき、群れを見れば一緒に飛ぶ。

 そんな姿をケンジは見ていた。

 

(こんなにも変わるもんなのか……)

 

 今のカエデに笑顔はなく、あの時のイメージからほど遠い。

 雰囲気が違いすぎるのだ。

 MS競技の会場で見た時は、同一人物だと思えなかった。

 確証が持てなかったので声をかけるにも持って回ったように、恐る恐る声をかけたのだ。。

 

「鳥……好き……なんだよね?」

「……」

 

 少し迷った後コクリとうなずくカエデ。

 その様子に少し安堵するケンジ。

 

「自然監視官になって地球に行きたいの……そうすれば、たくさん鳥が見られるから……」

「!? そ、そうだよな! コロニーには連れてきてない鳥がたくさんいるっていうもんな!」

 

 カエデの話に慌てて食らいつくケンジ。

 正直、将来の夢を語ってくれるとは思わなかったので、動揺している。

 打ち解けるにはもっと時間がかかると思っていた。

 なんとか話しを続けようと脳みそをフル回転させる。

 

「自然監視官だと……大学で資格取るんだっけ?」

「高卒でもなれるけど……鳥類の専門に進みたいから……大学に行かないと……」

 

 自然監視官は地球に憧れるスペースノイドに人気の職業の一つ。

 スペースノイドが地球の居住許可証を得るのは難しいが、この職に就けば合法的に地球に行くことができる。

 

「地球に行って……いろんな鳥を見たいの……コロニーにいない鳥を……」

 

 カエデの場合は単純に鳥が好きで、鳥と戯れたいだけなのだ。

 コロニー内にも鳥はいる。

 ただしそれは人間の都合によって選別されており、多様性などからは程遠い。

 例えばカラスのような『害獣』はコロニー内に放たれない。

 だから地球に行って『本物の鳥』を見てみたいのだ。それもたくさんの種類を。

 

「だから……結婚している暇なんてない……」

 

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