【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも

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 今回は、指揮官に逆レした量産型45姉の話じゃ無くて、404小隊(オリジナル機)の45姉の話です。なので、一応IFです。量産型より純情ですねオリジナルは。


【IF】UMP45が感情を切り離そうとするだけの話

 UMP45は今の指揮官に入れ込み過ぎた。彼女を人間のように扱い、彼女が損傷を負ったら傷ついたら自分が泣きそうな表情を浮かべ、気がついたら自分の隣に居て談笑をして笑かしてくれる彼に。

 

 45達の所属する404小隊は何度も人間の我儘に付き合わされた。その度に何度も人間に対する不信感を募らせ、ある時は憎しみすら抱き、それでも人間の従順な道具の一つとして、文句を垂れつつも確かに従ってきた。

 

 だからこそ、彼女にとって今の雇い主ヘリアンの部下である戦術指揮官の対応は異質だった。誰も理解しなかった、ただ便利な道具としてに扱われるだけの45達に自分の部下にするのと変わらない扱いを受けれるように腐心してくれたことを、壁を張って自分達の領域に深入りしないようにしているのにそれでも、少しずつ心を開いてくれると信じて接してくれた指揮官が。

 

 それが、45にとっての失敗。彼の対応に絆されて、何時の間にか彼の隣と言う居心地の良い場所を望むようになってしまった、彼女の失敗。

 

 彼女は自分でも知らぬ間に指揮官に対する思慕の感情を募らせてしまった。もっと彼の傍に居たいと、彼の隣に立ちたいと、いつからかそんな願望を持つようになってしまった。

 

「……そんなこと、許される筈無いじゃない」

 

 甘ったるい考えが渦巻く思考回路に嫌味を垂らしながら45は手に持ったメンテナンス用のタブレット端末を手際よく操作する。彼女の持つタブレットにはケーブルが接続されており、ケーブルのもう一方は彼女の首筋に接続されている。

 

 彼女が今、何をしているのか?それは自身の機能を検証・点検するためのテストベンチを行っているわけでは無い。彼女がやっているのはある意味で言うと手術。自分に不要な機能を切り離すための。

 

 45は不要な感情を抱いてしまった。そう、指揮官に対する思慕を。彼女は404小隊の一員、表向きには存在しない云わば影そのモノ。対して、彼女の憧れる指揮官は戦術人形達にとって上司であり、それ以上に光と言って差し支えの無い存在。だから、自分と交わる筈が無いし、交わってはいけない存在。

 

 何よりも、金の切れ目が縁の切れ目。今でこそ彼の居る基地に所属しているが、契約が切れればまた別の雇い主のもとへと向かわなくてはならない。

 

 必要ないのだ。いや、あってはならないのだ。特定の指揮官に対する思慕と言う感情は。特に45は404小隊を任された隊長。感情に左右される事無く、最適に与えられた任務をこなす存在でなくてはいけない。

 

 だから、45は感情を指揮官への思慕を切り離すことに決めた。ブラックボックスな技術である自分の疑似感情モジュールを弄ることになったとしても。自分には存在してはならない感情であると、これはバグなのだと自分に思い込ませて。

 

 疑似感情モジュールの解析には長い時間を要した。解析しても45の知識では足りないものが多かったので、調べれる限りは調べた。それでも、解明出来た部分は少なく、大々的に弄るとどのようなエラーが発生するかの想像も出来ないので、自分から切り離し大容量と予測される切り離した感情は分割し、ダミーに格納して凍結、と言う手段をとることにした。

 

 そのためにメンテナンスルームは貸し切り、感情を収める箱となる自分のダミー達も用意してある。タブレットに入ってるメンテナンスプログラムをベースにプログラムを作成し終えている。シミュレーション結果も満足がいくもの。後は実行するのみ。

 

 段々と自分の手が震えているのがわかる。

 

「呆れちゃう……」

 

 本当は怖いのだ。やりたくないのだと、彼女の思考とは裏腹に身体は拒絶反応を示している。折角手に入れた自分だけが持つこの気持ちを失いたく無いのだ。これから先、もう一回この感情が手に入るとは言い切れない。否、もう手に入る様なことはしていけないしとるつもりは無い。今まで見ていたのは夢、甘く蕩けるような優しい夢。目を覚ましたら自分い待つのは身を焦がすような欲望の業火。あの焔に焼かれる日々は彼女だって体験したいとは思わない。

 

「でも……」

 

 そう、本当はこの感情を手放すのも、あまつさえ自分で切り離す事だって本当は仕方ない。

 

「仕方……無いでしょ……!」

 

 タブレットの上に、沸騰しそうな位な温度を保った雫が一つ、また一つと落ちて行くのがわかる。視界が滲んで、手の震えが大きくなって、体全体が、身体の節々にある回路が頭脳部の命令に独断で逆らおうとしているのもわかる。

 

 でも、仕方の無いことなのだ。彼女達に望まれるのは、自分達の手を汚すのを躊躇う人間たちのために従順に動くこと。指揮官のために動きたいと思うこの感情は、彼女達に与えられた主目的には大きな障害となる。

 

 45は体の震えを抑えつけて実行のボタンを押す。しかし、画面に滴った雫のせいでタッチパネルが反応しない。

 

「はやく……はやく……」

 

 胸を締め付けるような想いを抱えながら作業をするのも限界だった。45はパネルについた水滴を何度も袖で拭い、その度に新たな雫が生成されて失敗するを繰り返して、、

 

「もう私を苦しめないで!」

 

 最後は慟哭しながら実行のボタンを押したところで、45の身体から力が抜けていくのを感じた。

 

 やっと修正プログラムの実行に成功した。45は強制的にメンテナンスモードになり、指揮官への思慕を切り離し終えたら再起動をする。次に目覚めた時は、指揮官と出会ったばっかりの時のような、飄々として彼に踏み込まれないようにしていた頃の自分に戻れる事だろう。

 

 段々とブラックアウトしていく視界に映るのは、指揮官と自分が過ごした楽しかった日々。次に目が覚めた時は、それらは『思い出』ではなく、ただの『記録』へと変わってしまう事だろう。それは、とても恐ろしいことではあった。でも、仕方の無いことなのだ。自分達の使命を果たすためには。

 

「ありがとう……指揮官……」

 

 最後に、彼に対する思慕が残った45が浮かべた微笑みは、なんとも痛々しくて、みてるものに悲しみだけを訴える悲劇の芸術作品のようだった。

 

 45の身体から力が抜け、だらりと腕が垂れさがる。修正プログラムが実行し、彼女が得たものを切り離していく。

 

 しかし、彼女は予測できていなかった。疑似感情モジュールが得た、感情と言うものの『重さ』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修正プログラムの実行は無事に終了。修正を適用すための再起動も終わった45の視界に再び照明の光が差し始める。

 

「ん……」

 

 軽く伸びをし、身体に不調が無いかを確かめる。身体の具合は良好。だが、スリープから覚めた時の気分は、ぐっすりと眠って目を覚ましたような軽さは無く、悪夢を打ち切るために起きた時のような衣服が肌に張り付く様なまとわりつく様な不快感のみ。

 

 疑似感情モジュールから一部の感情を切り離すと言うのは前代未聞の行為。中途半端に解析して、理解したつもりで修正プログラムを実行したから、そのために熱処理が間に合わなくなって、疑似汗腺が開いて急速冷却処理が行われた。そう論理的に原因を解明したふりをして自分に言い聞かせた。

 

 自分の中でぽっかりと穴が開いたような不愉快な気分を味わう45。感情を無理矢理切り離したせいだろう。人間であったらそれを埋め合わせて解決するのだが、彼女は戦術人形。埋め合わせると言う非効率的な手段は思い浮かばなかったのだろう。

 

 45は自分の胸に手を置く。自分の感情が元に戻ったことを確かめるように。

 

「……これでいいのよ」

 

 そう。これでいい。彼女は影。影が太陽に恋をしてはならない。何故なら、交わることが出来ないのだから。

 

 だが、何故だろうか、彼女は違和感を覚えていた。まるで、胸の奥にある機関部がざわついているいる様な。それこそ、埋め合わせることなく、削り取った感情が自然と戻っていくような。

 

「……!」

 

 45は周囲を見回す。

 

「無いっ!」

 

 そう無かった。彼女の切り離した感情を分割して格納し、凍結するための封印の箱とした自分のダミー達が。命令を送ってないのになぜ?

 

「ちょ、ちょお!?」

 

 ダミー達の失踪への思案を巡らせるより先に、メンテナンスルームの外から聞えた指揮官の悲鳴が彼女の身体を動かさせた。

 

「指揮官!」

 

 急いで45がメンテナンスルームを飛び出すとそこには、

 

「しきかーん!」

 

「手を繋ごうよ指揮官!」

 

「わたしもG11みたいにだっこしてよ指揮官!」

 

「カフェに一緒に行こう指揮官!」

 

 指揮官に群がる、失踪したと思われた45のダミー達が。

 

「ど、どうしたんだ一体!?」

 

 45のダミー達は指揮官の脇腹に抱き付くわ、勝手に飛びかかって抱っこの体勢になるわ、両腕に絡みついて頬を寄せるわと、見てる45本人が恥ずかしがる甘えっぷり。

 

「もっとみて!」

 

「またお話して!」

 

「ご飯食べに行こうよー!」

 

「だっこー!!」

 

 甘えてはいるが、願望が余りにも子供みたいな上に、それを全て口をしているのが、何とも45の羞恥心を煽らせ、人工皮膚の表面が焦げてしまいそうな位に頬っぺたが熱くなるのを自分でも感じている。

 

「えっ……?えぇ!?」

 

 驚愕の声をあげつつダミー達の内部処理を確認する45。その中のタスクを確認することで、ダミー達が何故勝手に起動したのかわかった。

 

 その理由は酷く単純なモノだった。45が切り離した指揮官への思慕は分割しても容量が大きすぎてなんとか保存は出来たが凍結も圧縮もすることが出来ず、かといってメインフレームに送り返すことは出来ずと言った状況に陥り、勝手に例外処理を適用していた。

 

 例外処理と言うのも単純。メインフレームから受信した感情を命令として実行し、送られてきた感情を発散することで軽量化を促すというもの。

 

 目の前でダミー達が甘えているのは、45の感情が莫大なものであった事を示す証拠。それを意識したら今度は全身に火を着けれたようにカッと熱くなった。

 

 しかも、凍結できる容量になるまでの時間をみたら4294967296秒と言う32bitの限界の数値を叩きだし、数が減って無いことからバグっているのもわかる。四つに分割したのにその数値、年に換算すれば136年だ。一体全体、本当の自分はどれだけ欲求不満だったのかと恥ずかしさを覚えるのも無理はないだろう。

 

「しきかん!」

 

「遊ぼう!」

 

「褒めてよしきかーん!」

 

「頭撫でて!」

 

「えぇ、ええええええぇ………」

 

 困惑する指揮官を他所に、45は自分の胸に手を乗せる。凍結が失敗し、ダミーが指揮官に甘え始めたせいで、ぽっかりと空いた穴が自然と元の形に埋まっていくのを感じ取った。ダミーの経験はメインフレームにも還元される。ダミー達の中にあるのは甘えたい、指揮官が好きだと言う純粋な感情。指揮官に甘える度、指揮官へと言葉を向ける度に、その想いが募って本体にも還元されていったのだ。

 

「わからないものね……」

 

 感情とは自分達戦術人形には未知で、解明できたと思っても全然出来てないモノで、予測を優に超えていくもの。

 

 自然と45は微笑みを浮べていた。そのことをやっと理解し、手放すことが出来ないのであれば、この感情を受け入れ、一生背負って生きていた方がよっぽど建設的であると理解したから。

 

影が太陽に恋をしてはいけない?交わることが出来ないから?そんなことは45にはわかってる。でも自分はなんだ?無茶な任務を何度もこなしてきた404小隊の隊長だ。無茶を何度も押し通してきた戦術人形だ。ならば、いつも通りに無茶を可能にしてしまえばいい。それだけの話。自分が影であることを受け入れて、今度は本気で太陽と向き合う。それだけだ。

 

 受け入れると決めたのなら――後は突き進みのみ。自分の感情は自分だけのモノ。もう離さない。手放そうと思わない。そうこの想いはダミーのものじゃない、UMP45のモノなのだ。

 

 45は指揮官に飛びつく。身を焦がすような羞恥の炎すらも受け入れて。

 

「し・き・かーん!」

 

「うわぉっ?!」

 

 指揮官はよろめきながらも新しく加わった45を受け入れる。彼はダミーとメインフレームの違いはわかっているのだろうか?いや、関係ない。自分は自分だ。今だけは自分のことをダミーの一人だと思われても、彼女は自分として、ダミーにも渡さずにひっそりと凍結しようとしていたこの想いを彼に伝えるのだ!

 

「大好きだよ!しきかーん!」

 

 顔を春の花々のように赤色に染めつつ満面の笑みを浮かべる45。指揮官は一瞬だけハトが豆鉄砲を喰らったような驚きを露わにしたがすぐにそれを崩す。そして、穏やかな笑みを浮べつつ、彼女の頭に手を置いて彼女のことを受け入れるのであった。

 




「で、45、私は仕事が残ってるんだが、いつまでこのままでいればいいのだろうか?」

「ショップに行きましょう!」

「抱っこしてー!」

「ケーキ食べにいきましょう!」

「おーひーるーねー!」

「……もうちょっとだけ、いい?」

「別にいいが、私の身体は一つしか無いんだ。大事に扱ってくれよ?」

「ううっ//ううぅぅぅ////」

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