ガンダム・サンドリヨン   作:環二子

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1.幕開け

 宇宙世紀0080年1月1日、月面都市グラナダにおいて終戦協定が締結され、地球連邦とジオン共和国とのおよそ1年にわたる戦争は表面上の幕を閉じることとなった。

 しかし、その後もジオン軍残党の抵抗は根強く、終戦から丸1年を経た宇宙世紀0081年2月現在も連邦軍との小競り合いは各地で繰り広げられていた。

 

 北米大陸西海岸に位置するキャルフォルニア基地は、戦後もモビルスーツと呼ばれる人型機動兵器の製造開発の要として位置づけられ、民間企業であるアナハイムエレクトロニクスの支社が置かれるなど、軍事的に重要な拠点のひとつとなった。

 南米に存在するジャブロー基地との連携も取られ、ジオン軍残党のゲリラ戦に備えた防衛・警戒任務としては大袈裟とも言える規模の兵員を動かすに至っていた。

 言うなれば、一匹のねずみに怯えて数千の獅子の群れを屋敷の庭に解き放つようなものだ。

 そのような厳重な警戒網が張られれば、当然ジオン軍残党の活動は水面下に潜ろうものだが、多勢に無勢と安心して緩みきった連邦軍の虚を突くように仕掛けられるゲリラ戦術に少なからず被害を受けるといったことが常態となっていった。

 それに対してキャルフォルニア基地上層部のとった答えは、単なる辺境警戒基地への兵員増強というありきたりなものだけである──。

 

 

「隊長、前方上方に光跡見えました!」

 行軍中の地球連邦北方方面軍キャルフォルニア基地帰属の通称ブルースカル小隊を預かるラスト・ステアー中尉の耳に、部下のベルナルド・テッサーリ軍曹から早口な無線が入ったのが事の始まりだった。

 搭乗しているモビルスーツ──ジムのカメラの有効範囲で画像処理されたモニターには、飛行物体が白煙を上げて滑空する様が映し出されていた。残念ながらカメラの光学センサーの有効範囲を超えているためか、白煙と認識できる程度のモザイク処理で、ジムに搭載されたコンピューターの友軍識別機能は『不明機』とだけ告げていた。

 それがほんの数分前の出来事だった。

 

 ガツンと大きな衝撃音を上げて、小隊の盾となっている岩場が削り取られる。

 遠方からのスナイパーライフルによる狙撃だった。

「隊長ーっ! この岩持つんでありますかっ!?」

 ラスト・ステアー中尉のジムのコックピットに、部下の情けない声が響く。

 声の主は、モビルスーツのパイロットとしてはまだ新兵のシドニー・ヒックス伍長だった。度重なるジオン残党ゲリラのおかげで最近招集された志願兵の一人である。ラストはとんだお荷物を抱えてしまったような気分で、もうひとりの部下であるベルナルド・テッサーリ軍曹に騒ぎ立てる新兵シドニーのカバーを命じた。

 幸いにも高さ18メートルもの図体のあるジム4機が身を潜められるほどの岩場は、シドニーの心配むなしく堅牢だった。それでも岩場の端を的確に削っていく敵の弾丸は脅威だ。少しでも機体の一部が見えたなら射抜いてくるであろう事は予想に難くない。

「准尉、敵影は?」

 キャルフォルニア基地奪還作戦をともに生き延びた盟友で、小隊の副隊長を務めるジェイシー・ハーギン准尉にラストは落ち着いた声音で尋ねた。

 優男を絵に描いたようなラストと違って、ジェイシーの軍人らしいいかつい顔がモニターのスポットウィンドウに表示される。このような通常無線による映像通話が可能だということは、ミノフスキー粒子の散布レベルが低いことに他ならない。

 無線の使用を制限するミノフスキー粒子がほとんどないのであれば、ジムに通常搭載されているレーダーによる索敵が可能なのだが、交戦中にあってはレーダーの発信源を特定される可能性もあり、無闇に使用すべきものではない。しかし、すでに敵にこちらの位置を特定されている現在のような盤面ではその限りではなく、ラストは小隊長としてあらかじめジェイシーに索敵を要求していた。

「敵影は半径内にありません」

 彼は申しわけなさそうな表情を見せたが、ラストにとってそれは予想通りである。レーダーの外である8000mを優に超える距離からの狙撃だけであれば、そう簡単に追い詰められることはない。むしろ、相手の弾切れを誘うだけでいい。

 そう思考を巡らせている最中にも、ガツンと大きな音が岩場の端を削り取ってゆく。

 気にかけているのは、この執拗な攻撃の手数である。

 スナイパーが単独で行動しているのなら、自らの位置を予測されないように動き回り、確実に1発を当てるように攻撃してくるものだ。しかし、当のジオン残党のスナイパーはそうではなく、自分たちを岩場の陰に足止めしておくことが目的であるかのような威嚇射撃を行っている。つまり、敵にはスナイパー以外に歩兵となるモビルスーツがいるということだ。

 一箇所に集められてる現状、スナイパーに狙われつつ接近戦を行うというのは非常に不利な状況で、ましてや新兵を抱えるブルースカル小隊は戦力的にも不十分であった。

 そして何よりも問題なのは彼らの装備の脆弱さにある。

 ラスト・ステアー中尉の率いるブルースカル小隊は、彼らの帰属するキャルフォルニア基地の司令部から、ジャブロー基地方面への中継となるアルメンドラ警戒基地への転属辞令を受けたに過ぎない。比較的安全な警戒基地であり、空路で最寄の空軍基地まで移送されたあとは陸路を数日踏破するだけのことだった。

 それゆえに、90ミリマシンガンとビームサーベルのみと言う軽装で、新兵を含む急造の小隊となっていた。

 案の定、敵の歩兵となるモビルスーツの影は未だレーダーに捕捉されていない。

 最悪な事態の予想に、ラストの頬を冷たい汗が伝う。

「ジェイシー、本部に救援要請を」

 焦りにも似た小隊長の声にいかつい顔をさらに強張らせ、ジェイシーは短く了解の意思を伝えると、そのまま救援要請のコールサインへと移行した。

 

 

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