【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも

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ちょっと書けたので更新です。


『特別ルート』何処にも行かないで 寄り添って 後編1『UMP40』

 

 日が沈み、指揮官の瞳の色の様に真っ黒な夜の時間帯。

 

 指揮官は戦術人形達の宿舎、その中にある、UMP姉妹の部屋へと向かっていた。

 

 その理由は簡単、

 

『真夜中にあたいを迎えに来て!』

 

 と言った40のことを迎えに行くため。

 

 彼だけでは整理のつかない想いと、彼女からの愛を確かめるために彼は40の待つ部屋へと向かっていた。

 

「……ここだな」

 

 かつては何度も通った部屋。誓約する前は副官である40のことを迎えに行くためによく足を運んだUMPシリーズの人形達が共同で過ごしている部屋。

 

 指揮官は胸に手を置いて呼吸を整える。

 

 ここから先は40を迎えに行くことを成功しても、45に妨害されて袋叩きになる結果になっても、後戻りが出来なくなる岐路。

 

 40の愛を確かめることに成功するか、失敗して40の失望を買うことになるか。

 

 もし失敗したらと思うと怖い気持ちは確かにある。でも今の指揮官にとっては、愛を一身に捧げている40が本当に自分を愛しているのか、確かめることが出来ない方がもっと怖い。

 

 だから、指揮官は一歩を踏み出す。

 

 40は指揮官のことを愛しているのだと。どんな形であれ、ずっと感じていた愛情が本物であることを確かめるために。

 

 指揮官はドアノブに手をかけて、手前に引く。40の言った通り鍵はかけられておらず、小さく蝶番が軋む音を立てて隙間が広がっていく。

 

「遅かったね、しきか~ん」

 

 ドアを開け、40が待つ室内に薄暗い廊下の光を送り込んだところで、わざとらしく甘えるような間延びした声が彼の耳に届く。そんなわざとらしい甘えたな喋り方をするのは、指揮官の知る限りただ一人。指揮官の目標を達成するために今もっとも恐れるべき戦術人形、UMP45。

 

 ――まさか、この部屋にくることが予め察知されていた?

 

 彼の頭がこのままでは危険だと警鐘を鳴らすが、彼の目的の為に今は引き下がるわけには行かない。叶うかどうかはわからないが、話し合いで解決を図ろう。

 

 彼が打開策を思い浮かべ、声の主と相対する準備を整えて一気にドアを開け放ったところで、彼は小さく息を飲んだ。

 

「なんてね~~」

 

 玄関に座り込み、頬に手を添えて悪戯っぽく微笑みながら彼のことを見上げるのは、夜空を照らす月の瞳を夜闇に包まれた室内で煌かすUMP40。彼が迎えに来た相手その人。

 

「はろ~!それともぐっどあふたぬーん?まぁいいや!来てくれたんだね指揮官!」

 

 深夜の時間だと言うのに、彼女の声量は全く持って変わらない。そんな彼女の調子に指揮官は苦笑を浮べる。

 

 そう、彼女は何も変わって無い。変わってるように見えない。だから、彼女の話に自分のことが無いことに気がつくのが大幅に遅れてしまったのだ。

 

「大声を出して平気なのか……?」

 

 対する指揮官は、中で眠るUMP9とUMP45を警戒しており、周囲を憚る様な声量だ。

 

「平気だよ。ちゃ~んと寝かしつけてあるからね~」

 

 手をひらひらと振って大丈夫だとアピールする40に、指揮官は胸を撫でおろす。

 

 彼が警戒しなくても、40はわざわざお膳立てをしてくれていたようだ。まるでスパイや暗殺者にでもなった気分の決死の覚悟でやって来たのに、その気苦労は全てとり越し苦労だったようだ。安心したような、それならそうと言ってくれればよかったのにと言いたくなる様な、複雑な気分に陥る指揮官。

 

 そんな指揮官に40は微笑みを浮べて、悠々と語りだす。

 

「二人とも可愛いんだよ。寝顔だって可愛いし、二人はお気に入りのぬいぐるみと一緒じゃないと寝れないんだ~。特に指揮――」

 

 40から二人の、指揮官以外のことを口にされた瞬間に、指揮官の瞳が一気に鋭く変わる。

 

 もう限界なのだ。指揮官にとって、40が自分以外のことで話しこむ姿を見るのは。自分達以外のことをずっと聞き続けるのは。40の中には指揮官の居場所は無いのだと、悲しい思いを抱いてしまうのは、もう嫌なのだ。

 

彼の視線の変化に気づいた40は、口許を大きく持ち上げて歪な微笑みを浮かべる。

 

「ふふふっ、良い表情だよ、指揮官!」

 

悪巧みが成功した45のように。いや、そんな子供のいたずらが成功したときのような朗らかな笑みではない。その笑顔は、昼間の語り合いで40が指揮官に向けてきた狂気を孕んだ微笑むに近いものだった。

 

我慢のタガが外れた指揮官は、40の口から自分の自分達二人に関すること以外の話を紡がれると、もはや条件反射のレベルで軽く拳を握り歯を食いしばって嫉妬を露にするようになってしまった。

 

こんな感情は、恋人の、最愛のパートナーの前で晒すべき物ではない。そう、彼は頭の中で理解はしているが、溢れてしまった感情はもはや止まらない。

 

40は緩やかに立ち上がる。目元はつり上げ、口許は引き絞り、嫉妬という負の感情を露にする指揮官を恐れることなく。立ち上がり、彼を見上げる形になると、40は手を伸ばし彼の頬に手を添える。彫刻品を触るような手つきで彼の頬を撫でると、軽く背伸びをして彼の首に自分の腕を巻き付けて、彼の肩に顎を置くようにして抱き締めた。

 

「からかうとすぐ向きになるんだから~」

 

まるで、指揮官がずっと嫉妬していたことをわかっていたような言葉。彼女にとって、『指揮官が話題にいない話』はからかいでしかなかったのか?やはり、自分は40に愛されてないのか?

 

「指揮官のそういう表情、あたい好きだよ?」

 

歌でも口ずさむように好意を伝える40。

 

好き、それがからかい半分の口調であっても、愛を捧げる人から言われると、どうして身体が震えるのだろうか。抑えきれない、心の底から湧き出る喜びによって。

 

40は指揮官の頬を撫でる。肩に顎を乗せている位置関係的に彼の表情を伺い知ることは不可能。でも、彼の頬に、表情筋に、手を触れることでわかったのだ。

 

彼の引き絞られ、よく手入れされたナイフのような鋭利さを持った表情が和らいでいることを。

 

40は口端を大きく持ち上げる。彼の浮かべているであろう表情に満足するように。

 

――あぁ、何て可愛いんだろうか

 

このまま意地悪したくなる。また彼のことをからかいたくなる。あの嫉妬に焦がした表情を見たくなる。

 

でも、今は我慢の時だ。だって、これ以上彼を焦らすと、彼は40への愛で真っ黒に焦げてしまうだろうから、

 

「だから――」

 

今は素直な思いを

 

――他のひとに、その表情を見せたら許さないからね?

 

指揮官の耳元に唇を落としながら囁いた。

 

40からの言葉に含まれているのは、間違いなく独占欲。彼女は『表情』とだけしか言ってないが、それでも40が自分の嫉妬した顔が好きなのだということは、そう言ったことには間違いがない。

 

40の聴覚センサーが、集音機器が指揮官の吐息を捉える。その情報だけで、指揮官が眉を開き安堵している姿が40の中で容易にイメージが出来る。

 

何故その姿が簡単にイメージできるのか?その理由はとっくにわかりきったこと。40は指揮官のことをずっと――見ていたから。

 

「しきかーん……」

 

指揮官の耳から頭の中にかけて染み入るような甘く切ない40の囁き声。

 

その声が、彼女が指揮官と呼ぶことに、呼んでくれることに、彼は喜びを抱いている。だって今は、自分の事を呼んで、自分の事を求めてくれているのだから。

 

40は指揮官の首に回していた腕を解くと、今度は彼の肩に手を置いて、彼と視線を交わす。

 

指揮官の夜色の瞳には、中心に星を浮かべ月のような金色の輝きを放つ40の瞳が、40の満月のような神秘的な瞳には、月の光を覆うような雄大な夜を思わせる指揮官の瞳が。

 

まるで、二人が一つに混じったかのような喜びを覚える40。二人が織り成すそれはふとしたときに見上げた澄み渡った夜空のような胸を打つ風景。

 

40は瞳を閉じて二人が作り上げた風景を閉じ込める。

 

そのまま閉じたままの目尻を緩め口端を持ち上げて、

 

「あたいを連れ出して!」

 

童話にあるような、お城に閉じ込めるられたお姫様が迷い混んできた王子様に願うように、連れ出すように求める。

 

指揮官の答えはすでに決まっている。

 

言われなくてもそうするつもりだった。彼はそのためにここまで来たのだ。

 

だから――

 

「40」

 

指揮官は肩におかれた40の手をとり握りしめる。彼のことだけを意識させるように、40のことを逃がさないというように。

 

「うん」

 

40は目を瞑りながらも彼の意思の強さを感じ取り、告白の返事を心待ちにする少女のように、彼の言葉に集中する。

 

「君を連れていくよ」

 

彼はわかりきっていた返事を彼女へと確かに返した。40の細い手を握りつぶす勢いで力を込めて。彼女のことを放さないとその力強さで示しながら。

 

「うん、あたいを連れてって!」

 

確固たる気構えと彼の手に込められた力強さ、その執念を感知した40は満足そうに可憐に表情を緩ませる。

 

指揮官の好きな40の表情。40の笑顔。その笑顔の中でもあまり見たことがない、女の子らしい40の微笑み。彼女の笑みに胸を震わせながら、彼女が傍にいることを感じとる。

 

二人はお互いのことを認めあうと、どちらからともなくお互いの指を絡めて繋ぎあい、指揮官に手を引かれようにして、二人は部屋を後にした。

 

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