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「ご存知かしら?」
「あら何かしら?」
「私、あの野蛮な乗り物に携わるようになって、機械に詳しくなりましてよ」
「お可哀そうに……」
「ええ、私も自分で自分を憐れんでしまいましてよ」
「それもこれも、あの陰気な女のせい……」
「ですから、こんな物を用意してみましたわ」
「まぁ何かしら? とても楽しそう」
16時21分 ロフマンガレージ 三番倉庫
『続きまして、お天気コーナーです。気象予報士のアンザイさん』
『はいアンザイです! 先週まで活発だった太陽フレアも一段落! 強かった太陽風も通り抜け、サイド6周辺宙域は落ち着いた宇宙模様です! ただ入れ替わるように月方向から濃いミノフスキー雲が流れてきています。コロニーへの直撃コースではありませんが、周辺宙域を航行する際には十分お気を付けください!』
「よ、調子はどうだ?」
ニュースの配信を流しながら作業していると、ロフマンが様子を見に来た。
頭を抱えていたショーンの顔に安堵が浮かぶ。
「あ、ロフマンさん!」
「ちょうどよかった。フィールドモーターを一つもらえませんか?」
「どうした?」
「マグネットコーティングが剝がれてたみたいで、焼き付いちゃって……」
見れば肘関節をばらしていた。
ジャンクパーツは現状渡しが基本なので、見えない所が壊れていることも当然ある。
ロジャーは『テスターにかけた』と言ったが、検知範囲外の不具合はわかりようがない。
その分、安いのだから甘受すべきデメリット。
「いっそのことネモのモーターでも積むか? まけといてやる」
「んん~……でもサイズがなぁ……」
「確かに少しデカくなるが、パワーはあるぞ」
「積めないことないけど……そうなると装甲削るか、可動域減らすか……」
フィールドモーターはいわばMSの筋肉であり、モーター出力が高ければ高いほど打撃力が増す。
ジムⅡは旧型ゆえに他の参加機体と比べ、打撃力の面でも見劣りする。底上げできるなら上げておきたい。
なんにしても足りないものが多すぎるのだ。
「でも一つだけ換えるとバランスがなぁ……」
「ショーン、換えるなら二つだ。肘関節の上側と下側、両方換えればバランス調整できる」
「エフラム? いいのか?」
苦虫を噛み潰した表情で口を挟むエフラム。
彼にしてみれば余計な出費だが、背に腹は代えられない。
「仕方ないだろ……安くしてくださいよロフマンさん」
「へへ、まいどあり! っと、そうなるとお前らのジムはまだ動かせないな」
「どうしたんですか?」
商談成立したのに思案顔のロフマン。
いつもなら粘着質な笑顔の一つも浮かべるのに珍しい。
「いやなに、組手の相手をしてもらおうと思ってたんだがな……」
「あぁ……」
そういやそんなことも言ってたなと思い出す。
ガザCに格闘モーションを覚えさせていたのは、防御や受け流しのモーションを覚えさせるための下準備。
パイロットの性格もあって攻めるのは無理だが、防御と受け流しが出来れば、レースでの生存率が上がるだろうという目論見。
「仕方ない、俺のジムを使うか……ガザはお前が操縦しろ」
「え? 俺が? ロジャーさんは?」
「ウチはまだ営業時間中だ。留守番がいるだろ」
ごもっとも。
ではあるのだが『客なんてめったに来ないし店閉めてもいいのでは?』とも思ったが、飲み込んでおく。
「俺、ガザCなんて操縦したことありませんよ?」
「安心しろ、連邦系のシートに積み替えてあるから大して変わらん。お前らのジムⅡより新しいタイプのシートだがな」
ロフマンの挑発するような物言い。
「ケンジ、行ってこいよ」
「ショーン……?」
「他の機体に乗るのも勉強になるからさ。それに何日も操縦してないと腕がなまるだろ」
そう言いながら小さいバッグにお菓子を詰め込むショーン。
ドリンクのパックも詰めるとケンジに押し付けた。
「持ってけ」
16時59分 ガザC コクピット
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
沈黙がつらい。
あれからすぐに着替えて、カエデの操縦するガザCに乗り込んだ。
道中、何度か世間話を試みたのだが、長くは続かず今に至っている。
あと少しでロフマンが指定した宙域に到着する。
(なんか話題……話題……何話せばいいんだ? じきにロフマンさんも来るだろうし……)
攻めあぐねるケンジ。
ロフマンから先発しているとはいえ、じきに追い付くことだろう。
二人っきりでいられる時間は長くない。
(学校の話はスベッたし……食い物は……なんか噛み合わなそうだな……)
リニアシート脇に取り付けた補助シートで悩むケンジ。
我関せずのカエデ。
(いや待て、レースの時いつもハンバーガー食べてたよな? これなら……)
話題も決まり、いざ口を開こうとした時だった。
──爆発
ガザCのスラスターが吹っ飛ぶ。
推進剤が勢いよく噴き出し機体は錐揉み状態へ。
──機体制御不能
「っ?!」
「な?!」
強烈なGに振り回され、声を出すことさえままならない。
モニターに赤い警告灯が明滅し、警告音が鳴り響く。
(……推進系?!)
揺れる視界でかろうじて表示を読み取る。
サイドコンソールに手を伸ばそうとするが上手くいかない。
──機体防護装置起動
──パイロットの操作を遮断
──スラスター停止
──燃料ポンプ停止
──自動消火装置起動
制御コンピューターが検知した異常に対し、決められた手順で自動的に対処していく。
──火災警報灯──消灯
──自動励起起動
──AMBAC起動
手足を大きく振ってスピンを止めるガザC。
一際長い警告音を最後に警報が鳴り止んだ。
同時にモニターには大量の警告表示が吐き出される。
最後に自動励起が終了したことを告げる表示。
<you have control>
絶望感に襲われるケンジ。
だが、まだやることがある。
シートベルトを外しカエデの正面に回り込む。
「おい! 大丈夫か?!」
「……っ! …………っ……っ……」
声にならない悲鳴を上げて泣きじゃくるカエデ。
恐慌状態で呼吸もままならない。
(ヤバい!)
急いでモニターパネルを剥がすと、サバイバルキットを取り出す。
サバイバルマニュアルを引きちぎり、四、五枚ほど漂わせてみる。
紙の動きは一定。
自分のヘルメットバイザーを開け、大きく息を吸い込む。
幸い空気漏れはないようだ。
「ヘルメット……外すよ」
怖がらせないように静かに伝えるケンジ。
カエデのヘルメットに手をかけると、出来る限り優しく、ゆっくりとヘルメットを脱がせていく。
まだ呼吸が荒い。
「さぁ、これを吸って」
サバイバルキットに入っていた酸素ボンベを、カエデの口に押し当てる。
恐怖で体が強張ったまま動けないカエデ。
それでも酸素だけは貪るように吸ってくれた。
「……………………」
ケンジは辛抱強く待つ。
しばらくすると緊張が緩んだのか、強張っていた肩が下がり、呼吸が落ち着いてきた。
「…………」
「落ち着いた? ボンベ、自分で持てる?」
未だ恐怖に震える手が、ゆっくりとコントロールスティックから離れる。
怖がらせないように優しく、カエデに酸素ボンベを握らせた。
(……そうだよな……怖かったよな……)
ぶっちゃけケンジも怖かったのだ。
だからカエデのこの行動も、恐怖と不安から来るものだと理解できた。
ケンジは静かにカエデの頭に手を置くと、幼子をあやすように優しく撫でた。
17時23分 ジムスナイパーⅡ コクピット
「おい坊主どこにいる? ……ケンジ! 応答しろ!」
合流予定宙域に着いたロフマンだが、肝心のガザCの姿が見えない。
レーダーとセンサーを広域モードにして探すが見付からない。
無線にも応答なし。
「ロジャー聞こえるか?」
『聞こえますLT』
通信先を切り替えるロフマン。
ジャンク屋で留守番をしていたロジャーも素早く応える。
「最新の天気図を送れ。ミノフスキー雲はどうなってる?」
『ROG、LT。……送りました。かなり分厚い雲が近付いてます』
「クソっ! 最悪だ!」
『どうしましたLT?』
「ガザCが行方不明だ! 嬢ちゃんたちのテントに行ってトランスポンダーのデータをもらってこい! それと交通局に通報!」
『ROG、LT! 航跡データ入手後、交通局に通報します!』
「それが終わったらプロペラントと無線中継器を持って合流しろ! アイツら雲の向こう側だ」
17時24分 ガザC コクピット
「メーデー! メーデー! メーデー! こちらS6―M1464! ワレ航行不能! 救助求む!」
何度目かのメーデー発信。
今のところ応える者は誰もいない。
「やっぱダメだ……そっちは?」
「……メインスラスターのシグナルが返ってこないから……やっぱり……」
カエデも落ち着きを取り戻し、二人で状況把握に努める。
だが、わかるのは悪い状況ばかり。
「推進剤は?」
「全部、流出しちゃって……」
「……レーダーは?」
「使える……けど……ミノフスキー粒子が濃くて……」
自己診断プログラムで走査後、各機器を実際に動かし確かめる。
状況がわからないだけに、自己診断プログラムも疑ってかかる。
結果的に分かったのは、
──メインスラスター消失
──推進剤流出により残量ナシ
──漂流中
爆発の衝撃と、勢いよく噴き出した推進剤によって、コロニーから離れた場所へと飛ばされたらしい。
不幸中の幸いだったのは、『他の機能は一切失われていない』こと。
ジェネレーターが生きているので、生命維持装置は稼働を続けているし、モノアイは外の状況を映し続けている。
「天測とトランスポンダーのデータも合ってる。航法系は問題ない……」
天体観測は宇宙生活者として必須の知識。
子供のころから学校教育のカリキュラムに組み込まれているし、MS免許取得時の必須科目でもある。
「けど、サイド6は……」
サイド6が見えない。
かなり遠くへ飛ばされたらしい。
そして現在進行形で遠ざかっている。
「まだ……まだ、出来ることがあるはずだ!」
再度、機体ステータスをチェックするケンジ。
対してあきらめたように目を伏せるカエデ。
「……ん? ……あれ? なんとかなんじゃね?」