ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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ボーイ・ミーツ・ジム 3

15時44分 ロフマンガレージ

「ロフマンさん!」

「お~、待ってたぜ」

 

 我先にと事務所に飛び込んできた三人を、ロフマンはニヤリと笑って出迎えた。

 あれから一週間。

 三人は倉庫の掃除と修繕をしながら、この日を待っていた。

 

「それじゃ、さっそく『納機』といくか」

 

 ロフマンがテーブルに書類を置いた。

 

「支払いはどうする? ローンは何回だ?」

「いえ、一括でお願いします」

 

 エフラムがアナハイム系の銀行カードを取り出す。

 ロフマンはカードを読み込み、諸費用コミコミの金額の入力すると、あっさり『支払い可能』の表示が出てきた。

 

「……お前ら、これヤバい金じゃねえだろうな?」

 

 ロフマンの眉間に皺が寄る。

 いかに中古のオンボロMSとはいえ、それなりの値段。

 ローンを組んで購入するのが一般的だ。

 それをケンジたちのような若者が一括で支払うとなれば、疑いたくもなる。

 

「ち、違いますよ!三人でコロニー外壁工事のバイトやって貯めたんです!」

「それでそれを元手にエフラムが投資で増やしたんですよ!」

 

 ショーンとケンジが誤解を解こうと、自分たちの金策を説明する。

 色々なバイトをやってみたが、一番割りが良かったのがコロニー関連工事だ。

 三人ともプチモビの宇宙作業免許持っていたため、現場では重宝された。

 

(……今のご時世、そんなこともあるか)

 

 心の中で一人納得すると、ロフマンは決済を実行した。

 

「ならいいんだ。じゃあこの書類にサインをくれ。それでジムⅡはお前らのものだ」

 

 

 

16時01分 倉庫

「ロジャー、ジムⅡを出してやれ!」

「了解ですLT」

 

 ロジャーの運転するトレーラーがゆっくり、ゆっくりと日向に出てくる。

 

「おおー!」

「いよいよだな!」

「キタキタキター!」

 

 トレーラーに乗せられたジムⅡが少しづつ、その姿を見せる。

 三人が三人ともこれ以上ないぐらいに笑みを浮かべ、純粋な瞳をキラキラと輝かせる。

 つられてロフマンまで優しい笑顔を浮かべてしまう。

 

(俺にもこんな時代があったかね……)

 

 などと感傷に浸っている間にトレーラーは倉庫の外に出た。

 

「LT、OKです!」

 

 ロジャーがトレーラーの運転席から顔を出すと同時にタラップに飛び付くケンジたち。

 脇目も振らずにコクピットに飛び込んでいく。

 

「ケンジ早く、立ち上げろって!」

「慌てるなよ」

 

 エフラムが急かすが、ケンジとしては最初の起動はじっくりと楽しみたい。

 極上に幸福な笑顔で起動スイッチに指を乗せる。

 

「いくぞ!」

 

 万感の思いを込めて起動スイッチを押し込む。

 

──沈黙

 

「?」

 

 もう一度、起動スイッチを押す。

 

──無反応

 

「え? 何で?」

 

 三度起動スイッチを押すが、うんともすんともいわない。

 頭の中が真っ白になる。

 

「おい」

 

 コクピットハッチからロフマンが顔を覗かせる。

 

「あのロフマンさん? これは一体……?」

「起動キー忘れてるぞ」

 

 そういったロフマンの手には起動キー。

 

「「「あ???」」」

「それとお前ら、ノーマルスーツはちゃんと着ろよ」

 

 

 

16時31分 倉庫前

「やっぱりノーマルスーツ着るとさ! 気が引き締まるっていうかさ、燃えるよな!」

「わかる! わかるぞショーン!」

 

 ロフマンに諭され、三人はノーマルスーツに着替えた。

 三人が三人してパイロット用のノーマルスーツ。

 ケンジとエフラムは0090年代のモデルだが、ショーンはグリプス戦争時代の物を着用している。

 

「しかし、ショーンのこだわりには恐れ入るよ」

「MSに乗るなら、機体の年代に合わせたノーマルスーツを切るのが礼儀だろ」

「すまん、さすがにわからん」

 

 近年、MS競技の人気が高まり、ショーンのようにMS以外の部分にもこだわるマニアが急増。

 昔のノーマルスーツのレプリカを作るショップが繁盛している。デザインは昔のままだが、中身は最新の物と変わらない。

 

「おう、ちゃんと着替えてきたな」

 

 ロフマンがいつものニヤニヤ笑いで三人を出迎える。

 

「ほら、起動キーだ。今度は忘れるなよ」

「ありがとうございます!」

 

 起動キーを受け取り三人でタラップを上る。

 するとコクピットハッチの脇でロジャーが出迎えてくれた。

 

「やあ、今度は大丈夫なようだね」

 

 気恥ずかしさからか三人は笑って誤魔化す。

 そしてコクピットの中を覗くと先程までなかった物が。

 

「あ、補助シートが付いてる!」

「マジか?!」

「本当だ!」

 

 パイロットシートの左右それぞれに補助シートが付いている。

 エフラムとショーンはパイロットシートにしがみ付いているつもりだったので、これはありがたい。

 

「うちの店からのサービスさ。ジャンク品だから、クッション性は期待しないでくれよ」

「「「ありがとうございます!!!」」」

 

 礼もそこそこにケンジはコクピットに収まると、ノーマルスーツ背面のコネクターをシートに接続。体を固定。

 エフラムとショーンも四点式シートベルトで体を固定する。

 

「準備はいいな?」

 

 ケンジは起動キーを握りなおすと、二人に尋ねた。

 

「待ってくれケンジ、今カメラ出すから」

「おいおい早くしろよ」

「今日は俺らの記念すべき日だろ? カメラに収めないでどうするよ」

 

 ショーンは足首に巻いたポーチからカメラを取り出すとビデオモードで撮影を始めた。

 

「いいぞケンジ」

「よし! いくぞ!」

 

──キーを差し込み起動スイッチをON

 MS独特の起動音と共にタキム社製ジェネレーターが目を覚ます。

──ジェネレーター出力をアイドリングで固定

──機体各部への電力供給開始

 サブモニターがコクピットシート正面にスライドしてくる。

──自己診断プログラム走査

 異常なしを告げるグリーンライトがサブモニターに流れた。

──暖機運転開始

──オートジャイロ調整

──メインモニターON

 

「お!」

「お!」

「「「おおお~!!!」」」

 

 360度に張り巡らされたモニターパネルが次々と点灯。

 全周囲モニターに上がる感嘆の声。

 

「立ち上げるぞ」

 

──スロットル操作

 ジェネレーター出力をミリタリーパワーへ。

──排気ダクトから余熱を排気

 トレーラーの荷台を掴むとゆっくりと上半身を起こす。

 右脚を地面に踏み出し、接地を確認。バランサー正常。

──ペダルを静かに踏み込む

 少しだけ勢いをつけてジムⅡはすっくと立ちあがった。コクピットでわずかな浮遊感を感じる

 三人はそれが収まるとモニターを見回した。

 

「……立った?」

「ああ」

「立ったのか?」

「ああ! 立ったぞ!」

「スゲー! 俺たちのモビルスーツが立った!」

「ああ! 俺たちのモビルスーツが立ったんだよ!」

 

 少年たちのジムⅡは大地に立った。

 コクピットに歓喜の声が木霊する。広がる三人の笑顔、安堵、感慨。

 高校生活のほぼ全てをモビルスーツを買うために費やしたのだ。エフラムに至っては涙まで浮かべているし、ショーンは今にも抱き着いてきそうだ。

 シートに体を固定しているために思う存分はしゃげないのが残念。

 

「ショーン、エフラム、ありがとうな!」

 

 ケンジは拳を作ると二人の前に突き出した。顔は照れ臭そうにしているが、その声は真っすぐだ。

 

「おいおい、ケンジの奴が素直に礼言ってるぞ?」

 

 エフラムは意地の悪い笑みを浮かべると、ケンジの右手に拳を合わせ、

 

「こりゃコロニーの気象コントロールがバグって雪でも降るかもな」

 

 ショーンはカラカラと笑って、ケンジの左手に拳を合わせる。

 

「お前ら、そりゃないだろ~」

 

 ケンジがわざとらしく嘆くと三人で笑いあった。

 念願のMSを手に入れ、自分の手で立たせたのだ。

 

「お~い!」

 

 かすかに声が聞こえた。

 

「おーい!」

「なんか聞こえなかったか?」

「? ロフマンさんか?」

「ケンジ、あれ」

 

 ショーンが足元を指さすと、ロフマンが手を振っているのが見えた。何か言っているようなのだが聞き取れない。

 

「何か言ってるみたいだけど……ショーン、何かないか?」

「ケンジ、そのままゆっくりと頭をロフマンさんに向けて」

「こうか?」

 

 言われた通りに自分の頭をロフマンに向けると、ジムⅡもケンジの動きに合わせて頭部を動かす。

 

「そうするとモーションセンサーがケンジの動きを拾って、頭部を動かしてくれる。で、そのままロフマンさんをよく見て」

「お、おう」

 

 メインモニターにロフマンのアップが別ウィンドウで映し出された。

 

「今度はアイセンサーでケンジが見たいものを自動でズームしてくれる。今ので集音センサーも動いたはずだよ」

「マジか?! やっぱ軍用は違うな!」

 

 ショーンの言った通り、今度はロフマンの声がよく聞こえた。

 

「お前らー、これからロジャーがエアロックまで案内するから、付いていけー!」

 

 集音センサーの感度が良すぎるのか、うるさい。

 

「ショーン、返事するにはどうしたらいいんだ?」

「サブモニターの一番下のタブを開いて……そうそれ。で、その一番下が外部スピーカー」

「これか? あ~、あ~……了解です。ついていきます」

 

 ちゃんと聞こえたらしい。モニターに映るロフマンが指でOKサインを作っている。

 

「ロジャー、こいつらをエアロックまで案内してやれ」

「はぁ……しかし、いいんですかLT?」

「何がだ?」

 

 怪訝な表情でロジャーが聞いてくる。

 

「やけにサービスが良くないですか?」

 

 ロジャーの疑問はもっともだ。ジャンク屋のサービスとしては過剰だろう。

 ロフマンはニヤリと笑うと、無言で付いてくるように促す。

 集音センサーの範囲から出ると、静かに口を開いた。

 

「ロジャー、よく考えてみろ。こっちは不良在庫の処分も出来て、家賃収入も入ってくる。俺は孫にプレゼントを買ってやれるし、お前は給料の心配がなくなる。そうだろ?」

「まぁ、そうですね……」

「それにあいつらはMS競技をやるんだ。補修部品も買ってくれるぞ」

「そういうことですか」

「だから、『お客様』は末永く大切にしてやらんとな」

 

 

 

16時47分 エアロック

『ここがジャンク屋組合の共用エアロックだ』

 

 ロジャーの乗るプチモビの先導で、ケンジたちのジムⅡはエアロックに着いた。

 ジャンク屋が使うだけあって、その扉は大きい。MSなら同時に5~6機は出入りできるだろう。時には戦艦やコロニーの残骸を収容しなければならないのだから当然と言えば当然だ。

 

『エアロックの使い方はわかるかい?』

「大丈夫です。外壁工事のバイトやってたんで。ただ、こんなデカいエアロックは初めてですけど」

『なら心配ない。違うのは待ち時間だけさ』

 

 ロジャーが朗らかに教えてくれる。

 待ち時間とはエアロックに空気が入りきるまでの時間と抜ききるまでの時間のことだ。サイズが大きくなるほど時間がかかる。

 

『今、先客がいるようだから、少し待つよ』

 

 ロジャーはそう言ったが、程なくして『空気注入中』のライトが『開放可』に切り替わる。

 

『なんだロジャーか。お前もこれから出るのか?』

「やあビル、今日も大漁みたいだね」

『ドムの腕一本じゃ、大した金にならんさ』

 

 エアロックから出てきたのはドムの腕を抱えたプチモビ。

 ビルと呼ばれた男が乗るプチモビは、およそジャンク屋が使うのに似つかわしくない流線形のボディと華奢な四肢。ロジャーの乗るトルロ社製プチモビの無骨さと比べ、それは異質だった。

 

「スゲー! ミグレンのラプターMP99! レースレプリカだ!」

「おいショーン! 無線入ってるんだぞ」

 

 目を輝かせて興奮するショーンを窘めるが後の祭りだ。

 思わぬ反応にビルが呆気にとられる。

 ビルはロジャーのプチモビに手を乗せると接触回線に切り替えた。

 

『……ロジャー、なんだ今の? お前のところはボーイスカウトでも始めたのか?』

「違うよビル。ウチの『お客様』さ」

『客? って事は、あのジムⅡはお前んとこで寝てたヤツか?』

「そういうこと。宇宙での試運転がご希望だったんで、ここまで道案内さ」

『あの爺さんも上手い事やりやがったな』

 

 ゲラゲラと下品な笑い声がコクピット内に響く。ビルはロジャーと交わした今の会話で、すべてを察したようだった。

 

『それじゃ邪魔しちゃ悪いな。俺は行くよ』

 

 そう言い残すとビルは近くに停めてあるトレーラーに歩を進めた。

 

「あのロジャーさん? 今のは?」

『気にしないで大丈夫だよ。ただの同業者さ』

 

 

 

16時52分 エアロック外扉

『開閉ヨシ。さあ、いつでもいいよ』

 

 外側の扉が開ききり、ロジャーのプチモビが指さし確認。

 目の前に星の海が広がっている。

 

『じゃあ、俺は帰るけど、三人で本当に大丈夫かい?』

「はい、大丈夫です。宇宙は外壁工事で慣れてますから」

 

 三人が三人ともプチモビの宇宙作業免許を持っているし、コロニー外壁工事も散々やった。宇宙に出ること自体は怖くない。

 いつもと違うのはプチモビではなく、フルサイズのモビルスーツということ。

 

「エフラム、フライトプランは?」

「大丈夫、ちゃんと管制に提出済みさ」

 

 携帯情報端末の画面に『承認済み』になったフライトプランを映し出す。

 

「さすがエフラム抜かりない!」

「準備OKだな! じゃあ行ってきます!」

『それじゃあ、ご安全に』

 

 ロジャーのプチモビが器用に手を振る。

 ケンジはゆっくりとジムⅡを歩かせると、フリーフォールの要領で宇宙に落ちていった。

 

 

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