【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも

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SV-98

※注意

 

 作者はドルフロを始めて二週間なので、世界観、キャラ把握が余りで来てません。やっと5章を終わらせて実家を周回しているクソ雑魚司令部の指揮官です。

 

 ネタバレをしない程度に世界観を調べましたが、齟齬がある可能性が高いです。

 

 無理だと判断したら、即刻読むのを止めて、スオミの彫刻品の様なケツを崇める作業に戻ってください。

 

 

 

 主な一日の業務が終わり、夜間の基地警備だけを行っているグリフィンの基地。

 

 監視塔や警備に必要な施設以外の電源が落とされ、すっかりと節電モードとなった基地内。

 

 一日の役目を終え、サーバー以外はスリープモードとなるべき司令室の灯りをつけ、密かな楽しみに興じる影が二つ。

 

「一日ご苦労様。今日もありがとうな」

 

 一つは黒く気泡を浮かばせる液体に満たされたグラスを掲げる指揮官。着任して数か月もしないうちに、激動のPMC生活に揉まれる若人。

 

「はい。今日も頑張りましたね指揮官」

 

 赤紫の液体に満たされたグラスを両手に持った戦術人形、黄金色の髪に紅色の瞳のライフル、SV-98。

 

 二人はグラスを近づけ、コツンと触れさせる。冷却用のファンだけが回る執務室に高音が響き渡った。

 

 音が聞こえてるうちに、どちらからともなくグラスに口をつけ喉を鳴らして液体を飲む。指揮官の口の中をシュワシュワと音を立てながら気泡を叩き、爽快感を与える。

 

「ぷはー!うまいなぁ……」

 

 今回のアルコールは、いつも指揮官がやるような化学調味料で味付けしただけの無色透明なそれではない。SV-98が持ってきてくれたジュースで割ったものだ。指揮官が割り材に使ったのは、第三次世界大戦が起こる前の世界で愛されていた赤いラベルの黒いジュース――を再現した物。かつてそのジュースを作った会社が、未だに残っているかは指揮官にもわかっていない。

 

 一方、SV-98が割り材に使用したのはぶどうジュース。勿論、天然の素材では無く化学調味料で再現した飲料であるのだが。と言っても、司令官が生まれる前から、この手のジュースは化学調味料で作られたと聞いていたが、果たしてどうなのだろうか。

 

「喜んでくれてなによりです!」

 

 両手に持ったグラスを胸元に持ってくとニコリと微笑む。

 

「にしても、こんなに一杯のジュース一体どこで買ったんだ?」

 

 電源の落ちたパネルの上には、二人が割り材に使用した物も含めて七本もある。その全てが500mlサイズと言った所。二人だけで一日で使い切るには多すぎる。

 

「カリーナさんのところで安売りしてましたよ?何でも、最近は指揮官が買って下さらないから余ってるって言ってました」

 

「あぁ……成程……。だからと言って、在庫が余り余る位の量を俺に買わせようとしたのかカリーナは……」

 

 ジュースを流し見して苦笑を滲ませつつ、指揮官は泣く泣く割引を決めた後方幕僚の姿を想像する。最近は、忙しく飲む暇が無いのと、一人飲みをしてるとよくない事が起こる予感しか起こらなかったので控えていたのだ。その結果、カリーナが泣く羽目になった様だが、指揮官の知ったところでは無い。売れ筋を予測できなかったカリーナが悪い。

 

 そんな訳で暫し飲酒を控えていた指揮官なのであるが、本日は解禁。その理由もいつもの様に一人で飲もうとしたわけでは無く、SV-98に誘われたからである。

 

 戦術人形と二回程お酒の席を共にしたときは、その二人から一夜の過ちを犯され、若干不信感を抱いて居たのだが、最古参の部類であるSV-98は流石にそんな事をしてこないだろうと、快諾したのだ。

 

 指揮官は必ずしも一人で飲みたいと言う訳では無い。誘われたのなら普通に乗る。一人の気分の時に大勢に乱入されるのが嫌なだけなのだ。

 

「美味しいですね……。まだまだありますから、沢山飲んでくださいね」

 

「ありがとう。次はSV-98が何で割るかを選んでくれないか?」

 

「じゃあ、私が割る物は指揮官が選んで下さいね」

 

 指揮官が空になったグラスにアルコールを注ぐと、SV-98はジュースを手に取って割る。SV-98が無くなったら、その逆。

 

 飲み進めて立っている事に疲れた二人は、ジュースを退かしてスペースを確保すると、パネルの上に座り込む。

 

 古くからの仲の二人らしく、何気ない会話に花を咲かせながら――

 

 

 

 

 

 

 割り材として使っていたジュースを四本開けた頃、SV-98は指揮官の肩に自らの頭を預けてきた。

 

 大分酔いも回ったのだろうか、排熱が間に合っていないらしく肩越しに伝わる彼女の体温は高く、まるでカイロの様。酒で冷えた指揮官の身体には染み入る温かさだった。

 

「それにしてもよかったです」

 

「何がだ?」

 

「私のこと、ちゃんと覚えていてくださって」

 

「忘れる筈が無いだろ。SV-98には何度も世話になってるしな」

 

「ふふっ、そう言ってくださると嬉しいです」

 

 SV-98は身体を更に指揮官に寄せて倒れ込む。指揮官の体制は彼女が倒れてしまわない様に、自然と抱きしめて支えるような形になる。

 

「指揮官、覚えてますか?昔のここの事を」

 

「昔も何も、ほんの数か月前の事だろ」

 

「そうですけど……激動の日々なので何だか昔の様に感じて」

 

「確かになぁ……」

 

「懐かしく感じますよね。私やガリル、M1895やM9、スぺくトラにMP40達と一緒に指揮官から作戦の詳細を聞いてた時が――」

 

 SV-98が口に出したのは、この基地が初期の頃からいるメンバー。昔から世話になっている大事な存在達。彼女達無くしては、この基地は成り立たなかったと言っても過言では無いくらいに。

 

「最近は、後方支援に回されるのが不満なのか?」

 

 そのメンバーたちは今は後方支援に回っているのが殆どだ。ある時、グリフィンの本部から莫大な予算をまわされ、戦力を拡充していく内に、古くから世話になった高練度の戦術人形たちは支援へと回され、新しく入って来た戦術人形たちは積極的に現地に赴かせて最適化させる。出来るだけ戦力の偏りを無くし、いついかなる時でも対応できるようにするのが、指揮官の方針であるから。

 

「そうじゃないですけど……。いえ、そうかも知れませんね……。私もまだまだ戦えますから」

 

「わかってる。それでも――」

 

「私もわかってますよ。指揮官の方針はもっともです。だから、私達も従います」

 

 新入りの指導役として、古参の戦術人形を配置したりもするが、昔と比べれば古参の前線配置率も圧倒的に減っている。その理由について理解はしているつもりでも、幾らか不満はあったのだろう。

 

「私達は戦術人形。HK416やMP5の様な上昇志向を基本的に持ってます。人間や色んな者達に自分が優秀であると認められたい、と」

 

「ああ……。深く理解している」

 

 STAR-15すら自分の銃の性能が特別で無い事を気にしていた。本当にどの戦術人形も持っている物なのだろう。人間達と同じように。

 

 指揮官のライバルは他所の基地の指揮官である。多くの戦果を挙げて上に認められたいと思っている。

 

 それは、疑似的なモノとは言え感情を持つ彼女達とてなんら変わりないのだ。

 

「戦地に赴けるのはやっぱり特別なんです。だから、はしたないかもしれないですけど、新人たちにちょっと嫉妬してましたし、指揮官は私達の古参の事を忘れちゃったのかなってちょっと悲しくもありました」

 

「すまなかった」

 

 小さな声で素直に謝罪をする指揮官。そんなに思い詰める様になるまで、SV-98達の活躍の機会を奪ってしまったのでは無いかと。

 

 そんなことは無いと否定する様にSV-98は指揮官の腕の中で頭を振る。

 

「謝らないでください。指揮官が私を、私達の事を忘れて無い事はよくわかりましたから」

 

 顔を上げたSV-98は笑みを浮かべる。昔と変わらないような、朗らかな微笑みを。でも、その中には一抹の寂しさが混じっている。

 

 彼女、彼女達古参の自信たっぷりの言葉と笑顔には何度も勇気づけられてきた。だから、許されるだろう。そのお礼と最近のお詫びして、少し位先の事を伝えても。

 

「最近、新人の練度も最適化も進んできた。だから、新しい任務をいい加減請け負ってみようと思ってたんだ」

 

「それって――」

 

「今のところ、新人と古参の混成で考えてる。なぁに、昔より配置できる部隊を増やしても資源には余裕がある。古参達の殆どを配置できるさ。未だにRFの配備数は少ないからな、SV-98にはまた腕を振るって貰いたい。また忙しくなるぞぉ~」

 

 クツクツと喉を鳴らして楽しげに笑い声をあげる指揮官。彼の思わしげで特徴的な笑い方も、昔と変わらぬそれであった。

 

 その笑い声につられる様にSV-98も笑う。心の底から安堵し、喜びを伝えるように。

 

「はい!お任せください!」

 

 彼女の誠実な言葉はいつだって頼もしい。記憶の奥底に沈もうとしていた彼女の誠実さはまた指揮官に引き出されたのだ。

 

 SV-98は支えて貰っていた体を起こし、指揮官と向き合う形になる。

 

「頼んだぞ」

 

 SV-98の肩に手を置いて語り掛ける指揮官。その動作は、重要な作戦を託した戦術人形に必ず贈っていたもの。

 

「貴方様の期待に必ず応えてみせます!」

 

 SV-98は拳をぎゅっと握りしめて彼からの信頼を受け止める。

 

 その光景は、この基地の初期の頃の様で、また二人は笑いあった。

 

 散々笑いあって、少しずつ収まった頃、指揮官はちらりと腕時計を見る。時刻は月が頂点へと達する頃。割り材で割って飲んだとはいえ、二人でそれなりに飲んだので、そろそろお開きでいいだろう。

 

 SV-98も悩みは聞けた。新人の育成ももちろん大事だが、そちらを優先しすぎると古参から頼りにされてないのでは?と言うような不満が積もってしまうことを理解し反省できた。

 

 前までの飲みも、今回の飲みも何だかんだ為になる物だった。それを糧に指揮官は明日へと向かって行く。

 

「じゃあ、そろそろ――」

 

 ――お開きに

 

 そう言いながら指揮官の手は空になった容器を片付けようとした所で、SV-98にその手を掴まれた。

 

「ところでですけど、指揮官」

 

「うん?」

 

「私の苦手だった接近戦、どこまで得意になったか気になりませんか?」

 

 今から組手でもするのかと驚愕に目を開いた指揮官を、SV-98が押し倒す。

 

 その瞬間、指揮官の脳細胞が活性化し、一つの答えへと導いた。

 

 この流れは――

 

「この接近戦は違うだろ!」

 

「いーえ、これも接近戦です!」

 

 SV-98は話を聞かない。片手でコートのボタンを外して、スポーツブラに包まれた豊かな胸部を露わにする。

 

 指揮官は完全に理解した。SV-98はヤル気なのだと。古参の戦術人形はそう言う事をしないと、心の何処かで信じていたのに。

 

「どうしてこんな事に」

 

「指揮官はスナイパーのハートをとっくの昔に撃ち抜いたんですから、その責任はとってくださいね」

 

 楽しげに鼻を鳴らしながら、顔を接近させるSV-98。

 

 指揮官は、スナイパーはスナイパーの潜む場所を爆撃してでも始末しろと聞いたっけ、と心の中で思いながらも、SV-98の柔らかさを享受した。

 

 

 

 

 翌日、指揮官は頭を抑えながら指揮をとっていた。話しによると悪酔いしたらしい。

 

 SV-98は暫く絶好調であった。それは、後日の新たな任務で敵の頭に何回も命中させた位に。

 

 指揮官が酷い頭痛に悩まされた理由。SV-98の機嫌が良かった理由。それは当事者のみが知ることだろう。


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