【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも

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 小ネタです。ほのぼのです。

 題材はとある映画ですが、実は全く知りません。2の方は、私のトラウマになっているのですがね……。


『IF』UMP45と映画を観るだけの話

「久しぶりに映画でも見てみるか?実家から面白そうな映画を持ってきたんだ」

 

 一日の業務が早くに終わった指揮官はその片づけをしながら、終身の副官であり、同じ部屋で暮らす同棲相手であり、唯一の誓約者であるUMP45に何気なく聞いてみる。

 

「へぇ~どんな映画?」

 

 機器の電源を確認しながら45は指揮官に伺う。最近まで人権派団体との小競り合いのせいで緊迫した状況が続いてて、まともな休息が無かったのだ。彼女の声が自然と跳ねてしまうのも仕方の無い事だろう。

 

「ホラー映画だよ」

 

「ふーん、なぁに指揮官?私が怖がってるところみたいの?」

 

確認を終え、指揮官の側に控えていた45が可愛らしく小首を傾げる。

 

「どうせ、ビビんないだろう?G11と一緒にホラー映画をみてもそうだったし」

 

「まぁねー」

 

G11はあんな可愛らしい容姿をして、ゾンビ系やスプラッター系のホラー映画やドラマを観るのが趣味だったりする。それに45達も付き合う形で一緒に観賞しているのを指揮官も知っているし、指揮官もたまに混ぜてもらってるいる。そのドラマで流れるビックリシーンで45は全くもって驚くことはないし、残虐シーンもつまらなそうに眺めてたり、挙げ句の果てに笑っていたりする。

 

だから、指揮官は全く持って期待してないのだ。45がホラー映画で怖がることを。

 

「二人っきりで同じことしたいんだ」

 

「あら?お仕事もそうじゃない?」

 

「頭を使わなくて良いことを二人っきりでしたいんだよ」

 

「ふふっ、そっかー。そんなに二人っきりになりたいんだね指揮官は」

 

「そうだよ!その通りだよ!」

 

余りにもからかってくるので、ムキになるように大きな声で同意する指揮官。そんな指揮官に体を預けるように45は彼に抱きつくと、

 

「……ありがと」

 

髪の分け目から覗く耳を微かに赤く色付かせて、彼に礼を言うのであった。

 

 

 

 戸締りを終え、私室へと戻って夕食を摂り、それぞれ入浴を終えた二人は思い思いにドリンクを準備し、45が入浴しているうちに指揮官が作った夜食をお共に、プレイヤーにディスクを挿入し、照明を落として雰囲気を作って準備は万端。テレビのチャンネルを外部入力のモノへと変更するとそこには、配給元のショートムービーが流れていた。

 

 指揮官は隣に座る45へと目を向けてみる。見下ろすようにして見える彼女の表情は目元こそ前髪と陰で見えないが、影に隠れていない口許はどことなく緩んでる気がする。それが映画への期待なのか、或いは指揮官と一緒に映画を観れることが嬉しいのか。視線に気付いた45が顔を上げて指揮官を見上げると、目元を緩ませる。これで、45の口許が緩んでた理由がどちらにあったのか判明しただろう。

 

 最初は日常風景が映し出され、そのまま冗長な生活描写を、そして机に置かれた携帯端末――とある東の島国ではガラケーと呼ばれた古い携帯端末に――壊れたオルゴールの様な音程も音階もぐちゃぐちゃな不協和音を奏で始めてタイトルが映し出される。映画の名前は『不在着信』と言う題名。かつてあった東の島国『ニッポン』にて人気を博したホラー映画。その独特な恐怖演出、世界観から『ジャパニーズホラー』と呼ばれて世界でも多大な評価を得ていたとは、指揮官の父の談。指揮官が幼い頃、家族そろってこの映画を見た時はトラウマになるレベルの恐怖を植え付けてくれたものだが、数年前に見返した時は楽しめる位の怖さであることに気付いた。それは指揮官が成長し、感性が豊かになったからだろう。怖いと言う先入観が幾らか無くなり、色んな角度から映画を捉えれるようになったからだろうか?

 

 閑話休題。ともかく、何度かこの映画を観ている指揮官だが、見る度に慣れず恐怖を覚えるので気に入っているのだ。ちらりと隣の45の様子を伺う。彼女は映画の導入であちらの世界に引き込まれた様子で、今度は指揮官の視線に気づいていない。

 

 掴みは上々。果たして彼女は気に入ってくれるだろうか?そんな期待と不安を抱いて、指揮官はディスプレイに向き直る。

 

 映画は最初の犠牲者が出たところ。風呂場で包丁で首を切って自殺したと思われる犠牲者と、それを見つけたであろう主人公。犠牲者の傍には着信履歴が開かれたケータイ電話が。

 

 まだ始まった段階。犠牲者に何が起こったのかも、どうしてそうなったかも判明していない。被害者の口は黒い液体で満たされているのがなんとも悍ましい。

 

 何度見てもこの導入のシーンには指揮官は圧倒されてしまう。何が起きたかわからない状況と言うのが、一番怖いからだ。対する45の表情は冷ややかである。指揮官から見てみると、事件を分析する刑事や探偵の様で心強い。この冷静さが、彼女が404小隊の隊長機足らしめている要素なのだろうと感心してしまう。一時の恐怖に負けないような、そんな気持ちの在り方が。

 

 映画は次の犠牲者が選定されたシーン。壊れたオルゴールの様な着信が流れて次の被害者が電話をとる。そこには犠牲者以外にも全身が青ざめた少女の姿が――と言った、犯人を臭わせる存在が描写されるシーン。犠牲者がとった電話には、雑音と悲鳴が。気味悪がって犠牲者が電話を切り、着信履歴が露わにあると、そこには自分の携帯番号と未来の時刻が。そして、次の犠牲者は死んだ。住んでいたアパ―トから出火し、そのまま火に巻かれて死亡したのだ。

 

 何となく、おわかりだろう。この映画はゾンビや殺人鬼などと言ったものでは無く、所謂呪いや怨念によるホラー映画だ。その呪いと言うのも、不気味な着信音が流れる自分のケータイ電話に出る。そこから音声、犠牲者が死ぬ時の悲鳴や雑音が流れる。ケータイの履歴には自分の番号と未来の時間。つまり、書かれた未来の時間に自分が死ぬ事を示唆した電話がくるのだ。そして、犠牲者が死んだら次の犠牲者は、死んだ犠牲者の電話帳に登録された人物が選ばれる。

 

 このような感じで繋がっていく呪いだ。

 

 そして、その呪いがあると噂になって広まっていく場面へと移る。日常シーンに戻り、指揮官も心の平静を取り戻したので、隣を観てみる。するとそこには、相変わらず表情を変えず、体育座りの体勢で映画を注視する45が。その姿に冷静さを保って流石だと言う称賛を心の中で彼女へと送ったが、彼女のもみあげ付近に、ディスプレイの光を反射する一筋の痕が――

 

 空調、特につけたままの暖房が効きすぎているのか?そう思った指揮官だが、すぐにその考えが間違いであることに気付く。

 

 三人目の犠牲者が死亡する時刻になった。犠牲者は電車に轢かれて右手足を失い、痛みに喚きながら絶望して死んでいった。その傍らには、嘲笑う様な表情を浮かべる呪いの元凶である少女の姿が。

 

 その瞬間、彼の傍で微かな布ずれの音が。チラリと45の様子を伺ってみる。45は自分のパジャマの袖がくしゃくしゃになるくらい強く握りしめ、顔からは疑似汗腺から零れて描かれた筋が何本も顎に向かって垂れていた。

 

 指揮官は驚いていた。間違い様も無い。あの45がホラー映画を観て怖がっているのだと予測した。

 

 ――なんでだろうか?

 

 指揮官の集中力は映画では無く、ポーカーフェイスで、出来るだけ態度に出さないまま、恐怖に打ちひしがれる45へと注がれていた。

 

 映画は次の犠牲者の死亡シーンへと移っていた。犠牲者に呪いの元凶である少女が乗り移り、刃物で自分の前面をめった刺しにし始めたのだ。

 

 そこで――45の身体が一度大きく跳ねた。彼女の手に持ったグラスに入った氷が、大きくカランと音を立てるくらいに。

 

 そんな45を観て指揮官は、画面に視線を戻して何気なく彼女に聞いてみる。

 

「うん?怖かったか?」

 

「……ぜんぜん。私が怖がった雰囲気にしないでよ。こういう呪い?って言うのかな?非科学的で怖くないわね」

 

 言葉こそ強気ではあるが、彼女の声は微かに震えていたし語尾も跳ね上がってたし、なんなら普段の1.2倍の速度で喋っていた。

 

 指揮官は確信した。45はこの映画に恐怖を抱いているのだと。

 

 それと同時に、彼女が何故、G11達と見ているとゾンビ系やスプラッター系が大丈夫で、怨念系統のホラーが苦手なのかも何となく理解した。

 

 彼女が言った非科学的と言う言葉がヒントであり、その答え。

 

 非科学的だからこそ、科学的な論理的な対処が不可能であるからこそ、彼女は怖がっているのだろう。ゾンビが怖くない理由は簡単。自分達がその映画の状況に放り込まれても対処できるから。簡単に言えば、ゾンビは撃てば、ある程度のダメージを与えることが出来れば殺せる。 

 

 しかし、怨念はどうだろうか?撃っても殺せない。止めようと思っても科学的な方法で止めることはほぼ不可能。そして、元凶がわかっても、対処の方法が特殊すぎて、どうしてその方法で対処できるのか理解できない。

 

 そう人間と同じだ。理解が出来ないから彼女は怖がっているのだ。今、彼女の頭には、意味がわからないと言った思考回路の演算結果が延々と出力されているのだろう。表情に出さないのは、流石と言った所か。

 

 しかし、取り繕うのも限界が来たらしい。主人公の親友が犠牲者となり、落ちてきた照明器具に押しつぶされたシーンで、自分の袖を握っていた手を45は床へと下ろした。

 

 ディスプレイの光を反射しながら微かに震える45の手。そんな珍しく弱弱しげな彼女の手に指揮官は自分の手を重ねた。それは、幼い日にホラー映画をみた時に両親がやってくれたこと。手を握って貰えるだけでも、誰かが傍に居てくれるだけでも、多大な安心感を得られるのだ。

 

 突然手を握られた45は一度大きく体を震わせた後、

 

「あっ……」

 

 自分の手に乗せられたモノが何かわかったようで、何処か安心したように言葉を漏らす。

 

 指揮官がこっそりと、45に視線を向けると、そこには表情筋を強張らせながらも、映画をみる前より口元を緩ませた可愛らしい少女の表情となっていた彼女が。

 

 そんな普段は見れない一面をみれた事に、指揮官は喜びを胸にしながら、再び映画へと集中した。

 

 

 

 結局、映画を最後まで見ることは無かった。

 

 それは、

 

「すー……すー……」

 

 指揮官の肩に頭を預けて眠ってしまった45がのおかげで。

 

 あの後、45は安心感を得たことで緊張感が緩んでしまったのか、五分もしない内に眠ってしまった。指揮官が最初にこの映画を観た時も、両親に手を握られて眠ってしまったことと重なって、年頃の少女らしい45の姿に深い愛おしさを覚えてしまう。

 

 眠る前に手の指を絡めるように握って眠りに落ちて行ったのが、何とも愛らしい。

 

 指揮官はリモコンを使ってプレイヤーの電源を落とし、45を抱えて寝室へと向かう。そして、彼女をベッドへと下ろし、45の隣を埋めるように彼も続いてベッドに潜り込む。

 

「おやすみ45.怖がってる姿、中々に可愛らしかったよ」

 

 どこか不満げに顔を歪める45に笑みを送りつつ、先程の怖がってる45の表情を確かに頭に刻み込んで、指揮官も眠りの世界へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 







「45姉!指揮官のおすすめの映画どうだった?」、

「全然、あんなの非科学的で何にも怖く無かったわ」

「ははっ、そうか?」

「指揮官は黙ってて!とにかく何にも怖く無か――」

 ~~♪~~♪

「なんだこの着信音?壊れたオルゴールみたいな――」

「う~ん……指揮官の端末からなってるよ」

「ま、待って指揮官その着信音……!」

「取りあえず出てみ――」

「で、でちゃだめぇー!!」

(実はアラームで鳴らしたイタズラなんだ。ごめんな45)

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