【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも

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 気分次第で個別ルート(但しIFルート扱いです)を書こうと思ったので、実験作を。
 うん。彼にはまだまだ逆レされてもらわないとね!


【IF個別ルート】朝の私室にて
朝の私室にて ST AR-15


 瞼を指すような熱。目を閉じていてもチリチリと網膜を焼く様な熱線。

 

 朝日からの暴力を顔一杯に受けて、彼は深い闇の世界から帰還する為に、冷え切った瞼を薄らと持ち上げる。

 

 彼の目覚め始めた身体が一番に感じ取ったのは、月が照らす夜の世界の冷たい空気。

 

 目覚め始めた感覚が、もう一度眠ろうと促す。身体に布団を巻き付けて、身体をよく温めて、疲れが抜けない身体を癒そうと、悪魔の提案をしてくる。

 

 でも、彼の心は言う。自分一人でその暖かさを甘受することなど出来ないと。何故なら、彼の身体は彼女の腕が巻き付いて離さ――と思って、彼は自分の腹部を軽く触るが、そこには鍛え上げられた自らの腹筋の硬い感触しか無かった。

 

 そこで、彼の意識は再び目覚めへと向かう。昨夜、眠りに入るまで感じていた感触と、もう離さないとばかりに抱き留めていた彼女の腕の感覚が無く、その寂しさに似た感情が彼の頭脳を染み込むように冷やしたから。

 

 ――そうか。時間か……。

 

 温かい布団に包まれるのも、布団以上に温かさを与えてくれた彼女の感触を思い出すのも、今は終わり。これから先は、活動を始めた彼女の為に使う時間。

 

 指揮官は薄らと開いた瞼に力を入れて持ち上げる。視界に移るのは、常夜灯と窓から差し込む朝日に照らされた光と、彼の祖父が大好きであった桜並木と二つの清らかな湖。

 

 朝日を吸収して仄かに輝く、湖に彼――指揮官は語り掛ける。

 

「うん……綺麗だな」

 

 湖は一瞬だけ波風を立たせると、呆れた様に風の音を聞かせる。

 

「もう……寝ぼけているのですか、指揮官」

 

 呆れの意味だけでなく、照れ隠しの意味も内包した春の湖を吹き渡る風の音。彼女の声は、いつも朝の微睡みの中を泳ぐ指揮官の意識を引きあげてくれる。

 

 視覚が戻り、聴覚も戻った。続いて戻ったのは、嗅覚。彼の鼻腔を擽るのは、この時代に置いて高級な嗜好品である紅茶の葉とミルクをたっぷりと使ったミルクティーの芳醇な香り。

 

 祝として商業地区の大企業に務める友人から貰った茶葉で、彼女の為に彼の作って挙げたミルクティーと似た香り高さ。彼女はその味を気に入った様で、彼が作るミルクティーの味を自分でも再現できるように努力している。今日のは中々にいい再現度じゃないだろうか。

 

 芳醇な香りによって眠っていた脳細胞たちも目を覚まし、ぼんやりとした視界も段々と霧が晴れたかのようにはっきりとしていく。

 

 指揮官の視界に投映されていたのは、残念ながら春の湖ではなく――否、残念なんかでは決してない。そこにあったのは、彼が求めてた景色そのものだから。

 

「おはよう」

 

 彼の瞳が写したのは、

 

「おはようございます、指揮官」

 

 湯気と共に芳醇な香りを漂わせるマグカップを差し出し朝一番の微笑みを向けてくれるSTAR-15だった。

 

 

 

 

 STAR-15と指揮官は誓約をした関係にある。

 

 百数体を超える戦術人形から好意を向けられ(尚且つ肉体的な関係を持つことになりながらも)、指揮官が殊更に特別になる事を望んだのはAR-15であった。

 

 思えば、彼の(性的な)苦難は彼女から始まったモノだ。(戦術人形に飲酒させたらどうなるかという)好奇心によって(指揮官と言う)ネコが(性的にハメ)殺される日常を送ったきっかけは彼女から始まったのだ。

 

 AR-15と誓約を決めた時、彼の基地内は荒れに荒れた。それこそ、第四次世界大戦はここにあったのかと、指揮官は光が消え失せた瞳でその光景を見ていた事から何となく想像がつくだろう。

 

 しかし、その戦争は数日で終った。素直に二人を祝うモノ、或いは第二の誓約者になろうと画策すると言った感じの二代派閥に別れる形で。

 

 その時に誓約する寸前、AR-15が皆の前で『私は誰にも負けない!いつでもかかって来なさい!』と堂々と宣言した時は流石の指揮官でも肝を冷やしたと言う。

 

 とは言え、今の基地内の日常は比較的平和な方。

 

 誓約をした日から変わった事と言えば、普段はアプローチをしなかった戦術人形まで積極的になったり、積極的だった人形は誘惑をしかけるようになったり――AR-15と指揮官は同棲をすることになったり。

 

 同じベッドで起きて、同じテーブルで朝食をとり、同じドアから出て行って仕事をして、帰ったら同じ風呂で一緒に入って、同じテーブルで夕食を食べて、同じベッドで寝る。そんな日常が今の二人の毎日。

 

 AR-15は今日のミルクティーの出来具合の品評を聞きながら指揮官と一緒に朝食をとる。いつか指揮官が満足するモノを淹れたいと言う強い決心を抱いて。

 

 その後、二人で食器を片付けて、仕事着に着替えて一緒に出れば、二人の仕事が始まる。

 

 でも、その前に――

 

「し、指揮官、その……」

 

 AR-15はそっぽを向きながらも緊張に震える声色で玄関に手をかけた指揮官を引き留める。

 

 指揮官はいつも言ってる筈なのにと思いつつも、初心を忘れることが出来ないAR-15を可愛らしく感じながら振り向く。

 

「どうした?」

 

「その……手を握ってもいいです……か……?」

 

 段々と歯切れが悪くなって、声量もフェードアウト処理がかかったかのように小さくなっていったが、指揮官はしっかりと聞き取っていた。

 

「ああ、いいよ」

 

 指揮官は淡雪の様に真っ白なAR-15の手を掬い執って両手で挟む。

 

「あぁ……指揮官……」

 

 これは、AR-15と同棲するようになってから、彼女がいつも望むようになったこと。いつもやってるのに、彼女の瞳は熱に浮かされた様に蕩けるのがなんとも愛らしい。

 

「夢じゃないんですね……」

 

「あぁ、夢じゃないさ」

 

 そう、手を握ると言う行為は、彼女にとって夢じゃ無いかを調べる為に必要なこと。戦術人形は夢を見ないと言われるが、何らかの不具合によって夢を見て、それに閉じ込められているのでは?と言う恐怖が彼女の中にあるらしい。

 

 だから、彼女は抱擁よりも口付けよりも手を握ると言う事を望む。それは指揮官が誓約した時に言ってくれた『夢の世界には体温を持っていけないから安心してくれ』と言う言葉がとても心強かったから。

 

「温かいです……。指揮官の手はとても」

 

「夢じゃないだろ?」

 

「えぇ、現実です……。幸せすぎて、熱暴走でフリーズしてしまいそうな位に幸せな、現実です……!ありがとうございます指揮官」

 

 お返しと言わんばかりにAR-15は指揮官の両頬を火照った掌で包み――幸福な熱によってただれそうな唇で彼に熱を伝えた。

 

 二人の距離は再び離れ、お互いの顔を視界一杯に収めると、熱で蕩けた瞳を閉じて、二人は微笑み合う。

 

「行くか」

 

「ええ、行きましょう」

 

 二人は指を絡ませるように固く繋ぎ夢でない事を強く確かめながら、私室を後にしたのであった。




 評価とか、感想などの次第で他の子も書くかも知れないです……

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