【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも
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おんぶと眠らぬ眠り姫

 G11は指揮官に淡い想いを抱いていた。それは彼の優しさにずっと触れていたことで。彼女の怠惰な性格と思考回路は決して万人受けするモノでない。それなのに、彼女の性質に付き合う形で接してくれたことで、いつの間にG11も深く心を開いていてしまい、知らぬ間に好意を持ち、その想いをつい最近自覚したのだ。

 

 今はもう、任務が終わり彼が椅子とタオルケットで作った即席のベッドに寝かしつけて貰うだけでは足りなくなってしまった。今の彼女は、自分が寝てても指揮官が傍に居て欲しいと思ってしまうから。

 

 だが、指揮官は戦術人形とは違い、彼女達が請け負った任務をまとめて報告書を作ったり、資源の管理を行ったり、或いは次の任務をまとめたりと、任務を請け負い遂行する戦術人形とは格段に違う忙しさがある。

 

 指揮官の専門は戦術人形の指揮。だが、人員不足のグリフィンではそれ以上の業務を指揮官も請け負わなくてはならない。本来はショップの運営が専門としている後方幕僚のカリーナが書類の作成や指揮官の補佐を務めている様に。

 

 G11のために時間を使って欲しいと言えば、指揮官は恐らく使ってくれるだろう。彼は自分よりも人のことを優先するところがあるから。

 

 だから、言えない。自分のために時間を割いて欲しいと言う我が儘。

 

 けれども、G11の中で気持ちは募るばかり。寝ても傍に居て欲しいと言う思いや、最近は戦況が激化して何日も基地に帰れなくて寂しかったと言う思いや――自分のことをもっと見て欲しいと言う思い。

 

 そこでG11は考えた。自分の想いと眠気を優先しつつ、指揮官に迷惑をかけず、構って貰える方法を。何度も眠気に負け、夢の世界へと落ちてを繰り返したG11がたどり着いた結論とは――

 

「よし」

 

「いや、なにがよしなんだ!?」

 

 G11は指揮官の背中におぶられる様に抱き付いたのだ。

 

「おやすみ~」

 

 こうすれば、指揮官の行動を大きく阻害することなく仕事は優先的に出来るし、自分は指揮官の傍で彼の体温を感じながら眠りにつくことが出来る。まさに一石二鳥。だれも傷つく事が無い平和な世界。

 

「ちょ、寝るならベッドで……」

 

 いつものように寝るならベッドで寝て欲しいと促すが、思い浮んだ名案を実行するG11にとってはどこ吹く風。小動物のように口許を緩めて、大きくて暖房器具のように暖かい彼の背中に頬を寄せる。

 

 指揮官はベッドに移動するのが面倒なだけなのかと推測し、G11をおぶっていつものように作った簡易ベッドに腰を下ろして行動でベッドで寝るように促す。しかし、G11の身体はベッドの重力に引かれる事は無く、依然として指揮官の背中と言う引力に引っ張られたままである。

 

「すー……すー……」

 

 背中にG11の鼻息を感じつつ、申し訳なさを覚えながら背をのけぞらせる形で振り落とそうと試みるが、G11は脚を彼の腹に回して引っ付くことで徹底抗戦の構え。今のG11は指揮官の背中に絶対に張り付いてやると、自分と言う存在をアピールしつつ寝てやると言う意志の塊なのだ。

 

「ぬぬぬ……!!!」

 

「んんんん……!!!!」

 

 左右に身体を振ったり、軽く飛び跳ねたりしようとしたり、何とかして背中に引っ付くG11を下ろそうと試みるが、彼女の引っ付く力は強く自分がベッドの重量に負けそうであった。

 

 指揮官は無理矢理下ろすのはやめて、改めてお願いしてみる事にした。

 

「G11……」

 

「なーにー?」

 

「降りてくれないか?ぶっちゃけ重――」

 

 小柄なG11とは言え、彼女もれっきとした戦術人形。その総重量は小柄な子供以上は優にある。G11を簡易ベッドに運ぶときに短時間だけ彼女の身体を持ち上げれてはいるが、それはG11が指揮官の腕に大きな負担がかからないようにウェイトコントロールをしているからで、今は完全にその負担が全て指揮官が負う事になっている。だから、つい言葉として出そうになったのだ。女の子に対しての禁句である、重いと言う言葉を。

 

 そして、その禁句は全て発せられる前に高性能なG11の集音センサには届き、どんな単語となるのかの予測も全て終わっていた。確かに髪は自由に跳ねまくり、服の着方もだらしないままだが、今のG11は恋する乙女でもある。気になる存在からその言葉を言われるのだけは耐えられない。だから、G11はその言葉を封じるための奇策に出た。

 

「うるさいよ」

 

 G11は指揮官の耳を口に含んだ。

 

「ひゃっ!?」

 

 男があげるとは思えない甲高い声。耳を生温い唾液と柔らかな舌が這いまわる感覚、そして時たま軽く歯を立てて耳に後をつけようとする感覚。

 

 普通に生きていく上では先ず実感することの無い未知の感覚が指揮官の耳に襲い掛かる。

 

「いっ、G11、やめ、ひぃ……!」

 

「ひゃら……」

 

 喋る時に吐き出される吐息がくすぐったい様で、息が耳にあたる度に指揮官の背筋がブルブルと震えるのがG11の身体全体に伝わってよくわかる。

 

 指揮官の耳を舐める度、息を直接当てる度に今まで聞いた事無い声と、普段は絶対に見せることの無い乱れた姿に、G11の中の何かが満たされる。

 

 ――あたししかしらない指揮官……

 

 HK416もUMP二人も他の皆だって知らない指揮官の姿。指揮官の耳をコントローラ代わりにして、自分の想い通りに操っているような感覚。自分だけが知る指揮官がもっと知りたくて、

 

「はむ……」

 

「いいっ!?」

 

 指揮官の耳に再び唇で挟んだところで、突如として司令室の扉が開いた。

 

「むぅ……」

 

 無理矢理起こされた時のように顔をしかめるG11。入室してきたのはHK416。彼女の相棒とも腐れ縁とも言える戦術人形。

 

「指揮官、作戦の報告書を――」

 

 二人が組みあってる間に、第一部隊の任務が終わったのだろう。416はその報告書を持って来たに違いない。いつもだったら、416が報告書を持ってきたついでに簡易ベッドで寝てるG11を連れ帰るのだが、今の状況は平時のそれとは明らかに違う。

 

 指揮官におぶられたG11が指揮官の耳を口に含んで、416を睨んでいるのだ。まるで、自分の縄張りに入るなと警告する猫のように。

 

 416はそんな表情を浮かべるG11に驚愕を覚える前に、憤りを覚えた。何故なら、416は指揮官におんぶをされた事も、ましてや、指揮官の耳を味わった事もありはしない。

 

 ――なんで、G11だけ

 

 彼女が覚えたのはそんな理不尽にも似た嫉妬。

 

「ち、違うんだこれは!」

 

 まるで浮気現場を抑えられた夫のような台詞を口にする指揮官。指揮官はそもそも誓約も何もしてないので、そもそも浮気では無い。敢えて言うとしたら、全員にどう返事をすべきか迷っていて答えが出せていないと言う事だろうか。

 

 416は持っていた書類を自然と手放すと、指揮官の背中に引っ付いて416を睨みつけるG11の腰を掴み引っ張る。

 

「離れなさい!そこは私の特等席よ!!」

 

「いーやー!」

 

 416が全力で指揮官の背中から引っぺがそうと引っ張る。G11も対抗して、自分の身体を全力で指揮官に巻き付けて抵抗する。

 

「オゴゴゴゴ……!!」

 

 が、その負担を全て押し付けられている指揮官にはたまったものでは無い。そもそも416はそんなことをしてこなかっただろうと反論する事も許されず、首と腹が圧迫され、息苦しさを覚えて大きく、だが小刻みに息を吸う。

 

「ぬぐぐぐぐ!!」

 

「うぎぎぎぎ!!!」

 

「ううううう……!」

 

 呼吸困難になって顔が真っ赤になっていく指揮官を無視して二人は引っ張り引っ張られと言う応酬を繰り返していたが、やがて416は諦めたのかG11の腰を掴んだ手を離した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 呼吸が自由になった指揮官は、全力で酸素の循環を行う。こんなに息が出来なくて苦しく思ったのは、指揮官候補生であったときに受けた水練以来だと。

 

 G11は引っぺがすことを諦めた416に自慢げな表情を浮かべる。416は一瞬だけG11に鋭い視線を向けて最後の抵抗をすると、指揮官の正面に回って、正面から彼を抱きしめた。

 

「お、おい?!」

 

 想定して無かった416の選択に指揮官は息も絶え絶えに困惑の声をあげる。が、416はその声を無視して指揮官の鎖骨に顔を寄せるようにして抱きしめる。

 

「なんで、こうなった……」

 

「私は完璧よ」

 

「困ったらそれで押し通そうとするの、止めない?」

 

「むぅ……!」

 

 G11は自分も居るのにと言うように眉根を吊り上げると、再び指揮官の耳を口に含む。

 

「ひぃあ!?」

 

 突如甲高い声をあげた指揮官に驚き416が顔を上げると、そこには指揮官の耳を口に含んで勝ち誇った様な表情を浮かべるG11が。

 

「あんただけばっかりはさせない!!」

 

 対抗心に火がついた416は抱擁をとき、指揮官の肩に手を置いて空いてる指揮官のもう片方の耳を口に含む。

 

「ふぁ!?」

 

 416の目線がG11と並ぶ。お互いの視線が交わり指揮官の顔周りで火花が散る。G11は指揮官に密着しながら寝ると言う目的を忘れ、指揮官から未知の音を出させようと必死になっていた。

 

「んにゅ!」

 

「おぉ?!」

 

「むぅ!」

 

「ふぉお!?」

 

 二人による、指揮官と言う楽器のチューニング合戦は、次の作戦内容を聞きに来たスオミに怒られるまで続いたのであった。

 

 

 

 

 

 翌日

 

「はい、指揮官」

 

「今日の作戦も終わったよ~」

 

 司令室でUMP45、UMP9から作戦の報告書を受け取る指揮官。

 

「ありがとう、次も頼むな」

 

 笑顔と労いの言葉をかけた指揮官は、二人が妙に上機嫌にニコニコと笑顔であることに気が付く。

 

「何かいいことがったのか?」

 

 素朴な疑問を口にする指揮官。その一言が、余計な言葉である事に気づいて無い。いや、気づいてたとしても、彼の命運が変る事が無いだろう。

 

「しきかーん」

 

「これ、なーんだ?」

 

 UMP9が携帯端末を取り出して指揮官に見せた瞬間。彼の表情が固まった。画面に映ったのは、つい昨日の映像。G11と416が背後と正面から抱き付いて指揮官の耳を舐め合っている衝撃映像。

 

 二人は情報戦に特化したモデル。恐らく司令室にある監視カメラの映像を盗み見ていたのだろう。

 

「しきかーん。この映像をね」

 

「みんなにバラ撒かれたく無かったら、わかるよね?」

 

 二人は指揮官のことを逃がさないように互いにカバーし合える距離を保ちつつ指揮官ににじり寄る。

 

 指揮官は気づいた。二人の表情こそ笑っているが、微かに開かれている瞼から覗く瞳は光を失っていて全く笑っていないことに。

 

「う、嘘だろ……?」

 

 指揮官の苦悩はまだまだ終わりそうにない。




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