企業の決算の時期がやってきた。
第三次世界大戦を乗り越え、或いは再建した企業達が、自らの出した利益を世に知らしめる数値が出る時期だ。
そのため、物資の運搬や護衛などは普段よりも確実性を求めるので、決算の時期が近づくと企業側の金払いもよくなったりする。
確実に利益を生むために、安物買いの銭失いとならないために。最高峰の護衛をPMCに望むのだ。
その依頼される側のPMC、グリフィンでは報酬金と共に資材を貰うこともある。報酬金で人を雇い、更に、弾薬・配給・部品といった物資を受け取るのだ。時折、グリフィン側からのボーナスとして、戦術人形の建造許可・快速建造・武器製造等の許可書を貰って、指揮官は基地を運営していくわけだ。
何はともあれ、今は多くの企業の決算期。先ほど言った通り確実に任務をこなせる人員を派遣すればするほど、報酬も弾む。
なので、とあるグリフィン基地は、普段の出撃任務を大幅に縮小。普段は最前線に立つ第一から第四部隊の人員も何人かは後方支援に配置し、資源の消費を減らし、資源を増やすための方針をとったのだ。
その方針が功を奏し、資材の支出はプラスへと傾いている。
そんな後方支援へと回した部隊の中でも、目を見張る活躍をする部隊が、必ずと言っていいほど大成功で帰ってくる部隊が二つ。
一つは、
「ただいま戻りました。指揮官、次の指示を」
一見素っ気ないが、大成功の成果をあげれた事で頬が緩ませながら報告をしてきたST AR-15が隊長を務める部隊。
普段なら第一部隊に配置されているが、今回は先に語った事情から後方支援に。
もう一つは、
「行動終了」
手短に報告しながらも、大成功の成果が書かれた書類を得意げな表情で差し出すHK416。彼女が隊長を務める部隊だ。
彼女も普段なら第一部隊に配属されているが、資材を大量に獲得するために後方支援に回されたのだ。
最初は名誉を求めるAR-15も自分の能力を知らしめたい416も、指揮官からの転換の司令に、
『指揮官……私は……必要無くなったのですか……?』
『そんな……私は……私は……!!!』
と落ち込んだり、悔しさを露わにしたものだ。
それもそうだ。第一部隊の座は、このグリフィン基地にて『最強』と認められた人員しか務めることが許されない部隊。大物を確実に狩る事が出来ると、信頼を置かれた者達のみが座することが出来るポジション。
それと二人の性格から、自分達は指揮官から『最強』と認められなくなったのだと、思い込んでも仕方の無いことだろう。
転換の命令をしたその日は、普段は反目し、戦果でいがみ合って第一部隊の隊長を務めているスオミに叱られることもそれなりにある二人が、いがみ合う事なく二人揃って外さないでくれと指揮官に懇願してきたものだ。
指揮官も必死に理由を説明した。
『二人の実力はよくわかってる!』
『左遷的な意味では無い!一時的に後方支援に回って欲しいだけなんだ!』
『基地の資材が不足しているんだ!この時期が終わったら、また第一部隊に配属させるから!』
と。二人が涙目で縋って来たものだから、指揮官まで泣きそうになりながら説得した。
結局、その日はエリート意識の強い二人は部屋に籠って気持ちの整理に入ったので、後方支援はいつものメンバーに任せ、翌日から二人も後方支援の隊に加わったのだ。
悩みに悩んだ様で、翌日二人が指揮官に見せたのはやつれた顔であったが、ある程度の気持ちの整理は出来たようで、昨日みたいに指揮官に懇願することは無かった。それにプラスして、二人にはそれぞれ別の隊で隊長をやって欲しいと言った瞬間に、顔が引き締まったのは指揮官もよく覚えてくる。後方支援とは言え、今まで任せられる事のなかった隊長の地位に付けたのが嬉しかったのだろう。
そんなこんなで、僅かな不満と不安を抱えて後方支援へと向かった二人。最適化も強化も進んでる二人は、後方支援任務に張り合いの無さを感じつつも、真面目なので手を抜かずに従事したのだ。
結果、後方支援は大成功。その時の報告に訪れた時のちょっとしたハプニングによって――二人の不満は迫撃砲を喰らったかのように跡形もなく無くなった。
「指揮官……」
「成功したご褒美を」
二人が手短に催促する。期待するような上目遣いで。416に関しては帽子を脱いで。
ご褒美とは、二人の為の特別ボーナスや資材の融通では無いが、指揮官に思慕を抱く者なら何一つ文句を言う事が無い『褒美』。
それは――
「ありがとう、二人とも」
指揮官は二人に労いの言葉と笑みをかけながら、二人の頭に手を置いて、頭髪の流れに従うように撫でた。
そう、二人の不満を吹き飛ばしたハプニングと言うのは、この労いの言葉と笑み、そして頭を撫でると言う行為。
後方支援にはまだ最適化の進んでいない戦術人形が当てられることが多い。主にハンドガンなどの見た目が幼い戦術人形に何故か多いのだが、その理由は指揮官にもわからない。
話を戻そう。その為、後方支援を頑張った戦術人形、主に報告に来てくれたその隊の隊長の頭に労いを込めて頭を撫でてやることが多いのだ。そうすることで、彼女達がとても喜んでくれるから。
その癖と化した習慣が、AR-15と416を相手にしている時にも出てしまったのだ。
最初こそ、目を丸くし、火がついたように顔を赤くしていた二人だが、中々無い指揮官から頭を撫でられるという行為に確かな喜びを覚えていた。
彼女の達の反応から、ついつい癖となってて二人にもやってしまったこと、容姿的にも大人に近い彼女達には子供扱いする様なのでやるべきでない、と判断して撫でるのをやめようとした指揮官であったが、手を離した瞬間に二人揃って切なそうな表情を浮かべるので、やってあげているのだ。
そして、それが今も続いている。それが、この、大成功の報告に来た二人を撫でている構図に繋がる訳だ。
「ありがとう」
「うふふっ」
「うっふふっ」
指揮官から撫でられて、二人は小動物の様に喜びの声をあげるのであった。
今の二人は、後方支援の部隊に左遷されたとは毛ほどにも思っていない。寧ろ、今までは知ることも無かった指揮官の習慣と、その恩恵を受けれることに、運命の神と言う物が存在するのであれば感謝すらしていた。
大成功を収めれば指揮官が、自分達に労いを言って頭を撫でてくれる。今まで全く知らなかったご褒美が、そこにあったからだ。
大成功のご褒美を知ってから、AR-15と416は必ず大成功で帰ってきた。隊員を酷使してたり、依頼主を恐喝している訳では無く、隊員と二人の実力で、だ。
二人の成果が余りにも高いので、指揮官も二人の頑張りに報いるように、少しだけご褒美を増やした。
それは、大成功を収めた隊には指揮官がお菓子やジュースを奢るようになったり、スプリングフィールドのカフェの優待券を渡したり、と言う様な簡単なご褒美だ。
が、こうやってご褒美を少しずつ増やしていったことが彼の不幸に繋がることに。
ある時から、後方支援部隊の間でこんな噂がたつようになったのだ。
『一番頑張った者には好きな願いを叶える』
と。
勿論、指揮官はそんな事は言っていない。先ほど言ったような簡単なお願いを叶えていると言う話が、どこかで湾曲されてそうなって知ったのだろう。
「くだらないわ」
「えぇ、くだらない噂ね」
AR-15と416は冷ややかな目で噂に踊らされる人員たちを見つめる。
流石は、AR小隊、404小隊で、参謀や相談役を務める人形達である。と褒めたいところなのだが、この二人が一番噂に踊らされていたりする。
それもそうだろう。嘘か本当かはわからないが、二人の後方支援のスコアはトップだ。『もしかしたら』、その噂が叶う可能性がある。
戦術人形は夢を見ないと言うが、この位の夢を見たって誰も文句は言われないだろう。
興味の無い様な口ぶりは、隣に居る最大のライバル出し抜くためのモーションに過ぎない。
全ては、願いを叶えるため。
(性的に)襲っても堕ちなかったトンでもメンタルをしている指揮官から『誓約の指輪を受け取る』ために!
「今日もトップは私とあんたね」
「当り前よ。私は完璧なのだから」
「ふん。やるわね」
「あんたもね」
全く譲らぬライバルに最初はお互いに敬意を払っていたが、
段々と最大のライバルである416(AR-15)を出し抜こうとする為にローテンションを増やしたり等の少しでも多く成果を出すための工夫が被り、二人の争いが激化していく内に、
「……あんた、噂に興味は無かったんじゃないの?」
「……あんたこそ、くだらないって言ってたじゃない」
一日の戦果をみながら、段々と嫌味を覗かせるようになってきた。
挙句の果てには――
「指揮官、今回の成果――」
「ただ今戻りました。これが今回の成果、大成功よ」
指揮官に報告をしようとしたAR-15に416が割り込んで報告するようになったり、
「行動終了。今回も大成功、かんぺ――」
「ただ今戻りました。もちろん、大成功です」
その逆で報告しようとした416にAR-15が割り込んだりと、指揮官の前では水面下でやっていた争いが顕著になってしまったのだ。
噂について全く知らず、二人の勤勉さをよく理解している指揮官は、そんな割り込みつつの報告にたじろぎつつ、
「お、おぉ……。ありがとう」
と大成功で帰ってくる二人に感謝とご褒美を与えていた。
「あんたね……」
「では、もう一度行ってきます」
と、416が
「あなた……!」
「すぐに次の支援に行ってきます!」
とAR-15は、ご褒美を先に貰って相手に自慢げな表情を向けて任務に向かう姿がよく見られるようになった。
その位、二人のトップ争いは表面化し日に日に激しくなり、流石の指揮官も、
「うん?なんかおかしくないか?」
と、違和感を感じるようになった。
そんな風に二人の後方支援スコア争いが激化していったある日、AR-15と416は全く同じタイミングで帰還した。
そう、割り込むことも出来ず、だからと言って先に報告も出来ない、全く同じタイミングに。
お互いに譲り合う気はない。トラックから出た二人は、書き上げた報告書を手に持ち、互いににらみ合い、抜け駆けしないか監視し、歩く速度を上げ、最終的には出し抜こうと片方が走ったらそれに対抗する形でもう片方も駆け、全く同じタイミングで指揮官の待つ司令室へと到着したのだ。
「おっ、お疲れさ――」
「「指揮官!」」
「んんっ!?」
労いの言葉をかける前に言葉が遮られた事と、普段は大きな声を出さない二人が大声で自分の事を呼んだことに、指揮官は目を丸くして驚く。
「今回の!」
「報告書です!」
「「大成功です!!」」
まるで演劇のように息ピッタリな二人。台詞だけでなく、動作まで練習したかのように綺麗で、驚きで固まったままの指揮官は固まりつつもちょっと感心してしまった。
その関心を解凍の材料として使い、固い腕を動かして二人の書類を受け取る指揮官。
「あ、ありがとうな」
気迫に気圧されながらも簡単に目を通してみたが不備は無し。二人が言った通り、大成功という結果であった。
少しだけ表情が緩む指揮官。そんな彼に二人は期待するような視線を向ける。
何を期待されているのか、指揮官にはわかっている。
「ありがとう。お疲れさま」
そんな二人の期待に応えるように、それぞれの手を使って二人の髪に櫛を通すように撫で上げる。
いつもなら、それで満足も満足、大満足になれた二人であったが、今はもう、それだけでは物足りない。
それは、ライバル意識のある相手が自分と同じ褒美を貰ってる事への不満もあったが、企業の決算期が終わりを迎えようとしてる事にもあった。
――もう、いいだろう。
ここで、どっちが上か、彼に判断して貰っても。
二人の頭から指揮官が手を離す。
AR-15と416は緩んでいた顔を引き締め、手を離れたことを合図にして、
「指揮官!」
「私とAR-15!」
「「どっちが上ですか!?」」
指揮官に直接聞いたのだ。
面を喰らったような表情になった指揮官だが、二人がそんな事を聞いて来た理由はすでに把握している。
それは、噂が由来していること。『一番頑張った者には、指揮官が好きな願いを叶える』という噂。
その噂を否定しようとも思った指揮官ではあったが、それが戦術人形達のモチベーションに繋がっていること。それと否定した時に、ショックを受ける者が、特に後方支援の隊長たちが大きなショックを受けると予測していたから、否定したくても出来なかった。
だから、指揮官は決めたのだ。この話はうやむやにして何とか凌ぐのだと。
「ど、どっちが上と言ってもなぁ……。二人に頼んだ資材は種類が違うから……」
視線を明後日の方向に向けながら言う指揮官。そう、二人が持ち帰ってくれる資材は被っていない。だから、そこを突いて沈静化させようと図る。
「私は無くなりやすい配給をよく持ち帰ってます」
反論したのはAR-15。
確かに彼女が持ち帰る配給は、戦闘の時の消費量こそ少ないが、建造や装備の開発でもよく使われる。その上、短時間に一気に大量に得られる任務も多いわけではない。今、指揮官はライフルの建造に注力してるために、尚更減りやすい状況にある。
「私は中々集まらない部品を持ち帰ってるわ」
次いで指揮官に反論をしたのは416。彼女が持ち帰っているのは部品。文句なしに一番集まりにづらい資材であり、建造や武器の製造をしないときは貯まる一方だが、大型や新型の建造を行う場合は一気に無くなる。
片や消費しやすく貯まりにくい資材と、片や貯まりづらく一気に消費されやすい資材。
二人が競い合う材料としても、どちらが上かを決めれる素材としても十分だろう。
「いや、それでもなぁ……」
痛いところを突かれて後退る指揮官。二人の言うことは一理ある。いや、一理どころか何理もある。
でも、それでも、指揮官は退くわけにはいかない。何とかして有耶無耶にするために。
だが、二人は指揮官の次の言葉を待つことはなく、実力行使に出る。
AR-15と416は瞳だけを動かして互いを見て一瞬だけ火花を散らすと、同じ歩幅、同じペースで歩みを進めて指揮官との距離を縮めると、それぞれ片方ずつ指揮官の腕をとって、抱き締めた。
「指揮官……」
柔らかな肌を押し付け、指揮官へ甘えるように潤んだ上目遣いをするAR-15。
「指揮官……」
自分の豊満な体を押し付け、蠱惑的な笑みを浮かべて指揮官を見上げる416。
「「私の方が上ですよね?(でしょう?)」」
指揮官の逃げ場が完全に無くなった瞬間である。
「その……あの……だなぁ……」
それぞれの持ち味を生かした誘惑の表情。指揮官はそれから逃れようと視線を上に向けておろおろと。
確かな答えを求める二人に、どうすればいいのだと、言葉を選んでいると。
「離しなさい。指揮官が困ってるでしょ」
「あんたこそ離しなさい。私の完全勝利よ」
「ふん。最後の詰めの甘いくせによく言うわね」
「あなたにはわからないだけ。私の考えがね。完璧すぎるから」
言葉のでない指揮官の様子を見て、相手を諦めさせる方向にシフトしたようで、指揮官の胸元で罵り始めた。
「そういう考えが重いって言われるのよ。流石はトップヘビーね」
「この重さは私の性能に裏打ちされたもの。貧相なあんたにはわからないでしょうね」
「なにを!」
「そっちこそ!」
お互いの発言で堪忍袋に亀裂が走ってしまったらしい。指揮官には普段は見せない様な憤慨の形相を浮かべ、縄張りに入られた肉食獣の様に唸り、威嚇し合う。
「ふ、二人ともやめ――」
制止の言葉をかけてなんとか争いを止めようとしてみる指揮官だが、火がついた二人の集音センサーに入っても、それが頭脳回路に取り入られて制止の命令が送られることはない。
二人の今の優先順位は、自分の功績が認められること>>>>>>>>>>指揮官の安全、なのだ。
それと、だんだんと二人が腕を抱き締める力が強くなっていって、指揮官の腕の骨と筋肉が悲鳴を上げ始めている。
筋肉のあげる悲鳴が、指揮官の脳に危険だという信号を発して届いた瞬間に、
「ただいま、指揮官」
赤いベレー帽に、青を基調としたワンピースのような制服、スカート部分はシースルーと言う、過激な服装の戦術人形、9A-91が後方支援を終え、書類を手に司令室に入ってきた。
それに、指揮官は勝機を見た。
「きゅ、9A-91!二人を止めて欲しい!!」
指揮官は必死な声で二人を止めて欲しいと9A-91に促す。
9A-91は指揮官に対してかなり従順だ。彼女のOS(性格)を利用するようで悪い気はしたのだが、それより今は身の安全を確保したかった。このままでは、両腕が骨入りミンチになってしまいそうな気がしたから。
が、指揮官の見立ては少々甘いと言わざるを得ない。
9A-91は指揮官が直面した事態を目の当たりにし、両手で口許を覆ったが、
「……ズルい」
彼女の覆われた口から出た言葉は羨望の言葉。
何故なら、9A-91も名誉を、認められることを望んでいる戦術人形なのだから。
静かに呟くように言葉を発した9A-91は、手に持った書類を手放しながら指揮官の胸に飛び込むように抱きついた。
「ギャース!!!」
想定してなかった事態に悲鳴を上げる指揮官。
「私も頑張りましたから」
そう言って眼を瞑って指揮官の抱き心地に表情を綻ばせる9A-91。彼女が空中に置いてきた書類には、『大成功』の三文字が記されていた。
つまり彼女も、AR-15と416のように、指揮官に認められる権利があると言うことだ。
抱きつく人数が増えたことに過剰に反応する人形が二人、
「今すぐ離れなさい!!」
「そこは私の場所よ!!」
「誰があんたの場所よ!あんたはいつもみたいに指揮官の洗濯物ドロ未遂で満足してればいいのよ!!」
「うるさい!!あんたこそ、指揮官の飲み残しを飲んで何時ものようにうっとりとしてればいいのに!!」
一瞬だけ新たなる敵に口火を切った二人であるが、すぐにターゲットを対面にいる存在へと変えて再び罵り合う。
指揮官が知らなかった、知りたくもなかった事実が飛び交っているが、当の指揮官は9A-91が人体への害を全く考えてないダイエット器具のように、
「私も頑張りましたから……!」
と言いながら腕で胴体を締め付けてくるので、腕だけでなく身体も悲鳴を上げ始めたのと、締め付けてくる関係で、濡れた衣類を絞って吸収していた水分を出すかのように体内の空気が減っているので、会話を聞くことへリソースを割く余裕がない。
段々と強くなってくる三方向からの力のベクトル。何も事情を知らない人が見れば羨むような光景と言えるが、残念ながら五体満足でこれからも生きれるかが掛かってるので、当の指揮官本人にはそんな余裕はない。
心の奥底でこの事態を止めてくれる人物が来てくれることを祈る指揮官。その祈りが届いたのか司令室のドアが開く。
朦朧とする意識の中、ドアに眼を向けて、誰が帰ってきたのか確認する。
入ってきたのは、ピョンピョンと飛び跳ねるシルエット。動物の耳のような癖っ毛と、9A-91のような刺激的な服装が特徴な幼いAR。
その瞬間、指揮官は誰が執務室を訪れたのかわかった。
「ご主人様ぁ~!大成功~!」
その人物とは、大成功と書かれた後方支援の書類を手に持ったG41だ。
誰が来たのかを完全に理解した指揮官はこう思った。
――あっ、終わった
と。
何故ならG41は三人と違って認められることは望んでいないが、褒めて貰うために、甘えるために何かしらのアクションをするからだ。
「あっ!皆ずるーい!!」
大成功の後方支援の成果を持って指揮官に褒めて貰おうとしたG41の前には、腕を独占するAR-15と416、そして、前面を独占する9A-91。
これでは指揮官に褒めて貰えないと、G41は頬を膨らませる。
「じ、G41……」
指揮官は一縷の希望に縋るように掠れた声で彼女に呼びかけてみたが、不機嫌な彼女には聞こえてない様子。
G41は指揮官に引っ付く三人を不満げに見つめながら、指揮官の背後に回り込むと、そこが空いていることを確認した。
G41はニッコリと微笑んだ。それはそれは、遊園地でマスコットキャラクターを発見した子供のように。
そして、腕を振って勢いをつけると、
「ご主人さま~!」
指揮官の背中に突撃した。
「ウボアァァ!!!!!」
完全に逃げ場も逃げ道も無く囲まれてしまった指揮官は、残った気力を振り絞って絶望の咆哮をあげた。
「ご主人さま!私も大成功したのに、三人にばっか構ってズルいですぅ!!」
G41の言うことはもっともだ。もっともだが、指揮官は良くも悪くも他の三人に構いたくて構ってるわけじゃ無い。寧ろ構われたがられた結果このような拗れた結果になっているのだ。
指揮官の背中に頬ずりをするG41。それはまるで、小動物が飼い主に自分の匂いを移そうとするかのよう。
なんとも愛らし場面の様に思えるだろう――G41が指揮官のお腹に回した腕が全力なので、腹から捻じ切られそうな思いを指揮官がしていなければ。
「いい加減離しなさい!」
「あんたが離しなさい!!」
「離しません!」
「ご主人様ぁ~!」
AR-15と416の罵りあいと9A-91の必死な声とG41の甘えるような口調。
それら全てが、体中が発する危険信号のせいでどこか遠くで聞こえる中、指揮官はこう思う。
――労いの仕方、今度どっかのセミナーで学ぶべきかもしれない
と。
目が覚めたら、否、また目を覚ますことが出来たら、起きたら全てが終わってる事を祈りつつ、指揮官は自分の意識を手放すのであった。
オマケ
春田さん「……どうしてこうなったのか説明して頂けますか?」
正座してガタガタ震える四人「「「「………………」」」」
春田さん「聞こえませんでしたか?……誰が指揮官を気絶するまで痛め付けたのですか?」
お互いを指差すAR-15&416「……コイツです!」
9A-91「私はただ……指揮官に頑張りを認めて欲しかっただけなのに……。うぅ……指揮官……」
G41「ご主人様ぁ……ごめんなさい……」
AR-15「あんたが指揮官の腕を強く抱き締めたのがいけないんでしょ!この粉砕機!」
416「あんたの力の方が強かったじゃない!このメスゴリラ!!」
春田さん「9A-91、G41、二人は反省してるようなので先に帰ってください。次は気を付けるのですよ?いいですね?」
二人「はい…………」
AR-15「完璧ならミスを潔く認めなさい!」
416「あんたが謝れば?汚名挽回のチャンスよ?」
AR-15&416「グヌヌヌヌ!!!」
春田さん「……お二人とも」(低い声)
AR-15&416「!?」ビクン
春田さん「少し、ええ、本当に少しですが……『O☆HA☆NA☆SHI』をしても宜しいですよね……?」ニッコリ
AR-15&416「ヒッ、ヒィ……!」(思わず身を寄せあって震える)
反省の色が見えなかった二人は、スプリングフィールド権限で一週間指揮官と接触禁止となったのであった。
春田さん「ちゃんと反省しなさい!」
AR-15&416 (´・ω・)ショボーン