ガンダム 0118『ダンス・オン・デブリ』   作:アルテン

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飛べジムⅡ! 4

11時32分 サイド6近傍宙域

『各機、綺麗なスタートを切り……おっと? スターティングボードの15番グリッドにレッドランプが点灯!』

『あ~、フライングですね』

『15番グリッドに入っていたのは『ハイザック・レッドドワーフ』! 0.2秒のフライングです。ペナルティとして15秒、そしてフライング分の0.2秒、合わせて15.2秒がタイムに加算されます』

 

 これでこのハイザックは後続を十五秒以上引き離してゴールしない限り、勝利できない。

 

『さあ、先頭集団を見てみましょう。トップで第一コーナーに進入してきたのは『ガザC・オナガ』、その後ろに『ネモ・ZEKUU』、『ズサ・キラーエッグ』、『マラサイパラダイス』、『ガンダムMk―2フリーダムファイター』が団子状態で続きます!』

『『ガザC・オナガ』はMA形態での加速を活かして、上手く集団から逃げ出しましたね』

『ですが加速が良すぎてラインが膨らんできた! クリッピングに付けない! その間にヨハンソン選手のネモがジリジリと差を詰める!』

 

 

 

11時33分 ジムⅡ コクピット

『先頭集団が2コーナーを抜けるぞ』

「クソッ! 速いな!」

 

 悪態を付きながらも必死で操縦するケンジ。

 ジムⅡはまだ第二コーナー手前。じわじわと差が広がっている。

 

『焦るなケンジ。今、7位だ。慌てるタイミングじゃない』

「わかってる! けど、前のハイザックが赤いくせに遅いんだよ!」

 

 装甲板を減らしただけの、どノマールのジムⅡで七位は大健闘と言えるポジション。

 前を飛ぶハイザックにストレスを感じながら、第二コーナーへ進入。

 フルスロットルを維持したまま、右側の肩と脚部スラスターを全力噴射。強引に向きを変える。

 遠心力に持っていかれそうになる体を、歯を食い縛ってシートに押さえ付ける。

 

(このままアウトに膨らんで……抜く!)

 

 全スラスター点火。

 速度を乗せ、第二コーナー立ち上がりで最高速度に達するように調整。

 高いコーナリング速度でわざとアウト側に膨らみ、ハイザックのブロックを躱しながら抜き去るつもりだ。

 ハイザックはジムⅡよりイン側にラインを取っていて、コーナーを立ち上がってから加速する腹積もりのようだ。

 ジムⅡの速度が上がっていく。

 

『ケンジ! 左だ!』

「なっ?!」

 

 エフラムの警告でモニター左側に視線を移す。

 ハイザックはこちらの意図を察し、アウト側に膨らむとジムⅡの針路をブロック。

 とっさにスロットルを戻し衝突を回避。

 MS一機分のスペースを空けて抜く算段が、あっさりと潰されてしまう。

 

「危ねーだろ! この野郎!」

 

 怒り心頭。

 抗議の声を上げるもここは宇宙空間。相手に届くはずもなし。

 スロットルを入れ直し、再加速を開始するが後の祭り。

 もはやハイザックの術中にズッポリと嵌っていた。

 

『後ろから来るぞ! 避けろ!』

「はぁ?!」

 

 回避のために速度を落としたジムⅡ。

 速度を落とせば後続機が追い付くのは自明のこと。

 だがコーナリングに集中していたケンジは、エフラムの叫びが何のことだかわからなかった。

 次の瞬間、

 

──接触

──追突

──玉突き

 

「ぐわっ?!?!?!」

 

 ケンジのジムⅡに次々と後続のMSが追突。

 衝撃で機体が前に押し出される。

 ハイザックはタイミングを計ると、膝を曲げてジムⅡを待ち構えた。

 

「てめぇ! このクソ野郎! あっ!?」

 

 追突の衝撃から解放されたケンジが顔を上げると、

 

──モニターを埋め尽くすハイザックの足の裏

 

「ぎゃっ!?」

 

 ハイザックに蹴り飛ばされ、後続機に再度ぶつかるジムⅡ。

 その間にハイザックは蹴りの反動を利用して、悠々と加速していく。

.

「俺を踏み台にしやがったな!」

 

 

 

11時34分 実況席

『お~と! 後方集団で動きがありました! 第二コーナー出口でクラッシュです! リプレイを見てみましょう』

『…………なるほど、『ハイザック・レッドドワーフ』は上手く仕掛けましたね』

『と言いますと?』

『『ハイザック・レッドドワーフ』はフライングのペナルティで15秒のハンディを背負って飛んでいる訳です。これを覆すのは容易ではありません。ですので、後続を大きく引き離し、安心して先頭集団を追える環境を整えたかったでしょう』

『なるほど。確かに今のクラッシュに四機のMSが巻き込まれて立ち往生しています! その間に『ハイザック・レッドドワーフ』が後続を大きく引き離す!』

 

 

 

11時34分 ジムⅡ コクピット

「あの野郎どこ行きやがった!」

 

 第二コーナーを抜け、デブリ漂うストレートに入るジムⅡ。

 スラスター推力を80%程度に抑え、右へ左へヒラヒラと。

 四基のメインスラスターが目まぐるしく向きを変える。

 

『右からガンダムが来るぞ!』

「チッ!」

 

 ダミー隕石の影からRX-78ガンダムが飛び出し、ジムⅡのラインと交差。

 サブスラスターを吹かし、軌道をずらすと右手で払い除ける。

 バランスを崩したガンダムが失速。視界の隅へと消えていく。

 

「ハイザックはどこだ?! デブリで前が見えない!」

『10秒ぐらい差が付いてる。でも、あのハイザックはそんなに速い訳じゃない。周回を重ねれば追い付ける!』

「…………わかった」

 

 ガンダムに水を差されたせいか、落ち着きを取り戻す。

 スラスター推力を少しづつ上げていく。ゆっくり、慎重に。

 ジムⅡは非力な機体だ。

 加速に優れる訳でも、機動性が高い訳でもない。

 最小限の軌道変更でダミー隕石を避け、ミスを減らしてジリジリと前に詰め寄るしかない。

 

「エフラム、ショーン、サポート頼む!」

『任せとけ!』

 

 

 

11時34分 仮設ピット

「ショーン、どうだ?」

「駆動系も推進系も異常はないよ。装甲が凹んだだけだね」

 

 ジムⅡから送られて来るデータを見て、モニターしていたショーンが安堵の表情を浮かべる。

 今のクラッシュで不具合が出ていないか心配だったが、杞憂だったようだ。

 

「ふぅ……レース開始数分で、リタイアなんてことにならなくて良かったよ」

「ああ、ケンジの奴ならやりかねないしな」

「もう少し大切に乗って欲しいよ」

 

 

 

11時35分 実況席

『最終コーナーを抜けて『ネモ・ZEKUU』が先頭で立ち上がってきた! その後ろに『ガザC・オナガ』がぴったりと張り付く!』

『『ネモ・ZEKUU』は今シーズンから新しい姿勢制御スラスターに換装したそうです。コーナリング速度が上がってますね』

『ホームストレートに入って横一線! 加速に優れる『ガザC・オナガ』がジワジワ伸びてくる!』

『ホームストレートはデブリの密度が低いので、加速性能と推力に勝る『ガザC・オナガ』に有利ですね』

『おお~! 行った! 今、『ガザC・オナガ』が『ネモ・ZEKUU』をオーバーテイク! 一位で二周目に突入!』

 

 

 

11時35分 ジムⅡ コクピット

『先頭が二周目に入ったぞ』

「ハイザックとは何秒差だ?」

『12秒』

 

 仮設ピットにいるエフラムと短いやり取り。

 ペダルをわずかに踏み、戻す。踏み、戻す。

 微妙なコントロールで最終コーナーを抜けて行く。

 ホームストレートに入ると右サイドのスラスターを断続噴射。遠心力を打ち消す。

 ダミー隕石の少ないラインに機体を乗せ、姿勢を安定させると周囲を見渡した。

 

「見つけた!」

 

 ケンジの目がスラスターの炎を見つけると、すかさずモニターにズームされたハイザックの姿をサブウィンドウで表示。

 ハイザックとの距離が合わせて表示されるが、ジリジリと差が開いている。

 

「ジムⅡじゃストレートはキツイか……」

 

 わかっていたことではあるが、ぼやきたくもなる。

 スラスターは全力噴射。それでも前との差はなかなか縮まらない。

 ジムⅡはもがきながら二周目に突入。

 

『ケンジ、タイムが出たぞ。ハイザックとは11.4秒差だ』

「…………」

『ハイザックの飛び方を見ると、ストレート重視のセッティングみたいだな』

「じゃあコーナリングで詰めるしかないな」

 

 渇を入れるようにスロットルを握り直すと、ジムⅡは嘶くようにメインカメラを光らせた。

 

 

 

11時47分 ジムⅡ コクピット

「エフラム、どうだ?」

『五秒差まで詰めたぞ!』

 

 六周目に入り距離を詰めるも、順位を変えられない。

 コーナリングで詰め寄ってもストレートで離される。

 それでも何とかなっているのは、ケンジが必死にコーナリングスピードを稼いでいるからに他ならない。

 

『それとラインが変わってきたぞ。今、データを送る』

 

 エフラムがジムⅡにデータを転送。

 データはダミー隕石の配置と最善と思われるライン取りの軌道データ。

 

「クソっ、結構変わってるな」

 

 送られてきたデータを横目にダミー隕石を躱す。

 スタート時に比べ、ダミー隕石の数と位置が変わっている。

 ダミー隕石は要は『風船』なので、スラスターの排気を浴びるとちょくちょく動いてしまう。周回を重ねるごとに少しずつ流されて、レース終盤には大きく位置を変えていることも珍しくはない。

 無論、ケンジたちもそのことは承知の上。

 

「誰がやってる?」

『動かしてるのはネモとマラサイだ』

 

 レース慣れした者はダミー隕石を意図的に動かす。

 各チーム共にダミー隕石が終盤になるにつれ位置が変わることは承知している。ただ、それでも予想と違う位置にあったり、目の前で動かされれば焦りもするし、ストレスも溜まる。

 

『ズサとMk-2が割らされてる』

「そりゃ、ご愁傷様」

 

 さして同情もしていないが、とりあえずそう言っておく。

 そこでハタと気付いた。

 

「ん? ってことはハイザックを抜けば、三位争いに喰い込めるってことか?!」

『可能性はない訳じゃないが……相当難しいぞ』

「いや、イケるね! 俺の直感がそう言ってる!」

『マジかよ……』

 

 

 

11時48分 実況席

『『マラサイパラダイス』の蹴りがクリーンヒット! 『ガンダムMk-2・フリーダムファイター』たまらず仰け反る! さらに追い打ちのワンツー! ああ~、ここでガンダムフェイスが割れてしまった!』

『あぁ~……ジムの頭が出ちゃいましたね』

 

 マラサイの猛攻に打ちのめされるガンダムMk-2。

 被せてあった装甲が剥がれ、その下からジムⅢの顔が現れる。

 MSの市場において『ガンダム』は今も昔も人気の商品である。

 だが、その希少性ゆえに本物が出回ることはまずない。市場に出回っているのは全て『レプリカ』である。

 レプリカも大別して二種類あり『新造機』と『改造機』に分けられる。

 新造されたレプリカとしては、UC100年祭の時に建造されたZガンダムが有名であろう。ただし相当な金額がかかるため、『新造』は一般的な方法ではない。

 最も普及している方法は『似たような機体』、つまりはジム系列にガンダムの『ガワ』を被せる方法である。これならば入手も容易で、安価に済ませることができる。『RX-78ガンダム』は『ジムⅡ』を、『ガンダムMk-2』なら『ジムⅢ』をベースに改造するのが一般的だ。ただし、ガンダムに見えるように装甲を付け足すことになるので、重量が増えることとなり、あまりレース向けではない。

 『Ⅱにあらず、実はⅢ』。ガンダムMk-2レプリカを揶揄し、オーナーが自嘲するときによく言われる常套句。

 

『トドメの回し蹴り! これも綺麗に決まった! Mk-2吹っ飛ぶ! あっ、あ~……そのままダミー隕石に激突! ダミー隕石が割れてしまった!』

『またしてもダミー隕石を割らされてしまいましたね』

『『ガンダムMk-2・フリーダムファイター』に『バルーンブレイクペナルティ』として5秒加算されます』

 

 元々軍用機材であるMSは、繊細ではあるが頑強である。そのためダミー隕石にぶつかった程度で損傷を負うことはない。割りながら進むことだって可能だ。だって風船なのだから。

 ただそうなると『デブリヒート』という競技自体が別の物になってしまう。

 それを防ぐために『ダミー隕石を破壊した機体に5秒加算』する『バルーンブレイクペナルティ』が定められていた。

 

『『ガンダムMk-2・フリーダムファイター』はこれで三つ目のペナルティ。合わせて15秒の加算となります。こうなるとかなり厳しいですが、その辺りどうでしょうかクーパーさん?』

『その通りです。『ガンダムMk-2・フリーダムファイター』の勝ち目は薄いと言わざるを得ないでしょう。三つのダミー隕石を割らせた『マラサイパラダイス』のドミニク選手が一枚上手だった訳です』

『おっと、ここで情報が入ってきました。『ガンダムMk-2・フリーダムファイター』がリタイアです。どうやらシステムダウンのようです』

『おそらく今の格闘戦でメインフレームにダメージが出たのかもしれません』

『ボールが回収に向かっていますが、イエローコースコーションは出ないようです。このままレース続行です』

 

 

 

11時49分 ジムⅡ コクピット

『Mk-2がリタイアしたぞ! これで六位だ!』

「よっしゃ! これならいけるぞ!」

 

 ショーンが興奮気味に伝えてくる。

 棚ぼただろうがなんだろうが、順位が上がったのだ。どうやったってテンションが上がる。

 

『気を抜くなよ。まだ六周目なんだからな』

 

 エフラムが緩む空気を締めなおそうとするが、上がったテンションは落ちそうにない。

 

「任せとけ! 今日は俺たちの日だ!」

 

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