執事の世界に咲くものは   作:でぃえん

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前回のあらすじ 

恐怖!執事の部屋は仕えるべき対象の弦巻こころ嬢の写真で埋め尽くされていた! 


2

 

 

 

 彼は深く、長い息を吐く。 

 少し落ち着いたようで、私にやっと向き直る。 

 

 

 「そうだな……とりあえず、その携帯電話をしまってくれるか?」 

 

 「……それより、とりあえずドアの前からどいてくれませんか?」 

 

 「逃げるつもりだろう?話を聞いてからでもそれは遅くはないから!」 

 

 彼は懇願した。 

 その割に私を逃がす気はなかった。 

 

 

 ……えー。 

 この人面倒くさい。 

 

 

 謎の緊張感が部屋の中を包む。 

 

 そんななか、抱いていた猫は呑気に欠伸をしていた。 

 

 

 

 「…どうやって鍵を開けた?」 

 

 「いや、こころが開けてた……。 

 そもそも鍵なんてかかってなかったんですけど」

 

 彼は、眉をひそめる。

 困惑しているように見えた。 

 

 

 「……………何故開いている?住み込みの使用人は施錠してるはずだ。それは俺に限らずな」 

 

 「……そんなの知らないよ」 

 

 「へーえ」 

 

 

 こいつ信じてないな? 

 値踏みするような目で、じろじろとこっちを見ている。 

 正直めちゃくちゃ腹立つ。 

 

 

 

 「敬語、使わないんですね? それともそんな余裕ないんですか?」 

 

 「勝手に部屋に入っていく人に敬語で話す理由なんてないよ」 

 

 

 流石にプツンと来てしまった。

 

 「いい加減にしてよ!あたしが入ってこんなところで何するわけ!?」 

 

 彼は驚いて飛び上がり、猫もまた吃驚して毛を逆立て、私の腕から滑り落ちた。 

 私の口はそれでも止まらない。 

 

 

 「部屋に入ったのは申し訳なかったけど猫が出てくるし!! 善意で入ったらこんな部屋見せられて!後悔しかないに決まってるでしょ!?」 

 

 「こ、こんな部屋って」 

 

 「こんな部屋でしょうが!ストーカーか!」 

 

 「す、ストーカーじゃない!ただ写真を撮っては部屋に飾ってるだけだろう!」

 

 「どこが!?」 

 

 限りなくクロだ。 

 

 

 「と、とにかく不法侵入扱いしたことは謝る、ごめん」 

 

 「えっ……、あー、はい」 

 

 あっさりと頭を下げられて、私はすっかり毒気を抜かれてしまう。 

 

 

 

 「落ち着いたなら、弁明をさせてほしい。これバレると色々面倒だからな」 

 

 「…まあ、これ見られたらクビなんじゃないですかね、そりゃ」 

 

 「…………」 

 

 彼が顔を青ざめさせてガクガクと脚を震えさせていると、電話が鳴った。 

 

 こころからのようだ。 

 そういえば花音さんが見つかってからずいぶん放置していた。 

 …この部屋が衝撃的すぎてすっかり忘れていたけれども。 

 …あ、考えてるうちに切れた。 

 

 

 彼のほうも携帯電話を見つめる私を見て何か察したようで、

 

 

 「……と、とりあえずまずはこころ様との会議に行こう。 

 君のことをお待ちしてるはずだから」 

 

 「……いいんですか。部屋から出すまいとしてたのに」 

 

 「俺の事情よりこころ様の用事のほうが大事だろう」 

 

 「……さ、さいですか」 

 

 

 真顔で言い切られてしまった。 

 この人、やっぱりおかしいよ。 

 あんなに告げ口を恐れてたのに、まだこころを優先するのか。 

 ……本当に、弦巻家の人たちは、こうなんだ。

 

 

 「まあ、会議が終わってしばらくしたら連絡するからまた来てくれると助かる」 

 

 「そういえば連絡先知ってるんだった…」 

 

 ぞっとしない。 

 

 

 彼はとにもかくにも頷いた私に満足したようで、足にまとわりついていた猫を引き剥がし、猫毛を振り払った。 

 そしてコホンと咳払いするとタイを強く締め、執事のときに見せているあの笑みを顔に張り付けた。 

 

 

 「……それじゃ、行きましょうか、()()()?」 

 

 「……え、なに?一緒に行く気なの?」 

 

 「なんですか? 私はただこころ様の横にお控えするだけですが」 

 

 こいつ、私が何か言わないか監視する気だな。 

 私が白けた目で見ていると、ふと彼は、あの笑み(ペルソナ)を消して小声で呟くように言った。 

 

 

 

 「…言い忘れてた、知り合いだとバレると面倒なんでそのへんは頼みます」 

 

 「あー、はいはい。もう分かったんでさっさと行きましょ」 

 

 そういえばなんで私のほうが命令されてるんだ? 

 ものすごく理不尽だと思う。 

 

 

 彼は覗き穴を見て誰もいないことを確認すると、ドアを開け恭しく私に礼をする。 

 

 「それでは参りましょう、こちらに」 

 

 「……待って。本当に素の時と全然違うじゃん。

 このあと平常心で行けるのかな、あたしは」 

 

 「……頑張ってください」 

 

 

 …どうしてこんなことになってしまったのか、それは分からない。 

 

 もう敏腕の万能執事の印象は帰ってくることはない。 

 

 まあ、とりあえず今すぐこころを襲うような人ではない。 

 処遇は弁明とやらを聞いてからでいいだろう。 

 幸い逃げる気も私の口を封じる気もないようだし。 

 

 それにしても、こうして執事然としているとああいうことをしているのが信じられない……。 

 

 

 「? あたしの顔に何かついて?」 

 

 「いや、裏であんなことしてるの気持ち悪いなって。改めて」 

 

 「……マジでそういうのやめてください、お願いします」 

 

 

 とりあえず、彼の執事モードが崩れるのは結構面白いので二人のときはどんどん言ってやろうと思った。 

 

 それくらいは黙秘料というやつだろう。




奥沢美咲さんに罵られるのはご褒美では? 

頑張って毎週更新したいのですが滞り気味です、申し訳ありません! 

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