12時11分 実況席
『ファイナルラップ突入っ! 現在トップは『ネモZEKUU』! それに続くのは『Zガンダム・イリヤー』! わずかに遅れて『ガザCオナガ』! ただし『Zガンダム・イリヤー』は5秒のペナルティがありますので、後ろを飛ぶ『ガザCオナガ』よりも下の順位になってしまいます』
12時11分 ガザCオナガ コクピット
『カエデ、ジムⅡのラインを塞ぐように前を飛びなさい』
「……うん」
コントロールスティックをゆっくりと倒し、コースのイン側に切り込んでいくガザC。
ジムⅡとの軌道が一直線になる。
リーゼがZガンダムとの距離を確認。
『セオリー通り、コーナーでインに寄りなさい。ただし、いつもより速度を落とすこと』
「……うん」
『私の合図と共にバレルロールなさい。よろしくて?』
「……わかった」
12時11分 ジムⅡ コクピット
「ガザCがインに寄ったぞ!」
『仕掛ける気だ! タイミング合わせろ!』
ガザCよりわずかにインへ。
軸線をわずかにずらすことで、ガザCの噴射炎を避ける。
12時12分 実況席
『『ガルバルディΩ』立て直して猛追! 『ガザCオナガ』『ジムⅡトライデント』にも抜かれてしまったっ! 追いつけるか?!』
『ガルバルディは機動性を売りにした機体だけあって、素早い立て直しでしたね。展開次第では、まだ表彰台も狙えると思います』
『そのカギを握る二位争い、『ガザCオナガ』と『Zガンダム・イリヤー』が並んでターンイン! わずかに遅れて『ジムⅡトライデント』が追う展開! ここで『Zガンダム・イリヤー』が仕掛けた! 浴びせ蹴りだー!』
12時12分 ガザC コクピット
『今っ!』
「っ!」
一気にスティックを倒す。
スクリューのようにぐるりと回転。
ZガンダムとガザCのポジションが入れ替わる。
スタート直後は失敗したロールが、今度はきれいに決まり回避成功。
『お見事ですわ!』
12時12分 ジムⅡ コクピット
「邪魔だー!」
──渾身の左ストレート
スラスター全開で速度を乗せたジムⅡのパンチ。
ガザCと入れ替わりで飛び込んできたZガンダムは、攻撃が外れバランスを崩したために回避が間に合わない。
──必中の間合い!
12時13分 実況席
『決まったー! 『ジムⅡトライデント』のパンチが『Zガンダム・イリヤー』を弾き飛ばした!』
『速度の乗ったいいパンチですね』
『『Zガンダム・イリヤー』スピンがなかなか収まらない! その間に『ガルバルディΩ』が前に出る! 『ガルバルディΩ』四位だ! 現在『ネモZEKUU』が単独トップ! 二位『ガザCオナガ』、三位『ジムⅡトライデント』ほぼ並んでいます! クーパーさん、今の二位争い、いかがご覧になりましたか?』
『『Zガンダム・イリヤー』は『ガザCオナガ』の挑発に引っかかってしまいましたね。攻撃をかわされ失速。挙句、『ジムⅡトライデント』の前に隙だらけの状態で飛び込んでしまった』
『『ジムⅡトライデント』に『Zガンダム・イリヤー』を押し付けたようにも見えましたが?』
『おそらくそれを狙っていたと思います。『Zガンダム・イリヤー』と『ジムⅡトライデント』が競っている間に逃げる算段だったのでしょう』
12時13分 仮設ピット
「よーし! いいぞいいぞ!」
喜色満面で本日何杯目かのビールをあおるロフマン。
「も~、ロフマンさん!」
「お、すまんすまん」
ふくれっ面のデイジーに、モニターを戻してやるロフマン。
本日何度目かのやり取り。
「後ろに気を付けてやれ」
「後ろ?」
ロフマンとデイジーのやり取りの横では、ショーンが青い顔をしている。
「エフラム」
「どうしたショーン?」
「これ見て」
ジムⅡのステータス画面。
失った右腕は赤、それ以外は緑のチェックランプで表示。
「何かおかしい……ん?」
左腕のグリーンランプが点いたり消えたり。
チェックランプが赤になるのではなく、消える。
「さっきからこの調子……一瞬消えるけど、すぐに戻るんだ」
「故障か?! 通信トラブルは?」
「今日はミノフスキー雲も出てないし、どこかのケーブルで接触不良が起きてるっぽいんだ」
「こないだ修理したばっかだろ?」
「したけどジャンクの寄せ集めなんだ。どこに問題があってもおかしくないよ……」
頭を抱えるエフラムとショーン。
いくら点検整備したとはいえジャンクパーツ。リビルドした訳でもオーバーホールしてある訳ではない。
目に見えない、検査機器でも見付けられない問題が潜んでいてもおかしくはない。
「とにかくケンジに知らせよう。あと少しでゴールなんだから……」
「ガルバルディが近づいてるわよ!」
12時14分 実況席
『『ネモZEKUU』が3コーナーを回って先頭! 後続を突き放す勢い! 追う『ガザCオナガ』!』
『『ガザCオナガ』のエインズワース選手もコーナリングが上手くなってますね。今までは勢い任せのコーナリングでしたが、今日はコンパクトに回っていますよ』
『その『ガザCオナガ』、アウト側に『ジムⅡトライデント』、後ろからは『ガルバルディΩ』と囲まれています! 逃げ切れるか?!』
12時14分 ジムⅡ コクピット
『ケンジ! 左腕にエラー!』
『ガルバルディ! 7時下方!』
「クソっ!」
シート下のモニターをのぞき込む。
見えない。
90度のロール、機体の向きをガザCへ。
銀色の何かが視界をかすめた。
ガザCが慌ててロール開始。
「!? しまっ……」
12時14分 実況席
『『ガザCオナガ』ロールが間に合わない! だが『ガルバルディΩ』の当たりも軽い! 二打目は宙を切る! 『ガザCオナガ』バランスを崩した! が、スピンしない! 持ちこたえるか?! っと、どうしたことだ『ガルバルディΩ』も失速!』
『二打目が本命だったのに外れてバランスを崩した、というところでしょうか?』
『どちらが先に立て直せるか?! おお~っと?! ここでジムⅡ! 『ジムⅡトライデント』がインに切り込んで来た!』
12時15分 ジムⅡ コクピット
『蹴りだ! 蹴りにしてくれ!』
「どっせーい!」
怒声と共に吶喊!
高速回転を加えたジムⅡの回し蹴り!
当たった瞬間、逆の足でガルバルディを踏みつけ再加速。
リカバリー中にバランスを崩したガルバルディが完全に失速。
『ケンジ! 今、殴ろうとしてたろ?!』
「聞こえてたよ、だからちゃんと蹴ったろ?! それよりもガザCは?!」
リアカメラに再加速を始めたガザCの姿が映る。
そうリアカメラに。
『抜いちゃったよ!』
「抜いた?!」
『そのままゴールしろ! 減速したら変に疑われるだろ?!』
12時15分 実況席
『『ネモZEKUU』が今、一着でゴールイン! ヴィクトル・ヨハンソン選手、今期二勝目! ポイントトップを維持しました!』
『最後までレースをコントロールしていましたね』
『続いて『ジムⅡトライデント』が二位でチェッカーを受けます! ケンジ・オカダ選手! これが初の表彰台!』
『性能差の不利をものともしない見事なフライトでした』
『三位に『ガザCオナガ』! 前回リタイアの雪辱を果たしました! クーパーさん、チャレンジクラス第四戦が終わりましたが、いかがでしょうか?』
『そうですね、やはりオカダ選手の躍進ぶりには驚きました。第三戦までの飛び方と比べて格段に上手くなっています。エインズワース選手もそうですが、若い選手の成長速度には目を見張るものがありますね』
15時28分 表彰台
『第三位、カエデ・エインズワース選手!』
無言ながら綺麗な礼の後、トロフィーを受け取るカエデ。
良家の子女らしく、そつなくこなす。
そんなカエデを横目に、ケンジは……
(え? 俺もお辞儀でもした方がいいのか? コメントいるんだっけ? どうだっけ?)
テンパっていた。
足繫くレースに通い、何度も表彰式を見てきたが、いざ自分が表彰されるとなると戸惑うものだ。
過去に見た表彰式がパッと思い出せない。
『第二位、ケンジ・オカダ選手!』
「ハイっ!」
CSIR役員が一瞬目を丸くした後、苦笑いでトロフィーを渡してくれた。
「おめでとう!」
「あ……あざっす!」
祝福の言葉と共に、素早く握手してくるCSIR役員。
そしてパッと離れていく。
一位の表彰も同じペースで進み、あっさり終了。
ちなみにシャンパンファイトがあるのは、ゴールドクラスのみ。
『続きましてシルバークラスの表彰式を行います』
(え? え? あれ?)
テンポが早い。
感慨にふける暇もなく、係員に「さ、こちらへ」などと促されてしまう。
(終わったの!?)
初めての表彰台は、ボヤっとしている間に終わってしまった。
15時29分 観客席
「ぷっ、ハハハハハ、見たかよケンジのあのツラ!」
「見た見た! バッチリ録画したよ!」
観客席から表彰式を眺めていたエフラムとショーン。
オロオロするケンジの様子に笑いが止まらない。
「……やっとここまで来たんだな」
「そうだね、やっと……」
二人の中に熱いものが込み上げる。
チームを組んだあの日から、あと少しだったジュニアMSの成績、バイトに明け暮れた高校生活。
報われた気がした。
自分たちのMSが、ケンジの操縦が、通用すると証明できたのだ。
「さあ行こうぜ。ケンジの奴、あの様子だと『実感が湧かねえ』とか言い出すぞ」
「言う! ケンジなら言うね!」
肩を組んで笑い合う。
二人が歩き出そうとした時、声をかけられた。
「エフラムさん」
「ん? あんたか」
リーゼとカミリアがすぐ横まで来ていた。
喜びを分かち合うのに忙しく気付かなかった。
「先ずは二位入賞おめでとうございます。それと、ご助力いただきましたこと、感謝申し上げますわ」
リーゼが目立たぬように礼をしてみせる。
その姿に噓偽りない感謝が込められているのが感じられた。
「そりゃご丁寧にどうも。でもすまないな、ガザCより順位が上になっちまった」
「あら、私がお願いしたのは練習相手とアシストまで。勝ちを譲れとは言っておりませんわ」
余裕の笑みを浮かべるエフラムを、涼しい顔で受け流すリーゼ。
両者共に好成績で浮かれているのか、剣呑な空気になることもない。
「ウチのケンジがもう少し『ナイト』らしく、飛べりゃよかったんだがな。あれじゃ暴れ牛か狂犬だ」
「確かに『ナイト』には程遠い飛び方でしたわ」
エフラムとリーゼが笑い合う。
「ですが、務めを果たしていただけるのなら、それが『ナイト』でも『狂犬』だろうと、私たちは構いませんでしてよ」
エフラムは目を丸くした後、盛大に噴き出した。
「ああ、ウチの狂犬によく言い聞かせておくよ。せめて『忠犬』になれってな」