外に出ると、夏の太陽はとっくに沈んでいた。
少し汗ばむ。着ぐるみの中ほどじゃないけど。
送るよ、と彼は駅についてからもばつが悪そうに言っていたけど、なんとなく恥ずかしかったので丁重に断ってしまった。
空は満月で。
その光を浴びながら家路に向かう。
彼が今日、赤裸々に語ったことについて考えた。
彼は、こころに魅せられたと語った。
だから、今あの場所にいると。
思えば、ハロハピのみんなだってそうだ。
花音さんはいつまでもこころに憧れていて。
薫さんとはぐみも、こころの言ったことを信じたからハロハピに入って。
こころは、いつもその中心にいる。
こころの意見が胸につっかかるのは私だけなのかもしれない。
どうしようもないひねくれ者だから?
一体感を、一人だけ抱けないんだ。
だからといって、今はハロハピから離れたいわけではなくて。
そもそも私はハロハピに必要で。
こころが突っ走るのは危なかっかしいから。
ハロハピが、もし皆を笑顔にできなかったときに落ち込むのを見るのが嫌だから。
でも、この疎外感は、確かに私の心の底にある。
だから、彼に私の心情を言い当てられたときはそれこそ心底、驚いた。
こいつは、こころ以外もちゃんと見てるんだなって。そう思ってしまった。
頭の中はこころのことで一杯のはずなのに。変なの。
ふふっ、と一人で笑う。
蝉の音にかき消されてしまって、数少ない通行人も誰も私を気にはしなかった。
…そして、思う。
彼のいう弦巻こころへの憧れは、ハロハピの皆と種類が違う。
…こころは、みんながヒーローになれると言った。
そばにいる人が、笑顔を思い出させてくれればいいと。
でも彼は、違った。
彼は、私達に。ひいてはこころにその役割すべてを託していた。
「彼女なら事実世界を笑顔にできる、ね」
彼がカフェで言った言葉を、噛み砕くように呟いた。
……彼は、言外に匂わせていた。
彼は、自分自身が人を笑顔にできるだなんて考えてもいないんだろう。
その点で、彼は決定的にこころを理解できていなかった。
彼は、いつまでも太陽のほうを見続けるヒマワリで。
その姿を見て、私はどう思った?
どこまでもこころに憧れていて。
……そしてそれこそが、私とまるで違うところだ。
こころを信仰するのは間違っていると、私は思う。
でも、それでも。
こころのことを語る彼のヘーゼルの目は、綺麗だったから。
そんなことを言えるはずが、なかった。
私と一緒ならよかったのに、と思う。
弦巻こころをどこまでもひとりの人間として見て恋して。
それでいて、こころの言うようなヒーローではない人であれば。
彼は私なんかじゃなかった。
……でも、まあ、仕方ない。
勝手に期待したのは私の方だ。
理解することと、同じ場所に立つことは同じではないから。
携帯電話ひとつで、彼と話すことはできても、それでも…今はどうしようもなく遠い。
空は、雲ひとつない。
私を満月が容赦なく照らす。
夜のヒマワリは、月の光には見向きもしないで俯いているらしい。
まるで月光が、太陽の反射光であることを知らないかのように。
「月だって、ヒマワリの花をまっすぐ見ることができたら、喜ぶかもしれないのにね」
空を見て呟く。
だから、スマートフォンで月の写真を撮って、彼に送りつけてやった。
返信が来た。早い。
『写真の画質悪くね?』
「……」
ま、通じるわけないか。さっさと帰って寝よ。
第1章はここで終わりです