~日本・モノレール車内~
モノレールの窓から見える海に一人ため息を吐く夏輝。彼が今向かっているのはISについて学ぶ学園【IS学園】だった。何故彼がIS学園に向かっているのか。それはほんの3ヵ月ほど前まで遡る。
~3ヵ月前・地獄にある閻魔庁~
その日、夏輝は何時もと変わらない仕事を行っていた。
「鬼灯様、先日の裁判の資料纏め終わりました」
「ありがとうございます。では後で葉鶏頭さんにお渡ししておいてください」
「分かりました」
夏輝は鬼灯から頼まれていた資料を綺麗に纏め紙のフォルダへと仕舞い机の中へと仕舞う。
「おぉ~い、なっく~ん! 鬼灯様ぁ~!」
と大声で2人を呼びながら裁判所に入って来た束。その姿は普段のアリス服ではなく青や白を混じらせ、ウサギの刺繍が入った着物であった。
※因みに束が鬼灯の事を様付で呼んだのは、鬼灯がそんじょ其処らに居る鬼よりも力強く、変な呼び名で呼んだら鼻フックされるかもよ。と夏輝に忠告された為
「あぁ、束さん。どうしたんです?」
「実はちょっとなっくんにお願いがあって来たんだぁ」
「お願いですか?」
束のお願いに首を傾げる夏輝。
「うん、実ははっくんの関する事なの」
「春斗の? 一体何なんです?」
「実は……。はっくん、ISに乗れるの」
「……は?」
束の口から突然出た春斗がISに乗れると言う言葉に夏輝は首を傾げた。
「篠ノ之さん、確かISは女性しか乗れないのでは?」
「うん、確かにISは女性しか乗れないはずなんだけど、何故かはっくんISに乗れちゃったみたいで。で、今度IS学園通うことになったの」
「それ本当ですか? 春斗の奴、可哀想に」
夏輝は自身の弟が悲惨に目に合わなければいいのだが。と思っていると
「実は、なっくもISが乗れる可能性が出ちゃった」
と束が言うと、夏輝の顔から表情が消え無の顔になった。
「……束さん、まさかと思いますが」
「そのまさか」
「何時分かったんです?」
「なっくんが寝ている時にこっそりと[バチッン!!]あひん♡」
夏輝が寝ている時にこっそりと調べと言った束に向かって思いっきり頭をしばく夏輝。叩かれた束は痛がっているが、何処か嬉しそうな表情をコッソリと浮かべていた。
「まったく、何を勝手に調べているんですか」
「えへへへ、ついつい」
呆れた顔でため息を吐く夏輝。そんな中一緒に居た鬼灯はふむと暫し考え込んでいた。
「ん? 鬼灯様、如何なさいましたか?」
「いえ、少しある事を思いついた物ですから」
「ある事?」
そう首を傾げていると、大王が昼食をとり終えたのか裁判所に戻って来た。
「ふぅ、相変わらずシーラカンス丼は美味しかったぁ。うん? 鬼灯君達何を話し合ってるの?」
そう声を掛けると鬼灯が大王の方に顔を向け暫し見つめる。
「な、なに?」
「……大王、少しお話があります」
「ん? なんの話?」
「暫く夏輝さんを現世のIS学園に視察と言う事で通わせようと思っているんですが、宜しいですか?」
「はい?」
突然鬼灯が大王に夏輝を現世のIS学園に通わせたいと願い出したのだ。それには流石の夏輝も驚きの余り言葉を零してしまった。
「ほ、鬼灯様一体何をお考えなのですか!? 私は既に獄卒の者です。現世に通うなど不可能に近いかと思います! それに仕事はどうするのですか? 今現在の仕事が溜まりますと、鬼灯様にかかる負担が多くなります。秘書官としてはそれは見過ごせません!」
夏輝はそう言うと鬼灯が夏輝の方に顔を向ける。
「確かに私に掛かる負担は大きくなります。ですが、それは大王がしっかり仕事をしないせいでもありますからね」
そう言うと夏輝も納得ですと言った表情を浮かべる。大王は2人の会話に酷く嫌な予感を感じ背中に冷たい汗が流れる。
「それと現世に行く場合の対処法は既にあるんでしょう、篠ノ之さん」
「うん、なっくん用のISにちょっとしたステルス機能とか載せておいたからなっくんが鬼だと言うのは気付かれないようしてあるよ」
「そう言う訳です。無論視察ですので仕事になります。ここ最近の現世で蔓延っている風潮などを調査し報告書にまとめて送ってください」
「……行かないといけないですか?」
「そうですね、では上司の命令として行くよう言います」
鬼灯にそう言われ、夏輝は深くため息を吐く。
「分かりました。鬼灯様がそう指示を出されるのでしたら、秘書官である私は従わなければなりません。それで私が抜けた場合の仕事は如何しますか?」
「それは決まっています」
そう言い鬼灯はおもむろに金棒を取り出し床にドンっと置く。
「
「それしかありませんね」
そう言い同じく金棒を取り出す夏輝。二人は閻魔大王の方に顔を向けると大王はガタガタと震えていた。
「ふ、2人ともお、落ち着いてぇ」
「「落ち着いています、仕事をしっかりとするよう指導するだけです」」
そう言いながら大王の方に向かう二人。
その後裁判所から大王の悲鳴が鳴り響いたのは言うまでもなく、更に今後の大王の就労時間が大幅の伸びた。
~現在に戻る~
そんな事があり、夏輝はIS学園へと向かっているのだ。
モノレールが最終駅、IS学園前へと到着すると夏輝はモノレールから降り駅を後にした。そして学園へと向かって歩くと一人の年配のスーツ姿の女性が立っていた。
「本日転入されました、鬼島夏輝さんですか?」
「えぇ、私です。貴女が此処の学園長であられる」
「はい、轡木佳代子言います。どうかよろしくお願いしますね」
「此方こそ3年ほどお世話になります」
挨拶を終え轡木と共に学園内へと入って行く。
「鬼島くんの教室なんですが、1年1組になっております。もう一人の男性操縦者も1組におられます」
「そうですか。それは気を張詰めなくて「要らねぇって言ってるだろうがぁ‼」」
もうすぐ1組に到着する。そう思った矢先に突然教室内から怒声が聞こえ、夏輝は声から春斗が怒鳴ったと分かり何事かと考え込む。
「す、すいません。少し見てきますので夏輝君は教室前で待っててもらってもいいですか?」
「えぇ、構いません」
すいません。と轡木は言うと1組の中へと入って行く。
1組に入って行った轡木が見たのは、怯えた生徒達と教師。そして怒りを露にしているもう一人の男性操縦者、春斗と腕を組みながら見据える教師の千冬。
「織斑先生、一体何があったんですか?」
そう声を掛けると、千冬は轡木にバツが悪そうな顔を浮かべる。
「実はこいつに専用機を「俺はもう自分のISは持っているって報告している。なのにこの糞教師が許可も取らずに取り上げて、自分と同じ能力のISを強引に渡そうとして来た」」
「……織斑先生、貴女一体何をしているんですか?」
千冬の言葉を重ねる様に春斗が報告すると、轡木は目を細め千冬の方を睨む。
「……」
「ダンマリですか。まぁいいです。SHRが終わり次第学園長室に来るように」
そう言われ苦虫を噛んだように顔を歪め俯く千冬。
「さて、坂本くん。彼女が勝手に用意したISは此方で何とかしておきますのでご安心しておいてください」
「……分かりました。それと例の件はどうなったんですか?」
「それも問題ありません。今日来られているもう一人の男性操縦者と同室になっております」
「「「!?」」」
もう1人の男性操縦者と学園長が言うと教室内が驚きで一杯になった。
「それでは入ってください」
そう言われ教室の扉が開き一人の生徒が入って来た。
「「「っ!?」」」
「初めまして、鬼島夏輝と言います。もう一人の男性操縦者と言う事で此方でお世話になることになりました。どうぞよろしくお願いします」
頭を下げ挨拶をする姿に、クラスの生徒達は
「「「「きゃあぁあああああ!!!」」」」
「もう一人の男性操縦者来たぁ!」
「もはや私達は勝ち組じゃない?」
「よっしゃーー!」
と叫び声が上がる。するとガンッと鈍い音が教室内を響き一瞬に静寂になりその音の方に目を向ける。其処には金棒の先を床にぶつけたのか床がひび割れていた。やったのは夏輝だった。
「騒がしい所申し訳ありませんが、他のクラスがまだSHR中だと思います。騒ぐのでしたら休憩時間にしてください」
にっこりと笑っているが何処か暗い何かを見せる夏輝に生徒達は全員首を激しく縦に振った。
「で、では鬼島君は坂本君の隣にお座りください」
そう言われ夏輝は分かりました。と言い席に着く。そしてSHRは進めらた。
隣の春斗はチラチラと夏輝の方に目を向ける。
(兄貴に似ている。けど、兄貴は…)
そう、春斗の兄貴は既に死んでいる。それなのにそっくりな夏輝が現れたことに若干動揺していた。
「何か用ですか?」
「あ、いや。気を悪くしていたらごめんなさい」
「いえいえ。別に気にしてませんよ。それとため口で構いませんよ、同い年ですから」
「えっ!? 同い年なんですか?」
「えぇ。ですからため口で構いませんよ。あ、先に言っておきますが私の口調は元からこれ何で気にしないでください」
そう言うとそうか。と砕けた口調になる春斗。
「そうだ、ISの勉強とかやってるのか?」
「そうですね。渡された参考資料をササっと憶えたのである程度は分かりますよ」
そう言うと春斗の顔が若干固まった。
「あ、あの電話帳に見たいに分厚いアレを全部覚えたのか?」
「えぇ。早読は得意ですから」
「すまん、勉強教えてくれ」
春斗は思いっきり頭を下げお願いすると、夏輝は構いませんよ。と快く了承した。
そして時刻が放課後へとなり、それぞれ教室を退室して行く。
「それじゃあ寮に行くか」
「そうですね。すいませんが、案内してもらっても?」
「おう、良いぜ。同室になるんだし一緒に行こうぜ」
そう言われ、えぇ。と夏輝は了承して教室から出る。
「待て、春斗」
そう呼ばれると春斗は顔をしかめ、声がした方に向ける。其処には黒髪のポニーテールにした生徒が居た。夏輝はあぁ、束さんの妹の箒か。と思い出す。
「何だよ? さっさと帰って予習したいんだよ」
「べ、勉強位後で「うっせぇよ。何時も窓の景色ばっか見て授業をまともに受けてねぇ奴が言うんじゃねぇよ。てか、昨日も言っただろうが、俺に関わんなって」な、なんでそんなことを言うんだ!」
ウザそうな表情で言う春斗に怒り顔を浮かべる箒。
「決まってるだろうが。一々絡んでくるお前の事が嫌いだからに決まってるだろうが。夏輝、行こうぜ」
「えぇ、分かりました」
そう言い歩き出そうとした瞬間
「ふ、ふざけるなぁ!!」
と大声をあげながら殴り出してきた箒。春斗は難なく掴もうとしたが、その前に夏輝の手が早かった。
「っ!? な、何をする!」
「何をって。殴り掛かろうとしていたので取り押さえただけですが?」
淡々と言った表情で言うと、夏輝は掴んでいた手を突き放す。
「人の気持ちを考えず、己の主張を押し付ける様ではこの先色んなもの失いますよ」
そう言い夏輝は春斗に行きましょう。と促す。春斗は夏輝の手を出して箒の拳を止めた動き驚いていたが、直ぐに我に返り、おう。と返し歩き出す。
「…るさい。うるさい。うるいさい、うるさいぃ!!」
そう叫びながら今度は夏輝に殴り掛かる箒。だが、その行動を予期していたのか夏輝は慌てることなく、突き出された右拳を左手で払い、素早く接近し右肘で箒のこめかみを殴った。殴られた箒はその場で意識を失い倒れこんだ。
「……す、すげぇ」
「ふむ、ちょっと力入れ過ぎましたかね?」
そう言いながら落とした鞄を拾い上げる夏輝。
「な、なぁ今の技って…」
「護身術です。何かと物騒な時代ですからね」
そう言いながらケラケラと笑う夏輝。
「ところで、彼女どうしましょう?」
「ほっとけばいいと思うぜ。どうせ誰か起こすでしょ」
そう言い春斗は夏輝を連れ寮へと向かって行った。箒はその後千冬によって保健室へと連れていかれ何があったか聞かれるが、その場での記憶が飛んだのか憶えてないと答えたそうだ。
寮へと着いた夏輝と春斗は早速明日の授業の為に予習を行うのであった。
以上で鬼灯の冷徹とのクロスオーバーを終えます。
続きが気になる終わり方で申し訳ありません。