ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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ボーイ・ミーツ・ジム 2

20時11分 『ロフマンガレージ』事務所

「さてと、免許証を拝見と」

 

 老人はケンジから免許証を受け取るとパソコンに読み込ませる。

 警察、交通局等の自治体の各機関に順番に照会していく。

 

「お~? 昨日免許を取ったばかりか」

「18になったんで、すぐに取りに行きました」

「時代は変わったな~」

 

 戦争のためにMSの操縦を覚える羽目になった自分と比べ、その落差に笑ってしまう。

 

(……戦争の道具も今じゃ子供のオモチャか……平和になったもんだ)

 

 否が応でも時代が変わったことに気付かされる。

 第二次ネオジオン戦争終結後、地球連邦政府にとって大規模な軍事的脅威はなくなった。

 いや、正確にはジオン残党は未だ潜伏しているのだが、その規模は減少し大規模な戦闘が減り、局地的な戦闘が散発的に起きるだけになった。

 そのため政府は軍備縮小を連邦軍に迫り、軍は旧式となった大量のMSを廃棄もしくは払い下げることにより、これに応じた。

 また、MSは兵器としては新しいカテゴリーのため技術開発や運用研究が盛んで、僅か数年で旧式化してしまう。軍としては新型機への機種変更を促す狙いもあったのだが、その目論見はもろくも崩れ去ってしまう。

 ともあれ払い下げられたMSはコロニー公社、建設業、港湾での荷役業務等に用いられた。また、これにより退役したMSパイロットの再就職先が確保できたのは大きい。

 ただ、各コロニーの自治政府はMSの払い下げを快く思ってはいなかった。

 MSを使った犯罪を危惧したのである。

 兵装を外してあるとはいえ18mの巨人だ。「もし犯罪に使われたら」と恐れるのも無理からぬことだろう。

 

「そういや、そっちの二人はMS免許はないのか?」

 

 老人がエフラムとショーンに水を向けると、二人は苦笑いで顔を背けた。

 

「僕らはその……」

 

 エフラムは過去にハッキングによる補導歴、つまり犯罪歴があるため免許の取得ができず、

 

「ちょっと事情がありまして……」

 

 ショーンは精神鑑定の結果、情緒不安定と診断されたため免許を持てない。

 二人の反応でなんとなく事情を察した老人が小さく笑う。

 

「まぁ、なんにしろ昔と比べりゃ簡単にMSを買えるようになったんだ。改正MS法さまさまだな」

 

 『改正MS法』正しくは『大型宇宙機材所有に関する法律』のことである。

 先に述べたようにコロニーの各自治政府はMSの民間所有に消極的であり、明確に禁止こそしなかったものの、様々な条例や規制を作り、これを阻んでいた。

 煩雑な申請書であったり、複雑な登録と定期報告書、多額の税金等々があり個人での所有を大変難しくしていた。

 中にはサイド1のように比較的容易にMSを所有することができるコロニーもあったが、例外中の例外といえるだろう。

 ともかく状況が大きく変わったのは0100年。

 宇宙世紀100年を記念して地球連邦政府がMS所持に関する法律を大幅に改正したのである。これに伴い各自治政府も規制の緩和をせざるをえない状況になった。その後も法改正は続けられ、18歳からMSを所有できるようになった。

 この時、連邦政府に対し積極的なロビー活動を展開していたのが『世界MS愛好協会』と『CSIR(宇宙機器レース委員会)』だ。

特にCSIRはプチモビルスーツを使った競技『プチモビ・レーシング(PMR)』を主催する団体で、現在はフルサイズMSでの競技も行っている。

 

「兄ちゃんたちも、MS競技やるのかい?」

「はいコイツで『デブリヒート』に出るんです!」

 

 『デブリヒート』とはCSIRが主催する競技の一つで、設置された隕石を避けながら順位を競う周回レースだ。

 武器の使用こそ禁止されているが、接触や格闘戦による妨害が認められており、そのエキサイティングな内容で人気を博している。

 

「おー! アレか! 確かにアレならジムⅡでもイケるな!」

 

 現在CSIRが開催しているフルサイズMSの競技は三種類。

 一つは『MSザ・ドラッグ』。

 宇宙空間でモビルスーツを用いてドラッグレースを行うもの。

 高出力ジェネレーターと大推力推進器が有利とされ、参加チームはチューニングのために湯水のごとく金を注ぎ込む。

 昨シーズンはそういった常識を覆し、ドラッツェにハイザックの胴体を移植した『ハイドラッツェ』が優勝。

 二つ目は『モビルファイト』

 こちらはMSが一対一の白兵戦を繰り広げる。

 訓練用のサーベルや斧で殴り合うため重装甲が有利だが、いくら重装甲にしてもMS同士で殴り合えば、お互い無傷とはいかず修理費用に頭を痛めるチームが多い。

 昨シーズンは高機動、重装甲を両立した『リックディアス』が順当に優勝している。

 最後がケンジたちが挑む『デブリヒート』

 デブリの海を避けながら進むため推力よりも機動性、運動性が重視され、腕次第ではあるが第一世代機で第二世代機と渡り合うことも可能。

 他二つの競技に比べ掛かる費用が少ないことから、これでMS競技を始める者が多く、競技人口も三種目中もっとも多い。

 

「さてと免許は問題ないようだし、警察行って『MS所有申請』出して『駐機場証明』もらってきてくれ。あとの手続きはこっちでやってやる」

「ありがとうございます! えっと、ミスター……」

「ロフマンだ。代行手数料はいただくがな」

「お手柔らかにお願いします」

「安心しな。格安にしといてやる」

 

 ロフマンがニヤリと笑うとケンジたちも笑顔を浮かべた。

 

 

 

1558時 警察署

「ではこの内容で受け付けます。五日後にまたこの窓口に来てください」

 

 ケンジらの所有申請は女性警官の手で事務的に処理された。

 先に述べたようにコロニー自治政府はMSがコロニーの中で犯罪に使われることを恐れている。

 そのためMSを所有する際には届出と登録を義務付けている。免許があるからといって好き勝手に所有することはできない。

 

「その際に駐機場の契約書も一緒に持ってきてください」

「はい! わっかりました!」

 

 ケンジらは喜色満面の笑みで応えると素早く窓口から離れた。

 

「失敗したな。先に駐機場決めてくればよかった」

「気にするなよ。思ったより早く終わったし、これから駐機場の方に行こうぜ」

 

 些細なミスを三人で笑い飛ばす。

 ケンジもショーンもエフラムでさえ浮かれていた。子供の頃から憧れた念願の『MYモビルスーツ』だ。

 この一手間一手間が夢への一歩だと思えば、苦になるどころか楽しくさえなってくる。

 

「エフラム? エフラムじゃないか?」

「げ?!」

 

 不意に警官の一人がエフラムに声を掛けてきた。

 声の主を悟ると顔をしかめる。

 

「どうしたエフラム? こんなところで? まさか何かやらかしたのか?」

 

 尋問というより心底心配そうな声音で警官は尋ねる。まるで父親のように。

 

「勘弁してくださいよサンプソンさん。保護観察も終わったし、ボランティアもちゃんとやった。何も悪い事なんてしてませんよ。申請に来ただけです」

「ならいいんだが……」

「あ~……すいません。僕らこれから行く所があるので……」

 

 エフラムが二人の背中を押してそそくさと立ち去ろうとするが、サンプソンはさらに声を掛ける。

 

「エフラム、お前さえ良ければいつでもここに来ていいんだぞ。仕事もある」

「……考えておきます」

 

 今度こそ警察署を出ていく三人。

 三人を見送ると、サンプソンは申請窓口の女性警官に尋ねた。

 

「今の三人は何の申請に来てたんだ?」

「MSの所有申請ですね。競技用になってます」

「ほう? そうか」

 

 嬉しそうに顔をほころばせるサンプソンであった。

 

 

 

1603時 警察署前

「なあエフラム? 今の誰だ?」

「俺を捕まえた警官だよ……」

 

 げっそりとした顔で答えるエフラム。

 

「最悪だ……」

「ははっ、今日は厄日かもな?」

 

 ケンジが茶化すが、エフラムにとってはそれどころではない。

 

「厄日? なんだそれ?」

「何をしてもツイてない日のことだよ」

「オリエントのオカルトか? 俺は信じないぞ……」

 

 

 

1738時 宇宙港

「すまないな。今、満杯で空きがないんだ」

「な?! 昼にサイト見た時はまだ空きがあったはずだぞ?!」

 

 駐機場の中年係員がにべもなく告げる。

 駐機場は『レンタルハンガー』とも呼ばれる施設で、MSオーナーに整備スペースと保管場所を提供することを生業としている。ヨットハーバーとレンタルガレージを足したようなものだ。

 

「二時間前かな? 飛び込みの客が来て契約していったんだ」

「嘘だろ……」

「悪いがまた来てくれ」

 

 そう言うと中年係員は事務所の奥に引っ込んでしまった。

 

「マズい……マズいぞこれは!」

「ど、どうする……?」

「どうするったって、安い駐機場は全部埋まってるし、他のところは予算オーバーだ……」

 

 途方に暮れる三人。

 この状況は非常にマズい。

 

「クソッ! せっかくMSが買えるっていうのに……」

「このままだと所有申請が却下されるぞ……」

 

 MSを購入するには『駐機場を必ず確保しなければならない』と法律で定められているのだ。 

 MSは18mもある鉄の塊だ。そんな物を適当な所に置かれたら邪魔なだけ。

 何よりMSを運用できるのは宇宙と港湾区画に制限されている。そのため駐機場は宇宙港にしかない。港湾区画に自前の格納庫を持つ者もいるが、資金に余裕がある者だけだ。

またMSは核融合炉を積んでいるためにコロニー内、それも居住区への持ち込みは厳禁となっている。

 例外は軍用機とイベントなどで特別な許可を得た機体だけだ。

 

「とりあえず昨日のジャンク屋に行こう。駐機場が見つかるまで納機を待ってもらわないと……」

 

 

 

1606時 『ロフマンガレージ』

「だったらウチの倉庫使うか?」

「「「え?! いいんですか?!」」」

 

 思ってもみなかったロフマンの提案に思わずハモってしまう三人。

 事情を聴いたロフマンは少し考えた後、そう言ってくれた。

 地獄に仏とはこのことか。

 

「今使ってない倉庫があるから貸してやるよ。ここも港湾区画だから申請は通るはずだ」

「助かります!」

「……待てケンジ。ここから宇宙港までどうやって運ぶ?」

「あっ……」

 

 一瞬浮かれてしまったがエフラムの指摘で我に返る。

 MSは一般道の通行は禁止だ。道路なぞ歩かせようものなら周囲の車は危険だし、道路も傷む。

 運搬用のトレーラーなど持っていないし、買う金もない。よしんば借りることができても、大型車両の免許がない。

 

「何言ってるんだお前ら? ここのエアロックを使えばいいだろ」

「あるんですか?! エアロックが?!」

「そりゃあるだろ。ジャンク屋なんだから」

 

 ジャンク屋の仕事は宇宙空間に漂うゴミ、つまりは撃破されたMSや艦船の回収だ。

 それらをジャンクヤードに運び込むためのエアロックが設置されている。

 一年戦争は広範囲かつ大規模で行われたため、戦時中から大量のデブリ(宇宙ゴミ)が発生しており、航行する船舶やコロニーへの衝突が懸念されていた。

 そのため各コロニーは戦争終結後、ジャンク屋に諸々の便宜を図り、この問題の対処に当たらせていた。

 その名残がジャンクヤード直通の大型エアロックだ。

 

「じゃ、じゃあ、お願いします!」

 

 喜色満面。

 喜びのあまり顔を紅潮させた三人が揃って礼を言う。

 

(これで販売分に加えて家賃収入もいただきだな)

 

 心の中でほくそ笑むロフマン。

 

「ロジャー、話は聞いてたな? こいつらの契約書を作ってくれ」

「了解です。LT」

 

 ロフマンの後ろでパソコンを操作していた白人男性が近付いてくる。年は40ぐらいだろうか、ややくたびれた印象を受ける。

 

「LTはよせと言ってるだろ」

「俺にとっては今でもLTであることに変わりませんよ」

 

 軽く笑うとケンジたちの前に座り、別のパソコンを立ち上げた。

 

「LT。貸すのは3番倉庫ですね?」

「そうだ」

 

 確認を取りながら契約書のテンプレートを読み込む。

 同時に駐機場の情報も検索。

 

「さて、君たちが借りようとしていた駐機場はどこだい?」

 

 パソコンの画面をケンジたちに向けると尋ねてくる。

 

「ここです。この一番安いところ」

「なるほど」

 

 ケンジが指さすと、その物件の情報を呼び出す。

 

「……LT。広さはここの約1・5倍。整備用クレーン付き。清潔さは完敗です」

「そうか…………じゃあ、そこの家賃から三割引きだ」

 

 ロジャーが簡潔に物件を比較すると、ロフマンのざっくりとした家賃の提示。

 

「三割引き?!」

「やった!」

「そんなに安くていいんですか?」

 

 三人が驚きの安さに沸き立つ。

 

「ロジャー、案内してやれ」

「了解です。LT」

 

 

 

1622時 3番倉庫

「うわぁ……」

「ボロ……」

「汚ねぇ……」

 

 絶句。

 ジャンクヤードの一画に案内された三人。

 想像を絶する物件の佇まいに、それ以上の言葉を失う。

──剥げ落ちた外壁

──錆びたシャッター

──穴の開いた天井

──床に転がる無数の鉄屑

 貸倉庫ではなく『廃墟』とか『廃屋』というのが正解だろう。

 

「どうかな、当店の物件は?」

「どうかなって言われても……」

 

 朗らかに案内するロジャーに困惑する三人。

 

「一応、説明するとMS対応のキャットウォーク、型は古いけど整備用クレーン、天井は20mあるからMSを立たせておくこともできる」

 

 確かに最低限の設備は整っている。

 

「……どうする?」

「どうするったって……」

「安いんだけど……」

 

 二の足を踏む。

 見透かしたようにロジャーが声を掛ける。

 

「半額でいいよ」

「いいんですか???」

「LTはああ言ってたけど、現状はご覧のありさまだ。そのぐらいが妥当だろう? それにあの人は契約書なんて見ないしな」

 

 ロジャーはわざと肩をすくめてみせる。

 三人は顔を寄せ合う。

 

「どうせ空いてる所はここしかないんだ。覚悟を決めよう」

「浮いた分で推進剤がかなり買える。やりくりすればチューニングもできるはずだ」

「穴は適当な板で塞げばいい」

 

 力強く頷き合う。

 

「決まったようだね。じゃ、これにサインを。端数はオマケしておくよ」

 

 クリップボードに挟まれた書類を受け取ると、三人は順にサインした。

 

 

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