崩壊世界と死闘と奇跡   作:ソウブ

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最終章2

 

 

 

 千年前。

 事が起こる、一日前の日。

 

 その日も公園で奇跡と会っていた。

 

「ねえ、たろー。わたしね、ずっとこのままがいいな。ずっと楽しいままでいたいな。ずっと、一緒にいたいな」

 ブランコに揺られながら奇跡が口にした、印象に残った言葉だ。

 

「そうだよな。俺もそう思う」

 その時は、特に難しく考えずそう返した。

 今は、心の底からそう思う。

 

 

 異能力者が殺戮をし始めたエックスデー。

 

 異能力に覚醒した俺は、まず公園の近くにいたので奇跡と合流した。

 

 奇跡は友達を失い絶望していた。

 

 その後、元気づけながら家族と合流しようとしたけれど、家に戻ると全員死んでいた。両親は氷像となっていた。妹の明梨(あかり)は死体すらなかった、大量の血と荒らされた部屋だけが残っていた。

 

 俺と奇跡は失意を抱えながら戦っていく。

 

 他の、精神まで異能力者に染まっていない人間の異能力者とも協力し、何人も異能力者を倒していった。

 

 そんな時だ。

 エディフォンと対峙する事になったのは。

 

 奴は最強だった。文字通り、異能力者の中で規格外な程最も強い存在だった。

 

 仲間の異能力者は一人、また一人と殺されていった。

 

 俺は奇跡の絶対防御でさえ無力化されるのではと恐れ、エディフォンを奇跡から引き離し一人戦った。

 死に物狂いで喰らい付き戦った。

 

 そして負けた。

 

 だが、死ぬ直前、奥の手を発動する。

 俺の異能力は敵に勝つ手段を模索し現実にしてきた。

 それの究極系。

 エディフォンに勝つ方法が実行された。

 

 エディフォンを打ち倒す方法は、千年の眠りにつき、異能力を強化し続ける事だった。

 

 その一つしかなかった。それぐらいしないと打ち勝てない相手だった。

 

(奇跡、絶対に守るから)

 

 守る、勝つという絶対の意思。千年の眠りにつく覚悟。その先でしか勝てない悲壮。

 それらを抱えて、エディフォンを倒し、奇跡を守る為、千年の長い長い旅が始まった。

 

 

 ――――、一剣太郎の死が確定した事で、一剣太郎という器がなくなった事で、最高神の力が表に顕現する。

 

 白い爆発。

 エディフォンが吹き飛んでいく。

 

 千年の旅路の果てに、俺は今此処(ここ)に居る。

 千年の絶望の果てに、奇跡は此処に居た。

 その絶望を打ち砕く為に、俺は此処に来た。

 俺は、生きている。

 

 長く一剣太郎と一体化していた最高神の因子は、一剣太郎=最高神という図式を有していた。

 記憶が失われていたのは、強化のみに全ての力を割いて千年眠りについていたから。記憶を取り戻したことで、完全な力の使い方を思い出していた。

 

 俺はほとんどが元の一剣太郎ではない、奇跡の願いから創られた存在だ。だが、一剣太郎という概念さえ残っていればいい。その程度で一剣太郎の千年は途切れたりしない。

 

 千年の思いがあったから、俺は何度も覚醒し強大な異能力者に勝利してきたのだ。

 そんな都合の良い力、最高神以外保有している筈がない。

 一剣太郎以外の異能力者は、神の紛い物だ。

 

「この、力は」

 エディフォンは目を見開き此方(こちら)を見ている。

 初めて見せる、エディフォンの動揺だった。

 

「たろー!」

 奇跡が期待と信頼の瞳をしていた。

「勝って!」

 俺はゆっくりと頷いた。

 

 

 白い光に包まれながら、手に持つ一刀が巨大化していく。

 人の条理の法則は一切無視されていく。(これ)より起こるは、神の法則。

 

 全長50メートルの刀へと至った。

 

 大上段に構えた巨大な刀が世界を照らすほどの鮮烈な光を発する。

 

 

 エディフォンが最大充填した光の球を放つ。

 光の刀を振り下ろした。

 衝突。

 僅かな拮抗の後に、光の球は斬り裂かれ消滅した。

 

 エディフォンが右の拳に漆黒の光を集中させる。

 漆黒の巨大な拳が完成した。

 それが、エディフォンの全力だ。

 漆黒の拳はあらゆるものを破壊する力を持っている。この星でさえ、容易に破壊してしまうほどの。

 

 光の刀を振り抜いた。

 漆黒の拳が放たれた。

 

 お互いの最大攻撃が衝突し、白と黒の光が世界を照らし、衝撃波が周囲を吹き飛ばす。

 

「ぐ、ぐおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 エディフォンの拳が壊れていく。

 

「私は」

 

 黒が白に塗り替えられていく。

 

「私は、死ぬのか」

 

 拳が砕けた。

 

「そうか、死ぬのか……」

 

 光の刀がエディフォンを斬り伏せた。

 

「死ねるんだな……」

 

 エディフォン=ヴォルグマンという最強の異能力者は、今此処で、その命を消滅させた。

 

 

 

 戦いの終わり。

 光の刀は消えた。

 敵の異能力者はもういない。

 世界には俺と奇跡の二人きりだ。

 

「たろー、これで、ぜんぶ終わったんだね」

「ああ、終わった」

 

 俺は理解していた。

 

「終わったけどさ……」

 

 神の力なんてものに至って、自分の力を隅から隅まで知り、理解させられていた。

 

 ――ねえ、たろー。わたしね、ずっとこのままがいいな。ずっと楽しいままでいたいな。ずっと、一緒にいたいな――

 

 奇跡は昔、そう言っていた。

 ごめんな。一つしか、叶えてやれそうにない。

 

「ここまでの力を手に入れたらさ、どうにかできると思ってたんだ」

 

 全てを取り戻せると。

 死んだ人たちを生き返らせるか、過去に戻ってやり直せると。

 実際エディフォンとの戦闘中、過去に何度も戻っていた。

 でもそれは僅か前の時間だったから出来た事で、千年も前には戻れない。

 

 神は万能だと思っていた。

 けれど、少なくとも、俺は万能ではなかったみたいだ。

 

「どうにも、できなかった」

 

 失ったものは戻らない。

 全てを取り戻す事を目指して、けれどそれは無理だった。

 

 取り戻せないのが現実だ。取り戻したいと思った時は手遅れなんだ。なにがなんでも、あの時に、その場で取り零さないようにしなければいけなかったんだ。

 

 今は、終わった後の世界でしかない。

 

「何も取り戻せないんだよ。ごめんな、奇跡」

 

 奇跡は、起こらない。

 

 そして奇跡は、怒らなかった。

 

「いいんだよ、たろー」

 

 奇跡は俺を抱きしめ包んでいた。

 俺の方が身長も体格も大きいのに、奇跡は子供をあやす様に、救う様に抱きしめている。

 

「わたしは、たろーさえいれば大丈夫だから」

 

 俺は多くを失った。

 それでも、取り零していない一つの希望がある。

 奇跡という希望が。

 その希望を大切にしていかなければならない。

 俺にはまだ、大切な人が居る。

 

 奇跡の移り行く髪色と瞳の色が、一瞬だけ、元の黒髪黒目に戻っていた。

 

 奇跡は微笑んだ。

 

 全てが壊れた灰色の街で、君が笑っている。

 

 それさえあれば、いいのかもしれないと思えた。

 

 

 ……………………………………………………………………………………。

 

 

 いいのかもしれないと思えた。

 

「いいわけ、ないだろ……」

「え……?」

「奇跡、俺は大丈夫じゃない。こんな結果でいいなんて言えない」

「たろー……」

 

「無理矢理納得しようと思ったけど、やっぱり無理だ。だって、世界に二人だけなんて、あんまりにも寂しいじゃないか。大切な人が多くいたのに、もう奇跡しかいないなんて、奇跡しか幸せにできないなんて悲しすぎるじゃないか」

 

「たろー、でも……」

「奇跡だって、本当はこんな終わりいやだろう?」

「…………」

 奇跡は、隠しきれない本音が動揺と沈黙に現れていた。

 

「つまり、俺は誰一人救う事も幸せにする事も出来なかったっていう事だ」

 

 幸せでいてほしかった人達が、幸せでいるべきだった人達がいたのに。

 異能力者達も元はいい人間だったのに。誰一人不幸になっていい人間なんていなかったのに。

 こんなの、ただの悲しい現実的な終わりだ。

 

「俺はヒーローになりたかったんだ」

 

 誰かを救うヒーローに。

 

「俺はヒーローになれなかったんだ」

 

 一人も救えない凡人だった。

 

 皆もう死んでいる。

 終わった事をどうこう言ったところで何も変わらない。

 終わった事を変える奇跡を願い望む事は間違いなのか。

 諦めきれないのは妄想家の現実逃避なのか。

 俺は叶わない夢を見ている子供でしかないのか。

 もう無いものを求めている我が侭な聞き分けの無い子供なんだ。

 

 わかってる。

 わかってるんだ。

 苦しくても悲しくても認められない事が起きてしまっても、痛みを背負って前に進むしかない事は。

 終わっているんだから、それは変えられない事なんだ。

 

「ちくしょう」

 

 もう、なにも……。

 

 でも。

 それでも。

「諦められないんだ……」

 

 

 ――たろーは、諦めない。

 

 わたしは、それを思い出した。

 

 たろーの瞳には光が灯っている。 

 その光が失われたことは、一度もなかった。

 たろーは諦めて放りだしたことなんて一度もない。

 わたしのことも、千年かけてでも助けに来てくれた。

 たろーは千年前から、ずっと諦めずに戦い続けている。

 そんなたろーが挫けそうになっている。辛そうな顔をしている。

 なら、今度はわたしが。

 助ける。

 今度はわたしも。

 諦めない。  

 

 

「たろー」

「……」

「だったらわたしも、諦めない」

「……?」

「すべてを取り戻すことを、はなちゃんを取り戻すことを諦めない」

「奇跡……」

 

 奇跡は強い光の灯った瞳をしていた。

 

「たろーが幸せでないと、わたしも幸せになれないから、わたしも頑張る。はなちゃんを幸せにしたい」

 奇跡は優しく微笑んでいた。寂しい笑いではない、吹っ切れたような強い笑いだった。

 

「いつまででも頑張ろう。諦めないで続けよう。そうすれば、なんとかなるかもしれないよ」

「そう、だよな」

「たろーとわたしで、一緒に」

「奇跡と俺で、一緒に」

「一緒なら、どれだけ時間がかかっても頑張れるよ」

「ああ」

「挫けても、また立てるよ」

「ああ……!」

 

 俺達は、また長い長い旅路を歩む事を決意した。

 

 無謀な望みを、あり得ない救済を掴み取る為に。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――。

 

 

 

 あれから。

 

 どれだけ経ったか。

 

 恐らく千年くらいは経った。

 

 奇跡とお互いの心を支え合いながら、神の力を高めて()った。その中で様々な方法を模索した。

 何度も諦めそうになっても、奇跡と励まし合い、心を休め、また立ち上がり再開した。

 

 そうして。

 ここまで来た。

 

「奇跡、ようやくだな」

「うん、長かったね」

「長過ぎた、でも、不可能じゃなかった」  

 

 一剣太郎の最高神の力と、奇跡の絶対防御の力、その力を高め続けた結果、元の世界を取り戻す程の現象を引き起こせる段階までに至った。

 

 最高神の純粋に強いエネルギーと、俺達の心を守る為の絶対防御が合わさり極限まで概念と現象が高まった事で、俺達の望みを守る為に世界改変を行える能力と成った。

 

 正に神の御業、物語のご都合主義の様な奇跡の力。

 

 奇跡と共に掴み取った、本当の奇跡だ。

 

「行こう、奇跡」

「うん、みんな一緒に、幸せになろう」

 

 俺達の繋いだ両手から白い光が広がっていく。

 何処(どこ)までも何処までも、広がっていく。

 花開く様な奇跡の笑顔と共に、世界は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 




おしまい

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