【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも

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カリーナと同じくIFルートです。
うん。流石に人から逆レされたら本編(?)に影響が出ちゃうからね!


【IF】ヘリアン

 草木も眠る何とやら。太陽は果てへと沈み、その役目を月と星々へと引き継いだ時間帯。

 

 とある地区の治安維持も兼任するグリフィン基地も、夜間は活動を控え翌日の活動の為に備えているのがいつもの事なのだが、本日の司令室はLEDの照明が灯されている。

 

 司令室に居るのは、この基地に所属する戦術人形達の式を専門に任された指揮官と、灰がかった長髪の彼の上司、上級代高官の女性ヘリアントス、通称ヘリアン。

 

 指揮官はどうやって音頭を切り出そうかと顔を七変化させながら化学調味料で味付けされたアルコールの入ったグラスを持ち、ヘリアンは顔を俯かせたままグラスを力強く握りしめている。

 

 指揮官はチラチラとヘリアンの表情と、軋む音を発するグラスを気まずそうに交互に見ると、やがて意を決して顔中の筋肉と言う名の筋肉が凍てついた笑いを浮かべながら大きな声でグラスを掲げる。

 

「さ、昨日はお疲れさまでした!か、かんぱーいっ!!!!」

 

「……かんぱい」

 

 無理矢理テンションをあげて音頭をとる指揮官に合わせるように、ヘリアンは普段基地の職員に向けるのより低い声を発しながらグラスを掲げて指揮官のグラスに自分のをぶつける。

 

「んきゅ……んきゅ……」

 

 緊張の糸が張り巡らされ過ぎて、胃の調子が悪かった指揮官は、胃に報酬を与えるかの如く、一息にグラスの中身を飲み干す。祖父が一気のみで救急搬送されてから、大人になっても一気飲みはしないと誓った指揮官であったが、余りのストレスに変調を訴える胃への特効薬は今はアルコールしか無かったから。

 

「ぷは―!!」

 

 空きっ腹にアルコールが注ぎ込まれると、胃から燃えあげるような感覚を味わう事になった指揮官。全身に火が回ったような錯覚を起こし始めたので、やっぱり一気飲みはするものでは無いと、身体に覚えさせたのであった。

 

「いい飲みっぷりだな……」

 

 そんな指揮官の心境を知ってか知らずか、ヘリアンはどこか恨みったらしそうな低い声で指揮官を睨む。

 

「そ、そうですかね!?あはは!!」

 

 指揮官が睨まれるような事をした覚えは――ある意味ある。それは、部下である指揮官が粗相をしたり、大きなミスを犯してヘリアンが責任をとったから、と言う様なビジネスの話では無い。もっとプライベートな、もっと言うとヘリアンの私怨染みたものだ。

 

 指揮官のもみあげから汗が垂れる。アルコールで体温が一気に上がったような錯覚を覚えたくせに、汗の冷たさだけははっきりとわかるのがなんとも不愉快で気持ち悪い。

 

 けれども、指揮官はこの居心地が悪い空間から逃げる事は出来ない。それは、相手が上司で、自分は部下であるから。

 

「あはっ、あはは……」

 

 壊れた玩具の様に苦笑を貼りつかせる指揮官は、空になったグラスにアルコールを注ぐ。アルコールのせいなのか、それとも別の何かのせいなのか、彼の手は禁断症状を起こしたようにガタガタと震え、グラスに注がれる筈のアルコールが手にもかかってしまっている。

 

「指揮官」

 

「は、はぃっ!」

 

 ヘリアンから呼ばれ、指揮官のアルコールを注ぐ手がピタリと止まる。普段は掴みどころが無くどこか飄々とした姿を見せている指揮官だが、今だけは動物病院に連れてかれるペットの様に大人しく、従順になっている。

 

「率直に言って貰いたい」

 

 彼女は一度、言葉を区切ると、息を吸って二の句を繋げる。

 

「昨日の合コン、なにが行けなかったと思う?」

 

 モノクル越しの真剣な眼差しに、指揮官は凍りついてヒビが入ってしまいそうな苦笑いを浮かべるのが精いっぱいであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 指揮官は先日、ヘリアンと共に合コンに呼ばれた。否、指揮官は呼ばれたと言うよりも、ヘリアンに数合わせで来るように命じられていたのだ。

 

 指揮官とて(元(?))純情な好青年。男女同士が集まってする飲み会と言うのには興味がある。

 

 務めている企業の都合上、休暇以外は閉鎖的な基地と言う空間に留まるのが常であり、指揮官は依頼者と直接交渉したりすることも無い。それに、学校教育を終えてから、年齢の近い者との絡みと言ったらカリーナと位しか無い。役職的には上の方には居る指揮官であったが、入社歴の都合上外出の自由はヘリアンより効かないので、ある意味でありがたい話であった。

 

 最も、数合わせと言うよりかは、ヘリアンがいいと思った相手といい雰囲気になれるように手伝えと言うサクラの役割ではあったが、久しぶりに街に出ての飲み会、今の彼にとって見知らぬ他人と関わる機会は貴重なので、願ったり叶ったりな要請であった。

 

 因みに、その日、指揮官が合コンに行くと言う話が何処からか漏れたのか、ST AR-15とHK416が不穏なオーラを纏いながら護衛をやると志願した。戦果の取り合いでいがみ合う事がそれなりにある二人がだ。指揮官曰く、人間であったら二人の目は血走っていたと語っている。

 

 指揮官としてはヘリアンの様に相手を見つけると言うよりかは、楽しく話しながら飲むだけのつもりなので、疚しい事は何もないと何度も説得したのだが、『己の運命を受け入れてください』と『私が居れば十分なのに……?』と言う言葉を凄まじいプレッシャーと共に贈られたので指揮官は屈した。

 

 結局、指揮官の把握している限り、その日の護衛は五人はいたと言う。数人は勝手についてきたようだが、指揮官はあの二人のプレッシャーで心がへこたれていたので何人来ようと同じだと思ってスルーしていた。

 

 因みに護衛達は離れた位置から見守る形で指揮官の邪魔をしないようにしていたとの事。上司であるヘリアンも同伴しているので、恐らく指揮官の顔を立ててくれたのだろう。

 

 話を戻そう。指揮官とヘリアンは居住区内の大衆食堂で合コンを行った。集まったメンバーは指揮官とヘリアン、それと彼らと同じ位の年齢の男女が二人ずつ。だれも彼処も、一流の企業に勤めてて、容姿のレベルが高い。グリフィンも一流企業であるので、それに負けず劣らずと言った勤め先のメンバーが集まったのだろう。

 

 指揮官は、何となくな流れ的に進行役を務めつつ、ヘリアンをさりげなくサポート。指揮官がヘリアンのサクラだとばれない様に知り合いを装って。

 

 指揮官が(進行の為に)女性に話しかけたり、飲み物は何がいいか、次は何に注文しようかと細やかな気遣いをする度に、別のテーブルからグラスが割れる音がしたらしいが、そこは気にしないで貰いたい。

 

 かくして合コンは終始和やかな雰囲気で終わり、指揮官は始めて知り合った男女全員と連絡先を交換し、ヘリアンは女性とだけ連絡先を交換して解散となった。

 

 余談を言うと、合コンが終わり次第、護衛の一人であったUMP45に携帯端末を没収され、合コン前の状態にロールバックされた上にありとあらゆる連絡先が勝手に変更されていたと言う。指揮官は楽しく飲んでいただけなのに何故だろうか。

 

 再び話を戻そう。ヘリアンの異名を知っているだろうか?彼女の異名とは『合コンの負け犬』。『負け犬歴』をめでたく記録更新することになってしまったのである。

 

 指揮官の援護がありながらも何で失敗したのか、その反省会を翌日、つまり本日の夜に行おうとヘリアンが提案(命令)してきた事からこの飲み会が始まったのである。

 

 ヘリアンはじっと指揮官を見つめる。判決を待つ被告人の様に。ヘリアンからすれば見上げてるだけなのかもしれないが、指揮官からすればこれから処刑される罪人が処刑される寸前に処刑人の事を睨みつける様な理不尽な怨嗟を感じているのだが。

 

 指揮官は頬を掻きつつ分析する。ぶっちゃけた話しヘリアンのサポートには回っていたのだが、サポートに回りやすいように自然と進行役になっていたせいで、余り分析の為の材料が揃ってない。個より全を見てしまっていたから。

 

 揃ってないのだが、敢えて言えるとしたら――

 

「自分の事を前面に出し過ぎ――な様な気がしますね」

 

「それは、どういう……?」

 

「うーん。ヘリアンさん、この前はこういう仕事をしたーとか、こういうのが好きとか、本当に自分のことばっかりと言うか……」

 

「…………」

 

「ああ、いえ!自分の事を知って貰おうとして言ってるのはわかってるんですよ!?」

 

 ヘリアンからの無言の睨みと言う名の抗議に、指揮官は両手を振ってフォローを入れる。

 

 そう、ヘリアンは自分の主張が強すぎる面がある気がした。指揮官にとって、合コンとは、男女で集まって飲み、あわよくば親睦を更に深めよう、と言った下心が見え隠れする飲み会、と言うように感じている。

 

 なので、合コンの時点で必要なのは、自分と言うものはその時は軽く紹介する程度に収めて、話の流れで自分と言う引き出しを開けていけばいい。そう言う風に思っていた。

 

 しかし、ヘリアンは自分からどんどん自分と言う引き出しを開けてくる。それこそ、指揮官のフォローが間に合わない位に。

 

「確かに……一理あるかもしれないな……」

 

「私にとっての合コンは殆ど初対面の男女がまずは楽しく飲みあうモノかなーって思っているので、その……」

 

「初心を大事に……か……ふむ……」

 

 納得した様に頷くヘリアンにほっとした様に息をつく指揮官。合コンで失敗するあまり、もしかしたらヘリアンは初心を忘れていたのかもしれない。調和を求められる空間で個の出し過ぎと言うのは、異端になってしまうものだから。

 

「後はそうですね……。グリフィンの仕事に関して詳しく言い過ぎと言うか」

 

「それも、自分を前面に出し過ぎだと?」

 

「うーん……PMCもこのご時世において安泰で倍率の高い職業ですけど、やっぱり仕事内容が仕事内容なので、商業区画で働いてる人達にはショッキングかと――」

 

「ふむ――」

 

 指揮官の分析に相槌を打つヘリアン。時折、細かく聞いて来たりはするが、指揮官は出来る限り言葉を選んで伝えつつも助言をおくる。

 

 彼は、心の奥底で結婚願望を強く持ってるヘリアンの事を少しばかり羨ましく思っていた。

 

 彼が務めているのは民間軍事企業。それも、指揮官と言う立場。敵にとっては忌々しい対象の上位であるだろう。

 

 前にも言った通り、PMCは収入こそ高いが伴侶としての人気は昔からそこまで高くない。理由は簡単、やっている仕事内容が戦いに関わっている事からこのご時世では世間から後ろ指を指される事も少なくないし、結婚しても自分が戦死するという事も珍しくない。

 

 そんな苦境に立たされて尚、結婚に対しての熱い思いを迸らせるヘリアンの姿は、指揮官にとって一番星の様に輝いていた。

 

 だから、彼は真剣に相談に乗っている。この人には幸せになって欲しい、と。自分が半分諦めている家庭を持つ、ということを諦めてないから――

 

 

 

 

 

 

 

 一通り客観的に分析しアドバイスを終えた指揮官は、グラスにアルコールを注ぎ、水で割って飲みこむ。

 

 気がついたら夢中になって話し込んでいたので、すっかり喉が渇いてしまった。

 

 指揮官が一息ついたことで、ヘリアンも緊張の糸が緩んだのかほっと一息をついた。

 

「指揮官、確かに私が自分を前面に押し出しやすい事はよくわかった」

 

 指揮官の分析が精神に来たようで、顔を少し俯かせながら。

 

「だけど、私は、自分の事をよく知って貰いたいと思う。それで、私を選んで欲しいと思っている。こんな職についているんだ。相手に後悔をさせたくはない」

 

「……それもそうですね。ええ、私達は悪く言えば、いつ死んでもおかしくないですしね」

 

「そう。だから、自分の事を多く言ってしまうのだろうな……」

 

「ですかねー」

 

 それだけじゃ無くて、合コンで失敗続きの焦りもあるんだろうなと指揮官は思ったが、彼は口に出さなかった。

 

 せっかく話がまとまりつつあるのだ。上司の逆鱗に触れてまとまりを破壊するほど、指揮官はアルコールに飲まれていないし、蛮勇では無い。

 

「指揮官」

 

「何です?」

 

「指揮官は我の強い女性はどう思う」

 

「うーん。私が万人と同じ感性を持っている訳では無いので、何とも言い辛いですけど……。私はそう言う女性もいいと思いますよ。ほら、戦術人形達も結構個性が強いですし」

 

「……そうか。ありがとう」

 

 指揮官は顔を上げると、緩やかに微笑む。

 

 普段の仕事中ですら中々拝むことが出来ないヘリアンの笑顔。それを拝むことが出来ただけでも、今回の相談に乗った甲斐があったと言うものだ。

 

 指揮官はふと自分の腕時計を見る。時刻は全ての針が1と2の間に収まる頃合い。

 

 本日の飲み会は中々に面白かった。上司とある意味腹を割って話すことが出来たし、ヘリアンの結婚に対する誠実な姿勢を確認させられた。

 

 自分も誠実にならないとなーと指揮官は思いつつ、ヘリアンにお開きの提案をしようとした所で、ヘリアンに肩を抑えられ、そのまま電源が落とされたパネルに押さえこまれた。

 

「ちょっ!?なんで!?」

 

「灯台下暗しとはよく言ったものだと思わないか?こんなに良い案件の男が目の前に居たのに気づかなかったなんて……」

 

「えっ、いや!?えっ?!そういう流れでした!!??」

 

「なに、先ずは互いの相性を試そう。その先はそれから決めればいいことだ」

 

「うっそだぁ……」

 

 指揮官がヘリアンを気遣って言わなかった欠点があと一つだけあった。それは、ヘリアンの酔いが進むと、下ネタをよく挟んでくること。それによって、昨日の合コンに来た男女と自分の表情が何回か凍り付いたいた事。

 

 その下ネタが……彼女の秘められた欲由来のモノであったなら?

 

 いや、それだけは無いと断言したかった指揮官だが――

 

 ヘリアンの口付けは、指揮官の思考の全てを掻っ攫っていってしまった。

 

 

 

 

 

 翌日、指揮官が私室にてム○クの叫びの様な表情で固まっているのを発見された。一部の戦術人形達はきっと合コンでよからぬことをされたのだと、合コンに来ていたメンバーを襲撃する計画を立案しようとしていたらしく、カリーナが死ぬ気で収拾にあたったとのこと。

 

 ヘリアンは休暇をとったとの事。何でも、突然色々な気持ちに対する整理がつかなくなってしまったとの事。カリーナ曰く、休暇を伝えた彼女の表情は何処となく綺麗に見えたらしい。

 

 指揮官が固まっていた理由。ヘリアンが休暇をとった理由。それは当事者のみが知ることだろう。

 

 

 

 

 

 

 




「もしもし、じいちゃん」

『おう、どした?』

「今からじいちゃんの駄菓子屋継いでいい?」

『休みたいならいい施設を紹介するぞ……』

「えっ!?ホント!?じいちゃん大好きー!」

『(思考が幼児化している……。跡継ぎにするか考えておいてあげるべきだろうか……)』







読者様へ少しばかりご相談

『朝の私室にて』は別作品としてあげた方がいいでしょうか?
pixivの方と同じ感覚で投稿しているのですが、『夜の司令室にて』が更新されたのがわかり辛いと思ったので。
新規に投稿するべきか、このままでもいいのか、或いは別の方法で更新されたのがわかりやすいようにするか、その要望もあれば、感想でお聞かせくださると助かります。

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