【ドルフロ】夜の司令室にて   作:なぁのいも(水上ナギ)
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思い浮んだから書いちゃったけど、これで本当に一区切りだかんね!


UMP45

 夜間警備を行う兵士と戦術人形以外は休息についた闇が支配する時間帯のグリフィン基地の一つ。

 

 昼間の喧騒も夢の後言う様な静まり返った司令室。

 

 その司令室で一人っきりで晩酌を行うため、指揮官は脚を運んでいた。

 

 否、既に司令室に入り、持ってきたグラスにアルコールを注ぎ、柑橘系風味に味付けしていざ飲まんとしたのだが、エアコンの効きが良く無かったのか飲む寸前に催してしまい、一回司令室から出てお手洗いへと向かってしまったのだ。

 

 今はお手洗いで体内の不純物を全て出したので快調。これで思う存分飲みを堪能できる。

 

 認証パネルに手をかざし、司令室の扉を開いた先には、

 

「あら?結構早かったわね」

 

 カランカランと空になって氷だけとなったグラスを揺らして遊ぶ、昆布茶色の髪をサイドテールにし、左目に傷痕を残す金眼の少女が――

 

 その瞬間、指揮官は反射的に扉から一歩体を引いてドアを閉めた。

 

 指揮官は片手で眉間を抑える。

 

「何故だ……」

 

 今日は誰とも飲む予定は無い。敢えて司令室から人払いをするような事も言っていない。そもそも今日飲むことは誰にも伝えて無い。

 

 完璧な態勢で今回の一人飲みを迎える筈だったのだ。

 

 それなのにどうだ?司令室の中には呼んだ覚えも、そもそも入室すら不可能な筈なのに客が居るではないか。

 

「よし」

 

 気分が変わった。今日は飲むのをやめよう。司令室に置いたままのアルコールたちの片づけは、明日の朝一番に起きてやればいいのだ。

 

 そう思い至った指揮官は、踵を返し自室へと向かおうとしたのだが、

 

「もう、そんなことされたら拗ねちゃいますよ?」

 

 前へと進むための勢いをつける為に後ろに振った手を、司令室の扉を中からあけた人物に捕まれた。

 

「うぉっ!」

 

 そのまま強く引っ張られ、指揮官は背中から倒れるようにして司令室へと引き入れられる。

 

 腕を引っ張ってきた隙間妖怪は、ドアが閉まった事を確認すると、グローブに覆われた手を認証パネルにかざす。すると、ブザー音が司令室に鳴り響き、画面が赤色へと切り替わりデカデカと『LOCK』の単語が浮かび上がる。

 

 指揮官は理解している。堅牢さを増したグリフィンのセキュリティであっても、かつては電子戦・情報戦に特化したモデルであった彼女にとっては突破する事は難しくない事なのだと。

 

 侵入者は前かがみになると、指揮官に手を差し伸べる。

 

「今日は私と飲みますよ?指揮官」 

 

「はぁ……わかったよ」

 

 指揮官に差し出した手を掴まれた侵入者、指揮官のいれたアルコールを勝手に飲んだ為かほんのりと頬を赤色に染めたUMP45は、諦めた様に大人しく従ってくれた指揮官に含みを持たせた笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官って柑橘系のお酒が好きなの?」

 

「ああ、いや別にそういう訳じゃないんだ。ちょっと柑橘系の再現をしてみようと思ってな」

 

「ふーん」

 

 飲み干されたグラスをカラカラと音を立てて振るう45。自分から強引に飲もうと言って来た割には、グラスにアルコールを注ぐ気配も無い。

 

 空いたグラスは45が持っているそれしかない。何故なら、彼女は自分のグラスを持ってきてないから。

 

 グラスを振りながら指揮官の様子を伺いつつ口角を持ち上げる45。

 

 そこまで、露骨に話しかけてと言わんばかりの態度をとられたら、それに従うしか今の指揮官には出来ない。

 

「はぁ……。で、本当は何の用なんだ?」

 

 大きくため息を吐きながら、45に問う指揮官。

 

 45は一度口許を緩めると、わざとらしく首を傾げる。

 

「んー気になる?」

 

「そりゃ、ここまでお膳立てしてまで聞きたい事って何か気になるさ」

 

「ふーん」

 

 45はグラスを置くと屈んだ状態で指揮官の顔を覗きこむ。見透かすような視線、動作。のんびりとした雰囲気は去り、剣呑な雰囲気に飲まれない様に、指揮官は息を飲む。

 

「指揮官はさ――」

 

 指揮官は45から視線が離せない。何故なら、彼女は先程まで出していた気まぐれなだけれども友好的な態度ではなく、

 

「死ぬつもり?」

 

 相手を縛り付けるような凍える覇気を纏っていたからだ。

 

「それはどういうことだ……?」

 

 生唾を飲み込みつつ、指揮官は45の真意を探る。

 

 確かに彼の人生の中で死んでしまおうと思った事はあったかもしれない。

 

 でも、今もそうかと言われると答えは否だ。何故なら指揮官には小さな夢がある。それは今よりも平和な環境でこの仲間たちと共に生きていきたいという、大雑把だが確かな夢が。

 

 夢を継がれる事はあるかもしれないが、誰にも伝えて無い状態では自分で叶えるしかない。

 

 だから、死ぬつもりは甚だありはしない。

 

 困惑に瞳を揺らす指揮官。そんな指揮官の表情を下から伺うように45はジロジロと伺うと、何処か安心した様に笑みを浮かべた。

 

「変なこと聞いてごめんね指揮官。私の勘違いだったかも」

 

「いや、だから、なんでそんな事を聞いて来たんだ?」

 

 一人合点する45だが、答えを聞かされてない指揮官にはモヤモヤとした感情が残る。

 

「んー……。指揮官って私達の事を凄く大事にしてくれるでしょ?」

 

「ここの貴重な戦力で、仲間だしな」

 

「もし、この基地が襲撃されて、私達が窮地になったら指揮官はどうしてくれる?」

 

「なんでそんな事を」

 

「いいから答えて」

 

 射抜く様な45の眼差し。彼女が敵へと向けるそれよりは幾らか柔らかいが、毎回向けられてる敵側はたまったものでは無いだろう。

 

 何となく、指揮官には45が求める答えがわかった。そして、45は彼に求めてる答えが出される事が無い事もわかっていた。

 

 それは疑心からでは無い。深い信頼からのもの。

 

 だから、口ごもる指揮官に45はため息をつく。やっぱり言ってくれなかったと。

 

「見捨てて逃げる、って言わないんだね」

 

「それは……」

 

 それが正しい選択なのは指揮官にもよくわかっている。それが情を捨て、指揮官と言う役割を担う人物がとるべき行動である事も。

 

 彼女達にはバックアップがある。戦闘記録、カスタマイズのデータ、最適化手法。殆どの戦術人形はその全てのバックアップを取っているので、最悪バックアップをやられなければ、結果的に彼女達は無傷という事も可能だ。

 

 それは指揮官でも頭でよく理解している。だけれど、助けを求める大事な仲間が窮地なのに、何もせずに逃げのびる事を指揮官は出来るのだろうか?そう考えると、指揮官は何も答える事が出来なくなってしまうのだ。

 

 答えを出すことが出来ずに項垂れる指揮官に45が歩み寄る。

 

 彼女は見透かしてたのだろう。他が犠牲になるなら、自分が犠牲になろうとするような、指揮官の心細い強さと弱さに。

 

「私は、さ」

 

 45は指揮官に飛びつくと、彼の首に腕を回す。視線を逸らすのを許さないと言うように、或いは甘える子供の様に。

 

「指揮官が居なくなったら寂しいな。すごく、すごく寂しい」

 

 寂しさを織り交ぜた声で、彼の胸に収まる。彼の胸に寄せられる45の頬。それは、彼女の心配そのものを投映したかのように冷たく冷え切っている様に感じる。

 

「私だけじゃないよ。9も、皆だってきっとそう。皆寂しがるよ。だから、その時が来たら、指揮官は一番に逃げて。何があっても、私達はまた指揮官に会えるから」

 

「45……」

 

「でも、そんな状況になるようなこと、私はさせないから」 

 

 決意の籠った45の声。指揮官の胸から離れ、頭をあげた彼女の顔は――

 

「だから、指揮官の邪魔をするものは全部私が壊してあげるにゃ♪」

 

「にゃ?」

 

 一瞬で火が回ったかの如く顔が真っ赤になっていた。

 

「し・き・かーん!」

 

 戦術人形特有の腕力で指揮官のことを押し倒す45。

 

 全力笑顔で指揮官のマウントをとる彼女からは、普段の狡猾さは感じられない。

 

 彼女は主人に甘える子ネコの様に、彼の胸に頬を擦りつける。その頬は、先程と違って蕩けてしまいそうなくらいの熱を持っていた。

 

「もぉ、最近他の子に構ってばっかで、私のことを構ってくれなくて寂しかったんだよ?」

 

「それがホントの目的か!?」

 

 突然の45の豹変に流石の指揮官もついていけないようで狼狽えている。

 

「んー、本当はさっきみたいにゃことを伝えたっかったんだけど、なんかどうでも良くなってきちゃったにゃ!」

 

「……自由だな」

 

「でも、構ってくれなくて寂しかったのは嘘じゃにゃいから、構ってにゃー」

 

「……はいはい」

 

 突如現れたネコ語UMP45に動揺しつつも、指揮官は彼女の頭を撫でる。

 

 これが、彼女の酔い方なんだろう。

 

 後からアルコールが効いて、何故かネコになって甘えだす。

 

 普段は恐ろしい本性を持っている人物が、こんなに甘えたがりな姿も隠し持ってるのは、なんともいじらしい。

 

 目を細めて頬をスリ寄せる45の頭を撫でる。

 

 45も古参の部類の為、最近は重要な任務によく出しているのだが、彼女の髪はしっかりと手入れされていて手串がよく通る。

 

「全く子ネコみたいだぞ」

 

 指揮官としては思ったことをそのまま言っただけなのだが、45から思いもよらないカウンターが飛ぶ。

 

「そんな指揮官はいたいけな子ネコちゃんを何人食べたのかにゃーん?」

 

「ヌ゛ッ゛!゛!゛」

 

 45からの鋭い指摘に指揮官は言葉を喉に詰まらせる。が、45は知らない筈だ。あてずっぽうで、酔ってお花畑な思考回路で物を言ってるだけに過ぎない。そう結論付けようとする指揮官。しかし、45はその考えを読んでいたと言うようにくすりと怪しげな笑い声をあげる。

 

「いや、指揮官は食べられちゃったんだよねー?いたいけな子ネコちゃん達に」

 

 その言葉は指揮官の推測を全て否定する材料になり得る言葉だった。

 

 45は指揮官の首筋に顔を寄せて舌を押し付けてペロペロと子猫の様に舐める。彼から噴き出た冷や汗を味わうかのように。

 

「な、なんで――」

 

「ふふっ、元々は電子戦に特化した私の性能を甘く見積もられるのは困っちゃうなー」

 

 45はまた含み笑いを浮かべる。何もかもわかっていると言うかのように。

 

 そう、彼女にとって司令室のセキュリティに穴を空ける事は容易。そして、司令室の中の記録を確認する方法など彼女にとってはいくつもある。防犯の関係で、全ての電源は絶対に落とすことが出来ないのだから。

 

「だ・か・ら・ね」

 

 唖然とする指揮官の身体を自身の体重を乗せて押し倒す45。彼女の瞳は獲物を捕らえた猫の様に細められている。

 

「もう一人、指揮官の事を食べちゃっても問題ないでしょ?大丈夫、見ての通り、私も指揮官のことが大好きだから。――他の子が指揮官を食べたって知った時、すっごく嫉妬しちゃったんだからね?」

 

 ふふっと小さく暗い感情を交えた笑みを浮べつつ、ぺろりと舌を出して唇をなぞる45。

 

 その姿は愛らしい子ネコのそれでは無く、獲物を前にした雌豹。

 

 ここに彼の運命は定まった。

 

 ――壁に耳あり障子に目あり、祖父が言っていた言い伝えはこういう時に使うのだろうか?

 

 そんな現実逃避をしながら、指揮官の乾いた唇は、45の柑橘系の香りがする唇と重なった。

 

 

 

 

 翌日、指揮官は酷く上の空な状態になっていた。何を話しかけても多くの言葉は口にしなかったので、その日の指揮は隊員が理解するのに苦労したらしい。

 

 対するUMP45は、指揮官の姿を見て何度か顔を逸らしたりはしつつも、それ以外はいつも通りだったとの事。

 

 45はそっと指揮官に耳打ちする。

 

「次は9も一緒に、ね?」

 

 と。

 

 指揮官がずっと上の空であった理由。UMP45が何度か指揮官から顔を逸らしていた理由。それは当事者のみが知ることだろう。 



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