【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも

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※注意
 
 この作品には深層映写のネタバレ及び、オリジナル設定、オリジナルキャラ、中途半端なUMP40のキャラ把握が含まれています。

 この言葉に嫌な予感がした方はブラウザバックをお願いします。

同時に投稿した後編2がございます。さきにそちらをお読みください!


『特別ルート』何処にも行かないで 寄り添って Epilogue『UMP40』

ある日を境に40が戦術人形たちとの交流するのをピタリと止めたという。

 

誓約をしてからずっと指揮官と居るよりも戦術人形達といる時間の方が長いと言われていた交流が、すっかりと収まった。指揮官と一緒にいないことに心配していた戦術人形も居たくらいだ。彼女の頻度の異常さを伺い知ることが出きるだろう。

そこから適度に他の戦術人形と遊ぶようになった――のかと思うかもしれないが、そうではない。本当にぴったりと止まったのだ。ダムが作られて水の流れが塞き止められるようにしっかりと。まるで、過剰に交流していた毎日が嘘であったように。

 

それを指揮官といる時間を優先するようになったと言うものもいれば、自分達の友情は何だと嘆く者もいる。だが、彼女の真意は誰も知らない。それを知るのは40自身とそのパートナーである指揮官だけだ。

 

勿論、付き合いが唐突に無くなったことを悲しむだけの者も勿論いる。

 

「…………」

 

40との因縁から、特に親睦が深かったUMP45は。

 

グリフィンの基地にあるカフェの窓際に頬杖ついて座り込む彼女。向かいの席で頬を押さえてストロベリーパフェを頬張る9を尻目にして、彼女の見つめる先にあるのは、テラス席に座るUMP40と指揮官。

 

隣り合うようにして寄り添い、目と鼻の距離にまで顔を寄せ、楽しそうに会話に花を咲かせる恋人たちの姿。

 

指揮官が45の視線に気がついて、40から目を離してしまう。すると、それに気づいた40が頬を膨らませながら彼の耳を引っ張って、自分の方に向くように実力行使で促す。

 

 防音ガラスごしなので何を言ってるのかわからないが、二人の口の動きとジェスチャーで何を言ってるのか45にはわかる。

 

『あたいのこと、ちゃ~んと見てよ!』

 

『悪い悪い!』

 

指揮官が40の額に唇を落とす。

 

口付けを額に落とされた40は表情を制御する機能が壊れたかのように瞬時に顔を綻ばせる。

 

『しょうがないんだから~』

 

甘いものを味わうようにスプーンを持ったまま頬を支える40。頬を赤らめたまま、お返しとばかりに指揮官の額に口付けをする。

 

すると指揮官も照れ臭そうに頬を掻くと、どちらからともなくマウストゥマウスへと――

 

「はぁー……」

 

その光景をみて45の口からはため息が漏れる。まるで蜜月のようなやりとりを、誓約してから数ヶ月がたってから繰り広げる二人に対して呆れるかのように。そのため息に何処と無く憂いを混ぜ混んで。

 

「どうしたの45姉?」

 

苺を練り込んだクリームを頬っぺたにつけた9が可愛らしく小首を傾げる。そんな愛らしい妹分の様子をチラリと瞳だけを動かして伺うと、また視線をテラスの二人へと戻し指を指す。

 

 45の指の差すものを目で追う9。そこには人目を憚らず愛し合う二人の姿が。

 

 45が憂う理由を理解した9が、『あぁ~……』と納得したように声を零し、苦笑を浮べる。

 

「相変わらず熱々だねぇ……」

 

「全く、少しは人目を気にして欲しいわ」

 

「まぁまぁそう言わずに45姉。40姉、最近ちょっとおかしかったし……」

 

「9にだけは言われたくないと思うわ……」

 

「え~!どういう意味~!?」

 

 クスクスと冗談めかして笑う9。その姿に45は、姉の様に慕っていた40の笑顔を重ねていた。

 

 自分達は髪の色も肌の色も違うが、やっぱり姉妹機という事だろう。45が明るく勤めて発破をかける場面は、9から『あ~!それって40姉譲りだったんだね!』と指摘されてしまった。

 

 45は重なってしまった像を打ち消すためにカフェ特製ブレンドのブラックコーヒーを口に着ける。

 

 口の中に広がる酸味と苦味が味覚センサーを通り過ぎて――その味が40との付き合いが途絶える寸前のことを思い出させる。

 

 40が指揮官にべったりと寄り添う前に彼女から言われた事があった。

 

『いいよね45は……。あたいが居なくても、45の居場所があるんだから』

 

『あたいには指揮官の隣が全て。そこがあたいの居場所……。ううん。それでいい。そこだけが、指揮官の隣だけが『あたいだけの居場所』でいい』

 

 45は『違う!40も私の大切な居場所よ!』と答えようとした。40の優しさに触れて彼女への依存心が甦った45にはそうやって言い返せる筈だった。

 

 だけど、40は、

 

『あたい、45の事がちょっと羨ましかったよ――』

 

 自嘲気味に、寂しそうな彼女の声色に気圧されて、45は何も言えなくなってしまった。

 

 たまたま45より早く製造された彼女。それだけの理由で滅びの運命を迎えた彼女。いや、運命なんて生やさしいものでは無い。彼女が滅ぶのは決まっていた。それはもはや、宿命と言える領域だった。

 

彼女が最後に45に残してくれた言葉達は、45は記憶階層の奥深くに刻み込んでいる。今もそれは45が生き続ける理由の一つとなっている。

 

でも、45は彼女の一面しか知らなかった。お互いがお互いを支えあって生き抜いていたにも関わらず、彼女の『彼女のためだけ』の願いを45は知らなかったのだ。45が最後まで彼女に守られていたことを知らなかったように。

 

彼女はもしかしたら、自分の運命を呪っていたのだろう。

 

誰にも言わず、たった一人で運命を受け入れて、運命の鐘がなる前に45を救いだした彼女。底抜けの明るさを演じてUMP45を導き続けた彼女。

 

ずっと自由に生きたかったに違いない。45に生き方を諭してくれた時のように。

 

そんな彼女が自由を得て、自分は自由を奪われるとは、何という運命の悪戯だろうか。運命の女神というものがいるなら、その容姿はきっと肌は焼け爛れ、身体中の穴という穴から蛆が湧き、鼻を摘まんでも嗅ぎとれてしまうような激臭を発する醜い怪物なのだろう。

 

 40から最後に言われた言葉をずっと噛みしめて、やっと理解できた。45の周りには彼女を支えてくれる仲間が居た。妹分のUMP9を始めとする、HK416にG11と言った、彼女が心から信頼しあっている仲間たちが。

 

 40からの唐突な拒絶に近い言葉に取り乱し、更に40が指揮官の部屋で暮らすと言ってパニックに陥った時期はあの三人支えられて、今では40の幸せな姿を眺めれる位に平静となっている。

 

 それこそが40が言っていた『居場所がある』という事だろう。世界から拒絶されたと自嘲しても、45には45の『居場所』を確かに与えてくれる存在が居たのだ。彼女の存在を許してくれる存在達が居たのだ。

 

 そういう45の事を40は羨んでいたのだろう。

 

 UMP40と言う存在は、運命にすら拒絶され、滅ぶことを余儀なくされていた。ずっとずっと、生きることを、自分が存在していいのだと誰かに認めて欲しかったのだろう。

 

 そして、彼女の望みは叶った。二度目の生によって。

 

 指揮官に自分と言う存在を認められ、自分は彼の傍に居ていいと留まることを許された。

 

 自分のために『居場所』を作って貰うことを、与えて貰うことを、ずっと彼女は望み、それが叶った。

 

 その願いが叶った結果が、テラスで寄り添うあの二人。二人だけの世界にずっと入ったままの二人。

 

「はぁ……」

 

 コーヒーを喉に押し込んで45は一つ息を吐く。それは、テラス席で太陽のような熱々な甘ったるい雰囲気を流す二人に対する呆れ、では無くて、喪失感から。

 

 40が指揮官と誓約したばかりの頃に45と9へ言っていた。

 

『あたい達UMPって居場所を作られることに弱いよね』

 

 と。9は家族と言う居場所を作られることに弱そうだし、45も404が作ってくれた居場所、それと誰にも言ってなかったが指揮官と言う居場所が好きだった。

 

 どうしてそう言ったのだろうかと思ったが、何てことは無い。彼女は今生で初めて『居場所』を作ってくれる喜びを理解したのだろう。或いは、妹分のことをよく理解して言ったのか。いや、両方だろう。

 

 そうやって、皆で指揮官と言う居場所を共有できるかと思っていた。しかし、今まで『自分のために作られた居場所』を与えられなかった40の執着は鮮烈で、彼女の『居場所』を盤石にするために、40への依存心を甦らせて、40と45の『運命の日』の様に、彼女にいいように利用される形になってしまったが。それこそ、今まで無意識に『居場所』として慕っていた指揮官へ『40が奪われる』という恐怖から湧き出た小さな敵愾心を抱く位の依存心を。

 

 流石は45の姉貴分と言った所だろう。彼女の目論見には、また気づけなかった。

 

 40の目論見に気付いていれば、40の思いに気づいて居れば45は居場所を守れたのだろうか。40と指揮官と言うかけがえの無い居場所を。

 

「ねぇ、9」

 

「うん?なぁに?」

 

「私の居場所ってちゃんとあるかな……?」

 

 見えない壁に阻まれて、遠くの、それこそ二人だけの世界に行ってしまった二人のことを見やりながら、捨てられた仔猫の様に心細そうに呟く45。

 

「あるよ。45姉の居場所、今は沢山あるよ!私にだってあるしね!」

 

「そう……ありがとう9」

 

 無邪気な妹の笑顔は姉に向ける。彼女の姉貴分であった存在が自分に向けてくれたそれのように。

 

 大切な居場所を二つ失った痛みを誤魔化して、45はかつて40が彼女を元気づける為に浮かべてた笑顔と似たそれを、自分の妹へと贈った。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 散々語り合い、散々食べさせあい、散々口づけをし終わった指揮官とUMP40はカフェスペースを後にしていた。

 

 腕を組み合い、指を絡ませて、お互いが離れないように固く硬く繋ぎ合って。

 

 二人の間に赤い糸が繋がっているようだと、可愛らしい表現をする者もいるかもしれない。

 

 だが、二人の糸の本質は、糸なんていう可愛らしいものでは無い。鎖、二度と二人が離れることを許さない、二人の事を縛り付ける鎖であり手錠。二人の組みあっている腕が鎖で繋がる手が錠前。そんな皮肉すら言われてしまいそうな位に二人はお互いの手を離すまいとしている。

 

 手錠の鍵となっているのは、40の左手薬指に嵌められた指輪。二人の愛の証であり、二人が共にある証拠品。これから永遠に寄り添いあい、二度と離れることを許さないと言う約束。

 

 しかし、二人がこの錠を外そうとすることは無い。寧ろ、二人は望んで着けられにいく事だろう。

 

 何故なら、二人は愛し合っているから。心の奥底からお互いを求めてやまないのだから。

 

 40が指揮官の肩に顔を寄せる。甘えるように、指揮官が隣に居ることを確かめるように。

 

「指揮官……」

 

「うん?」

 

「これでずっと一緒だね!運命のその先まで――!」

 

 指揮官が心の奥底から湧き出る喜びに震えながらも笑顔を浮かべて肯定する。自分達はもう二度と離れることは無いのだと、そう言うかのように。

 

 彼の肯定に、40は溌剌な笑みを浮かべて彼に口づける。

 

 真昼の太陽が二つの影が重なった瞬間を見守る。太陽の輝きを受けた二人を結びつける指輪(錠前)が二人が離れることは無いと証明するかのように、白銀の輝きを放っていた。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 これから先にあるのは40との永遠。

 

 指揮官が40の絡み合い決して別つことのない永遠。

 

 40と指揮官の愛が織りなす永遠の物語――




この作品から投稿されてから半日後位に、活動報告にて後書きが投稿される予定です。

 その……、私としても挑戦的な作品で不安な点が多いので、ご感想を頂けると幸いです……。

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