ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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騎士誕生?

10時17分 EWACジェガン コクピット

「……これか?」

「見えたのか?」

「噴射炎らしきもの複数……まだ遠いな。これだと思うんだが……」

 

 光学センサーの探知範囲ギリギリ。

 観測員が再度コンピューター解析をかけるが、特定できない。

 EWACジェガンは新型MS『へビーガン』への機種転換が進められているジェガンタイプの中で、唯一の例外として機体寿命延長処理とアップグレードが確定している。

 当初はへビーガンかGキャノンをベースにEWAC機を造る予定であったが、計画段階で頓挫していた。

 その理由は『積載量』。

 小型化したへビーガンでは大型で重量のある機材を積むことができない。

 ミノフスキー粒子散布下における索敵能力とは光学センサーの性能、乱暴に言えば『どれだけデカいレンズを積めるか』である。

 コンピューター解析などである程度は補えるが、レンズがデカいに越したことはない。

 レーダーにしても同様で、高出力の電磁波でミノフスキー粒子を突き抜けようとなると、レーダー本体を大型化せざるをえない。

 結局のところ新型へビーガンをEWAC機にしても、索敵能力で旧型のEWACジェガンに劣るのなら、使い続けた方が安上がりで済むという結論に至った。

 

「近付くか?」

「頼む。パッシブ再走査。アクティブ起動準備」

 

 光学センサーが周囲をスキャン。コンピューター解析の後、脅威度判定。

 敵影ナシ。

 

「アクティブ起動」

 

 レーダー波が全方位に広がっていく。

 EWAC乗りにとって、最も緊張する一瞬。

 レーダーを使うということは、自機の位置を曝露することである。

 過去の事例としてレーダー使用時に狙撃された例や、カモフラージュされた敵機に襲撃された例がある。

 

「どうだ?」

 

 周囲に目を光らせながらも、非燃焼系スラスターで機体位置をずらしていくパイロット。

 

「複数のMSを捕捉。IFF(敵味方識別装置)チェック……ビンゴだ」

「レーザー通信……確保。いいぞ」

「サクラ、サクラ、こちらレルヒ。感、明どうか?」

 

 

 

10時19分 サラミス改級巡洋艦『ミョウコウ』

「こちらサクラ。感度ヨシ。明度ヨシ」

 

 サラミス改巡洋艦ミョウコウ艦橋の空気が引き締まる。

 この艦はビンソン計画により急造され、数多の戦場を戦い抜いた武勲艦であり、そして旧型艦である。

 現在はサイド6駐留艦隊に配備され、哨戒任務に当たっていた。

 

『当該のMSを複数確認した』

「サクラ了解。映像の送信は可能か?」

『現在、撮影可能距離に移動中。しばし待たれたし』

「サクラ了解。レルヒは監視任務を続行せよ」

『レルヒ了解。監視任務を続行する。アウト』

 

 通信士が交信を終えると、後ろにいる艦長と副長に無言でうなずく。

 艦長は柔和な笑みを浮かべるとそっぽを向き、副長は無言のまま頷き返す。

 

「さて副長……」

「なんでしょうか艦長?」

「あとは若い者に任せて、年寄りは休むとしましょう」

「……そうですな……それがいいでしょう」

 

 すっとぼけた艦長の発言に、苦笑いをもって応える副長。

 

「あとは頼みましたよ。ほどほどに」

「お任せください艦長」

 

 艦長は艦橋を後にした。

 何も見なかったことにして。

 

「曹長、艦内放送を頼む」

「艦橋より各員へ、これより有志による『MS戦術機動研究会』を行う。参加希望の者は食堂に集合せよ。繰り返す……」

「さて曹長は誰に賭ける?」

 

 何のことはない。

 EWACジェガンが『偶然』観測してしまったデータでレース観戦とトトカルチョを行うのである。

 

 

 

10時27分 宇宙港6番ポート 仮設ピット

「追い出されちまった……」

「そりゃそうでしょ……」

 

 傷心のロフマンを呆れ顔で出迎えるケンジ。

 そのロフマンの格好はと言えば、いつもの小汚いツナギにフライトジャケット。

 右手にビール(大)と左手にはナゲットとフライドポテトのおつまみセット。

 良家のお嬢様方から白い目で見られること請け合いである。

 

「まあいいさ。監督としての給料はもらってないからな」

「はぁ……俺らも払ってませんけど……何でここに?」

「なんでぇ! 可愛い教え子のレースを見に来ちゃいけないってか?!」

「いや、そういう訳じゃ……」

 

 酔っている。

 今持っているビールが満杯であるということは、すでに何杯か飲んでいるらしい。

 

「おっと、そうだ。エインズワースには『出来るだけ逃げろ』と言ってある。あとはお前らで上手くやれ」

「逃げる……ですか?」

「そりゃそうだろ。基礎練だけで格闘までやれなかったからな」

「じゃあ、俺らはどうしたら?」

「言ったろ。『お前らで上手くやれ』だ」

 

 意地悪く笑うとビールを飲み干すロフマン。

 

「そんな投げやりな……」

「嬢ちゃんは『逃げる』んだ。お前のやることなんて限られてるだろ」

「えっ……と……」

「俺は酒買ってくるから、よく考えとけ」

 

 そう言って、おつまみセットをケンジに預けると、ロフマンは売店に行ってしまった。

 呆然と見送るケンジ。

 

「え? あの人ここで観るつもりか?」

 

 

 

11時35分 実況席

『さあやってまいりましたチャレンジクラス第四戦! 決勝! 実況は私、トーマス・ジャクソンと、解説はMS評論家ファン・クーパーでお送りします! クーパーさんよろしくお願いします』

『よろしくお願いします』

『さてクーパーさん。大方の予想通り前年度シルバークラスだった『ネモZEKUU』のヴィクトル・ヨハンソン選手がポイントトップですが、第四戦はどのような点に注目されていますか?』

『やはり前回ワンツーフィニッシュを飾ったリトヴィネンコ姉妹のコンビネーションが今回も決まるのか、ヨハンソン選手はどのように対抗するのか気になるところですね』

 

 

 

同時刻 ジムⅡ コクピット

『ラジオチェック』

「チェック。クリア」

『いいなケンジ? 作戦は打合せ通り『お前が盾になって、逃げる姫様に近付けさせない』だ』

「『姫様』って、おい?!」

 

 画面の向こう側で肩をすくめて茶化すエフラム。

 

『あと露骨に助けるなよ。俺たちが手を組んだのはまだ知られたくない』

「別にいいじゃねえか……」

『バレたら最初に集中砲火を浴びるのはお前だぞ?』

「……わかった。さりげなく、出来る限り……な」

 

 弱い者から倒していくのは集団戦の常套手段。

 ケンジのジムⅡは参加機体の中でも高いスペックを持つとは言えず、むしろ低い部類。

 となれば真っ先にボコられるのはケンジのジムⅡ。

 想像して背筋に冷たいものが流れる。

 

『ケンジ』

「どしたショーン?」

『今回はクーラントをちょっといいやつに変えてみた。メーカーの謳い文句どおりなら、冷却効率が5%は上がるはずだよ』

「いいね~サンキュー、ショーン」

『ナイトの使命を果たせよケンジ』

「お前ら覚えてやがれよ」

 

 

 

11時40分 実況席

『今スタート! 各機横一線の……おっとマラサイパラダイス姿勢が崩れた! 最後方からのスタートになってしまった!』

『焦りが出たんでしょうね。昨シーズンもポイント争いに絡んだところで調子を崩していました』

『調子の波が激しい選手ですからね。そうしている間にも『ガザCオナガ』と『百式スヴャトゴール』の先頭争い! わずかに遅れて『ネモZEKUU』『ガルバルディΩ』『Zガンダム・イリヤー』が団子状態。それに続くのは『ジムⅢナイトシャドウ』『ジムⅡトライデント』『ズサ・キラーエッグ』だ! さあ第一コーナー!』

 

 

 

同時刻 ジムⅡ コクピット

「クソっ! ガザCが見えねぇ!」

『落ち着きなさいよ。そんなに離れてないわ』

「チっ!」

 

 モニカの言葉にほんのわずかだが棘。

 カエデたちとの一件でケンジに対する風当たりが強くなった。

 気持ちはわからんでもないが、レース本番までやられればムカつきもする。

 だが構ってる暇もない。

 

 

 

同時刻 百式スヴャトゴール コクピット

「ウラーーーー!」

 

 前回同様、ターンイン直後のガザCに突進!

 だが、次の瞬間ルフィナは目を疑った。

 

「あ?! ロールだぁあ?!」

 

 

同時刻 実況席

『『ガザCオナガ』ハーフロールで天頂側へ! 百式スヴャトゴールのタックルを避け……避けきれない! 避けきれない!』

『今のは惜しいですね。もう少しで避けきれたのに引っかかってしまいました』

『バランスを崩したが立て直した! 『Zガンダム・イリヤー』の後方に付いた『ガザCオナガ』! 『百式スヴャトゴール』は大きくアウトに膨らんでしまった! どんどん順位を落としているぞ!』

 

 

 

11時41分 ジムⅡ コクピット

「立て直した?! ……そうか! ロフマンさんに散々スピンさせられてたから!」

 

 ガザCの動きを、驚きと安堵をもって見守るケンジ。

 考えてみれば立て直したのも当然で、ロフマンのジムスナイパーⅡに散々どつきまわされたのだ。

 パイロットもMSのコンピューターも学習し成長していた。

 合点がいったところで周囲を見渡す。

 

(ネモとガルバルディは様子見? 全力じゃない? Zが少し下がったか? 百式待ちだな……)

 

 『ネモZEKUU』と『ガルバルディΩ』は明確に『Zガンダム・イリヤー』を警戒していた。

 機を逸した『Zガンダム・イリヤー』が慌てて速度を落としている。さすがに単騎で仕掛けるほど間抜けではない。

 ケンジはわずかに下側へ機体を向けると、『ジムⅢナイトシャドウ』とラインをずらす。

 

「ん? あれ?」

 

 

 

11時41分 実況席

『『百式スヴャトゴール』のアタックが失敗したことで先頭集団はにらみ合いかっ?! 誰も仕掛けない! そうこうしてるうちに後続が差を詰めてきた! 『ジムⅡトライデント』が『ジムⅢナイトシャドウ』をジリジリと抜きにかかる!』

『『ジムⅡトライデント』のケンジ・オカダ選手はライン取りが上手くなってますね。今までより丁寧なコーナリングです』

『第二コーナーを抜けて『ジムⅡトライデント』が五位に浮上! 先頭は『ネモZEKUU』と『ガルバルディΩ』のままだ!』

 

 

 

11時41分 ジムⅡ コクピット

「……抜いた?」

『どうしたケンジ?』

「いや、何でもない…… エフラム、俺は何位だ?」

『? ジムⅢを抜いたから五位だ』

 

 抜けてしまった。

 今まで手こずってきたジムⅢ。

 格上だと思っていたジムⅢを抜いてしまった。

 あっさりとは言い難いが、それほど労せず抜いてしまった。

 

『ちょっとケンジ! 何ボケっとしてるの! 五時上方からジムⅢ!』

「っ!?」

 

 モニカの叫びと接近警報で正気に戻る。

 怒りが伝わる乱暴なラインで寄せてくるジムⅢ。

 ジムⅡに抜かれたのが、癪に障ったらしい。

 基本スペックに勝るジムⅢがストレートで詰めてくる。

 

──肩部スラスター噴射──直撃コースから軸線ずらす

 ──肩部、脚部スラスター噴射──90度回転

 

 推力全開で左ストレートを繰り出すジムⅢ。

 身をよじってかわすジムⅡ。

 刹那、

 

──左側全スラスター全力噴射!

 ──ボディブローを放つジムⅡ!

 

 回転力を増したパンチがジムⅢに直撃。

 ややアッパー気味に放たれたパンチは、えぐるようにインテークと左ラジエーターを押し潰した。

 

「っはぁ……どうだ?!」

 

 錐揉み状態で後ろに流れるジムⅢ。

 ケンジは別ウィンドウに表示されたリアカメラ映像で、それを見た。

 

(スペックが上でも、ロフマンさん程じゃない……)

 

 

 

11時42分 実況席

『決まったーっ! 『ジムⅡトライデント』のボディブロー炸裂! 『ジムⅢナイトシャドウ』沈黙! これは下剋上だぁーー!』

『『ジムⅡトライデント』の見事なカウンターでした。『ジムⅢナイトシャドウ』の速度が出ていた分だけダメージが深刻になってますね。ラジエーターまでえぐれてますよ』

『『ジムⅢナイトシャドウ』はここでリタイアのようです』

『まだ飛べるでしょうが、終盤には間違いなくオーバーヒートします。賢明な判断です』

『回収機の手を借りてコース外へ移動を始めました。フラッグは振られません。レースはこのまま続行です』

 

 

 

11時42分 仮設ピット

「よぉぅし! よくやった!」

 

 ハイボールのカップを掲げ、上機嫌のロフマン。

 中継画像を見ながら一人やんやの大喝采。

 練習で散々転がした甲斐があったというもの。

 教え子の成長が見れたおかげで、酒が美味い。

 

「あの……ロフマンさん? そろそろモニターを返してもらえると……」

「ん? ……おっとスマン」

 

 デイジーがジト目で声をかける。

 スポッター用のモニターを奪っていたことを思い出し、デイジーの方に向ける。

 

「もぉ、後続機の接近見逃したらどうするんですか」

「くっくっ……なぁに油断してなきゃ大丈夫そうだ」

 

 悪い笑みを浮かべて酒をあおるロフマン。

 その様子にデイジーは頬を膨らませた。

 

「どうしてそう言えるんですか?」

「俺が教えたんだぞ? 大丈夫に決まってる」

「…………」

「見てりゃわかるさ。ちょっくら酒買ってくらぁ」

 

 ご機嫌で売店に向かうロフマン。

 その背中を見送りながら、デイジーは一人つぶやいた。

 

「……そうかなぁ?」

 

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