ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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飛べジムⅡ!

10時00分 サイド6近傍宙域

『ターゲット・インサイト・トゥエルブオクロック・ロー(敵機確認、正面下方)』

 

 空間戦闘機『FF-S3セイバーフィッシュ』。

 制式採用時には「宇宙人とでも戦うのか?」と揶揄された高性能機である。

 そのエレメント(二機編隊)が、今しがた発見した敵機に向かって機首を向ける。

 それに呼応するかのように敵機も上昇を開始。

 

──ヘッドオン

 

『タリホー!』

 

 HUD(ヘッドアップディスプレイ)に敵機を捉えると同時に機首四門の機関砲が火を噴いた。

 だが、18mの巨人は左足を後ろに振って緩ロール。危な気もなく回避。そのまま突っ込んできた。

 

『ブレイク! ブレイク! ブレイク!』

 

 衝突コースに乗っていた編隊を左右に散開して回避。

 その間に18mの巨人は悠々と二機のセイバーフィッシュの脇をすり抜ける。

 

──ザクだ!

 

 ジオン公国が開発し実戦に投入した人型機動兵器『MS-06ザクⅡ』。

 セイバーフィッシュのパイロットはすれ違うわずかな時間で敵機を識別。追撃に移る。

 操縦桿を倒しループ機動。機首の姿勢制御用スラスターが断続的に点火され、空間戦闘機としてこれ以上望みようがない最小半径で旋回。敵機の未来予測位置に機体を向けた。

 だがそこにザクⅡの姿はない。

 ザクⅡはすれ違うと同時に右手足を振り抜きAMBACで旋回。セイバーフィッシュのパイロットが予測した未来予測位置のはるか手前にいた。まるで独楽のようにくるりと回り、未だ旋回を続けるセイバーフィッシュにザクマシンガンの銃口を向ける。

 偏差射撃で弾丸を叩き込む。右に左に。

 

──直撃

 

 二機のセイバーフィッシュはループ中だったために、これ以上の軌道変更が出来ずに被弾。煙を吹いて弾き飛ばされていく。

 圧倒的な機動力の差を見せ付けたザクⅡ。どれほど高性能な戦闘機であろうとも、MSとの機動力の差はいかんともしがたい。今の戦闘は戦場の主役が交代したことを示す象徴的なものだった。

 が、

 

──ロックオンアラート

 

 直後、けたたましい音を立て不快な警告音がザクⅡのコクピットに鳴り響く。

 モノアイを巡らせ周囲を探る。

 

──直上から敵機

 

 頭部を上に向けると、モノアイが敵機を捉えた。

 白い機体。

 間違いない。

 あれは、

 

──RX-78ガンダム

 

 見る間に距離を詰めるガンダムに対し、ザクⅡはマシンガンを乱射しながら回避機動に入った。

 だが、ガンダムはマシンガンの弾丸をものともせずに突進。あっという間にザクⅡの懐に飛び込むと、抜き放ったビームサーベルを振り下ろした。

 

 

 

10時6分 サイド6宇宙港6番ポート

『0118年MS競技会合同開会式、恒例の『ヒストリカルフライト』で幕を開けました! 実況は私、トーマス・ジャクソンとMS評論家ファン・クーパーの解説でお送りします。早速ですがクーパーさん、ただいまのフライトをどうご覧になりましたか?』

『今年のテーマは『MS時代の到来』だそうですが、どうして戦場の主役が旧来の兵器からMSへと変わらざるをえなかったのかということが実にコンパクトにまとめられていましたね』

 

 サイド6の宇宙港、その一画を借り切ってMS競技の開会式が行われていた。

 そこには巨大なスクリーンが設置され、宇宙空間で繰り広げられた『ガンダム対ザクⅡ』の映像が映し出され、詰め掛けた観客は思い思いの歓声を上げている。

 『ヒストリカルフライト』と銘打たれたこの演目は、過去の戦闘を当時の機材を用いて再現するショーだ。往年の名機の模擬戦が見られるということで人気がある。ただ、模擬戦ということで弾は空砲、ガンダムのようなレアな機体はレプリカになってしまうのが残念といえば残念だ。

 スクリーンには演目を終えて帰還するガンダム、ザクⅡ、セイバーフィッシュが肩を並べて飛ぶ姿が映っていた。

 

「は~……今年のヒストリカルフライトも見応えあったな」

「すごいよな! ザクⅡの機動なんかAMBACのお手本だよ」

「しかしセイバーフィッシュなんて飛べるのがまだあったんだな。そっちのほうが驚きだ」

 

 ケンジたちが口々に感想を語り合う。

 彼らがいるのは宇宙港の片隅に設けられた開会式会場。別に整列しているわけではなく、チーム毎に適当に固まっている。

 

(観客席とはだいぶ感覚が違うもんだな……)

 

 思わず感慨に耽る。

 去年まで観客席で観戦する事しかできなかったが、今年はスタートラインに立つことができた。

 思わず顔がニヤけてくる。

 

「どうしたケンジ?」

「いや……やっとここまできたんだなって……」

『続きまして宇宙機器レース委員会会長ロナルド・イーサンより開会の……』

 

 お偉いさんの話なぞ聞き流す。

 エフラムもショーンも聞いてない。

 三人でこの場に立てる喜びを噛みしめるのに忙しい。

 

「そうだな。やっとここまできた……」

 

 子供の時に三人で交わした約束。

 三人揃って初めてMS競技を見た時の興奮を思い出す。

 

──三人でチームを組んで出よう!

 

 他愛ない子供の戯言。普通だったらそれで終わる話。

 だが、三人とも本気になってしまった。子供なりにMSの入手方法を真剣に考えた。

 あきらめそうになったりもしたが、自分にできることだけ考えて積み上げてきた。地道に地道に。

 

『地球連邦軍サイド6駐留艦隊MS隊による展示飛行をご覧ください』

 

 感慨に耽っている間に式典はだいぶ進んでいたようだ。

 スクリーンを見上げるとスモークを曳いたジェガンの編隊が、宇宙空間を飛び去って行く。

 開会式ももうすぐ終わる。

 

「さて、ご挨拶に行くか」

 

 

 

10時32分 宇宙港 仮設MSピット

「何度見てもミスターMSの機体はスゴイよな~」

「スゴイって言うか、ここまでいくと卑怯じゃないか?」

「こういうのは『鬼に金棒』って言うんだよ。まぁ、性能が違い過ぎるってのは確かだな」

 

 貸切られた宇宙港6番ポートには競技に参加するMSがズラリと並ぶ。簡素なパーテーションで区切られピットとしての役割と、販売ブースとして用いられる。

 MSの前では各チームが出店を出しチームグッズの販売、パイロットのサイン会に撮影会にと賑わっていた。

 観客たちはレースが始まるまでの間、思い思いに各チームのブースを巡り楽しむことができる。

 フルサイズMSの競技にワークスチームは存在しない。つまり全てのチームはプライベーター(個人参加)である。であるから、ここでのグッズの売り上げはチームの活動資金に直結している。各チームとも多種多様なグッズ販売とサービスに力を入れ、資金調達に勤しんでいた。ただし、それで集客が可能なのは人気のある上位チームだけなので、下位チームは飲食物の模擬店であったり、MS関連のフリーマーケットを開いたり、そも出店しなかったりと三者三様。

 

「この帽子を三つ」

 

 ケンジたちは目当てのチームの出店で野球帽を買うと、サイン会の列に並んだ。

 さすがに昨年度チャンピオンのチームだけあって列が長い。いや、ただ昨年優勝しただけではここまで列は長くならない。

 彼らが並んでいるのはMS競技創設時から参加し、齢六十を超えて今なお乗り続けるMS競技界のレジェンド。

 

──ニコラス・ガーランド

 

 デブリヒートでの入賞十二回、そのうち優勝七回という成績を誇るバケモノ。ファンは畏敬の念を込めて『ミスターMS』と呼んでいた。

 そしてその後ろにそびえるのが彼の愛機

 

──RGZ-95C リゼル・レッドパラディン

 

 名前の通り鮮やかな赤で塗装されたMSは、得も言われぬ美しさがあった

 リゼルは第二次ネオジオン戦争後に制式採用された可変MSである。

老朽化による運用コストの高騰や連邦軍のドクトリンの変化を理由に退役が進んでいるが、一部部隊によって運用が続いている。退役した機体も全てモスボール保管され、いつでも戦線に復帰できるようになっていた。

 つまり、まだ民間に放出されていないMS。

 

「このリゼルをレストアするのに6年だっけ? ……俺にはとても真似できないな」

「パーツ集めだけでも気が遠くなる……それもジャンクだけで……」

「まったくだな……第一、金が続かないよ……」

 

 ガーランドは6年の歳月をかけジャンク屋を巡り、撃破されたリゼルのパーツをかき集め、それでも足りないパーツは撃破されたジェガンの部品を流用して作り上げたものだ。もともと部品の共用が行われていた両機であったが、本機ではさらにその割合が高くなっていた。武装の封印に来た連邦軍技官は、このMSを見て苦笑いで帰っていったという。

 そのためリゼル本来の性能を発揮できないと言われているが、参加しているどのMSよりも高性能なのは間違いない。他のMSと性能に差があるために「卑怯」と言われることもあるが、MS競技が『機材スポーツ』であることを考えれば、的外れの批判と言えよう。

 機材スポーツである以上『勝てる機体を用意する』ところからレースは始まっているのだ。

 

「次の方どうぞ~」

 

 待つ事しばし。やっとケンジたちの順番がやってきた。

 スタッフに促されガーランドの前に歩み出る。

 チャンピオンのガーランドは柔和な笑みで迎えてくれた。

 

「ようこそ、サインはその帽子でいいのかな? お名前は?」

「はい、ケンジです」

「ショーンです」

「エフラムです」

 

 三人揃って帽子を差し出す。

 緊張から声が上ずってしまった。

 ガーランドは帽子を受け取ると慣れた手つきでサインを書き込んでいく。

 

「あの……ミスター・ガーランド、今シーズンから僕らもデブリヒートに参戦することになりました」

「ほう?」

 

 帽子を返すガーランドの手がピタリと止まる。

 

「子供の頃から貴方に憧れてきました。いつか一緒に飛べるようがんばります!」

「…………」

 

 ケンジの精一杯の宣誓を聞き届けると、ガーランドは顔を綻ばせた。

 

「『いつか』じゃ困るな。私ももう歳だ、早く来てくれないとな」

「え? あっ、すすすみません! がんばります!」

 

 ケンジとしては格好よく宣戦布告するつもりだったのに、これではまったく締まらない。

 ガーランドはガーランドで新しいMS仲間を歓迎しているつもりなのだが、彼らには上手く伝わらなかったようだ。と、同時に思い出すのはケンジ同様に挨拶に来た若者たちのこと。過去にも参戦の挨拶に来た者たちがいたが、大半は事故であったり資金難に陥りMSを降りていった。

 

(彼らは生き残るかな……)

 

 去っていった者たちに思いを馳せる。

 

「すみませんでしたミスター・ガーランド! それじゃ、これで失礼しますんで……」

 

 ケンジの抜けっぷりに恥ずかしくなったエフラムが、二人の背中を押して逃亡を図る。

 だが、ガーランドは彼らを呼び止めた。

 

「ああ、待ちたまえ。パイロットは君でいいのかな?」

「は、はい……」

「もう一度、帽子を」

 

 ケンジは言われるままに帽子を差し出す。

 受け取ったガーランドはサインの脇に一言書き足すと、ケンジの頭に被せてくれた。

 

「がんばりたまえ」

「……はい!」

 

 そそくさとサイン会から離れ、十分距離を取ると、ケンジは息を吐き出した。

 

「ぶはぁぁぁ~…………緊張した……」

「ケンジ、お前ちゃんとしろよ。恥ずかしいだろ」

「うっせーぞエフラム! そう言うならお前が喋ればよかったんだ」

「こういうのはパイロットがやるもんだ」

「それよりも最後、何書き足してたんだ?」

「おっと、そうだった」

 

 帽子を脱いで書き足されたメッセージを確かめる。

 

──宇宙で待ってる

 

 それがガーランドからのメッセージ。

 ケンジは帽子を深く被りなおすと、不敵な笑みを浮かべた。

 

「これは……早く上のクラスに行かないといけないな」

 

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