【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも
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たまには視点を変えて
そう言う意味で番外編です


【番外編】灯火を抱くレースヒェン 【G11】

 植物の鶴の様に好き勝手伸び散らかせた灰色の長髪に気だるげに開かれた同色の瞳の小柄な戦術人形。彼女の名前はGr G11。通称G11。

 

 グリフィンが扱う戦術人形の中でも超高性能機の一つが彼女だ。

 

 更に細かく言うと、404小隊のG11からデータをとり、オリジナルから幾らかの機能をマイナーチェンジ・オミットされてリリースされたのが、グリフィンで建造されるG11に当たる。

 

 そんな風に指揮官たちにも扱いやすい様に最適化とデチューンを施された彼女ではあるが、その評価は喜ばしいものでは無かった。

 

 彼女のOS(性格)は戦闘を生業としている指揮官たちのお眼鏡に敵う物では無かった。

 

 ものぐさで引きこもりで寝たがり。任務にも基本的には消極的。命令には基本的に従うが、自身が寝る為に指揮官に命令してくることもある始末。

 

 アクの強い個性を持つ彼女は、万人の指揮官に受け入れられることは無かった。

 

 指揮官と戦術人形達の関係は上司と部下ですらなく、主従が基本だ。指揮官は主として敵の殲滅を命令し、戦術人形は主の命に従って敵を倒す。

 

 人間たちに従順な性格こそが、万人の指揮官が求めている物だった。

 

 G11のOS(性格)を変える事は簡単には出来ない。そのOS(性格)とAI(思考能力)こそが、彼女の力を最大限に発揮できると設計されたモノであり、多くの指揮官が望む様なモノへと仕様を変更する為には、時間と費用がまたかかってしまう。

 

 取りあえず、命令には従ってくれるので指揮官たちで何とかしてくれ、というのが技術部門達の答えだ。

 

 性格に難があるのなら性能はどうなのだろうと思われるかもしれないが、そこは超高性能機の面目躍如と言った所か、正確無比な射撃能力で敵を射抜き無慈悲に敵を倒し尽くす。それが戦場でのG11。

 

 G11は命令のブリーフィングをしっかりと聞いていない。どんな任務の内容にも面倒と言うだけで完全に拒絶することは無い。

 

 難のある性格、過酷な任務に異論を唱えず拒否することは無い自己管理能力の低さ、射撃能力の高さ。

 

 G11が配属された基地の殆どは彼女を小隊の一隊員に置いて彼女は激戦区、或いは隠密へと駆り出される、彼女の眠りたいと言う願望にそぐわぬ扱いを受ける事が多い。

 

 まるで、オリジナルの404小隊のG11の様に。

 

 だが、その様な扱いを受けて無いG11も勿論いるのだ。

 

 例えば、

 

「ふわぁ~……終わったよ~」

 

「お疲れさん――って、ここで寝ないでくれって!」

 

 彼の性的被害者な指揮官がいる基地の彼女であったり。

 

 指揮官は眠気で倒れゆくG11に駆け足でよると急いで抱き留める。

 

 いつでも寝れるG11とは言え、床で寝ようとするほど節操が無い訳では無い。これは信頼の証。指揮官がふかふかの掛布団の様に受け止めてくれるだろうと言う一方的な信頼の証。

 

 この基地のG11は興味深いことに一小隊の隊長を務めている。

 

 G11はこの基地では新参の部類。そんな彼女が隊長を任せられている理由は、指揮官曰く『この先滅茶苦茶強くなりそう』という彼の先見性からもたらされた。

 

 そんな理由でG11の最適化を優先している彼が、いつか他の指揮官の様にG11を劣悪な環境に置くのではないかと思われるかも知れないが、『戦力は均等に上げてあらゆる状況にも対応できるようにする』という彼の標語が崩れない限り大丈夫だろう。

 

「おやすみ~」

 

 指揮官のみぞおち当たりを枕代わりにして、寝息をあげるG11。

 

「おーい、寝るなー!おーい!」

 

 指揮官は声をかけてG11に意識を保つように呼びかけるが、彼女には馬耳東風。寝息を立てたままである。

 

「……しょうがないか」

 

 指揮官は一度小さく息を吐くと、彼女の小さな体躯を持ち上げて、予め作っておいた、使われてない椅子を並べて長いタオルをシーツ代わりに置いた即席のベッドに彼女を寝かせる。

 

 指揮官は半ば諦めているのだ。G11は終ったとだけ報告した瞬間、毎度の如く寝るから。おかげで、彼女が帰投するまでに簡易ベッドを作る手際もかなり最適化された。全く、どっちの練度を上げるための出撃だと内心毒づきたくもなるが、直接戦闘からのストレスから解放された気分は指揮官には予想できない。

 

 だから、指揮官は言ったのだ。しょうがないかと。G11は自分よりも圧倒的に疲れがたまる環境に居たから、凄く眠いんだと。

 

 ベッドのパーツとなった椅子の背もたれに立てかけたタオルケットでG11の身体を包んであげる。肌寒かったのか、寝入ったG11の手は口許にまで布団を持っていく。

 

 そんな普段の気だるげでおぼつかなさからは想像もつかない可愛らしい仕種に指揮官は頬を緩めると

 

「おやすみなG11」

 

 彼女の頭をポンポンと軽く叩いて、彼女の傍を離れた。

 

 ――温かい

 

 実はG11はここまで寝た振りをしていた。この場で寝たふりをすれば、指揮官はこの場所で簡易的な寝具の上に寝かせてくれることを知っていたから。

 

 いや、G11にとって司令室で寝る事が目的では無い。彼女の目的は、寝入ったと思われる彼女に向けられた優しい労いの言葉と先程の頭を撫でるように叩く動作。

 

 この二つがG11の胸に温かさを宿し、心地よい眠りへと誘ってくれるからだ。

 

 指揮官の気配が傍から消える。それに一抹の寂しさを覚えながらも、彼のくれた温かさを感じながら眠る。それが、G11にとっての一番の報酬。タオルケットで顔を隠したのは、いつも口がにやけそうになるせいで寝たふりだとバレるのが嫌だから。

 

 うっすらと目を開いて指揮官の姿を確認する。後方支援に回った部隊が返ってくるまでは、彼は司令室にいるようだ。

 

「ありがとう……おやすみ、指揮官……」

 

 自分にしか聞こえない声で彼にお礼を言うと、G11は真っ暗なスリープモードの世界へと移っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 問題児として扱われることの多いG11からみても、彼女の指揮官は優しい人間であった。

 

 戦果も多くは望まず、任務に成功すればそれでいいと。例え一回で任務が成功しなくても、成功するまで出直せばいいと言う人。

 

 多くの指揮官がG11というモデルには多大な戦果を挙げる事を望まれているのは、G11にもわかっている。

 

 扱いづらい性格をしていのだから、扱い辛さは戦果で賄わさせようとしているのは、他のG11からフィードバックを受けてる彼のところのG11にもわかっている。

 

 それ故、G11は任務以外は基本的に無気力になる傾向にある。多くの戦術人形は、戦果だけでなく他の面でも優秀さを発揮して人間たちに認められる事を望むが、元々無気力な本質なG11は多くを望むことは無い。

 

 彼のところのG11もその本質は同じなのだが、他のG11よりかはまだ積極的な方だと評される事が何故か多い。

 

 それは、指揮官が彼女の寝ると言う気高き意志を尊重しているからか、それとも別の理由があるのかは不明だ。

 

 無理矢理起こそうとすることはあまりしない、寝そうになったら軽く寝るなと促すだけで完全に引き止めはしない。それどころか簡易的にベッドを作って、起きるまで待っていてくれると言う世話の良さ。

 

 こんな人間を優しくないと言いってしまえるほど、G11の感受性と疑似感情モジュールは腐ってはいなかった。

 

 そんな彼のことを慕う人形が多い事はG11も知っていた。それは、オリジナルからの縁なのか彼女の世話係になっているHK416、参謀を務める事が多くオリジナルからの問題児同士の縁で仲のいいUMP45とその妹であるUMP9も。

 

 G11は彼の事をどう思っているかと言われたら、答えは出せない。

 

 だけれど、指揮官が寝かしつけてくれると、見れない筈の夢が見れる位に温かくてお気に入りだと言うのは断言できる。

 

 そんな風に寝かしつけてくれる指揮官をある日UMP45がこう評していたのを聞いた。

 

「指揮官、その内一人で死んじゃうじゃないの?」

 

 それが、どういう意味で言ったのかG11には理解できなかった。いつも通りの半分微睡んだ頭で、彼女の言葉を聞き流していたから。伴侶が居なくて孤独死すると言う意味なのか、それとも戦場に出ざるを得なくなって死んでいくと言う意味なのかは、ちゃんと聞いて無かったので今もわからない。

 

 他に覚えてるのは、その言葉を口にしたUMP45が目尻を吊り上げながら頬杖を突いていた事だった。

 

 戦術人形にとって死と言う概念は殆ど身近でない物である。彼女達のバックアップは、グリフィンの基地や本部、それとそれらの施設とは無関係の場所に何か所にも何重にもバックアップを取ってある。例え今の義体が完全破壊されてもバックアップさえ無事なら再建造が可能。だから、死と言う概念は彼女達人形にとっては、汚染された夜空に瞬く星の様に遠いモノ。

 

 でも、指揮官はどうなのだろうか?指揮官は人間だ。居住区で暮らしている人間よりかは丈夫だろうが、人間である限り死ぬ。G11の様な戦術人形であっても、相手をすることになったらまず死ぬだろう。

 

 生命にバックアップは無い。予備も無い。彼という人間の記録は残るかもしれないが、死んでしまってはその記録が書き加えられることはまずない。

 

 終わりだ。死とは文字通り終わりだ。まるで、後継機が作られる事が無かったモデルたちの様に、活動を終えてしまったら終わりなのだ。

 

 普段のG11はそんな無駄な事を考えたりはしない。ましてや任務の最中には。任務に出てる時は、さっさと戦いを終わらして司令室で寝る事だけを考えるのが常。

 

 しかし、その時だけは45の指揮官の死と言う言葉が何故か強く引っかかった。

 

「……キモチ悪い」

 

 敵に向かって言ったのか、或いは自分に対していったのか、それすらわからない言葉を零しながら引き金を引き、その日の任務を終わらせた。

 

「任務終わった~」

 

 いつも通りに作戦終了の報告をしながら司令室に入ると、まるで日常動作をするかのように倒れ込むG11。

 

「おつか――おおい!寝るなって!」

 

 そして毎度の如く、彼女の小さい身体を抱き留める指揮官。

 

 このままG11が寝たふりを始めればいつもの通りの日常風景なのだが、G11は両腕を指揮官のお腹に回す。そのはずみに、彼女の緩く被ってる帽子が床に落ちてしまった。

 

 そう、いつもなら体を全て指揮官に委ねているのだが、今日はG11からも彼の身体を抱き留める形になっている。

 

「……どうした?何かあったか?」

 

 怪訝そうに首を傾げる指揮官。彼の言葉遣いは少々高圧的だが、彼女の頭を撫でながら穏やかに彼は語り掛けてくれている。

 

「なんでもない……」

 

 いつもの様に気だるげに返すG11だが、その言葉に含まれてるのは本心と別のモノが半々。

 

 彼女は少しばかり怖くなってしまったのだ。自分が、いや指揮官にだってわからない死と言うモノを。

 

 G11は確かに戦術人形だ。だけれども、今の自分の身体がボロボロに跡形もなく破壊されるのは怖い。だけれど、戦術人形はいざとなったら自分で痛覚キャパシティを遮断して、次の起動を待つだけにすることは出来る。

 

 でも、指揮官は人間だ。痛覚を遮断するような真似は絶対に出来ない。痛みに喘ぎながら死を待つことしか出来ない。

 

 何故か、そう何故かずっと、指揮官の死という言葉が彼女の中で渦巻いて離れなかった。

 

 彼が死んだら、今受け止めてくれるている彼の温かさは何も無くなって、冷えた床で寝た時の様に冷え切ってしまうのだろうか。そう考えると彼女の頭脳部が焼け付く様に熱くなる。

 

 迅速に勝つ為ならエゲツない戦い方をすることを躊躇しないG11の頭は残酷でロマンチックな考えでずっと埋まっていたのだ。

 

 指揮官はG11のボサボサの頭を何回か撫でると、ポンポンと頭を叩く。いつも彼女を労いながらするように。安心していいと示すかのように。

 

 彼はG11の中に何が渦巻いているのかわかっていないだろう。彼は彼女が言わなければそれでもかまわないと思ってる。人であれ、人形であれ抱えるモノがあるのはよく理解しているから。

 

 だから、彼は、せめて彼女の変わらない日常を演じる。今はそれが最適である、と言う直感を信じて

 

「寝るか?」

 

「うん……」

 

 彼の鳩尾に額を当てるG11が小さく頷く。

 

 彼は彼女の華奢で小さな体を持ち上げると、いつもの様に予め作っておいた簡易ベッドに彼女の身体を寝かせる。

 

「お疲れさまG11。おやすみ」

 

 瞳を閉じつつある彼女に労いの言葉をかけ、自由に跳ね放題の髪をポンポンと叩く。それは、指揮官がG11にだけに贈る特別報酬。

 

 でも、今のG11にはそれだけでは足りなかった。離れゆく指揮官の手をG11の小さな手が掴む。

 

「どうした?」

 

 指揮官は仕方がないと穏やかな笑みを浮べながら、彼女に問う。

 

 まだ、彼女の頭の中は黒い霧に支配されている。その支配から抜け出す為には彼の温かさが必要だと、彼女のCPUは瞬時に演算結果を導出した。

 

「ちょっとこのままいい……」

 

 いつも小さい声が更に小さく下手すれば司令室のサーバーを冷却するファンで掻き消えそうな位に小さな声。

 

 彼女がそっぽを向きながら――羞恥を隠しきれない頬を染めて――のおねだりを聞き届けた指揮官は、簡易ベッドの端に腰を下ろす。彼女が寝入る邪魔にならない様に。

 

 指揮官はG11の手を包むように握り、おまけで頭を撫でて安心感を促してあげる。

 

 温かい彼の手の感触。熱暴走を促しそうな彼の体温は何故かG11の頭脳の冷却を促し、黒い霧を晴らしてくれた。

 

 その代り、今度は何故か機関部が一定のリズムで跳ねているような錯覚を起こす。

 

 指揮官の体温を感じる度、彼が頭を撫でる度に、薄らと開かれた視界に居る指揮官の笑顔を認識してしまうごとに。

 

 不思議とそれは嫌なものでは無かった。むしろ、この感覚を意識する前に眠ってしまった今までを後悔したくなるくらいだ。

 

 一日中G11を蝕んでいた呪いは彼の生の体温によって解呪され、再び微睡みを齎される。

 

「おやすみぃ……」

 

「ああ、おやすみ」

 

 返事をしてくれた指揮官に礼をするかのように、G11は彼の手を一度強く握りしめ、もう一度強く彼の体温を感知してスリープモードへと移行する。

 

 戦術人形は夢を見ない。スリープモードも活動時間に得た情報を整理する為の時間でしかない。

 

 でもそんな理屈は今は関係ない。この温かさからもたらされる眠りは絶対に忘れたくないし、しっかりと堪能したかったから。

 

 彼女は今日の彼から貰った温かさを忘れない様に記録デバイスに命令を送ると、スリープモードに移行した。






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