【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも

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 AR-15の個別ルートなお話ですね。なので、朝の私室にて、に入る予定です。

 うん。実はそんなに甘々な話じゃないのです……。今回はブラックなのです……。申し訳ないのです……。

※最新の話がわかりづらいので、試験的に最新話の章を導入してみました。投稿から3日が経過したら適切な章に入れ直すと言う試みです。よかったら最新話と言う章に関してのご意見をください。不評であれば廃止します。



【IF個別ルート】ST AR-15と添い寝するだけの話

 睡眠と言うのは人間及び生物にとって重要な物である。

 

 人間は睡眠をとることで心身の健康を維持し、体力の回復や生活習慣病の予防、更にはストレスの軽減を図ることだって可能なのだ。

 

 では、睡眠が少ないとどうなるだろうか?前日の疲れが翌朝に持ち越されることで集中力が低下し正常な判断能力が出来にくくなり、イライラしやすくなってストレスを溜めやすくなり、健康を害する症状が出てしまう。

 

 だから、最高のパフォーマンスを叩きだすためにはしっかりと睡眠を取ることが重要なのだ。

 

 特に、

 

「ふわぁ~~」

 

 戦術人形の指揮を専門とする彼のような人材には。

 

 欠伸をする指揮官の隣で雑務を手伝っていた誓約を結んだ仲である戦術人形――ST AR-15は欠伸をする彼を愁いを帯びた瞳で盗み見る。

 

 彼が欠伸をするのは本日で何度目だろうか?十回を超えた辺りから、数える必要性を感じなくなってやめてしまった。

 

「あっ……」

 

 口許に手を当て腕を伸ばしてリラックスを図る彼を一瞥し書類に目を戻すと、書類の不備を見つけてしまいAR-15は思わず声をあげてしまった。

 

「指揮官……」

 

「うーん……?」

 

 欠伸で涙腺を刺激された指揮官が手で目を擦りながらAR-15の方を振り向く。すると、彼女は気まずそうな、それ以上に申し訳なさそうな顔を浮べて、書類を差し出す。

 

「修正点を見つけました……。誤字と数値の間違いです……。一桁多いかと……」

 

「うわっ、またやらかしか……。ありがとうAR-15」

 

 指揮官は困った様に頭を掻きながらもAR-15に感謝の言葉と居た堪れなさが混じった微笑みを向ける。

 

 どんなモノであれ、彼の笑った顔はAR-15にとって大きな原動力になり得るモノ。しかし、今は全く原動力にする事が出来ず、寧ろ――なんとも胸が痛み、作業効率が落ちていく気さえする。

 

 AR-15は上目遣いで彼のことを見上げる。彼は相変わらず乾いた笑みを浮かべながら頭を掻いている。そんな彼の目元をよく見ると、平時には絶対に見られない黒い隈が浮き出ていた。

 

 彼女からの視線に気づいた指揮官が、苦笑と溜め息をやめて、彼女を見つめる。

 

「……どうした?」

 

「……なんでもありません」

 

「うん……?そうか……?」

 

 お互いに短く間を置いて続く、当たり障りのないやりとり。そんな短いやり取りですら、今のAR-15にとっては心苦しい。互いへと向いてた視線を切り、再び書類の山へと向きあう。

 

「……はぁ」

 

 指揮官は重々しく息を吐くとペンを手に取り、時には端末を操作して書類の作成に取り掛かる。指揮官の仕事の一つだから。作戦の報告書、資材の支出、戦術人形達の状態把握etc。

 

 けれども、今彼に求められている仕事の数々は明らかに多く、対応が滞ってる状態にある。

 

 それもその筈、先日まで十日間に及ぶ掃討作戦が行われていたのだ。鉄血による地区の占領騒動。それだけならば毎度のことであると笑いながら言えるが、今回は人権保護の一派がこの騒動に噛んでいたために、『後始末と応対』に今も追われている状態にある。

 

 おかげで指揮官は睡眠時間を返上し、いつもより早い始業時間といつもよりも遅い終業時間で業務に勤しんでいる。『後始末と応対』に集中するだけならば、彼もここまでのことをしなくてもいいのだが、生憎なことに普段の警備任務や後方支援任務にプラスされる形である。普段の業務すら激務であるのに、仕事を増やされては溜まったモノでは無い。

 

 が、残念なことにグリフィンと言う会社は人手不足なのだ。誰か、それも責任のある立場がある者が応対しなくてはならないのだ。

 

 これが、指揮官が寝不足に陥り、作業効率が落ちている原因である。

 

 普段の指揮官ならば何度も注意深く確認するので、AR-15による最後の確認作業も大抵は形式だけのモノで終るのだが、今はご覧の有様。集中力の低下により、書類の不備が散見される状態となっている。幸い、作戦の指揮の時は重大なミスを犯しては無いし、犯すことは無いとAR-15も深く信頼しているのだが、今の彼の状態を顧みてしまうと不安を覚えてしまう。

 

 だけど、それ以上にAR-15は心配なのだ。彼がこのまま仕事に押しつぶされる形で倒れてしまうのではないかと。

 

 AR-15は何度も手伝うと自分から申し出た。日に日に疲れがたまって、それでも皆にはその疲れをおくびにも出そうとせずに笑い続ける指揮官を見たく無くて。

 

 だが、その申し出をする度に指揮官は却下した。それは、AR-15は大事だからと、戦場で十全のパフォーマンスを発揮して無事に帰って来て欲しいから無理しないで欲しいのだと。

 

 何度も、何度も、それは私も同じだと、AR-15は言い返そうとした。私もあなたのことが大事なのだと。あなたが沈んでいると私も力を発揮できないと。私はあなたのために戦っているのだから、と。

 

 でも、彼がAR-15の身を案じた笑みを浮かべる度に、彼が自分のために無理をしているのがわかる度に、その言葉は詰まってしまう。

 

 指揮官は一秒でも早く、今の多忙な時期を抜け出して、時間を作ろうとしている。AR-15と一緒に居られる時間を得るために。AR-15には直接伝えては居なかったが、指揮官と公私を共にしたパートナーであり、AR小隊の隊長を一歩引いた立場で補佐していたAR-15が察せない筈が無かった。

 

 だが、AR-15はそんな思いを募らせることは、ここで終わりにするつもりだった。無理をするのをやめてくれと何度も伝えたが、それでもまだ平気だと嘯く彼をここで完全に食い止める。

 

 AR-15は内部時計を呼び出す。時刻は1613。一旦休憩するには丁度いい時間だろう。

 

「指揮官」

 

「うん……?」

 

「そろそろ休憩しませんか?」

 

 AR-15の言葉に促される形で、指揮官は自分の腕時計を確認し、合点したように頷く。

 

「ふむ……。確かに。一旦休憩するかー」

 

 体を伸ばし、大きく欠伸をする指揮官。その姿を最初は可愛らしいと思えていた余裕があったAR-15であったが、今はもう痛々しさすら感じて胸を痛めてしまう。彼女は自分の疑似感情モジュールが導き出した感情を誤魔化すように給湯室に向かい、手早く二人分のミルクティーを淹れて指揮官と自分の作業場へと戻る。

 

「どうぞ。今回は砂糖とミルクを多めに入れてみました」

 

「ありがとう……」

 

 指揮官は一口、AR-15の淹れてくれたミルクティーを口に含む。熱いと感じない程よい温度が指揮官の身体を駆け巡り、糖分がずっと働きっぱなしであった脳を労うように染みていく。

 

「ふぅ……美味しい……。甘さが身に染みる……」

 

 その感覚に安らぎを覚えた指揮官は、ほぅっと安堵の息を漏らして、表情筋を緩める。

 

「ふふっ」

 

 そんな指揮官に笑みを浮べつつAR-15もミルクティーを味見する。

 

 ――うん。今日のは特に上手くいったわね

 

 自分も指揮官のように疲れていたら、この先の計画を上手く実行できない。彼女も自分のコンディションをミルクティーの味で確認したのだ。

 

 お互いに甘いミルクティーを飲んで一息をつく。これまでの疲れを忘れるように。

 

 しかし、これだけでは、今の指揮官の疲れを完全に癒すことなど出来はしないだろう。だから、これから、指揮官の疲れを抜くための、彼に無理させないための計画を実行するのだ。

 

「指揮官」

 

「おぅ?」

 

「息抜きにゲームをしませんか?」

 

「ゲーム?」

 

 AR-15はティーカップを机に置くと、黒のパーカーのポケットから一つの箱を出し、中身を開封する。箱の中から現れたのは、ダイヤとKの文字と王のイラストが描かれたカード。

 

「トランプ?」

 

「ええ、トランプです。今回は52枚の方です」

 

 彼女が取り出したのはトランプ。四つの絵柄に13までの番号が当てられたカードを使って、様々なゲーム、ルールを設けて遊ぶ道具。

 

「なるほど。私に合わせてくれたってことか」

 

「トランプは国によって枚数が違いますけど、指揮官に馴染みがありそうな枚数のトランプが手に入ったのでこれで」

 

「ありがとう。じゃあ、ゲームは何にするんだ?」

 

「ポーカーでお願いできますか?短時間で終わるので」

 

「成程、いいな」

 

「ですが、一つだけ罰ゲームをつけさせて貰います」

 

「罰ゲーム?」

 

「三回勝負の二本先取のルールで、負けた方が勝った方のいう事を聞く、と言う罰ゲームです」

 

「ははっ、いいよ。AR-15も知ってるだろ?私の運の良さは」

 

「ええ……。だからこそ、燃え上がると言うものです」

 

 AR-15も指揮官の運の良さは理解している。彼は決して運だけでなく、基礎的な指揮能力も十分高いのだが、彼の持つ運の良さが更に相乗効果を生みだしている。それと共に、他人の機微を感じ取る目聡さも彼の独特の強みに拍車をかけているのもよく理解している。

 

 それでもAR-15はこの勝負を勝つつもりだ。それこそ、邪道な方法を使ってでも。

 

 AR-15は山札の上からカードを持ち上げてはシャッフルし、最初に指揮官、次に自分へとカードを分配する。

 

 指揮官は配分された自分のカードを確認する。眉一つ動かさない引き締まった表情。AR-15にどんなカードを引いたかばれない様にするために表情を固めているのだろう。それこそ、極力疲れを表に出さないようにしている今のように。

 

 ――指揮官……ごめんなさい……。

 

 AR-15は心の中で指揮官への謝罪を浮べる。彼女は確信したから。この勝負、指揮官への勝ち目は無いだろう、と。

 

 ――あなたには、もっと……

 

 一度目を瞑り、自分の迷いを断ち切って、指揮官とのポーカーへとAR-15は臨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は一日が後一時間で終る頃合い。指揮官の私室、その中の寝室。そこに居るのは、寝間着姿の二人。

 

「ははっ、まさか、あんなことされてまでAR-15から働きすぎるなと言われるとは思わなかった」

 

「当然です。あなたは働きすぎなのよ。もっと自分のことを考えて欲しいわ」

 

 苦笑を浮べる指揮官に、仕事の時とは違い敬語では無く砕けた口調で、語りかける拗ねたようなAR-15。

 

 ポーカーの結果を言おう。AR-15は指揮官に勝利した。あっさりと二本を先取して。

 

 強運を持つ彼に確実に勝つ方法、具体的に言えばイカサマをしたのだ。

 

 最初の勝負は山札の上だけを切ってシャッフルし、下に自分に有利なカードを残し、指揮官にはよくシャッフルされた山札の上にあったカードを、自分には山札の下に仕込んだカードを配る不正で勝った。その時の役はAR-15がフォーカード、指揮官の役がフラッシュ。不正をしなければ負けていたと、AR-15を慄かせるには十分な役であった。

 

 次の勝負はもっと単純、彼が目を逸らした隙にパーカーのポケットに仕込んでいたカードと入れ替えただけ。その役とはストレートフラッシュ。その役に勝にはロイヤルフラッシュを出すしかない強役。指揮官が次に出した役はフォーカード。勿論彼の負けだ。彼の負けだが、不正をしなければ確実に負けてたとAR-15に畏怖を抱かせるには十分だった。

 

 指揮官はAR-15が勝ったことを手放しに祝福した。AR-15がイカサマをしているのだと根っから思ってないと言うように。乾いた皮膚が浮き出る顔で笑いながら祝福した。

 

 そこでやっとAR-15は指揮官の無理な勤労を止める手段を得れた。彼女のイカサマは手慣れたものでは無い。初めて実践したことの上に、普段通りのある程度の注意力があればわかる位の手際の悪さを残していた。彼がAR-15を信頼していて指摘しなかったと言われるのかもしれないが、多少は表情に出てしまうものだろう。それがおくびにもでなかった、手放しにAR-15の勝利に喜んでいると言う事は、注視していれば気づくことに気づけなかったと言うこと。

 

 何をして欲しいのかと聞いてくる指揮官に、AR-15は一度謝罪し、今回のイカサマポーカーの全容を説明した。

 

 自分はイカサマをして勝ったと言うこと。普段通りに注視していれば気付けたレベルの手際の悪さを残していたこと。そんな集中も注視する力も削がれた状態では、近いうちに指揮でミスを起こして取り返しのつかないことになってしまうのではないかと心配であること。そして、その事に気づかない位に指揮官は疲労しているのだと気づかせたかったこと。

 

 最初こそ口を開けて理解が追いついてない、と言うように指揮官は呆けていたがすぐに全容を理解して、『どうしてそこまでして……』と小さく呟いた。弱気になった指揮官の隙を見逃さず、AR-15は彼の手を握りしめた。彼女の大好きな指揮官の大きくて暖かい手は、無理をしているせいか仄かな温かさしか保っていないことを実感しながら。

 

『私は、もっとあなたには、自分を大事にして貰いたい!だから、無理はしないで……!私のことを想うなら、お願いだから、もっと自分を大事にして……!』

 

 縋りつく様に潤む瞳で、感情の処理が間に合わなくなって零れ落ちる涙と共に、ノイズ交じりに発せられた言葉は、確かに彼の心に響き――彼の手の中の温かさを取り戻させた。

 

 彼は『そこまで言わせることになるなんて……本当に悪かった』とAR-15に心の底から詫び、改めて『罰ゲーム』を求めた。AR-15は指揮官が『罰ゲーム』を求めることに違和感を感じなかった。彼の瞳を見て、自分がこれ以上無理をしないようにAR-15に枷を、鎖を着けて欲しいのだと、他人のためと思うならまたどこまでも無理をしてしまうだろうと言う、彼の葛藤を感じ取ったから。

 

 だから、AR-15は罰ゲームの内容を告げた。それは――

 

「あなた、来て……」

 

 二人が寝れるサイズのベッドに先に入り込んだAR-15は両腕を広げて、彼を迎え入れる。

 

「あぁ、入るよ」

 

 彼女の言葉に促されて、指揮官はAR-15に習うようにしてベッドの中に入り込む。このベッドは二人が仰向けになって寝るのにはサイズが小さい。だから二人は必然と向き合う形になる。距離が近く、パートナーとじっくりと向き合えたことで二人は自然と笑みを浮かべる。

 

 AR-15は指揮官の左肩を優しくぽんぽんと叩く。それは、頭の位置を下げて欲しいと言う合図。合図に従って指揮官は頭の位置を下げると、AR-15は彼の頭を胸の内に収めるようにして抱きしめるのであった。

 

「久しぶりね……。あなたと一緒に寝れるなんて」

 

 AR-15が指揮官に与えた罰。それは、『これからはどんな事があっても、自分と同じ時間に寝て、同じ時間に起きて仕事に向かうこと』。仕事が忙しくなる前の日常を取り戻そうと言う彼女の計らいであった。

 

「ごめんなAR-15……。寂しい思いをさせてたんだな……」

 

「凄く寂しかった……、でも、あなたは私を想って仕事を片付けようとしてくれてるから、何も言えなかった」

 

「ははっ、仕事と私、どっちが大事って?」

 

「……あなたにはもっと自分を大事にして欲しいわ」

 

 AR-15は軽く指揮官を睨み、冗談を言う指揮官の頭に軽く手刀をいれる。そんな冗談を言える余裕があるのなら、その余裕を自分を大事にするために使ってくれと態度でも表すように。

 

「痛ッ!……ごめん、悪かった」

 

 対する指揮官はAR-15から与えられた痛みに顔を歪めながらも、すぐに苦笑に変わる。彼女にここまでさせる原因となったのは指揮官のせいなのだ。普段は冷静で内面に熱さを保っている彼女が泣きながら『自分を大事にしてくれ』と言って来たのだ。それで心に痛みを、苦しさを覚えないほど指揮官は冷酷な人間では無い。

 

 苦笑を浮べる指揮官の髪に、AR-15は一つ唇を落として、硬質な彼の髪を撫で上げる。先ほど自分が与えた痛みを癒そうとするように。

 

「いいんです……。こうしてまたあなたと寝ることが出来るから……」

 

「……ありがとう、AR-15」

 

 指揮官は自分の中の思いを、彼女を寂しく思わせたことへの情けなさ、彼女の為を思ってと謳いながらも彼女のことを想ってなかった行動への謝罪、それと、それら全てを飲み込み許してくれたAR-15の感謝を伝えるために彼女の腰に腕を回して抱きしめ返す。

 

 AR-15は自分の胸の中で指揮官の呼吸を強く感じる。彼女は指揮官と手を繋いで彼の温かさを感じるのが好きなのだが、それと同じくらい、自分の胸の中で彼の息遣いを感じるのが好きでもある。

 

 つまるところ、AR-15は指揮官と触れ合うのが好きなのだ。彼の体温、彼の息遣い。夢の世界に持っていけないモノの数々を感じ取ることが出来るのだから。

 

 AR-15は指揮官の頭を覆う腕に力を入れる。自分だけの大事なモノを抱えるように。彼の存在をより強く感じ取るために。

 

「あなた」

 

「うん?」

 

「あなたは知ってるわね?私が、こうやったあなたの息遣いを感じることが好きだって」

 

「知ってるさ。手を握るのと同じ位好きだもんな」

 

 胸の中で言葉と共に吐き出される小さな息達がなんともこそばゆく何とも愛おしい。

 

「でも、ここ数日はずっと一人で寝ることに……。二人で使う分には狭くて、一人で使う分には大きすぎるこのベッドに……」

 

「え、AR-15……?」

 

 彼女の腕に込められた力が強まる。

 

「一緒に寝れたと思っても、あなたは時間を置いたら抜け出して、部屋に持ち帰った仕事をして――また私は一人に」

 

「AR-15さん!?」

 

 更にまた力が強まる。今度は肌の柔らかさだけでなく、骨格に使われている素材の硬さも感じ取れる位に強い力が加わった。

 

「私が、私がどんな思いで、一人で寝ていたか……!!」

 

「痛い痛い痛い痛い!悪かった!!本当に悪かったから!!!」

 

 彼女の腕の力が更に強まり、指揮官の頭は万力で挟まれているよう。指揮官の頭蓋骨はギシギシと悲鳴をあげ、内部だけでは抑えきれなくなり彼の口から吐き出されていく。

 

 大きな声をあげて謝罪する彼の姿にAR-15の溜飲がさがったようで、AR-15はくすりと声を漏らして微笑むと、腕に加えた力を再び抱き留める程度に弱めてあげた。

 

 胸の中で彼の小さくて長い、ほぅ……、と言う吐息を感じる。吐息のこそばゆさに思わず身を捩りながらも、痛みに喘いでた彼を慰めるように、AR-15は再び後頭部を撫でてあげる。

 

「本当にごめん……。これからは、出来る限り控える……」

 

「出来る限り、じゃないです。これから毎日、二人で一緒に寝るのよ」

 

 そう。彼女が彼に言い渡した罰は『これからはどんな事があっても、自分と同じ時間に寝て、同じ時間に起きて仕事に向かうこと』。彼女はいつまでと言う終わりの期間を彼に説明していない。そして、彼もその場で拒否しなかった。ならば、罰は成立だ。彼は毎日AR-15と床を同じにする運命にあるのだ。

 

「あれは……言葉の綾みたいなものじゃ無かったのか……」

 

「そうよ。罰ゲームの期間を決め無かったあなたが悪いのよ」

 

「ははっ……AR-15は意外と狡猾だよな……」

 

「うるさいわ……」

 

 指揮官を黙らせるようにAR-15は彼の頭を自分の胸に押し付ける。もう逃がさないと、自分の傍から離れることを許さないと言わんばかりに。彼が勝手にどこかへ行ってしまわないように、彼に置いて行かれないように、AR-15が彼を留まらせるための楔となるかのように。

 

 力強く、ぎゅっと音を立てて、彼の頭を抱きしめて離さない。

 

 AR-15の仄かな膨らみの柔らかさと石鹸の香り、そして後頭部に回された柔らかい彼女の二の腕。自分が安心できるモノに包まれたせいか、或いは彼女が自分を守るかの様に抱きしめてくれているおかげか、指揮官の瞼が段々と重さを増してきた。こんな優しい眠気は久しぶりだと、指揮官は暗くなる意識の中で微笑む。最近は体中に重りを着けられたかのような泥沼のような眠気にしか身を任せることが出来なかったから。

 

 指揮官の寝息が段々と規則的になっていることを彼を包むAR-15も感じ取る。彼が眠るまで、あと僅か。

 

「AR-15……」

 

「なぁに?」

 

 AR-15の腕の中から聞こえる道に迷った子供のような弱々しい声に、彼女は優しく慈愛に溢れた笑みを浮かべて返事をする。

 

「ありがとう……大好きだよ……」

 

「わたしも大好きです。あなた……」

 

 全意識を振り絞って自らの中の思慕を伝えた指揮官は、彼女からの愛情の言葉を頭に刻んで眠りの世界に身を寄せる。

 

「おやすみなさい、あなた」

 

 安らかな顔で眠る指揮官の髪に唇を落としたAR-15は月明かりを弾く様な瑞々しい微笑みを彼に捧げ、彼の後を追うようにスリープモードへと移行した。


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