11時58分 実況席
『レースは六周目に突入! 先頭集団は未だ変わらず『ネモZEKUU』『ガルバルディΩ』『Zガンダム・イリヤー』『ガザCオナガ』の四機! 不気味なまでに静かな展開、誰も仕掛けない!』
『非常に珍しい展開ですね。普通、序盤はポジション争いが激しいのですが、それも起きませんでした。相手の出方を探ろうと、慎重になりすぎているのではないでしょうか?』
『確かにその雰囲気はありますね。ただ、対照的に面白くなっているのは後方集団! 一時11位まで後退した『百式スヴャトゴール』が現在8位、最下位だった『マラサイパラダイス』が10位に浮上と猛追を見せています!』
『こちらは目まぐるしく順位が変わっていますね』
『どうでしょうかクーパーさん? この二機が先頭集団に追いついてしまうという展開もあるのでは?』
『ん~どうでしょうか? 二機とも目に見えてダメージが蓄積しているので、難しいのではないでしょうか? それに単独5位の『ジムⅡトライデント』が壁になっています』
『そうですね。『ジムⅡトライデント』は現在まで後続のアタックを全て跳ね除けています』
『第三戦までの操縦と比べて、かなり洗練された動きになってきましたね。今後の成長が楽しです』
『おっと! その『ジムⅡトライデント』に『バーザム・ダンシングシミター』が仕掛けた!』
11時58分 ジムⅡ コクピット
「またテメーか!」
水平チョップからの流れるような回し蹴りを放つバーザム。
いなし、かわすジムⅡ。
一合の後、間合いを取ってバーザムを睨む。
「そのツラ、見飽きてん……ぶふぉっ?!」
噴き出した。
そこにいたのはバーザムにあってバーザムにあらず。
『どうしたケンジ?!』
「じ、ジム頭!」
『は?』
「こいつバーザムにジム頭のっけてやがんのぉ!!!」
大爆笑!
笑われたのが分かったのか怒気の籠った蹴りを放つバーザム。
ジムⅡにジムコマンドの頭を載せてるケンジに、笑われる筋合いはない。
「がっ?! テメェ!」
かろうじてガード。
機体が大きく揺れる。
立て直しながら、機体ステータスチェック。クリティカルダメージなし。
『これは……バージム!?』
「知っているのかショーン?!」
グリプス戦争終結後、連邦軍は著しく戦力を消耗していた。
これはグリプス戦争がティターンズ対エゥーゴという連邦の内部抗争であったためだ。
その間隙を狙って起きた第一次ネオジオン戦争に対処するため、戦力の立て直しは急務であった。
とにかく時間がなかった。
新造では間に合わず、残っている旧型では分が悪い。
そんな中、既にあり、十分な性能を持ったティターンズ用MSに着目するのは必然であった。
ティターンズから接収したMSは『イメージが悪い』として使用を禁止していたのだが、そのようなことを言うだけの余裕もなくなり、苦渋の決断の末にバーザム投入を決定。
その際、悪いイメージを少しでも払拭しようとジムタイプの頭部に変更されている。
こうして泥縄式に誕生したのが『バージム』だった。
『って、説明は後!』
「っつ!」
インテークからの排気を簡易スラスターとして上体を反らす。
バージムの腕がかすめ火花が散る。
「この! ?!」
バランスが崩れかけたところに追撃のかかと落とし。
姿勢制御スラスター噴射で上体をひねる。
かわす。
「当たらなければ……っ!?」
──手刀!
バージムの腕が真っ直ぐに貫く。
ジムⅡの右腕が根本から吹っ飛ぶ。
「痛てぇじゃねーか!」
バージムのバックパックに、ジムⅡの左ストレートが突き刺さる。
クロスカウンターを狙って入力していたのだが、ワンテンポ遅れてしまった。
そのため頭部を狙って放たれたパンチは狙いが逸れて当たっていた。
「あ……なんかゴメン……」
バックパックを損傷したバージム。
スラスター推力が低下、速度が維持できずに落伍していく。
11時59分 仮設ピット
「ぎゃぁぁぁぁぁ?! 腕が!? 腕がーっ!」
「うるさいぞショーン!」
機体ステータスをモニタリングしていたショーンの悲鳴。
まるで自分の腕を失くしたような騒ぎ振り。
だがレース後に部品の調達から修理、調整までする手間を考えれば、当然の悲鳴。
「状況は?」
「ぅぅ……右腕損失……根元からポッキリいってる……」
「ぅゎ……」
「キレイに落ちたから爆発の心配もないし、デッドウェイトにもなってない。むしろ軽くなった分だけ加速は良くなるかも……」
うんうん唸りながら状況分析と、予想される状態を口にしていくショーン。
「右肩のスラスターが失くなってるから旋回能力は下がってる。機体の重心も狂ってるのに……」
「バランサーのプログラムは書き直してある。……多分……大丈夫なはずだ」
レースで得た教訓を元に、その都度アップデートしてきた。
ただ実機で直接試す訳にもいかないので、シミュレーション上では上手くいったという話。
バランサーが狙い通りに作動するかは、プログラムを書いたエフラムでさえ実際に確認できていない。
「一番問題なのは、左腕一本でトップグループとやり合わなきゃいけないことだよ……」
「あぁぁぁそうだ、そうだった! でも……でもだぞショーン! こういう時のケンジは何かやらかし……やってくれる! 今までもそうだっただろ?!」
「ぅ……ぁああ、そ、そうだな! ケンジなら!」
二人は不安を振り払おうと、言葉に力を込める。
((……不安だ))
12時07分 実況席
『抜いた! 抜き返した『ズサ・キラーエッグ』! 6位再浮上! ロケットブースター炸裂!』
『いいタイミングで点火しましたね』
『あ~とっ?! これはどうしたことだ?! ブースターの炎が消えてしまったぞ? 失火か?』
『いえ、おそらく燃焼時間を短縮したんだと思います。今までの燃焼時間だとコントロールしきれなかったので、コントロールしきれるように短くしたのでしょう』
『対策をしてきたと?』
『見る限り操縦に焦りを感じません。燃焼終了後もスムーズに通常加速に移行しています』
『だがそうなると7位との差はわずか! 『百式スヴャトゴール』も黙っていない! 再び抜きにかかる!』
12時07分 ジムⅡ コクピット
『あと二周! ズサと百式が詰めてきてる。アタックしろケンジ!』
「おっしゃ! いくか!」
じわりとZガンダムとガザCの間に鼻先をねじ込む。
前を飛ぶZガンダムには焦り、苛立ち、疲れが見て取れる。それもこれも百式から援護が受けられないからに違いない。
あまつさえ先頭を飛ぶネモが、進路上にダミー隕石を投げ込んでくる。ラインはぶれて、神経も使う。
ガザCは前の三機から少しアウト側を飛ぶことで、消耗を抑えていた。
「Zが加速した。予想通りだ!」
『いいぞ! そのまま追い立てろ!』
Zガンダムが抜かれまいと加速。
格下のジムⅡにケツを突かれるのは、さぞ屈辱であろう。
12時08分 実況席
『『ジムⅡトライデント』が並ぶか?! 並ぶか?! 並んだ! 『ジムⅡトライデント』が『ガザCオナガ』に並んでバックストレートを立ち上がる!』
『いいコーナリングですよ』
『後続の追い上げに『Zガンダム・イリヤー』が逃げる! 逃げる! 『ガルバルディΩ』に詰め寄り、差はわずか!』
12時08分 Zガンダム・イリヤー コクピット
「このクソボケがっ! チンタラ飛びやがって! スッぞゴラァ!」
マルファの苛立ちが怒りに変わる。
ネモとガルバルディに頭を抑えられ、全開で飛べず歯痒いことこの上ない。
潰したかったガザCはわずかに遠く、眼中になかったジムⅡが順位を脅かしてくる。
後続は百式に任せたいが、ズサとの小競り合いが続き、まだ上がってこない。
マルファにとって取るべき道は一つしかない。
「テメェらまとめてバーバヤガの鍋にぶち込んでやる!」
12時09分 実況席
『『Zガンダム・イリヤー』が加速! 『ガルバルディΩ』と差を詰める!』
『『ジムⅡトライデント』が迫ってきたので焦ってますね』
『やはり焦りからですか?』
『そうですね。このままだと『ジムⅡトライデント』に抜かれるか、抜かれないまでも格闘戦で速度が落ちます。そうなると表彰台に乗るのは難しいでしょう。であれば待ち構えているとわかっていても『ネモZEKUU』と『ガルバルディΩ』に仕掛けるしかありません』
『完全に追い詰められてしまいましたね。っと仕掛けた! 『Zガンダム・イリヤー』がフルスロットルで回し蹴り! 『ガルバルディΩ』防ぐ! さらにヤクザキックだー!』
『上手い! キックの反動で『ネモZEKUU』と距離を詰めた』
『すかさずパンチの乱打! だがさすが『ネモZEKUU』! かわすかわす!』
12時09分 ジムⅡ コクピット
『チャンスだ! まとめて抜いちまえ!』
「わかってるよ!」
ネモ、ガルバルディ、Zガンダムによる三つ巴の乱戦。
いやZガンダムが二機の間を行ったり来たりしている。
ネモにしてみれば、Zガンダムがガルバルディを倒してくれれば、それも良し。ガルバルディにしても同じ。
二機で袋叩きにしようとは思っていない。
『姫様のエスコートも忘れるな!』
「ガザCの方が速いんだ! どうしろってんだ?!」
並んでいたガザCが少しずつ前に出ていく。
軽量化の恩恵で速度の伸びがいい。
「おいおいおい?! このままアイツらに突っ込む気か?! おい! エフラム!」
『待て、考えてる! …………もしかしてアイツ……』
エフラムの脳裏にリーゼの顔が浮かぶ。
そして苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。
『いいかケンジ。あの女は姫様を囮にするつもりだ』
「なっ?!」
『ガザCが前に出るならネモもガルバルディも黙ってない。必ず妨害しに来る。お前はそのタイミングに合わせて、横から殴れ!』
「マジかよ?!」
『前の連中がガザCに気を取られてる間、お前はノーマークだ! 誰も気にしない! 誰も見てない!』
「言い方ひどい!?」
『不意打ちでラインをこじ開けろ!』
「だから言い方ぁ!?」
12時10分 実況席
『『ガザCオナガ』が『ジムⅡトライデント』を引き離しにかかる! オカダ選手厳しいか!?』
『『ジムⅡトライデント』も頑張っているんですが、性能差はいかんともしがたいですね』
『おぉっと?! 前の方で動きがあったか?! 『Zガンダム・イリヤー』猛攻! 『ガルバルディΩ』さばききれない! パンチが当たりだしたぞ!』
『ものすごいラッシュです。『ガルバルディΩ』はこのままではマズいですよ。……あっ!?』
『蹴り飛ばした! 『Zガンダム・イリヤー』が『ガルバルディΩ』をガードごと蹴り飛ばし……ああぁっと!』
12時10分 Zガンダム・イリヤー コクピット
「どうだクソ野郎!」
後ろに流れて行くガルバルディを、血走った目で見送るマルファ。
大きく息を吸い込み、乱れた呼吸を抑え込む。
「次はネモだ! ……は?」
間の抜けた声。
ガルバルディからネモへ視線を移した時。
マルファは文字通り『目の前が真っ暗』になった。
12時11分 実況席
『ブレ~イク! 『Zガンダム・イリヤー』バルーンブレイク! ペナルティで5秒加算されます!』
『見事に割らされましたね。『ネモZEKUU』はいいタイミングでダミー隕石を投げ込みました』
『やはり狙っていたんでしょうか?』
『選択肢の一つではあったと思います。『ガルバルディΩ』に気を取られている隙に『Zガンダム・イリヤー』の進路にダミー隕石を動かす。いや本当に見事でした』
『これで『ネモZEKUU』は単独トップ! 『Zガンダム・イリヤー』は今のバルーンブレイクで速度が落ちてしまったぞ! 『ガザCオナガ』が並んでくる! 抜かれてしまうのか?!』
12時11分 Zガンダム・イリヤー コクピット
「ダミー隕石割ったから何だってんだ! 全員ぶちのめせば関係ねぇだろうがっ!」