【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも

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 これで一旦区切りです。

 戦術人形のリクエストがあればメッセージまで。尚、採用率は低いので、宝くじに出す位の気分でお願いします。


スオミ

 夜間警備だけが行われるグリフィン基地の一つ。

 

 前線に出た戦術人形たちをサポートする為のモニターや機器の殆どがスリープモードとなって役割を待つ状態となっている司令室。そんなもの寂しい司令室に指揮官は居た。

 

 一日の役割を終えた夜に指揮官が司令室に居る時は大抵が一人でアルコールに浸りたいと思っている時だ。その証拠に、電源の落ちたテーブルの様な大きなパネルに飾り気のない透明なグラスと飲用アルコールと水が入ったボトル、それと味付けの為の化学調味料が置いてある。

 

 なのに指揮官からは飲む気配は無い。それどころか、グラスには何も注がれておらず、グラスも二つあると言う始末。

 

 グラスを爪で弾き、空のグラスで跳ねまわって外に飛び出す音に耳を傾けながら、指揮官は腕時計を見る。

 

 時刻は22時。食堂どころか売店も閉まっている時間帯。

 

「もうすぐ……だよな……?」

 

 指揮官は待っている。何故なら、今朝に彼の私室のドアの隙間に挟む形で手紙が届いたから。

 

 差出人の名前は無かったのだが、消印も無かったので恐らく基地に居る誰かだったと言う事は確か。手紙の内容も若干堅苦しさはあったが丁寧な物であった。

 

 手紙の内容を簡潔に言えば、

 

『今夜の22時に私と二人で、司令室で飲みませんか?』

 

 というものであった。その為に、夜の司令室は指揮官の持つ特別な権限でロックをし、解除の為のコードを手紙のアドレスに送って欲しいと言う用意の良い所も。

 

 手紙を書くとは何とも時代錯誤な、と司令官は想いはしたが恥しくて直接言えない事なんてよくある事だ。

 

 もし、自分が行かないと返事したらどういうつもりだったのか、とも思ったのだが、彼が来てくれると深い信頼をおいてる戦術人形が送ったのだろう。

 

 正体不明の誰かの為に指揮官が頑張ったからか、或いは差出人の読み通りであったのかは不明だが、夜にはこうして謎の人物を待つ余裕が出来たのだ。

 

 ――一体誰なのだろうか?

 

 まだ見ぬ相手に指揮官は想いを馳せる。

 

 ――ARかそれともHGか、それとも大穴でMGかいや、カリーナか上官かもしれないぞ?

 

 新たなキャラクターの登場を聞かされた子供の様に想像を膨らませながら待ちわびていると、司令室の認証式のドアが開く。少々前に、HK416が独自権限でロックをした出来事からセキュリティの脆弱性が発見されたので、強化されたのだ。

 

 そのおかげで、一人飲みを堪能し司令室を出た時に扉の前で、待ちかまえていたと思われるHK416が認証パネルに向かって呪詛を吐いてたのを指揮官は見てしまったのだが(この時は認証パネルに夢中になっていて、指揮官が出て行ったことには気づかれなかった)

 

 今回はセキュリティは強化されたので、乱入者じゃない事を祈りつつ、ドアの前に立つシルエットに手を振る。

 

 小柄なシルエットは指揮官の姿を確認すると、一度丁寧に頭を下げてから入室する。

 

 扉が閉まり、外からの逆光が収まるとシルエットの正体が露わになる。

 

「なっ……」

 

 予想して無かった正体に指揮官は思わず声を漏らす。

 

 金髪碧眼で清楚で生真面目な外見と性格とは裏腹に少々人見知りな所が彼女にはある。手紙を置いていくのも納得だ。だけれども、予想がつかなかった。何故なら彼女は、この基地に初めて配備された超高性能戦術人形であり、基地の創設期から今も第一部隊の隊長を務める戦術人形だから。

 

 指揮官に手紙を送った者の正体は、

 

「お待たせしました指揮官」

 

 KP-31、この基地において不動のエースであるスオミだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人はパネルの上に隣り合う様に座り、グラスを満たすアルコールを黙々と口に含みながら、スオミが持ってきたつまみを口にする。

 

 スオミが持ってきたのは合成肉をジャーキー風に味付けした物と、塩ノリ味のポテトチップス。

 

 指揮官は本物の海を見た事が無い。なので、ノリと言われても予測がつかないが、しょっぱさと口に残る風味がアルコールとの相性が抜群だった。

 

「旨いな」

 

「そうですね」

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 先程から短い言葉しかつなげることが出来ない。

 

 スオミが司令室に来て、スオミに頼まれるままアルコールに味付けをし、乾杯もしたのだが、そこから『最近の調子』だとか、『困ったことは無いか?』だとか当たり障りのない会話をして、そこから続かず。

 

 今の二人は短い会話と、スオミが持ってきたミュージックプレイヤーから流れるヘビーメタルの音のみ。彼女は故郷の素晴らしさを皆に知って貰いたいのだが、だからと言って酒の席で頭に響く様なヘビーメタルを流すのはどうかと思うが。

 

 指揮官はちらりとスオミの顔色を伺う度に、指揮官からの視線に気づいたスオミはほんのりと赤色に染めた顔でニコリと微笑む。その笑顔にあてられ、指揮官は小さく笑みを返すと気恥ずかしそうに顔を逸らす。その様子を楽しそうに見つめると、スオミはまたチビチビとアルコールを口に含むのだ。

 

 指揮官にとってスオミと言う戦術人形は特別だ。何の運命の悪戯かこの基地の創設期に建造・配備に成功した超高性能な戦術人形だ。それ故に、指揮官に一番頼りにされ、昔も今も第一部隊の隊長を任された不動のエース。

 

 戦力が低い内に来た超高性能機という事で、他の戦術人形よりも多少優遇をしたと言う想いは勿論ある。本当に最初の頃は装備も強化も彼女に優先した位に。

 

 彼女は指揮官の期待と皆からの羨望を受けそのうえで努力を重ねて、今の地位を確立した頑張り屋だ。

 

 だけれども、人見知りな所もあり、昔は指揮官も距離を測りかねていたが、今はスオミと隣り合って座る位の信頼は得たつもりだ。

 

 指揮官の腹心と言っても過言では無いと言うスオミが、心の奥底で何を溜め込んでいるのかと思うと指揮官は戦々恐々としていた。

 

 これまで、酒の席を共にしたSTAR-15、HK416、SV-98は様々な不安や願望を口にしてきた。

 

 だから、尚更指揮官は不満になる。最古参の部類、それも指揮官が強く信頼を置く彼女が心の奥底に何が溜め込まれているのかと。

 

「スオミ……」

 

「なんですか?」

 

 スオミは両手に持ったグラスを膝に置き、首を傾げながらも上目遣いで指揮官を見上げる。

 

 その動作は、小動物の様で指揮官は微笑ましさを覚える。

 

「その……私と飲んでて楽しいか?」

 

 何も話さないのは、言葉にせずとも疎通できる仲と言えば聞こえはいいが、指揮官が感じていたのは居心地の悪さ。自分に不満があるなら早く言って欲しいと言う、判決を待つ罪人の様。

 

「ええ、とっても楽しいです」

 

 対するスオミは、指揮官の腹のそこにあるものなど素知らぬように微笑む。その笑顔に心に闇に覆われそうであった指揮官の心が洗われかけるがまだ油断はならない。

 

「なんで、私と飲もうと思ったんだ?何か悩み事とか、その……嫌な事とかあるのか?」

 

 一度息を飲んで、自分の気持ちをある程度整理してから、抱えてたものを吐き出す指揮官。

 

 先程も言った通り、今まで一緒に酒を飲んだ戦術人形には抱えてるモノがあったのだ。だから、指揮官は気を緩めずに続けて聞く。

 

「無いですよ。私はただ、本当に指揮官と飲みたかっただけですから。お手紙で書いたのはその……直接伝えるのは恥ずかしかったから……」

 

 最後の方は段々と小声になり、最後は指揮官からそっぽを向いてしまうスオミ。

 

 そんな彼女の姿をみて、指揮官は完全に理解できた。

 

 スオミは、本当に指揮官と飲みたかっただけなのだと。腹に抱えるモノは何も無いとは言い切れないが、それ以上に指揮官と一緒に飲みたいと言う気持ちの方が圧倒的に上なのだと。

 

 スオミには何度も重責を負わせてしまったと言う負い目がある。だけれど、彼女はその重責すらも糧にして必死に努力してきたから、指揮官に関する不満は余り感じてないのだと。

 

 スオミの好き嫌いははっきりとしている。ロシア製の武器を携えた戦術人形を見たら一目散に逃げるか突っかかるかする位の気概の持ち主なのだ。抱えてるものがあったら、素直に言ってくるだろう。

 

 指揮官は思わず苦笑を浮べる。結局は自分の考えすぎで、その考えすぎのせいで、この飲みが楽しめて無かったのだと。

 

 ちらりと、スオミの顔を伺う。偶々視線があったスオミは小さく微笑むとまた顔を逸らす。

 

 どんなに気心が知れても、彼女の人見知りは簡単には抜けないのだと、湧いて出た懐かしさに胸が満たされる。

 

「悪かった」

 

「な、なんで謝るのですか!?」

 

 唐突な指揮官からの頭を下げての謝罪に驚いて飛び上がるスオミ。そんな彼女の姿が面白くて、彼女にばれない様に口だけを歪ませる。

 

「気にしないでくれ。ちょっと反省したい事がって」

 

「そうですか……?余り深く思い詰めて抱えるのはよくないですよ?何かあったら相談してくださいね?」

 

 突如謝られた事にスオミは頭の上に疑問符を浮べながらも相談に乗ると言ってくれるスオミ。

 

 そんな生真面目で優しいスオミが、最初に来た超高性能機であった事を心の中で指揮官は感謝する。

 

 今でこそHK416の様な他の超高性能機も配備されているが、お察しの通り癖が強い存在が多い。

 

 だからこそ、素直なスオミが最初に来てくれたことに改めて感謝を捧げてるのだ。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 短い言葉のやり取り。そのやりとりには、指揮官が内包していたスオミの腹の内を探る様な陰鬱さは無く、互いに晴れ晴れとした笑顔があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は先程と同じように短い会話を何度も繰り広げながらも居心地の悪さを感じなかった。それは、指揮官の心の中にあった闇が晴れたから。

 

 スオミからは直接何もされてないかもしれない。だけれども、今日はいつもと違って戦術人形の方に救われた事には間違いないのだ。

 

 互いのグラスにアルコールを注ぎ、ある時は相手の為に化学調味料を調整しながら飲みあう。

 

 頭に響く様なヘビーメタルと、影の無いスオミの笑み。なんとも相性が悪そうな組み合わせだが、不思議とつまみとお酒が進んだ。

 

 ある時、スオミがミュージックプレイヤーの音を止めると目元を擦り始める。よくよく見ると、彼女の顔は真っ赤だ。恥ずかしさの赤なのか、それとも酔いの赤なのかを判別するのは指揮官とて用意でない位に。

 

 その様子を見て指揮官は不思議と理解した。飲むと眠くなるのが、彼女の酔い方であるのだと。

 

 スオミは指揮官の太腿に頭を預ける。

 

「えへへ~いい枕です~」

 

 緩み切った表情で指揮官の膝枕に顔を擦りつけるスオミ。その動作はお気に入りのおもちゃをマーキングする小動物の様。

 

 余りにも微笑ましいので、指揮官は自然とスオミの頭を撫でていた。彼女の頭髪は指通りがよく、しゃらしゃらと音を立ててすり抜けていく。

 

「指揮官の手、おっきくて温かいです……」

 

 その様子を見て、もし、自分に娘が出来たらこんな風に甘えてくれるのかと想像して、頭を振る。上司であるヘリアンも恋愛には苦労しているのだ。PMCは収入こそ高いが伴侶としての人気は昔からそこまで高くない。

 

 だから、指揮官は結婚して家庭を持とうとは、そこまで本気で思っていない。

 

 ――せめてここにいる仲間や戦術人形たちと、もうちょっと平和な環境でずっと暮らしていけたら

 

 それが、指揮官のささやかな願い。この基地に来てから抱いた指揮官だけの願望。

 

 スオミの頭を撫で続けていると、彼女の目蓋は殆ど閉じていてスリープモードに入る寸前になっている。

 

 そんな中で、スオミはふと零す。

 

「指揮官……大好きです……」

 

 彼女が唯一腹の中に隠していた者を。

 

 それが、親愛なのか、敬愛なのか、あるいは恋慕なのかは指揮官にはわからない。だけれども、とある三人の例があるから、最後の可能性は否めない。

 

 その言葉だけを残して、スオミは眠りについてしまったのだから。

 

 指揮官は座ったまま飲みに使った物を袋に入れて片付けると、スオミをおぶって司令室から退室し通常権限でロックをかける。

 

「私、実は結構モテる人間だったりするのか?」

 

 そんな疑問を抱きながらも、どこか軽い足取りで、指揮官は司令室から離れて行った。

 

 

 

 

 翌日の指揮官は好調。頭の回転も修正能力もとても冴え、ヘリアンからの褒め言葉を賜った。

 

 スオミもまた好調な一日であった。第一部隊の隊長として前線に出て、被弾一つなく完遂させるエースの貫禄を見せつけた。その姿を見て、冷静に気を引き締めるもの、自分よりも完璧に遂行する姿を見て対抗心を燃やす者、頑張る古参の姿を見て勇気づけられた者と様々だ。

 

 二人の調子が絶好調であった理由。それは当事者のみが知ることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スオミは逆レしない。イイね?

 

 

 アッハイな皆さんは、下にスクロールする事をお勧めするよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ Rルート

 

「ウゲッ」

 

 スオミが寝入り、パネルの上を片付けた指揮官はスオミの姿に声をあげる。

 

 彼女は脚を曲げた状態で寝ており、スカートも捲れて僅かに鼠蹊部が覗いており、いつの間にかコートのボタンを外したのか彼女の幼さが残る顔立ちと体躯に見合わない位に豊かな胸も露わになっている。

 

「全く、隙を晒し過ぎだぞ……」

 

 苦笑を浮べつつ、彼女の服を正そうとすると、

 

「もう……指揮官だから隙を晒してるんですよ?」

 

 指揮官の腕が突如として掴まれ、次の瞬間には天井を向き、目の前には眠そうに瞳を細めながらも、その奥からは獲物を追いつめたハンターの様な視線の鋭さを隠さないスオミが。

 

 唖然としながらも、指揮官の脳は演算を繰り返し、一つの結論を導出した。

 

 そう、いつもの流れだと。

 

「ちょっ!絶対そういう流れじゃ無かっただろ!」

 

「女の子が勇気を出して誘ったってことは、こういう事をするってことですよ」

 

「えぇ……」

 

 いつにもましてニコニコと微笑むスオミは指揮官の頬を両手でホールドし、逃げれない様に動きを封じる。

 

 指揮官は、「いや、全員がそうだって言いきれないよな?……よな?」と三つの過去を思い返して不安になりながらも、スオミの柔らかい唇の感触を受けいれた。

 

 

 

 

 

 

 翌日の指揮官は燃え尽きたような様子で指揮を執っていた。その燃え尽きっぷりは、彼を見た者全てが心配の言葉をかけるくらいに。

 

 スオミは着任してから一番の好調っぷりを発揮し、火力を抑えた装備なのに何回もMVPを獲得した。

 

 指揮官は語る。

 

「誰だって、何かを抱えているんだな」

 

 と。

 

 指揮官が燃え尽きていた理由。スオミが一番の好調であった理由。それは当事者のみが知ることだろう。


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