【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも

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※注意
 
 この作品には深層映写のネタバレ及び、オリジナル設定、中途半端なUMP40のキャラ把握が含まれています。

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『特別ルート』何処にも行かないで 寄り添って 中編『UMP40』

 指揮官とUMP40は誓約を交わした。時間をかけて信頼を培い、愛情を育み、それを指輪と言う形にしたのだ。

 

 40以外にも指揮官に好意を抱いていた戦術人形は多く存在した。ある者は潔く指揮官から手を引き、ある者は恋慕を拗らせたりもしたが、40と指揮官の仲の深さをみて結局手を引いたモノが殆どだったようだ。

 

 基地に居る戦術人形、人員から盛大に祝われて誓約を迎えた二人。グリフィン、IOPからも公認の仲となった二人は、人目を憚る事無くたわむれ合っている――と思いきや、そういう訳では無かった。

 

 誓約を期に40が指揮官と同居する、事も無ければ、二人の仲の良さを知るモノが、思わず砂糖を吐く勢いで熱々な蜜月を送っている、わけでも無い。

 

 寧ろ――

 

「……ふぅ」

 

 休憩時間、執務室で書類に軽く目を通した指揮官は、何処か疲れたように溜め息をついた。誓約をする前なら、傍に控えていた40が、『お疲れ指揮官!飲み物用意するよ!』と指揮官の疲れた目を癒すような溌剌とした笑顔を浮かべて、小走りで部屋を出て行って飲み物を用意してくれた物だが、今の彼の傍には40は居ない。

 

 それもその筈、40は休憩時間を利用して、他の戦術人形に絡みに行っているのだから。

 

 誓約を期に指揮官と40の時間は更に増えたと言えば、指揮官は苦笑を浮べながら首を振るうことだろう。誓約の前と変化がない。それはある意味で贅沢な悩みと言えるかもしれない。初心を忘れず、愛を育んでいると言えるかもしれない。

 

 ……違うのだ。増えた訳でも無ければ、変わったわけでも無い。

 

 減った。二人の時間が減ったのだ。

 

 それは何故か?

 

 その答えも簡単なモノ。40が休憩時間を利用して、戦術人形達に会いに行っているから。

 

 指揮官が彼女を止める権利は無い。それに、40が指揮官を避けている様子も無い。それなのに何故二人っきりの時間を40はとらないのか。

 

 その答えを、指揮官はこう導き出した。

 

『自分と言う絶対に傍に居る存在が居ることで安心できたのだろう』

 

 と。

 

 当初の40は、ずっと自分の居場所と言うモノを人に求めていた。誰かに認められて、自分が傍にいることを許してくれることを。

 

 指揮官は、彼女が望む『居場所』となった。何があろうと、彼女を受け入れ、彼女と共にあり続ける確固たる『居場所』に。

 

 そんな居場所が出来て、彼女は深く安心したのだろう。

 

 だから、40は指揮官の傍を離れて色んな戦術人形達と交友を深めに行くことにしたのだろう。

 

 なので、指揮官としては安心していた。40は指揮官と言う居場所だけに満足することなく、他の戦術人形の中にも自分の居場所を築こうとしていることに。

 

 だが、そうはわかっていても――

 

「ちょっと、寂しいな……」

 

 ついついそう思ってしまう。指揮官は40の誓約相手。公私を共にするパートナー。お互いがお互いを深く支え合う唯一無二の関係。

 

 疎かにされている訳では無いのは、指揮官も理解はしている。

 

 でも、そうとわかっていても、女々しいと言われようとも、想いを通じ合った相手が余り傍に居ないと言うのは、彼女の相手として寂しく感じてしまっても仕方がないことだろう。

 

「よっと……」

 

 指揮官はずっと座り込んでいたせいで痛みの信号を発する腰を手で押さえながら立ち上がると、給湯室へと足を運ぶ。

 

 休憩時間は後数分で終わり、喋りつかれた副官の40が喉を潤わす物を求めながら戻ってくることだろう。

 

 給湯室の棚に閉まってあるグラスを取り出し、冷蔵庫から氷と水を取り出してグラスに注ぎ、副官の席に置いておく。彼女には言ってないが、美味しそうに水を飲みながら、戦術人形達と何があったかを語る40の姿は愛らしくて好きだった。

 

 休憩時間が終わる一分。ノックも無しに執務室の扉が開かれる。

 

「たっだいまー指揮官!」

 

 弾けるような笑顔を浮かべて、よく通る声で帰還を告げる40。

 

「おかえり、40」

 

 短い時間ながらも戦術人形達との交友を楽しんできた様子の彼女。指揮官はそんな彼女の様子を自分のことの様に喜びながら、彼女に微笑みかけるのであった。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 これは40との新たなる日常。

 

 指揮官が新たな居場所を作る40の姿を見守る基地の日常。

 

 40と指揮官が結ばれてからの日常――

 

 ♦ ♦ ♦

 

誓約してからまたいくらか日が経った。

40は相も変わらず誓約を交わした指揮官との時間を取らず、戦術人形との時間を中心にとるようになった。

 

今までは仕事の合間にある休憩時間だけであったが、最近は休日も戦術人形達も過ごしていることが多い。

 

最近は彼女の姉妹機である45と出掛けていることが多いようだ。出掛けた日の事を事細かに、楽しそうに彼女が指揮官に語るから。

 

その姿をみても、指揮官は不思議と自分の事を無いがしろにされているという意識も自覚も無かった。それは、40は彼が望めば快く傍に居てくれるからだ。自分の隣で笑顔を振り撒き、最近あった楽しかった事を語る彼女に嘘偽りを感じなかったから。

 

手を握り、愛の言葉囁き合うことも、口付けを交わすことも彼女は拒絶しなかった。特に手を握ることに関しては彼女の方から積極的にやってくる。指揮官を自分に繋ぎ止めるように、彼の腕を抱き締めて指を絡めて握るのは、誓約をする前からの彼女のお気に入りの行為だった。それをする度に、満足そうに微笑む彼女の顔には喜びが満ちていることを、ずっと彼女の傍に居た指揮官にはよくわかっていた。

 

45達と特別仲良くしていることにも何ら疑問を抱いてなかった。寧ろ、今までの空白であった姉妹の時間を埋めていっているようで微笑ましくもあった。

 

あの45が『姉妹の時間を奪っちゃダメだよ、しきか~ん?』と、本気とも冗談ともとれない口調で言ってきたことは、指揮官の脳に刻み込まれている。そんな彼女に便乗するように40も『そうそう。あたい達の時間を取らないでよ?しきか~ん』と、彼女もからかうように言ってきたから、特に記憶に残ってる。

 

それに、40が不在なのを良いことに彼に迫った戦術人形も数体は居たが、数日後には40との間に何かあったのか、彼に迫ってくる様子は無くなった。

 

だから、40から蔑ろにされていると思ったことは、一度も無く、相も変わらず40が交流の輪を広げていることを喜ばしく思ってたのだ。

 

40は指揮官に語る。戦術人形との交流の中であったことを。『可愛い服をみてきた』とか、『迷い混んだ子猫を可愛がった』とか、『美味しい料理を食べてきた』とか、そんな他愛の無い話を屈託の無い笑顔を浮かべて。

 

指揮官は記憶の中にあることを追体験するように、身ぶり手振りを加えて語る40を微笑ましそうに眺める。

 

あまり変わらない指揮官の反応が面白くないのか、時折40は指揮官のことをジト目で見つめながら、

 

「指揮官、あたいの話ちゃんと聞いてる?」

 

と何処か不満げに確かめてくるのが、可愛らしい。そんな彼女の髪の毛を手入れするように撫でて、

 

「ちゃんと聞いてるよ」

 

と返すと、くしゃりと表情を緩めるのが愛らしい。

 

他の戦術人形と仲良くしてる様を語る彼女は魅力的だ。特に姉妹のことを語るときは、

 

『二人の顔の傷をファンデーションで隠すと凄く可愛らしい』とか、『45はああ見えてビターなものは苦手』とか、『45は意外と裁縫が得意』な事とか。

 

40は特に45と仲良くしているらしい。ちょっとした因縁があるらしいが、彼女と姉妹だからだろうか。二人が揃ってると、どことなく指揮官も嬉しくなる。

 

そして、45の事を語る40はどことなく輝いてるように見えて、

 

 ――指揮官の指先に僅かに力が込められた。

 

45のことを語る40は相変わらず笑んでいる。楽しそうに、嬉しそうに――

 

 

 

他の戦術人形や45との絡みの話は何日も渡って40の口から語られた。例えそれが、指揮官と二人っきりで出掛けているときや、デートの翌日であっても、ずっとずっと――

 

ある時の40からのお話が終わった後に、指揮官は自分の手のひらに爪の痕が残っていることに気がついた。それは、知らぬ間に彼が握り拳を作っていた証拠だった。

 

 ♦ ♦ ♦

 

40はまた指揮官に語る。他の戦術人形との間にあったことや、45達のことを。作戦中の話や、プライベートであったことなど、その話題を中心に。

 

指揮官は気づいてしまった。自分が不安に思ってることに。

 

その理由は分かりやすいものだ。どんなことがあっても、どんなときでも、彼のことは40の話題の中に出てこないのだ。まるで、彼女から忘れ去られたように。自分には魅力がないと遠回しにいうかのように。

 

指揮官は40の話を聞くのが好きだ。笑顔を浮かべて、楽しそうに語りかけてくれる彼女のことが好きだ。

 

だけれども、彼女は余りにも自分とのことを話してくれなさすぎる。通じあってる仲だからだと、他人は言うかも知れないが、それにしても自分に関しての、自分達に関しての話題が出なさすぎる。

 

それが指揮官を不安にさせた。40は本当に自分の事を好きなのかと、愛しているのかと。

 

40はまだ戦術人形との話ばかりをしてくる。自分は彼女の特別である筈なのに。自分は彼女から特別な扱いは、今は何も――

 ――40どうして……

 

これでは、40が特別な扱いをしているのは自分ではなく戦術人形達ではないのか。

 

また40は戦術人形と過ごした時間の話をしてくる。無邪気に、朗らかに、何処までも楽しそうに。

 

指揮官と40は誓約を結んでいるのに、自分は彼女の確固たる居場所であるが、それと同じくらい重要な特別な関係であるのに。

 

指揮官が好きな彼女の笑顔が向けられているのは、目の前にいる指揮官ではなく、彼女の思い出の中の戦術人形たち。その事実が、心臓に針を刺されたかの如く、指揮官の胸を締め付ける。

 

指揮官は40に見られないようにひっそりと拳を握っていた。微かに伸びた爪が、彼の手のひらに刺さるくらいに強く、強く。それだけに止めることが出来なくて指揮官は奥歯を噛み締めていた。それでも、彼の中に渦巻くものは収まらなくて、彼は奥歯を噛み締めるのを止めて、下唇を噛んでいた。

 

自分の外側から伝播していく痛み達。それに呼応するような、彼の胸の痛み。

 

内側と外側その二つの痛みが共鳴しあったその瞬間、彼は自分の中で渦巻いていたモノの正体に気がつけた。

 

彼は、

 

――40を笑顔にする者達に嫉妬しているのだと

 

「指揮官?」

 

突如として指揮官の相づちがなくなったからか、40が指揮官の顔を覗きこむ。

 

我に返った指揮官は、ハッとしたように口を開けて、握りしめていた拳を解いた。

 

「……何でもない」

 

「ん~?もしかして、嫉妬しちゃった?」

 

「なんでも無いさ……」

 

自分の部下への嫉妬を自覚し、片手で果物を掴むように顔を覆って自己嫌悪に陥る指揮官。

 

「ふ~ん……」

 

40は突如調子が沈んだ彼に首を傾げながらも――その表情は、どこか涼やかに微笑んでいるようにも見えた。

 

 ♦ ♦ ♦

 

 指揮官が自分の中の嫉妬を自覚してから更に時間が経った。

 

40は、やはり『指揮官に関する話題』以外を彼に語りかけてくる。彼の大好きな溌剌とした微笑みで。友達と心行くまで遊んで帰ってきた子供のような無邪気さで。

 

どんなに彼女の傍にいようと、どんなに彼女を喜ばそうとしても、彼女が笑顔にする時は決まって『指揮官が関係しない』話。

 

指揮官は気が気で無かった。心の奥底から叫びだしそうになった。勘弁してくれと、彼は何も悪くないのに、許して欲しいと思ったことすらある。つい最近までは、彼女のことを詳しく知っているのは自分以外にいないと自負していた位なのだが、今は自分がもっとも彼女のことを知らないのではないか?と恐怖すら感じている。

 

彼女が語りながら浮かべる笑顔は、彼に向けられたものではない。何度も、何度だって言おう。彼女の笑顔が向けられた先は、過去に彼女を笑顔にした者達。

 

40の笑顔の意味に気づいたときから、彼女の笑顔が好きだという気持ちと、彼女の笑顔を見たくないという気持ちの板挟みだった。胸が張り裂けそうになったことは何度もある。苦しさのあまり肺が破裂してしまいそうに思ったことも何度もある。星を浮かべた彼女の瞳が、目の前にいる自分を向いてないことを知って、自分に視力があることを呪ったこともある。彼女の言の葉を癒しとして捉える鼓膜を破ってしまいたいと思ったこともある。

 

それでも、彼が狂わなかったのは、ひとえに彼女を愛していたから。他の人間や戦術人形に愛を捧げることは微塵も揺らいだとこはなく、一途に40だけに注いでいたから。

 

そして、不思議なことに、本当に不思議なことに、彼は40からの愛情を確かに感じ取っていた。まだ、彼の中では40に蔑ろにされているという感覚は微塵もなく、彼女から愛されているという実感が不思議とあった。彼女から指揮官への応対こそ、彼女が誓約してから変わっていないが、二人だけの時間を過ごすなかで、不思議とそれ以外の時もこうして話している時すらも、自分を苦しめる40からの愛情を感じ取っていた。

 

40と通じ会えているこそ感じ取れているのか、それとも、指揮官の願望が思い込みへと変化したのか、それはわからない。

 

ただ言えることは、指揮官を狂わせるのが40への愛情なら、彼の正気を繋ぎ止めているのは40からの愛情だということ。なんとも皮肉な対照なのだろうか、彼を苦しませるものも、繋ぎ止めているのも、愛なのだ。

 

だから、ずっと指揮官は耐えてきた。自分へと微笑みを向けながら、自分へと向けられてない思い出話達に。彼女にバレないように、拳を握りしめ、密かに唇を噛みながら。明朗快活な40を守るために。40が無邪気に与えてくる心の痛みを、身体的な痛みに変換して耐え忍んできた。決して、彼女にはそんな姿を見せないため。

 

しかし、耐えるだけではいつまでも続かない。その我慢は限界を迎えた。

 

何時ものように向かい合って話し込む二人。指揮官は油断していたのかも知れない。テーブルの上に置いていた手を、何時ものように力強く握りしめてしまったのだ。

 

「指揮官、何でそんなに力を入れてるの?」

 

40が震えるほど力を込められた指揮官の手を指差す。

 

遂に、40が指揮官の秘密が暴いてしまった。彼女を守るために、耐え続けて来たのに、ふとした瞬間にその努力が水泡に帰した。

 

「な……!そんな事……」

 

 言い訳をしようとして 、俯いて口を閉ざす指揮官。

 

一瞬の葛藤がそこにはあった。このまま言い訳をして、耐え続けるか、素直に心のうちを明かして、無邪気な40を傷つけるか。

 

一瞬の葛藤だった。暴かれてしまったことで、心のなかに隙が出来てしまった彼には、また耐え続けるのは酷な選択肢だった。

 

諦めて自分の心のうちをすべて語ってしまおう。もっと早くからそうすればよかったのだ。

 

自分に笑顔を向けて欲しい。ずっと抱えていた思いを口にしようとした所で――

 

40が丸められた彼の拳を、繊細で滑らかな彼女の手が覆った。

 

突如与えられた温もり。

 

「あっ……」

 

思わず声を漏らして、顔をあげる指揮官。彼の目に映るのは、『彼だけに』微笑みを湛える40。

 

その微笑みはまるで著名な画家が描いた絵画のよう。見るもの全てに深い敬意と慈愛を感じさせる笑み、そう見えるはずだ。彼女と心を深く通わせた指揮官『以外』には。

 

40の微笑みを目の当たりに指揮官は彼女から捧げられる愛情を感じると同時に、背筋に稲妻が走り冷や汗が吹き出したかのような錯覚を覚えた。

 

彼女の浮かべる笑み。それに内包されるのは愛だけでなく、悪巧みを実行するUMP45のような狡猾さと、鉄血機体を尋問にかけるUMP9のような残虐さ――

 

「ははっ……!」

 

その二つを合わせたものを別の言い方で表現するのなら――

「ははっ!はは!あははははっ!素敵だよ!今の指揮官、凄く素敵ッ!!」

 

――狂気

 

 その二言が、彼女から放出される愛情の裏に潜むモノ。

 

 40の笑みに嘲りは無い、40の声に侮蔑は無い。ただ、ただただ、喜びだけがある。

 彼の手をテーブルへと縫い付けつつ、身を乗り出す40。彼の鼻先と自分の鼻先がくっついてしまう位接近して、指揮官の夜色の瞳をに金色の月夜の様な40の瞳が闇夜を照らすかのように覗きこむ。

 

「指揮官!指揮官!」

 

 40が彼を呼ぶ。遊んでもらおうとねだる子供の様に、興奮が隠せない無邪気な子供みたいに。

 

 いや、違う。彼は彼女の好奇心溢れた瞳のことを良く知っている。その瞳は子供がする無邪気なモノでは無い。恋する乙女が想いを告白するような、想いの丈を伝えようとするような、無垢な瞳。

 

「あたいね、戦術人形や45達の話をすると悔しそうに顔を歪める指揮官がね大好きなの!!」

 

 無垢な視線と、無邪気な表情。40の言葉には嘲笑う意図はなく、彼をバカにする意志はない。

 

 40との信頼を培った指揮官だからわかる。誰よりも40のことを理解していると自負している指揮官だからわかる。彼女は指揮官を貶すつもりは塵一つなく、恋する少女の様に想いの全てを指揮官にぶつけているのだ。

 

 だが、その内容な余りにも衝撃的でショックを受けるモノには十分だ。

 

 40は指揮官のことを馬鹿にする意思がないのはよくわかっている。でも、それでも、40のことを深く信頼している指揮官がこう思ってしまうのは、仕方ないだろう。何せ、彼女の言葉を真に受けるのなら、嫉妬をさせるために、それだけの為に彼の心を傷つけたのだから。

 

「私は、君に弄ばれていたのか……?」

 

 風に吹かれた水面の様に揺れる指揮官の夜色の瞳。

 

 40は彼の手を覆っていた手を離すと、彼の両頬に自分の手を添える。健康的な小麦色をした手で、日に当てられて熱せられた手で、今にも心が凍り付いて涙が零れそうな指揮官の頬を包む。

 

「違うよ。言ったでしょ?あたいは指揮官のことが大好きなんだから!」

 

 屈託の無い笑顔で、確かに好意を伝える。その声色には、若干の怒りが含まれてることを指揮官は何となく感じ取った。その怒りがあるという事は、40が彼へと向ける思いに偽りはないと言う確固たる証拠。

 

 でも、それでけでは足りない。

 

 40が自分のことを見てくれている。40が自分のために想いを伝えてくれる。40が自分のために微笑みを向けてくれる。

 

 それだけでは、今の彼には足りない。

 

 彼は零す。今にも泣きそうな子供が痛みを堪えて伝えるように。

 

「私は……君に……愛されているのか……?」

 

 40の我儘に振り回され、40から想いを向けられることが少なくて、指揮官はすっかり弱っていた。

 

 彼女に飽きられた、或いは、詰まらない人間として切り捨てられたのかと、自分では彼女の居場所は努められないのかと、そんなことを思いずっと心を痛めていた。

 

 頬に添えられた彼女の手に、冷え切った自分の手を重ねて、懇願するような視線を向ける指揮官。

 

「っ……!」

 

 そんな彼の縋る様な視線と、40へとしがみ付こうとするする声色に、彼女の頭脳回路に電流が奔るのを感じた。それは、異常な出力の電流が放出されたのではなく、人間でいう快楽を感じた瞬間に近い。

 

 ――見れた。指揮官の新しい一面……!!

 

 40は指揮官の頬を舐めるように指に這わせて顎のラインをなぞると、どこか名残惜しそうに彼の顔から手を離していく。

 

 彼女は可愛らしく小首を傾げながらも溌剌な笑みを浮かべて、

 

「そんなに言うなら、真夜中にあたいを迎えに来て!部屋の鍵は、開けとくから」

 

 そんな提案を残すと踵を返し、彼から距離をとっていく。

 

「40!」

 

 思わず彼女のことを引き止めようとする指揮官。

 

 40は彼に振り向くと、

 

「あ、でも音は立てちゃダメだからね?起きた45が指揮官の事を袋叩きにしちゃうかもよ?」

 

 一つ警告を残して、彼との談話を後にし、出撃の為に工廠へと向かってしまった。

 

 一人取り残された指揮官は、40の言葉を思い返す。

 

『真夜中にあたいを迎えに来て!』

 

 と彼女は言った。そこで、わかるのだろう。40が指揮官を愛しているかどうか。

 

 それと、

 

『起きた45が指揮官の事を袋叩きにしちゃうかもよ?』

 

 とも言った。

 

 40がよく45のことを構っているせいか、最近の45は40に若干依存している所がある。そんな45の前で40のことを連れ去ろうとしたらどうなるか、想像を絶する拷問をされるか、或いは壮絶な死を迎えるか。何にせよそんな未来は想像したくない。

 

 だが、それでも、

 

「私は……」

 

 45に袋叩きにされるリスクを背負ってでも、

 

「それでも、私は……」

 

 指揮官は――

 

「40、君を迎えに行くよ」

 

 惨めな嫉妬心に溺れる日々は送りたくないから。

 

 彼にだけ向けられたあの笑みを、彼は忘れることが出来ないから。

 

 何よりも、40が彼のことを愛しているのか確かめたいから。

 

 指揮官は、彼女を迎えに行く決意を固めた。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 これは40の本心に迫った日常。

 

 指揮官が40からの愛を確かめる基地の日常。

 

 40と指揮官が、互いの心に迫る日常――




後編の更新は遅めになります。
気長に待ってくださると幸いです。
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