【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも

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このアイディアはSiranuiさん(https://syosetu.org/novel/175030/)と話してて生まれたアイディアです。Siranuiさんからアイディアを使っていい許可は貰っております。この場を借りましてSiranuiさんに改めて感謝を


『IF個別ルート』G11が看病してくれるだけの話

 カーテンから漏れた朝日が跳ね放題の銀色の頭髪に注がれる。朝日を髪一杯に受けた戦術人形G11は一人で寝るには大きな布団の中で眠っていた。

 

 何故、彼女が一人で寝るには大きな布団の中に居るのか?それは、彼女がフカフカの布団が好きだからと言うのもありはするが、その理由以上のワケがある。それは、G11の左手の薬指に起因する。この指輪は永続契約の証。契約相手はグリフィンと言う組織では無く、指揮官。つまり、個人との永続契約の証。

 

 G11は指揮官と誓約したのだ。二人の直筆の署名が書かれた書類と、G11の指輪がその証。

 

 大きな布団は、二人が一つの部屋で暮らしている証。大きな布団は、愛する二人の距離の証明。

 

 閑話休題。そんな風にぐっすりとスリープモードへと入っていたG11であるが、起動の時間が訪れて薄らと瞼を持ち上げる。が、彼女はそのことに違和感を感じている。

 

 ――おかしい……。いつもなら、アタシが目覚める前に指揮官から――

 

 いつもなら、彼女が(一応)起きる時間になる前に、指揮官から起きるように声をかけられるのだ。甘いホットドリンクの香りを纏いながら。気怠そうにまだ眠いと言いたいように目を擦りながらG11が起き上がると、笑みを浮かべて『おはよう』と声をかけてくれる指揮官が好きで――。

 

 物思いに耽っていたG11であるが、目の前に青いパジャマで覆われた大きな背中があることに気づく。司令室や執務室で眠ってしまったG11を背負って自室の布団へと運んでくれる、彼女が好きな大きな背中。最近では、一番長い眠りに着くときは彼の背中を抱き枕の様にして寝ないと安眠できなくなってるのは、彼女だけの秘密。

 

 彼女の大好きな背中が何故か今は目の前にある。いつもなら、目を開けた瞬間に初めて見るモノは彼の顔の筈。

 

 G11はなんとなく、演算を自分からすることなく受動的にそうしろと言う命令が出て、彼の背中に手を触れてみる。その背中は温かさを放っていたが、彼女が快適と感じるそれよりも高い温度で、何よりも湿っていたのだ。

 

「!?」

 

 その不快感に、G11の意識は一気に覚醒した。いつも半開き彼女の灰色の瞳が全て露わになるくらいに。続けて彼女の耳、集音センサーで音声を解析する。先程から、風の音の様な、或いは耳を蝕む雑音の様な音が聞こえていたことに気付いたのだ。音の解析が終了する。音の正体は吐息、それも運動をした後の様なハイペースで荒々しいモノ。

 

 解析が終わった瞬間、G11は跳ね起きた。

 

「指揮官!?」

 

 焦燥に焼かれた上擦った声。慌ただしく両手足を動かして指揮官の顔が見れるように回り込んだG11は思わず息を飲んだ。何故なら、真っ青な顔で自分の身体を抱きしめて震える指揮官が居たから。

 

「あっ……おはようG11……」

 

 力なく微笑む指揮官に、G11は胸が締め付けられるような苦しさを覚える。彼はそんな風に弱ってまで、いつもの自分を演じようと――

 

「ちょっと身体が重くてな……大丈夫だから安心して欲しい」

 

「そんな訳ないでしょ!!寝ててよ!!」

 

 無理に身体を起こそうとする指揮官の肩を押さえて布団へと押し留まらせるG11。今の彼女の必死な形相は重傷を負った時でも見ることが無かったもの。彼女の開ききった瞳は必死さの余り潤み、普段は森の中の小鳥のように囁くだけの声量が部屋中に響くくらい大きなものになっている。

 

 G11の必死な顔に気圧された指揮官は、何も言い返すことが出来ずにG11から加わえられる力に身を委ねて再び布団に身体を沈める。

 

 G11は指揮官の身体に毛布を被せると、彼女は基地内のネットワークに接続、緊急回線を開いて医療スタッフを私室に来るように呼び出す。

 

「待っててよ……!」

 

 指揮官に布団の中で待つように言いつけたG11は、タンスを漁ってタオルを取り出して、洗面所へと向かう。冷えたタオルを作るために――

 

 

 

 

 

 

 大慌てでやって来た医療スタッフからの検診を受けて、指揮官は風邪を引いたとの診断を下された。

 

 最近まで、雪原地帯に派遣されそこに設営された前線基地で数日指揮を執っていた指揮官。無事に任務が終わり、比較的温暖な基地周辺の気候に身を置いていたのだが、彼の身体は気温の変化についていけず、悲鳴をあげてしまった結果らしい。人形であれば簡単に気温に適応できるが、人間は簡単には適応できない。適応できたと思っても、このようなことが起こってしまうからだ。

 

 指揮官は、風邪くらいなら仕事を続行できるだろうと、彼が指揮官を任された故の責任感から、頼りなく立ち上がろうとしたが、上半身を持ち上げた彼にG11が抱き付いて引き止め、

 

「お願いだから……今は寝ててよ……!アタシの代わりにって思ってさ!」

 

 と、涙で一杯にした瞳で訴えられてしまったので指揮官は黙って頷いたのだ。

 

 指揮官が大人しく寝てくれることに安心したG11は頬を持ち上げて安堵すると、普段のものぐさな一面は顔を潜めて、テキパキと行動した。基地の参謀を務めるUMP45に連絡を取って指揮官は体調不良で療養のために休むと伝え、自分も看病のために休暇をとることを。『ものぐさなG11がそこまで思われるなんてねー』や『ちゃんと看病できるの?看病中に寝たりしない?』とからかわれたりもしたが、『冗談言ってる余裕……無いから』と珍しく声を荒げて45の冗談を斬るG11に驚きつつも『指揮官のことよろしくね』と快く背中を押してくれた。

 

 書類仕事はカリーナを筆頭に分担。戦闘の指揮については、UMP45、M4A1、RO635がそれぞれ担ってくれることだろう。

 

 G11がやることは、彼女を信頼して指揮官を任せてくれた期待に応えること、彼に寄り添う存在として彼のお世話をしてあげること。

 

 熱と寝汗が酷かった指揮官の身体を小さい身体を精一杯使って拭いてあげたG11は、彼の寝間着を着替えさせてあげ、彼の傍に控えていた。

 

「水……いる……?」

 

「あー……ありがとう……」

 

 冷えたコップにストローを差して彼の口許に持っていくG11。指揮官はそれくらい出来るよと苦笑交じりに言ったのだが、G11がそっぽを向きながら「アタシがやりたいんだって……」と言うものだから負けてしまったのだ。

 

 目を瞑りストローから水を必死に吸い上げる指揮官に可愛らしく思えると同時に、庇護欲が湧いてくる。それは、普段は皆の前で威風堂々と言った佇まいをしている指揮官が、こんな姿を見せてくるから。これが、ギャップと言うのだろうかと、G11は自分の中の辞書に今の心境を当てはめて考えてみる。

 

 水を飲ませてあげてから、少し時間が経った頃、指揮官の瞳が額にあるモノを伺うように動いたのを、G11の目は捉えた。

 

「代えるね……」

 

 指揮官の額に乗っていたタオルを手に取る。最初にあったような冷たさは彼の額から発せられる体温によって奪われ、ぬるくなってしまっている。G11は氷を浮かばせた水をの入った桶にタオルごと手を突っ込んで浸す。

 

 こんな時、戦術人形の感覚処理と言うのは便利だ。温度を感じるセンサーを無効にすれば、じっくりとタオルを冷やすことが出来て、それを指揮官に提供できる。タオルをよく絞って、指揮官の額に再び載せてあげる。

 

「はい」

 

「ありがとう……」

 

 ひんやりとした感触が心地よいのか指揮官は、小さく微笑みながらタオルに手を置いて自分の額に押し付ける。

 

「ふふっ、意外だなぁ……。G11がこんなにも手際よく看病できるなんて……」

 

 G11の看病は手際が良かった。それこそ、指揮官の異変を察知してから医療スタッフをすぐ呼ぶ頭の回転の早さ、スタッフを待つ間に指揮官の様子からわかる症状に必要な道具をすぐに揃える準備の良さ。そして、指揮官が指示するまでも無く必要なことをこなす様は、いつもはグータラとしているG11とは思えなくて、ついつい感心してしまったのだ。

 

「このくらい、アタシも出来るよ…」

 

 不満げに指揮官のことをジト目で見つめるG11。そんな風に拗ねてしまったG11に『そうか……悪かったよ』と短く謝罪して彼女のボサボサの髪を更に乱すように力強く撫でる。この撫で方はG11は好きだ。彼の力強さをよく感じ取れるから。でも、今は、ウィルスによって弱っているので撫でる力も普段より弱い。そのことがG11の胸を締め付けて、どこか淋しい気持ちにさせる。

 

 家事のスキルは元々備わっていた。ある程度の家事、ある程度の料理はG11にも出来る。良質な睡眠を得るために備わったG11のスキルたち。それに磨きはかかったのは、誓約してからG11がこっそり家事炊事関係のライブラリーと思考プログラムを後付で購入しこっそりとインストールしたからだ。いつも家事を指揮官に任せてるのが、疑似感情モジュールのどこかで申し訳なく思っていて――指揮官が驚いて喜ぶ姿が見て見たくて。

 

 まかさそれが、このような形でお披露目されることになるとは、思っても居なかったが。彼をお世話するスキルをキチンと入れといてよかった、とG11は安堵している。一応のため、風邪と診断された瞬間に看病のための後付アルゴリズムもダウンロードしたのだが、必要無かったのかもしれない。だがスキルが揃っていなければ、指揮官の看病相手は、別の誰かに任せることになっていただろうから。仕事に行くよりも、指揮官の傍に居る方がいいに決まっている。彼の傍で寝るのが、彼女にとっての一番の安らぎなのだから。 

 

 ピピピ!!とキッチンタイマーがけたたましい音を奏でる。G11は小走りでキッチンに向かい、鍋を熱するスイッチを切る。ミトンを着けて鍋を持ち運び、予備のタオルを鍋敷きの代わりにして鍋を置く。

 

 G11がどこか自慢げに口許を持ち上げて、鍋の蓋をあける。蓋に閉じ込められていた水蒸気が和だしの香りを纏いながら天井へと昇る。その香りに促される形で指揮官の腹の虫が鳴く。

 

「G11……まさかそれは……!」

 

 子供の様な期待に満ちた瞳。それに答えるようにG11は告げる。

 

「卵粥、って言うんだっけ?」

 

 そうG11が作っていたのは卵粥。かつて存在した東の島国の病人食として人気の料理。

 

だし汁に炊き上がった白米を入れた後に卵を入れて煮立てた簡単な料理。が、たっぷりの水と共に煮込まれているため、固形であった白米も液状に近くなり飲み込みやすくなる上に栄養価も高いので、かの国ではよく食べられたそうだ。

 

今は亡き島国の国民の血をひく指揮官にとっても馴染み深い料理。幼い日に風邪をひいた日は、両親がよく作ってくれたものだ。

 

G11はレンゲを持つと、黄金の粥を一掬いし、ふーふーと優しく息を吹きかけてから指揮官に差し出す。

 

「はい、あーん……」

 

何のこともないように食べさせようとしてくれるG11に思わず指揮官は固まる。

 

「その……食べさせてくれるのか……?」

 

「早く食べてよ……その……、ちょっとは恥ずかしいから……」

 

その言葉と共に指揮官から顔を逸らして伏し目がちに彼の顔を伺うG11。彼女の弾力に富んだ頬っぺたには赤色がひかれ、跳ねた髪の毛の間から覗く耳も朱に染まっているのが見てとれる。

 

「ありがとう」

 

恥ずかしがりながらも食べさせてくれるのG11を可愛らしく思いつつ礼を述べる指揮官。対するG11は腕を一度ピンと伸ばして、礼はいいから早く食べて欲しいと催促するかのよう。

 

「あーん」

 

G11が程よく冷ましてくれたお粥を口に含む。冷まし具合は完璧。風邪をひいて敏感な指揮官の口は拒否反応無く含むことが出来る。これにはHK416もニッコリだろう。

 

続いて口に広がるのは卵のまろやかさと出汁の旨味。白米の煮込み具合もちょうど良い。粒感を残しつつもあまり租借しなくてもすんなりと飲み込める塩梅だ。

 

「美味しいよG11」

 

風邪であることを忘れさせるような朗らかに微笑む指揮官。

 

「……よかった」

 

彼からの称賛を受け取ったG11は、小さく笑みを浮かべつつ、どこか安堵したように1人ごちた。

 

 

 

 

「コホ……コホ……」

 

 食事を食べ終えた指揮官がせき込む。咳が出るのは、彼の身体がウィルスを追い払おうとしている証拠。

 

「大丈夫……?」

 

 が、咳を出すたびに指揮官が辛そうな表情をするので、G11も心配になって顔を覗きこんでしまう。

 

 そんな風に心配に顔を歪める彼女をみたく無くて、指揮官はやんわりと笑んで見せる。

 

「大丈夫だよ。G11の看病のおかげでね。それに美味しい御飯のおかげで元気が出た位だ」

 

 彼の表情を咄嗟に分析するG11。表情筋の動き、声紋、共に嘘の反応は無し。彼は心配をかけまいとすぐに嘘をつくから、慎重にならないといけない。が、今回は解析結果から嘘とは出なかった。本当に少しずつ快方へと向かっているのだろう。

 

「うん……。よかった……」

 

 だから、G11も自然と緩い笑みを浮かべる。彼の風邪が良くなっていることが嬉しいから。

 

 そのままお互い何も多くを語ることなくG11に大人しく看病されていた指揮官だったが、満腹になった故か眠気が襲ってきた。風邪を引いて物寂しさを感じていたからだろうか、或いはいつもは甘えられる側だからだろうか、指揮官は珍しくG11にお願いをしてみたのだ。

 

「G11」

 

「なぁに?」

 

「膝枕、してくれないか?」

 

「えー……面倒くさい……」

 

 口では嫌がる素振りを見せるG11だが、指揮官からの甘えられること、頼られている事実が嬉しくて、喜色を浮べながら彼女の身体は正座の姿勢へと変わり、指揮官の頭を小さくて狭い腿の上へと乗せてあげていた。

 

 後頭部に伝わる柔らかさと、子供のような高い体温が指揮官の心の隙間を埋めてくれる。誓約をした相手に頼ることによって、一番心を許した存在が近くにいてくれることによって。

 

 G11がサービスで指揮官の頭を撫でてあげると、子犬の様に指揮官は目を細める。そんな愛らしい一面に、G11は胸がときめくのを感じている。

 

「早くよくなってよ。じゃないとアタシ、床で寝ることになるんだから……」

 

「ははっ、戦術人形は風邪を引かないだろ?」

 

「……そういうことじゃないから」

 

 ――今の指揮官じゃ、汗臭くて抱き枕にもならないよ

 

 そんな皮肉と甘えたい気持ちは胸の奥に押し込んで、G11は拗ねたように指揮官の頬っぺた突っつく。彼の筋肉質に思える頬っぺたは意外にも柔らかくG11の白魚の様な指先を飲み込む。

 

 G11は自分の頬っぺたの柔らかさに自信を持っていた。それはよくUMP9にほっぺたに弄ばれたり、他の戦術人形に可愛がられたり、カリーナから突如弄られたりしてることが、彼女に密かな自信を持たせていた。

 

 その自信が指揮官のもっちりほっぺに砕かれようとしている。そんなジェラシーを内包しながら、指揮官の頬っぺたに指を押し込む。押し込まれた指揮官が何処か楽しそうに『ごめんごめん』と言っているのが、小憎たらしいのは内緒だ。

 

「わかってるよ。今の私じゃ、抱き枕にするには湿っぽいからな」

 

 流石はパートナーと言うべきか、熱にうなされた状態であっても、G11が言いたかったことはわかったらしい。

 

 思わず、口を絞って眠そうに開かれた瞳を見開くG11。指揮官は悪戯が成功した子供の様に笑いながら状態を軽く起こし、右腕をG11の後頭部に持っていって、コツンと自分の額とG11の小さな額を重ねた。

 

 身体を持ち上げる過程でタオルが滑り落ちたおかげで素肌と素肌が触れ合うことが出来ている。タオルが残した湿り気が若干邪魔だが、お互いの気持ちを伝え合う分にはなんら障害とならない。二人は示し合わせた様に瞼を下す。お互いの想いを共有するように。

 

「ありがとう。よくなってみせるよ。でも、そのためにはG11、君が必要だ。今の私は一人じゃさみしい。こんな私でもよければ、君の側に置いて欲しい」

 

 熱にうなされながらも紡がれる確かな愛の言葉。その言葉にG11が最初に抱いた感情はズルいと言うモノであった。

 

 ――だって、必要だって、寂しいなんて、傍に置いて欲しいなんて言われたら

 

「……いいよ」

 

 G11は指揮官との誓約したときと同じような、寝言のような、指揮官にだけは聞こえる声量で返事を返してあげた。

 

 流石に気恥ずかしさがあったのか、お互いに体温が上昇し、顔が夕焼け空のように赤く染まっていきながらも、二人は自然と微笑みあっていた。

 

「おやすみG11」

 

「うん……おやすみぃ」

 

 その言葉を合図に指揮官は夢の世界へと身を委ねて行った。

 

 

 

 その後、G11は安らかな表情で寝息を立てる指揮官の姿を見つめていたが、唐突に指揮官の頬に手を添えてみた。温度が高いと彼が不快感を抱いてしまいそうなので、低体温モードにして。

 

 ひんやりとした手が心地よいのか、眠る指揮官は宿舎に迷い込んだ小動物たちの様にG11の手に頬を擦りつける。

 

「ふふっ……」

 

 誰も見た事が無いような、指揮官ですらしらない甘えたがりな一面にG11は彼への愛しさを改めて覚える。普段は皆の頼りになる指揮官が、こんなにも小さい動物みたいに甘えてくる。そんな優越感にも近い愛おしさが。

 

 硬質な彼の髪の毛を弄ったり、意外ともっちりとしていた彼の頬を堪能したりと、寝ている彼で遊んでいたG11であったが、一日ずっと動きっぱなしだったからか、彼女のOSが稼動限界であると訴え、眠気にも似た感覚を覚え始める。彼女はその警告に従い、膝の上に乗せていた指揮官の頭を名残惜しそうに枕に下ろすと、指揮官の胸に収まるようにして布団に潜り込む。

 

 さっきは床に寝ることになるなんて言ったが、それは流石に嫌なのと、側にいて欲しいと言われたから仕方なく指揮官の布団で寝る。そう仕方なくだ。傍に居て欲しいと言われたことを思い出し、嬉しさで顔がニヤついているのは無視して頂きたい。

 

「アタシばっかりをこんなに働かせたんだから、ちゃんとお返ししてね……」

 

 仕方ないそう言わんばかりの微笑をうかびあがらせながら、G11は頭脳回路に鳴り響く警告を切って、スリープモードに移行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、指揮官は無事完治した。完治したのだが、

 

「はくちゅっ!うぅ……」

 

 何故かG11が風邪と似た症状を引き起こした。技術班やペルシカが言うには、看病用の奉仕思考の後付プログラムに風邪になったときの最適な奉仕を自己学習させるためにウィルスが仕込まれていた、或いは生体パーツがウィルスに対して過剰に反応してしまい結果としてウィルスを追い出すために風邪と似た症状が出てしまったのかもしれない、とのこと。

 

「大丈夫か?」

 

 復帰早々、指揮官に任された仕事は愛しの誓約相手の看病であったという事だ。

 

「ズビー……!大丈夫じゃないよ……」

 

 チリ紙をG11の鼻の前に持ってくと彼女は大きく音を立てて鼻をかむ。嗅覚センサーを保護するための粘液達がチリ紙にこびり付いた。

 

「だよなぁ……」

 

 そんな自分の時よりも酷そうな症状を発症するG11に指揮官は苦笑を浮べる。

 

「指揮官のせいなんだから、ちゃんと看病してよ、ね……?」

 

「はーいわかったよ」

 

 苦笑を浮べつつG11の頭を撫でてくれる指揮官。その手の温かさは発熱時のような不快感を感じる熱さでは無く、彼女を眠りに誘うような優しい温もり。

 

 今日はどんな風に指揮官にお世話して貰おうか?指揮官のお粥を食べされて貰いたいし、寝るときは膝枕、それと子守唄も着けて貰おう。

 

 愛するパートナーとの快適な病人ライフを想像しながらG11は指揮官が差し出したチリ紙を使って大きく鼻をかむのであった。


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