先に謝っておきます。リクエストに全然沿えませんでした!ごめんなさい!
白く燃え盛る太陽が地に墜ち、宇宙の黒が地表を覆う夜の時間帯。
殆どの人員が休息につき、施設の殆どが灯りを落としている中でひっそりと灯りが灯されたままの部屋が一つ。作戦中は戦術人形達の状況をリアルタイムに把握し、忙しなく変わる状況を観測し、対応するための策や修正案をその都度人形達に送る役割を持つ場所。その場所とは司令室。作戦が行われていない時は、サーバー以外の電源はほぼ落とされている筈の場所。
「私のグラスはあるのでしょうか……」
密かに再度灯りを灯された部屋で、ため息をつく腰を超える長さの銀色の髪を持つ戦術人形が一人と、
「……わざわざ取りに戻っただろ」
そんな彼女に溜め息交じりに両手に持ったグラスを掲げてみせる男性が一人。
戦術人形の名はGr MG4。細身なシルエットな彼女であるが、彼女が扱うのはMG。見た目に寄らず8㎏はあるMG4を自由自在に振り回す姿には圧倒されるものだろう。
男の名は――いや、名前には対した意味がないから省かせて貰おう。男は戦術人形達の指揮を専門とする戦術指揮官。このグリフィン基地に一人しかいない貴重な人材である。
MG4と指揮官が司令室に居る理由。それは秘密の逢瀬――などでは決してなく、指揮官の密かな愉しみである司令室のサーバー達のファンの音を聞きながらの独り飲みを堪能する為に、司令室へと向かっていたのだが、司令室の前でMG4が佇んでいたのだ。
MG4が司令室の前に居るのを見て指揮官は忘れ物でもしたのか、或いは報告に漏れがあったのか、と思って指揮官が彼女に近寄ると、MG4は指揮官のことに気付いた様で「あっ……」と声を漏らすと、ジッと指揮官のことを見つめた。そんなMG4のことを訝しみながらも忘れ物をしたのかと聞くと、『違います』とMG4が。報告に不足があったのかと問うと『そうでもありません』と。
他に思い当る要件が無いのでじゃあ、何の用なんだと言いそうになった指揮官がMG4の視線を辿ってみると、そこには、指揮官の独り飲み様セットが入った袋が。
「飲みたいのか?」
独り飲みセットを軽く持ち上げてMG4の眼前に持っていって見る。MG4は一瞬だけ遠慮するように視線を逸らしたが、再び指揮官の独り飲みセットに視線を戻すと。
「……はい」
と口数少なく同意したのだ。
そんなMG4の態度から、ただ一緒に酒が飲みたい、と言う訳でないのを何となく悟った指揮官は、『なるほど』と短く返すと、独り飲みセットをMG4に預けて追加のグラスをとりに行き、二人で司令室へと入って冒頭へと至る訳だ。
電源の落ちたパネルの上に手に持っていたグラスを置く指揮官。続いて、独り飲みセットもパネルに置き、中から甘みや酸味などの化学調味料達と水や炭酸水などの割り材、飲めるように調整されただけのアルコールが入ったボトルを取り出す。その様子をじっと眺めていたMG4に問う。
「味の好みはあるか?」
「好み、ですか?」
指揮官の飲み方は一般的なそれではない。飲めるだけの無味無臭なアルコールに味をつけるのが指揮官流の飲み方だ。この飲み方になれてない者達が適当な分量で味付けをして飲もうとすると、アルコールのカッと熱くなる感覚が勝ってしまうため、荒れたような、或いは風情の無い飲み方に見えて繊細な飲み方なのだ。
そのために、指揮官はSV-98やスオミ達の様にアルコールの割り方がわかって無い者達にはまず任せることは無い。折角他人と飲むのだ。楽しく、面白おかしく喋りながら飲みたいに決まっている。
MG4が自分でやるとは言わずに好みを聞き返した事から、このアルコールの飲み方に慣れてないのは明らか。だから、今日のカクテルは全部自分が担当しようと心に決める。相手の酔い加減を伺いながらアルコールの分量を調節すれば、もしかしたら『ナニカ』が起こることは無いだろうと心の片隅で思いながら。そうは思いつつも、MG4からは『ナニカ』を起こすような下心は感じ取れないので、今のところ警戒心は薄い。
MG4は手を頬に当てて考え込む様な動作をとった後、
「甘めの……出来れば、その……炭酸とかは抜きで……」
「炭酸、苦手なのか?」
小さく頷くMG4に指揮官は、
「ふふっ」
思わず笑いを漏らしてしまった。
「わ、笑わないでください!」
「いや、スマン、ふふっ……まさかMG4が炭酸が苦手とは思わなくて……ふふふっ」
口許を押さえて何とか笑いを堪えようとする指揮官。が、想像をしてなかったMG4の弱点は、指揮官の悪戯心を刺激する。
彼自身よくわからないが、本当にツボに入ってしまった。いつもは物静かで大人しいイメージのMG4の弱点が、意外なモノであったギャップが可笑しくて、同時に愛おしくも感じて。
炭酸の何が苦手なのだろうか?口の中で弾ける感覚が嫌なのだろうか?好奇心の赴くまま聞いてしまいたくなるが、MG4が珍しく意地になって笑うなと言ってくるので、彼女のことを尊重して何とか笑いを飲み込んだ。
「わかったわかった」
頬を微かな桃色に染めて、炭酸が苦手だと言うのを笑われたことを気にしているMG4のご機嫌を簡単に取りつつカクテル作りを始める指揮官。グラスに少量のアルコールを注ぎ、甘味料と柑橘系の香料を投下、後は黄色の着色料を入れて溶かした水を入れて、マドラーでかき混ぜる。
残念ながら指揮官はシェイカーの様なオシャレな道具は持ち合わせていない。一人で飲んで、勝手に酔って、部屋に帰って寝るの三つが基本の原則であり、一人で楽しむだけなので、道具を揃えて観客を楽しませるようなことは考えていない。が、最近は闖入者が多いので、ちょっとは揃えるべきかと考え始めているのはここだけの秘密である。
出来上がった柑橘系のカクテルを再現した飲み物を手渡す。明らかに体にいい成分は何一つとして入っていないが、第三次世界大戦がはじまる前の世界ですら、化学調味料が溢れていたので気にしてはいけない。
MG4は先程笑われたことを根に持っているらしく、何処か不服そうに口元を歪めながらも、指揮官お手製のカクテルをじっと見つめる。
「召し上がれ」
指揮官からのその一言で、笑われたことを自分の奥底に流す様に橙色の液体口に含むMG4。最初に口内に広がったのは季節外れの柑橘系の鋭利な酸味、そして酸味が通った後の舌を癒すかのような癖の無い甘さ。その二つがMG4の嗜好と合致し、彼女は自然と両手でグラスを持って大きく傾けて次々と液体を体内に取り込む。
「へ、平気か……?」
含有しているアルコールが微量とは言え、アルコールはアルコール。一気飲みしてくれるほどに気に入ってくれるのは嬉しいが急性アルコール中毒のような症状になられるのは指揮官としても望んで無い。
指揮官は戦術人形も酔うことはその身に刻んである。楽しみにしている飲みの時間を看病に費やすことになるのは御免だ。
が、その心配は杞憂に終わった。MG4がグラスを口から離すと、アルコールが入って微かに桃色に染まった頬を緩めた。
「美味しいです」
普段は見ることは無いMG4のたたえる小さな笑みと、とりあえず何も無かった事に安心した指揮官は何処か安心した様に唇を緩めた。
そこから暫くは、指揮官のトーク力の低さが光る『最近の調子はどうなんだ?』や『何かいいことはあった?』等のような面白味のない話題を振られMG4も『問題ないです』、『特に思い当たること……』と言うような当たり障りの無い返答をしていたのだが、
「……何か悩みでもあるのか?」
何気なく、だが、言いづらそうにMG4の様子を伺いながら言葉にしてみた指揮官。
先程まで、反射的に、バッサリと斬るように返していたMG4がここに来て言葉に詰まったようにうつむいてしまった。
――やっぱりか
そんな彼女の態度で確信を得た指揮官は目を瞑って、暗闇の中に過去の映像を投影する。今から過去へと記憶の映像を巻き戻して、再生のボタンを押したのは、彼女が司令室の前で待ち構えていた時間。
あのとき、指揮官から『飲みたいのか?』と聞かれたMG4は微かに逡巡していた。MG4と言う戦術人形は口数こそ少ないが、面倒なことを避けるために、包み隠さず自分の思いを口にする傾向がある。そんな風に一部の目的に関しては素直な傾向のある彼女が、飲みたいと言うだけなら一瞬とは言え迷うはずがない。普段通りの彼女なら短く『はい』とだけ答えるだろう。
MG4も指揮官と飲みたいと言う気持ちは少なからずあったのだろうが、それ以上に成し遂げたい目的があったのだろう。それが、彼女が逡巡した理由だ。
「大丈夫だ。ここには、私とMG4しか居ないよ。だから、言いづらかったら、言うまで待つよ」
「……ありがとうございます」
俯きながらも、言うまで待つと言ってくれた指揮官に感謝の言葉を伝えると、MG4は『あ……』、『うぅ……』と言うような、口にしたくても言葉が出ないようなむず痒い感覚に何とか慣らして行く。
彼女が言葉に詰まらせる中、指揮官は瞳を閉じて、何も言わずただただ彼女が発する小さな呼吸のような単語ですら無い言葉達に耳を澄ませてその時を待つ。時間は有限だ。指揮官の腕に巻かれた腕時計から響く秒針が、もうすぐで一日の役目を終えるぞ、と語りかけるよう。だが、待ってて一日が終わること位、今の彼にとって何の問題ではない。勇気を出して悩みを打ち明けようと自分のもとに殴り込んできたMG4の方が、遥かに大事であるから。
少しずつ、悩みを打ち明けようと言葉を作る感覚に慣れてきたMG4は、手に持ったグラスに入ったアルコールを一息に飲み込むと、意を決した様に、短く、だが指揮官にも聞こえる音量で、その心中を表現する言葉を発した。
「私は……良い印象を持たれてないのでしょうか?」
それが、MG4が抱えていた悩み。彼女の心中を聞いて、瞼を持ち上げた指揮官は、MG4と言う戦術人形がどんな性質を持っているかを思い返す。
彼女は確かにクールで物静かな性格で、表情も豊かとはいえない。それと良い意味で言えば感情で流されないが、悪く言ってしまえばそれは冷たくも捉えられてしまう。
「……確かに良い印象は持たれてないかもしれないな」
ここでお世辞を言うのはMG4のためにならない。そう思った指揮官は言い辛そうに、だけどはっきりと伝える。
「MG4、あまり表情変えないし、作戦の時はいいけど基地の中では集団で何かをするのは苦手だし、ちょっとドライな印象を受けるし、怖いと言う印象を受けるかもしれない」
「…………」
MG4は空になったグラスを強く握りしめる。自分でもわかっていたと言うように、もしくは指揮官にも言われたのがショックだと行動で示すように。
だけど、ここで終らせるつもりは無い。ここで終れば、彼女の悩みを解決するために話を引き出した意味が何も無くなる。ただ貶しただけで、彼女の心に傷を負わせただけになる。
自分から悩みを聞きだしたのだ。それを解決するための方法を提案しなければ相談にはならない。彼女は愚痴を聞いて欲しい訳でも陰口を叩きたいわけでも無いのだから。
「でも、私は、そう言う印象を今は持ってないよ」
「……昔は持っていたのですか?」
縋るように、暗闇の中で光を見つけたように顔を上げたMG4であったが、彼の言葉を咀嚼し終え彼のことを睨むようにして疑問を投げかける。
そんな視線を向けられても、指揮官は苦笑いを浮かべながら彼女と向き合う。真剣に彼女の悩みに立ち向かってるのだと伝えるように。
「昔は、な」
「そう、ですか……」
やはり相談したのが間違いだったか、そう言いたいように視線を逸らしたMG4に、対応を間違えたのかと焦った指揮官は早口で言葉を連ねる。
「昔はだよ!今はそんな印象を受けてない!MG4の良い所はよくわかって来てるつもりだ!」
「例えば、どこでしょうか……?」
良いところその言葉で彼女の注目を再び自分へと集めることに成功した。
自分に自信がない人間は、自分の良い所を見つけられない、或いは見失う傾向にある。それは戦術人形も同じなのだろう。
先程は貶した。カウンセラーとしては貶すのはご法度だが、飴と鞭みたいなもので、ただ手放しにいい所を言った所でMG4は聞き入れてくれないと言う確信があったから。彼女は変ることを望んでいる。だから、よくない点も伝える必要があった。
でも、今は、もう、そんな必要が無い。彼女を褒めてあげる時だ。
「君は仕事に忠実だ。どこまでも」
「私達は戦術人形なんだから、当たり前でしょう?」
「そうとも言い切れないな。G11やFNCを見て見ろって、あの子達は、それぞれ仕事よりも優先順位が高いものがあるだろう?それにMP5は多くの人に認められるために無茶をすることもある。完璧を目指す416だって無茶はしないのに……。与えられた任務を着実に、正確にこなすのって難しいなって思わされるよ」
「……なるほど」
MG4もG11、FNC、MP5の素行を想像した様で頷く。微かに頬を持ち上げて。仕事に忠実であるこがプラスなポイントであると理解してくれたのだろう。
掴みは上々と言った所か。ならば、このまま押し進むのみ。
「さっき、ドライと言ったな。そして、それを感情に左右されないとも」
「ええ」
「あれは見方を変えた言い方だ。ドライと言うのは悪くない。寧ろいいことだ。割り切りが効く、と言う意味で。感情に流されないから、着実に仕事をこなしてくれると言う安心感がある。集団での行動を苦手そうと言ったが、見方を変えればブレることがない、客観的な位置にいれる、という事にもなる」
「……」
「ほら、見方を変えれば、良い所なんて沢山ある。見方を変えればなんて言ったが、これは私が実感した君の良い所だよ。……昔の私は視野が狭かったんだ、怖いなんて言って悪かった」
「そんなこと……」
「それに、可愛い一面もあるしね」
「カワイイ……?」
カワイイと言われても、何処が可愛いのか自分で想像がつかないようで首を傾げるMG4。
そんな仕草も十分可愛らしいのだが、今はそれ以上に可愛らしいと思った場面を伝えてあげるのだ。
「誰も居なくなった救護室で、迷い込んだ子犬を抱いてだろう?」
「……!?」
「そのだなぁ……。バッテリーが貯まってたから、そろそろ動物を飼ってもいいかなーって思って様子を見た時にたまたま」
「み、見ていたのですか……!?」
「うん」
MG4にとって誰にも見られたくない瞬間だったのだろう。彼女はワナワナと震え、初雪の様に真っ白な頬に着色料をかけられたように赤い色が侵食していく。
指揮官はその時のMG4の姿を脳内に浮かべる。そう、誰も居ない救護室に一人いたMG4が子犬を抱きしめて、目を輝かせていたのだ。初めて動物と触れ合えたことを感動している様に。子犬に頬を舐められて『やめてください』と言葉では嫌がりつつも、顔は綻び子犬の頭を撫でているMG4は文句なく可愛らしかった。
「う、うぅぅぅ……」
指揮官の予想通り、そのシーンを見られていたことがよっぽど恥ずかしかったのか、唸りながら顔を背けるMG4に指揮官は笑みを向ける。
「そういうところ、もっと皆に見せれるように出来れば、印象は変わると思うぞ?」
「無理です……!は、恥ずかしすぎます……」
「だろうな、だから、そういう一面をもっと皆に出せるようにしていこうな」
恥ずかしさを誤魔化す為に、指揮官のグラスを奪って中身を飲み干すMG4。
――本当に、そういうお茶目な姿をもっとだせるようになれるといいな
と心の中で思い浮かべつつ、液体を飲み込んで喉がうねるMG4の姿を見守る。
「……はい」
飲み干して、恥ずかしさとアルコールで顔が朱色に染まったMG4は気恥ずかしそうに俯きながら――口許を確かに緩めて――小さく頷いた。
その後も指揮官がMG4の注文を聞いてカクテルを作りつつ、他の皆と仲良く仲良くするにはどうすればいいかと考え、最終的にはMG4を隊長に置いてコミュニケーションが必須の立場に置いて、少しずつ理解者を増やしていこうと言う方針へと至った。
「指揮官……」
「うん……?」
俯いたまま空になったグラスを握りしめるMG4に視線を投げかける指揮官。
「まだ、私のことを怖いと思ってますか?」
今更何を言うのだろうと指揮官は思ったが、不安と言うのはそう簡単に拭えるものでは無いと、アルコールで鈍った頭で思い至る。不安を拭うためには、何回も確認し、大丈夫だと念を押してあげるのがシンプルさゆえに重要なのだ。
「いや、思ってない。一欠けらも」
怖いと思ってたのは最初の話、今は口数は少ないが可愛らしい表情を見せる部下であると言う印象。
だから、素直に言ったのだ。そうは思ってないと。
「指揮官……」
その言葉を受け取ったMG4は俯いて陰になる中でも唯一光の中にあった口許を緩ませながら、顔を上げると――金色の光を失せた瞳を露わにした。
「!?」
指揮官が驚きの余り身体を強張らせていると、MG4がグラスを手放して指揮官の腕を掴む。その弾みで指揮官もグラスを手放してしまった。
カランカラン、っと硬い床をグラスが叩く音が響く。指揮官の飲んでいたストロベリーを再現した赤いアルコールが床に飛び散ったのと、二つのグラスが割れなかったことが幸いである。
が、今の指揮官にそんな余裕はない。今の彼の視線は月食の様に光を失ったMG4の光に吸い込まれている。
「ど、どうしたんだ……?」
まさか、対応を間違えたのか?MG4の怒りを買ってしまったのか?突如飛びかかり、指揮官の両腕を塞いだMG4に困惑の目を向ける指揮官。だがMG4はそんな指揮官の不安を拭い去るような微笑みを浮べている。それが指揮官の中に生まれつつ恐怖を脈動させることになっているとは知らずに。
「怖がらないでください指揮官。まさか、嘘だったのですか?」
「う、嘘じゃないがな!?突然、どうしたんだいったい!?」
「えぇ、知ってます。あなたはそんなつまらない嘘をつかないと言うくらい!」
いつも、ひとりごちる様な声量で静かにゆっくりと語り掛けるMG4が今はどうだ?声量は大きく、饒舌になって、表情も豊かになって、平時のMG4のそれとは真逆。
これがMG4の酔い方なのだろうか?今の状況をどこか他人事のように指揮官が整理していると、MG4の手が指揮官の腕をレール代わりにして上へ上へと昇っていき、指揮官の顔を包んで、妖艶に視線を絡ませる。
「指揮官、私は嬉しいです。だって、指揮官は私のことをちゃんと見てくれていたから」
「み、見るさ!MG4は大事な――」
「部下だから、ですよね?ええ、わかってます。それでも嬉しいです。あなたは助けを求めたら答えてくれた。それが重要ですから」
彼女は気を許せる存在が居なかったのだろう。
「印象が悪くて、私に近寄ってくれる子は中々いませんでした。でも、いつも、そんな私を気にかけてくれる人がいました」
そんな彼女が抱えているモノをちゃんと発散できる筈が無い。そして、その抱えているモノを解き、無意識に発散してあげてたのが指揮官だった。
「それが指揮官でした。私が心の奥底で寂しいと感じた時にあなたに会いに行っても、嫌な顔一つせず、寧ろ迎え入れてくれました。私が一人でいるのを見つけると気さくに話しかけてくれました。そして、私の隠したかった一面も指揮官には筒抜けでした。それが、私は嬉しいんです。あなたは、私を放っておいてくれなかった。積極的でなかった私を」
だから、無意識に、
「好きです指揮官……。ヘッケラーコッホMG4は指揮官のことが好きです」
彼に依存するように想いを寄せていたのだろう。
自然と孤立してしまっていたMG4は、目につく限りとは言え決して放ることなどしなかった指揮官に。
「え、MG4……?」
早口で捲し立てられた心情、告げられた想いを整理しきれずに驚愕と困惑を解くことが出来ない指揮官。そんな彼の肩を押して、MG4はパネルの上に張りつける様にして押し倒す。
「な、悩みは建前だったのか……?」
整理をしきれない彼の口から最初に出た言葉がそれだった。彼の頭脳は脊椎反射レベルで読み取ったこれから起こるであろう結末が目的であったことの方が重要であると判断したらしい。
「嘘……ではありません」
MG4は艶やかに口許を綻ばせると、指揮官の右腕を掴んで、MG4の機関部があるであろう胸部に押し付けつけた。
「っ!?」
服越しに伝わる、肌のそれとは別の柔らかな感覚。それに触れることが出来た雄としての喜びよりも、目的がわからない恐怖によって指揮官の身体は跳ねる。
「わかりますか、指揮官?私の機関部はあなたの事を考えるとこんなにも大きく跳ねるんです」
ふふっと怪しげに笑みを漏らすMG4。指揮官はMG4の考えが読めずただただ固まることしか出来ず、じっと彼女の言葉を聞き入れる。
「皆と仲良くなりたいと思ったのも本当です。印象をよくする為の方法を提案してくれたのも嬉しかったです。ですけど、私は――指揮官が私に悪印象を抱いてないと言ってくれたことが一番嬉しかったんです」
「そ、そうか、それは指揮官冥利に尽きるかな?」
「そして、やっと気づいたんです。ずっと指揮官のことを想ってると高鳴る鼓動の正体が、指揮官が私のことを受けいれてると知って、安心できて初めて知ったこの想いが――指揮官への好意なのだって。その瞬間から、他の子と仲良くしたいと言う思いは殆ど無くなりました。指揮官にさえいい印象があればそれでいいと」
「い、些か、重すぎるんじゃないかな?」
微かに思考能力が戻った指揮官には、もはや軽口を叩くことしか出来ていない。今の指揮官は未知の恐怖を覚えているのだ。UMP9も家族の定義が『UMP9と指揮官』だけであったと中々に重いモノではあったが、彼女の日頃の行ないゆえかそこまでの恐怖を感じなかった。
だけれども今はどうだ?彼女は指揮官への依存を口にして、それを一方的に指揮官に叩きつけて、先程まで指揮官の意見に耳を傾けて時折恥ずかしがっていた儚いMG4の面影はもはやない。
目の前に居るのはMG4の内面に潜む怪物と言うべき本性。彼女がために溜め込んで吐き出す事の出来なかった想いを、包み隠さず伝えられる一方的な信頼と依存によって作り出された欲望。
「重い、ですか。……そうかもしれませんね」
寂しそうに小さな声でごちるMG4。その姿に、いつも一人でいる彼女を重なって指揮官は胸の痛みを覚えるが、
「でしたら、これから、お互いのことをもっと知ればいいことです。私にこういう一面があるのだって」
それは墓穴を掘った頭の痛さへと変わった。
MG4の胸が高鳴る。これから始める行為への期待で。
指揮官の胸が高鳴る。今までにない、一方的に想いを向けられる恐怖によって、縮み上がるように高鳴る。
指揮官は理解したMG4の酔い方とは、秘めた心の内を曝け出す酔い方なのだと。
「指揮官、怖がらないでくださいね」
引きつった笑みを浮かべて現実逃避を図ろうとする指揮官の耳の横に両手を置いて追いつめた獲物を味わうかのようにMG4は口づけた。
翌日、指揮官は有給をとったとの事。カリーナに緊急の有給申請を取りに行った表情は翳っており表情が死んでいたと言う。
MG4は珍しく鼻歌を歌う姿を目撃される位に上機嫌であったと言う。ただ、時折UMP45の様な怖い表情を浮かべるので、話しかけた者は殆どいないと言う。
指揮官が死んだ表情で有休を申請した理由、MG4が鼻歌歌う位上機嫌であった理由。それは当事者のみが知ることだろう。
「父さん……」
『……だ、大丈夫かい?声がやつれてるけど……?』
「平気……。うん……。平気」
『そ、そうかい……?』
「大人しい女の子ってお酒が入ると怖くなるんだね……」
『そ、そういうのはお祖父さんの方が詳しいんじゃないかなぁ……?』
「じいちゃんの管轄だったかぁ……」
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